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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は精霊を研究施設へ連れていく


「とりあえず一段落かな?」


イフを気絶させ、捕獲したクロウが一言つぶやく。

周囲を探ってみるが、それに何かが引っかかることはない。


「追撃は?」

「なさそうだな。他の奴らがいるって可能性はないだろう」


シェルフが問いかけてくる。シェルフも周囲を索敵しているが、それでもクロウのほうが範囲が広く、正確だ。それゆえに確認してきた。


「それじゃあいったん戻りましょうか。さすがに先ほどの戦闘で消耗も激しいですから」

「そうだね。ごめんねみんな」


詩織が探索の切り上げを提案し、みらいもそれを受け入れる。中途半端なところでの配信の終わりであるがゆえにリスナー達に謝っていた。


『ええんやで』

『まあ、あれだけ激しい戦闘がありゃあな…』

『クロウさんが間に合ったからよかったけど、最後どうなってたかわからんしなぁ…』

『というか、あれに関しての説明は?』

「それはまた後日やる。いろいろと気になるところがあるだろうが、こっちもやることが増えたもんでな」


そういって肩に担いでいるイフへと視線を向ける。


『途中からその子も様子おかしかったもんな』

『だなぁ、まるで狂ったかのように笑いまくってたし』

『そこらへんも調べるの?』

「その予定。まあ、ある程度は予測がついているがな」

『説明はいいけど、一つだけ聞きたいんだが』

「なんぞ?」

『みらいちゃんたちはもともとシェルフちゃんが同じ人間じゃないって知ってたの?』

「あ、はい。私はパーティーを組む時に説明されたので」

「私は少し前に聞いた感じだね」


コメントの問いかけにみらいと詩織が答える。


『なんで隠してたの?』

「言う必要がなかったから」


いささか不満げな雰囲気のあるコメントにクロウが即答した。


「今回、精霊関連で問題が起きてるから説明するだけで、必要ない以上はわざわざ説明する気はなかったんよ」

『そうなん?』

「実際知ってもどうにもならんだろ?シェルフの種族が何であろうと、何かが変わるわけでも無いし」

『でも、みらいちゃんと一緒にいるわけだから…』

「そんなリスク、俺が見逃すとでも?」

『う~ん、この説得力』

「シェルフに関しては安全だし、問題ない。そう俺が判断したからみらいちゃんと引き合わせてパーティーを組むことを提案したんだよ」

『でも、今回の事件ってその子がいるから起こったんじゃないの?』

「違う違う。もともと別件で起こってた問題を探究者が引き込んだってだけ。シェルフが原因ってわけじゃないよ」

『そうなん?』

「ああ。まあ、そこらへんも判明している部分は後日説明するよ。とりあえず、みらいちゃんに関するリスクは無い。あったとしても俺が即座に対処できるレベルだ。それはまず間違いない」

『まあ、そもそもクロウさんがやったことなら問題ないよね』

『クロウさんだからね』

『みらいちゃんガチ勢のクロウさんがそんなリスクを見逃すはずないもんね』

「うん、その通りなんだけどアンタら俺をなんだと思ってるんだ」

『みらいちゃんガチ恋勢』

『みらいちゃん絶対守るマン』

『みらいちゃんの敵を殲滅し隊隊長』

「おいこら最後」


不穏なコメントにツッコミを入れるが、あながち間違っていない部分があるのも自覚しているので強くは言えずにいた。

その後特に特筆するようなことが起こることはなく、そのままダンジョンを脱出し、配信を終えた。


「んじゃあ俺はこいつを連れていくから、みらいちゃんたちはギルドに報告しておいてくれ」

「マスター、私もついていっちゃダメかな?」

「んー…こいつ連れていく場所機密が多い場所で行ける人制限されているんだよなぁ…」

「そんなところあるんですか?」

「まあ、研究機関だからね。いろいろと表に出せないこともあるさ」


詩織の問いかけにクロウも肩をすくめる。きれいごとだけで世が回ればそれが一番なのだが、残念ながらそうもいかない。非合法だったり、倫理的に問題のある行動であろうとも、それ以上の被害を増やさないためには必要な事も多々ある。それをやる場所でもあるがゆえに行ける人員には制限がきつめにされている。


