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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は痕跡を見つける


「よいしょっと」


軽い人声と共に振るわれた拳がミスリルゴーレムを打ち砕き、魔石と素材に変換させる。


『いやー、クロウさんの探索は安定してるね』

『どんな奴が出てもワンパンだからなぁ。安心感が違う』

『他の人ってやばいやつ出たら阿鼻叫喚だからなぁ』

『むしろそれが普通でこれがおかしいともいえる』

「アハハ…まあ、クロウさんは強いですからね…」

「それで、マスター。進捗はどんな感じ?」


作業配信を始めておよそ三時間。みらいたちの作業もそれなりにすすみ、クロウもそれなりの数のミスリルゴーレムを狩っていた。


「ん~…なんか素材の出が悪いんよなぁ…それなりに倒したけどまだ四割くらいかな」

『あれだけ狩って四割なのか…』

『でも、討伐の比率的にはアダマンゴーレムのほうが多くないか?』

『確かに、ミスリルゴーレムもいたけど、アダマン3に対してミスリル2くらいの割合かな?』

『それくらいだね。ここってそんなに上位種のほうが出るの?』

「あー…まあ、そうとも言えるけど、ここまでアダマンが多い方ではないんだがなぁ…」

「というか、マスター、もう一つ下のランクのダンジョン行ったほうが効率よかったんじゃないの?」

「そうしたいところだが、国内のこういう鉱山系のダンジョンってB級ダンジョンないんだよ」

「そうなの?」

「うん、この一つ下だとC級ダンジョンになる。そこでもミスリルゴーレムは出ては来るけど結構レア枠だから効率で言えばこっちの方がいいんだよなぁ…」

『国外だとあるの?』

「いくつかな。でも、ミスリルは配信初めに話したように需要が高いからな。他国だとダンジョン出る時に半分以上国に徴収されるから国外行くより国内の方でやった方が効率いいんだ」


その国に所属している探索者であれば、ギルドの方への納品義務はないのだが、他国での探索をした場合、その探索の成果の何割かをギルドを経由して国に渡さないといけない。そこらへんの割合はその素材によって違うのだが、ミスリルのように需要の高い素材に関しては徴収率はかなり高くなっている。

まあ、その分きちんと代金として支払われたりはするが、それでも国内で換金するよりかは金額は少ない。

他国のダンジョン限定の素材とかでない限りは国内で探索する方がお金稼ぎとしては効率的だ。


「マスターまだ続けるの?」

「そうだなぁ…せめて七割くらいは欲しいからもう二時間くらいは続けたいかな」

『大丈夫なん?あまり長時間のダンジョン探索は推奨されてないじゃん』

『そうそう、みらいちゃんたちの探索だって長引きそうだと撤収させるじゃん』

「あー、まあもともとダンジョンで暮らしてたからそこらへんはね。あまり長く探索すると魔素中毒になるから普通はダメなんだけど、ダンジョン暮らししてたからか俺はそう言うのにならないんだよ。むしろこっちにいたほうが調子いいレベル」


現時点でのクロウの人生の半分以上をダンジョンで暮らしていたが故か、どうにもこういうダンジョン内の空気がクロウには会っているようだ。


「ん?」


そんな話をしながらミスリルゴーレムを探すために歩いていると、ふと違和感を感じた。


『どったの?』

「いや、なんか違和感が…ちょい調べてみますか」


何らかの異変があるのかもしれないので調査をすることにした。


「違和感ってどんな感じ?」

「ん~…よくわからん。何となく違う魔力を感じたというか」

「他の人がいるのかな?」

「どうだろ。いてもおかしくはないだろうけど、少なくとも知り合いではないなぁ」


A級以上の探索者で今いるダンジョンを探索できる人物は限られている。チームならばそれなりに増えるが、感じた違和感の魔力は一つだ。つまりチームではなくソロで来た探索者ということになる。全員を知っているわけではないので、否定はできないが、それでも知り合いの魔力でないのは確かだった。

