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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は報告する


イフを捕獲し、研究施設へ連れて行った翌日。

調査報告のために主要メンバーがギルドの一室へと集まっていた。


「それで?何がわかったの?」


遥がクロウへと問いかけてくる。

たいていこういう事態の時はクロウが報告役兼進行役、遥が話を進め、流華と雷亜は気づいたことがあれば質問する。そして傑は聞く専門で基本口をはさむことはしない。

そして今回に関してもクロウが調査の大元であるがゆえに遥が問いかけてきた。


「思っていた以上に面倒なことになりそうだってのがわかったよ」


そう答えつつささっと資料を配る。現時点で判明した物を簡単にまとめた物で、整理するために必要だろうとクロウが用意した物だ。


「とりあえず確認だが、この間のイフが出てきた際の配信に関しては?」

「ちゃんと見てるわよ」

「俺も、ギルマスの方から見ておけって言われたからね」

「こういう時の彼女たちの配信は何か起きるからチェックしておくようにしているのさ」


流華、傑、雷亜がそれぞれ答える。遥の方は昨日の時点でどこまで調査できたかの確認が来ていたので問題ないだろう。


「ならよし。で、イフとの戦いで黒い炎が出始めたあたりからイフの様子がおかしかっただろ?」

「そうか?」

「テンション上がるとあんなものじゃない?」

「お前らと一緒にするなバーサーカー共」


首を傾げる傑と流華に対してため息を吐いてしまう。確かにこの二人は戦闘が長引いたり愉しさが一定以上まで行くとあんな感じになるが、それはごく一部の特殊な奴らだけだろう。………たぶん。


「それで、そう言う風に言うってことはなにか外的原因があったってことだよね?」

「ああ。あの後例の施設に連れて行って検査する予定だったんだが、そこでも暴れてな。あまりにも様子がおかしかったから調べてみたらやばいことが分かった」

「やばいこと?」

「闇によって存在が変質されていた」

「…?どういうこと?」


クロウの言葉に遥たちS級探索者の表情が険しくなった。ちなみに静かだが座っているみらいたちもどことなくやばそうな雰囲気を感じたのか、その表情に緊張感が出ていた。


「まず前提としてシェルフたち精霊についての事前知識を話す。これはシェルフを拾った時に検査した際に判明していたことだ。シェルフにも話すことが問題ないと許可を取ってある」


クロウの言葉にシェルフが肯定するようにうなずいた。


「で、シェルフたち精霊だが、そもそも俺達とは違う世界の生命体だからか知らんが、体の構造自体が俺達人間と異なっていた」

「具体的には?」

「精霊はそれぞれ属性が物質化することによって体が構築されているんだ」

「どういうこと?」

「そうだな…人の体重の六十%が水…液体でできているって話は聞いたことは?」

「一応あるわよ」

「そんな感じで人の体は水やらなにやらいろんな物が組み合わされて構築されているんだが、精霊はそれがすべて該当属性で構築されているんだ」

「それじゃあシェルフちゃんも?」

「ああ。検査した時、その体すべてから風の属性反応があって担当者がかなり驚いていたよ」


シェルフがこちらに迷い込んできた時、かなりの大怪我を負っていてボロボロの状態だった。クロウが治療をしたが、高威力の回復魔法を受けると、その魔素が体内に残り、その後の治療用の魔法を受けると体内で魔力暴走が発生して更なる大怪我につながることも有る。それゆえに治療後はその後の経過観察も含めて、魔力を使わない治療法が必要になる。

それをするためにもその人の状態を確認できる状態にしておかなければいけないのだが、その結果、シェルフの体が風の魔力が物質化することで構築化されている特殊体質であることが判明したのだ。

それがシェルフだけの特異性なのか、それとも精霊という種族故なのかは不明だったのだが、今回のイフもシェルフと同じく属性で体が構築されていると判明した。

まだ二つの例だけだが、それでもそう言う存在だと判明したのは事実だ。


「それで、シェルフたち精霊がそう言う存在だとして、さっき言ってた闇に変質されてるってどういうこと?」

「その言葉の通り。本来火で構築されているはずのイフがほとんどが闇によって構築されていた」

「え?でも、戦闘の時に火を使ってましたよね」


詩織の疑問にクロウも頷く。


「おそらくだが、あくまで構築されているのが闇の属性なだけで扱えるのは火の属性だけなんだろう。おそらく、侵食はしたが扱うことはできないんだろう」

「つまり、全身は闇でできているけど、火しか扱えないってこと?」

「そういうこと。詳しいことはいまいちわからんがな」


クロウ自身も闇に浸食されて変質したイフが火の属性を扱えていたことに疑問を抱き、調べてみたのだがその原因がわからなかった。

目が覚めて話を聞いてみればまだわかることもあるかもしれないが、今のイフがまともに会話できるとは思えない。


「それで、問題点として…治せるのかい?」


静かに話を聞いていたギルマスがクロウへと問いかけた。


「………シェルフには話したが現実問題、今のままだと治すことは難しい」

「え、クロウさんでもできないの?」


イフの治療ができないと言ったクロウに驚いたのはみらいだった。


「条件が足りなくてね。さすがに俺でも無理だった」

「条件って?」

「元の属性…もともとイフを構築していた火の属性があれば、それを元に治すことはできるが…さすがにそれがない現状だと無理なんだよな」

「こっちで火の魔法使えば行けるんじゃないの?」

「残念ながら元の魔素の性質が違うみたいでできそうにないんだ。精霊界にある魔素を扱えばたぶん行けると思うが…」

「それを入手する手段がないから今は無理ということか」


ギルマスの言葉にクロウが頷いた。

以前一つに混ぜられたフィンとリルを治した時に、その母親であるマーサの魔力を使って不足している部分を再構築することで治療した。イフの時も同じようにできればいいのだが、いかんせん精霊を構築している元の魔素が微妙にクロウたちがいる世界の魔素と違っているようでうまく治療に扱えなかった。