「…とりあえずギルマスに聞いてみるか。昔シェルフもいた場所だからな…。ちなみにみらいちゃんと詩織さんは無理だからそこらへんはすまんね」

「あ、そうなんですね」

「さすがにこればっかりはね、あまり知って気持ちのいい物でもないからさ」

「うん、わかった」


二人も社会に出てそれなりに経っているからか、そう言った部分では簡単に引き下がってくれた。


「んじゃ、ちょっと待っててね」


仕事用のスマホを取り出し、少し離れた場所に移動してからギルマスへと通話をかける。


「もしもし。クロウかい?どうしたんだい」

「ああ、すまんね。これからイフを連れて行こうと思ったんだけど、シェルフがついていきたいって行っててさ。昔あそこにいたとはいえ、連れてっていいかどうかわからなくてね」

「ああ、それで確認の連絡をしたという事かい。そうだね…彼女だけなら問題ないよ。あそこの存在を知っているしね。みらいさんと詩織さんにかんしては…」

「軽く説明して機密の多い研究機関だから連れていけないって話したら引き下がってくれたよ」

「ふむ、そのくらいなら問題ないだろう。いいよ、シェルフを連れてきてくれて問題ない。ただ、くれぐれもみらいさんと詩織さんには研究機関がある事自体口外しないように言っておいてね」

「あいよ」


通話を終え、スマホをしまう。


「シェルフ、許可出たぞー」

「わかった」

「それとみらいちゃん、詩織さん。二人はさすがに許可できないけど、さっき話した研究機関。それについてある事すら口外しないようにってギルマスが言ってたからそのつもりで」

「え、そうなんですか?」

「でも、噂ではそう言うのがあるって話流れてますよね?」

「噂はあくまで噂。否定も肯定もしなければ憶測だけで済ませられるからね。仮にこれが信頼できる筋から肯定する話が出たら、内部で何やっているかとか、そう言った情報の開示を求められる可能性もあったりするから、曖昧にしておいた方が都合がいいことも有るんだよ」

「へー」

「ま、とりあえず誰にも言わないようにね。んじゃギルドの方への報告はお願い。俺とシェルフは行くから、何かあったら連絡ちょうだい」

「わかりました」

「気を付けてね」


ギルドへの報告をみらいたちに任せ、クロウとシェルフ、マーサはイフを抱えて研究施設へと転移した。



「ういーっす、おつかれー」


施設内に直接転移はできないので、入り口の近くへと転移してきた三人。そのまま警備員さんに挨拶して手続きを進める。


「お疲れ様です。その抱えているのが例の?」

「そ。どこに運べばいい?」

「えっと…そうですね…こちらの方にお願いします」


そう言ってその部屋のカードキーを差し出してきた。

そのカードキーは示された部屋はクロウが特製で作った対魔特化の部屋だ。

その内部ではS級クラスの実力者でない限りは魔法を発動することができず、仮にできたとしても魔力自体が拡散されてうまく発動、維持することもかなわない。


「…ずいぶん厳重なところに入れるんだな」

「配信の方を確認しての判断だそうです。おそらく最後のほう、闇の魔力による精神汚染による狂乱だと推測できるそうで…」

「それで暴走を防ぐためにここってことか、了解。あと、シェルフ入って大丈夫だよな?ギルマスに許可取ってるけど」

「ええ、話は来ていますのでどうぞ。担当の物が部屋にいますので、そちらに例の精霊はお預けください」

「あいよ。んじゃいくぞー」


シェルフとマーサと共に施設の中へと入る。


「マスター、これから行く部屋ってどんな部屋なの?」

「魔法が使えない部屋だな。一応俺は使えるけど、シェルフは無理じゃないかな」

「そんな部屋があるのかい?」

「ああ。というか、頼まれて俺が作った部屋だな。魔力の組み上げを乱して魔法の構築を邪魔するんだ。その状態で強引に発動することもできなくもないが、難易度は高いし、維持もしにくい。そのうえ消費魔力に関しても通常の数倍の魔力が必要になる。まあ、そんなわけでこの中でまともな戦いにはならないってわけだな」