しばらく歩いていると唐突に開けた場所に出た。


『お?なんか広い場所に出たな』

『ボス部屋…って感じじゃないね』

『でもなんか不自然に広くないか?それになんか床に変な模様みたいなのも見えるし…』

『ほんとだ、何だあれ』

「ふむ」


周囲を警戒しつつその模様の元へと行こうとしたとき、ふと触れた岩の表面に違和感があった。


「ん?…これは…」

「マスターどうしたの?」

「この部分、なんか違和感があってなぁ」


そう言って先ほど触れた場所を指でなぞる。妙につるつるしているその岩の表面。わずかなでっぱりなどはあるが、砂のようなものは一切指につかない。


「これ…わずかだけど溶けた跡か」

「え?」

「となると…」


ひらけた場所の中心付近に描かれている模様の黒い部分に触れる。


「ああ、やっぱり。これ黒曜石だ。あそこを中心にかなりの高温の炎が展開されたようだね」

「そうなの?」

「うん。理由は…ふむ。この黒曜石。わずかだがミスリルが含まれてる。ミスリル系の魔物を討伐した際に溶けて混ざったんだろう」

『ミスリル溶かすってどれだけの熱だよ』

「まあ、それなりの強さの火属性使いだろうなぁ。にしても、ミスリル系に炎は言うほど効果はないんだがなぁ…」

「なのにそれをしているというのはそれをするだけの理由があるってこと?」

「もしくはそれ以外の戦闘手段を持っていないか。ま、どっちにしろここでこれ以上の情報を手にいるれるのは無理かなぁ」

『クロウさんなら何とかならん?』

「さすがに無理無理。せいぜい数日前…三、四日前くらいに発生したかなってくらいしかわからん」

「それはわかるんだ」

「ダンジョンの自己修復機能とか魔素の濃度とかで大雑把だけどねー。こういう派手な魔法を使うとそれなりの日数かかるんよ」

「へー…」

「さて、調査はこんなもんで終えてあと一時間ほど探索するかなぁ」

『一時間だけなんだ』

「時間的にそれ以上時間かけると夕飯の仕度間に合わなくなる」

『う~ん庶民的』

「六華ちゃん来てからそこらへん気にしだしたもんねー」

「シェルフだけだと各々適当でよかったけど六華がいるとなるとそれもできなくなるからなぁ…」

「今度つくりに行きましょうか?」

「う~ん…ありがたいけどそれだと手間だからそん時はシェルフに頼んで六華をそっちに連れて行ってもらうよ」

「そこはマスターが連れて行ってあげなよ。いや、まあ私も行くけどさ」

「ん~…たぶん頼むの俺の手がまわらない時になるだろうからなぁ…」

『クロウさんって案外クソボケ?』

『この人もともと推し全振りだからしてもらう考えすらないのよ』

『……みらいちゃんも苦労しそうだね…』

『クロウだけにね!』

『やかましいわ』



その後一時間ほどで探索を終え、クロウは帰宅する前に一度ギルドに寄っていた。


「ギルマスいるかー?」

「ああ、クロウか。来ると思っていたよ」


軽くノックをしてからギルマスの執務室へと入ると、ギルマスとその秘書の二人がクロウを待っていた。


「配信見ていたよ。あの発見された痕跡についてだね?」

「そ」

「君の見解をまず聞こうか」

「ダンジョン内に満ちる魔素と別種の魔素。そして鉱石ダンジョンだというのに火属性の攻撃。まあ、十中八九火の精霊だろうね。おそらくシェルフのお仲間の」

「次期大精霊候補の火の子ってことかな?大精霊の可能性は?」

「ないね。もしそうだとしたら肩透かしもいいところだ。シェルフよりかは上かもしれないが、それでもあの程度ならばどれだけ集まったとしてもS級に届かんよ」


ソファに座りつつあの時調べられた情報を話す。

発動した魔法の痕跡、そしてその影響範囲と効果、数日程経過しているせいで正確な部分は読み取れないが、それでもある程度の推測はできる。

あれが全力というわけではないだろうが、それでもある程度の指針にはなる。そしてミスリルの含有量から換算して、あの一撃はそこまで効果があった物じゃないだろう。

その後の周囲の状況からあれ以上の攻撃の痕跡が見受けられなかったことから見てそこまでの実力者ではないと察した。おそらくだがシェルフよりかは上だが、それでもA級中位程度の実力だろうと見た。