「治療するにしても必要なのは精霊界の魔素。そしてその精霊界へ行く手段はなく、現状イフを治療する手段はないということか」

「そういうこと。そして闇に変質させられているせいか、シェルフ曰く通常より凶暴化している様子だ。一応拘束して暴れても対処できるようにはしているが、対処法を考えておかないとまずいだろうな」


特殊な部屋に隔離してあるので魔法は使えないが、それでも物理的な干渉を防げるわけではない。ある程度頑丈には作ってはあるが、それでもどこまでもつかはわからないし、食事などを用意した職員に対しての攻撃手段を防ぐ手段もほとんどない。一応扉越しに渡すことはできるようにはなっているが、それでも危害を加えられないという可能性を消すことはできない。それに…。


「今までやってこなかったからわからないが、今回は探究者が裏にいる。六華の時とは違い、今回イフを捕まえられたのは向こうの計画にはないだろう。そうなると取り返しに動く可能性もゼロじゃない。他の精霊に関してはダンジョンを出れば判明するから大丈夫だとしても、探究者の動きを予測できない以上、何が起こっても対処できるようにしないと」

「そうだね。とりあえず調査結果としては次期大精霊候補の実力はA級上位程度、闇に変質させられており、その闇によって黒く染まった属性を扱う。その属性は通常の属性の性能に加え、飲み込み、取り込む性質を有している。そして変質した精霊を治す手段は今のところない。そんなところかな?」


ギルマスのまとめにクロウが頷く。


「さて、とりあえず情報が増えたことはいいことだ。S級の皆は今後も大精霊候補の子達の発見、拿捕。そして可能であれば拠点の発見を視野にダンジョン探索を続けてほしい。みらいさん達も変わらずパーティーを組んでダンジョン探索を進めてもらって構わない。クロウは可能であれば精霊を治す手段の発見。そしてみんなの対闇属性に対する装備などの用意をしてくれ」

「了解」


ギルマスの指示に全員が頷き、今回の会議は終了した。



その夜


「ねえマスター」

「んー?」


マーサを背もたれにして座りながら様々な魔法陣を展開しているクロウへとシェルフが声をかける。


「………何してるの?」

「いろいろと調整してるところ。で?どうした」

「イフの事なんだけど…本当に治す手段ないのかな…」

「治せないわけではないんだがな。現状必要な物が足りてないだけで」

「精霊の魔素…私の魔素じゃダメなの?」

「シェルフの魔素は風だからなぁ…外部に出す時点ですでに変質してるからそこから火の魔素へと変化させようとするとどうしても俺の魔素が混ざってうまくなじませることができないんだ」


最初シェルフの魔素を使うことを考慮し、試してみたが。どうしてもクロウの魔素という不純物が混ざってしまってうまく治療に回しきれずにいた。風から火へと変換させる際に消費される魔素をクロウの魔素が補ってしまうのが原因なのだが、それを減らすことはできてもなくすことはできずにいた。


「じゃあ治すには精霊界に行かないといけないってことかな…」

「だな。もしくはそれに近い場所か」

「近い場所?」

「精霊たちがたくさんいる拠点的なのがダンジョンにあればそこに精霊たちの魔素があふれそうなんだよねぇ。だからもしダンジョン内に拠点があればそこを見つければ治療ができるかもしれないが…何とも言えん」


ダンジョン内の魔素は巡回するし、その魔素に余計な物は基本的に付与されない。精霊たちが多く、そこで大量に魔素を消費していれば、そのダンジョンの魔素が精霊界に近しい物に変質することも有る。そうなればそこで治療することもできるが、それができるほどの時間が経過しているかもわからないので、あくまで可能性の話だ。


「まあ、とりあえず元であろう闇の大精霊を何とかすればすべて解決するかもしれんし、焦らず一つ一つ進めていくしかないだろうな」


大精霊候補であるイフを捕えることができたとはいえ、今はまだ他にできたことは何もない。大精霊たちがどこにいるのか。他の大精霊候補はどうしているのか。そしておそらく元凶である闇の大精霊はなにを目的としているのか。最後に探究者の動き。それらがわからない以上、現時点でできることを一つ一つこなしていくしかないだろう。


「ま、最終的には何とかなるだろうさ。イフや他の大精霊候補に関しても、死んでなければどうにかできるだろう」

「マスターが言うと説得力が違うね」

「母さんたちを助けるためにできる事どんどん増やしてたからな。こういう時に手札が多いと助かる物さ」

「ごもっとも。それでさっきから魔法陣を展開して何してるの?」

「不純物混ざらずに属性変換できないかなぁと調整してるところ。どうしても空気中の魔素を取り込むからうまくいかんなぁってなってる」

「それが成功すればイフを助けられるかな?」

「どうだろうな。できたとしても、元の魔素がシェルフの分しかない以上、治しきれるかどうかもわからんからなぁ」

「そっか…じゃあやっぱり精霊界に行くか、精霊たちの拠点を見つけるしかないんだね」

「そうなるな」


ため息を吐いて魔法陣を消すとコンコンと扉がノックされた。


「どうしたー?」


声をかけると扉が開いて髪が濡れている六華が入ってきた。


「パパー、お風呂から出たよー」

「あいよ。ちゃんと髪かわかせよ」

「パパやってー」

「へいへい」


膝の上に飛び乗ってきた六華の頭をタオルでワシャワシャと吹き始めた。


そしてその一週間後。

研究施設にいたイフの姿が消えたという報告がクロウの元へと飛び込んでくるのであった。



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