「それってマスターも?」

「俺はその構造知ってるし、対策できるようにしてあるから。俺自身には効果ないよ」

「つまり、マスターだけは全開で戦えると?」

「そういうこと。壁の方には対魔法の素材が作られてるから壊すことはできないけどね」


そんな話をしながら施設内を歩いていると、部屋の前に一人の研究員が立っている場所にたどり着いた。


「お待ちしておりました、クロウ様」

「お疲れ。ここで?」

「はい、そちらの方をこちらへ、必要な処置を行いますので」

「よろしく」


そう言って研究員へとイフを預ける。受け取った研究員はそのまま部屋の中へと入っていった。


「必要な処置って?」

「暴走した際に被害を抑えるための封魔処置とか、それに伴って内部に魔素や魔力が溜まりすぎて暴発しないように放出させたり、そう言った捕縛処理だよ。あとは健康診断みたいなやつをするためにいろんな機材を取り付けたりなんなり。そんな感じ」

「そっか」


少し不安そうな表情を浮かべているシェルフの頭を優しくなでる。驚くように顔を上げたので、静かに笑みを浮かべるとシェルフの顔にも笑みが浮かんだ。


「それで?いつまで廊下にいるの?」

「もうちょい待ってくれ。いろいろと中でやってるからその状態で入っても邪魔になりかねないんだ」


マーサの問いかけにクロウが答え、壁に背を預けて一息吐こうとした瞬間。


ドゴォォォォォォン!!


部屋の中から爆音が聞こえてきた。


「………いつまで廊下にいるの?」

「目を覚ますの早くね?」


同じ問いかけにため息交じりに応えて部屋の扉を開ける。


「アアアアアアアアアアアアアアア!!」

「急げ!早く拘束具を!」

「ああもう!どんな力よ!」

「いてっ!なんで椅子が飛んでくるんだよ!!」


部屋の中は魔法とならなかった魔力が嵐のように吹き荒れ、部屋の中の物が好き勝手に飛び回っていた。そんな魔力の奔流の中を必死に研究員たちが狂ったように叫び続けるイフへと拘束具を取り付けようとしていた。


「やれやれ…」


呆れたようにため息を吐いてからパチンと指を鳴らすと魔力の奔流が一瞬で消えた。


「グアアアアアア!!」


その直後にクロウの姿を見たイフが勢いよく飛びついてきたが…。


「よいっしょっと」


その動きをたやすく回避し、そのままイフの顔面を掴んで床へと叩きつけた。


「拘束を」

「は、はい!おい急げ!」


先ほどイフを引き渡した研究員が指示を出し、イフを専用の拘束具で拘束しだす。


「んで?何事よ」

「あ、はい。実はそこにあるベッドの方に寝かせて拘束具や検査用の器具を取り付けようとしたら唐突に苦しみだしまして、叫びだすと同時にあんな状態に…」

「ふぅん…」


じっとイフの方を見据える。表面上は特に何かが変わった様子はない。だが、先ほど見たイフの様子は明らかに異常だった。


「少し調べても?」

「いいですけど…ここ魔法も魔術も使えませんよ?」

「ああ、それ俺以外ね。ここ、俺が作った場所だから当然俺なら対処できるんだよね」


そう言って容易く魔法陣を作り出す。その様子に拘束している他の研究員たちも驚いていた。


「相変わらず化け物ですね…」

「誉め言葉として受け取っておくよ」


そう答えて解析の魔法陣でイフを調べてみると…。


「うわなんだこれ」


そのひどさに思わず声が出てしまった。


「マスター?どうしたの?」


その様子に落ち着いたことで入ってきたシェルフが不安げな表情で聞いてきた。


「あー…シェルフ。落ち着いて聞いてくれ?」

「え、なに?そんなにまずい状態なの?」

「まずいというかなんというか…」


どう反応を返せばいいのか悩みだすクロウ。


「変にぼかすとなおさら不安になるでしょ。はっきり言ってあげな」


言葉を選んでいるクロウに対してマーサがバッサリと言いだす。その言葉を受けてクロウもため息とともに覚悟を決め、口を開いた。


「イフは闇に浸食されているどころじゃない。闇そのものに変質させられている」




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