「君が言うのなら概ね間違っていないのだろうね。そうなるとそこまで警戒しなくていいのかい?」

「どうだろうな。おそらくだが斥候役として来てるんだろう。となると、他のダンジョンに別の大精霊候補の子たちが来ていてもおかしくはない」

「だとして目的は何だろうか」

「探究者の奴が裏で動いているのなら、シェルフを餌に動かした可能性がある。となると、シェルフを探していると考えるのが妥当だろう」

「なるほど」

「大丈夫でしょうか?もしそうならばダンジョンから出てこちらの世界に来ている可能性も…」

「そこらへんは大丈夫じゃないか?ゲートあるんだし」

「そうだね。不審人物が出てきたら即座に報告されるから問題ないよ」

「そうなんですね」


ギルマスとクロウの言葉に秘書さんはホッと息を吐いた。


「とりあえず最低限の報告は済ませた。んじゃ俺は夕飯の買い出しに行かんといけないしそろそろ帰るわ」

「わかった。何かわかったらこちらからも連絡するから」

「ういういー」


軽く手を振ってからクロウはギルマスの部屋を出た。



買い物を終え、帰宅したクロウが手洗いうがいを済ませてからキッチンの方へと向かう。


「パパ、お帰り」

「ただいま。帰ってたんだな」

「ん」


クロウが帰ってきたことに気が付いたのか、六華が二階から降りてきた。


「今日のご飯なに?」

「豚の生姜焼きと豚汁。あとポテトサラダかな」

「おいしそう…楽しみ」

「先にいろいろと仕込んじゃうから、できたら呼ぶからな。それはそれとしてシェルフの奴は帰ってるか?」

「うん、今お部屋にいるよ」

「そか、ちょっと話があるから行って来る。六華も宿題があるなら早めに済ませておきなよ」

「ん」


頷いてから六華も二階にある自室へと戻った。


「さて…話をする前に少し仕込みをしちゃうか」


そう言いつつ冷蔵庫を開けて調理に必要な調味料を取り出す。


「そこまで長時間漬けこむ必要もないからささっとやっちゃうかぁ」


買ってきた豚肉を六枚トレイに並べ、別の器を取り出してそこに醤油、みりん、酒、おろし生姜と塩、胡椒を入れて混ぜ合わせる。それを豚肉に浸るようにかけてから上からラップを敷いて全体になじむように仕込んでおく。


「さて…漬けている間にお話ししてきますか」


トレイを冷蔵庫へと入れて二階へと上がる。

そしてシェルフの部屋の前へと来て扉をノックした。


「どうぞー」

「入るぞー」


返事が返ってきたので一声かけてから扉を開けて部屋の中に入る。


「お帰り、遅かったね」

「途中でギルド寄って買い物してきたからな」

「今日の夕飯はなに?」

「豚の生姜焼きと豚汁。あとポテトサラダ」

「おー、いいねぇ。おいしそう。それで、その仕込みの途中で話をしに来たの?」

「そ。大方シェルフも気づいているんだろ?」

「うん。あの痕跡だよね。マスターも考えているだろうけど、あれは私と同じ次期大精霊候補、火の精霊のイフだと思うよ」

「イフ?」

「その子の名前。火の精霊だからか頭に血が上りやすくて血気盛んだけど、いい子だったんだよ」

「そう言えば前に会議のところで言ってたな。最初に影響出た子かな?」

「うん。考えなしで突っ走るタイプだったけど、頼りになる子だったんだ。そっか…イフが来ているんだ…」

「これに関しては確証はないが、おそらく他の候補も来ているはずだ」

「私を探しに来たのかな?」

「おそらくな。だから気をつけろよ。これから先、探索するときに襲撃を受ける可能性があるからな」

「行くなとは言わないんだ」

「言って聞いてくれるのか?」


問いかけた言葉に対し、シェルフはいたずらっぽい笑みを浮かべるだけだった。


「とりあえず俺は俺でやることがあるが、極力配信にはついていく。いつも通り姿を隠してな」

「うん、わかってる。対処できなかったらよろしくね」

「ああ。んじゃ夕飯の準備できたら呼ぶからな」

「はーい」


シェルフの返事を聞いてからクロウは部屋を出て、キッチンへと戻っていった。




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