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闇を統べしもの 8


 闇を統べしもの 8



 タダユキたちは魍魎が現れたという地点に急行する。そこは以前、異界へ行った際にこちらの世界での入り口が空いていた森だった。その森に魍魎が溢れ出ている。


「これは…… 今までこんな大勢の魍魎が一度に現れたことはありませんでした 」


 青姫は、なにか今までとは違うこの事態の裏に大きな意思が動いているのではと感じ、これは全力で立ち向かわなければいけないと固く決意した。

そして、森の奥からぞろぞろと魍魎が出てくる様は、まさに百鬼夜行だ。この魍魎が、このまま住宅街まで進んだら大パニックになるのは必至だ。朱姫たちは急いでタダユキの背中に青姫を乗せ戦闘準備を整えると、それぞれ魍魎の群れに飛び込んでいった。


「君、小型の魍魎は無視して中型以上の魍魎を狙ってください 」


「はい、姫 」


 タダユキは、飛び回る”鬼火”の様な小さな魍魎や、足元を駆け回る”瓢箪(ひょうたん)小僧”などの小型の魍魎は無視し巨大な老婆の首の前に立ち塞がった。しわくちゃの老婆の顔が長い髪を振り乱し、とんとんと地面を跳ねている。


「魍魎”おとろし”です 長い髪が手の様に動きます 気を付けて下さい 」


 青姫が言い終わるや否や、その長い髪がタダユキを襲ってくる。青姫の指示通りに、髪の攻撃を避けながらタダユキは、その”おとろし”の攻撃をイメージする。そして、ぞの”おとろし”の攻撃の間隙を縫い、言霊を発する。


「止まれっ 」


 ”おとろし”は髪を振り乱したまま動きを止めた。そこへ、青姫が真言を唱える。


「オン アボギャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン 」


 ”おとろし”は光に包まれ、ボンッと破裂し消滅した。


・・・さすが卯月先輩、真言を唱えるスピードが早いです それに、あの男性、言霊を使ったようにみえました 卯月先輩が信頼するだけあって、ただの男性ではないみたい ・・・


 弥生は、青姫とタダユキの戦いを見て認識を新たにした。その弥生も凄まじい勢いで魍魎を滅していく。両手に持った気を込めた扇子で、まるで踊るように魍魎を次々に切り裂き滅していった。派手な動きはないが、その流れるような動きは卯月の動きに通じるものがあった。


「姫、弥生さんも凄いですね 」


「当然ですよ 私の後を継ぐ子ですからね 私の課した厳しい修行も彼女は乗り越えてきたんです 」


 弥生を見る卯月の目は嬉しそうだった。タダユキは、ある意味、卯月たちが羨ましかった。自分の後を継いでくれる人が居るというのは、自分の仕事に誇りを持てるような気がした。


「君、次はあの巨大な蜘蛛に向かって下さい 」


 タダユキは、奥に見える毒々しく禍々しい巨大な蜘蛛に向かう。


「”土蜘蛛”です 動きが速いので気を付けて下さい それと私のブル…… 」


「えっ すいません、姫 最後聞こえませんでした もう一回お願いします 」


 青姫は、しばらく言いよどんでいたが、タダユキに聞こえるように大きな声で叫ぶように言う。


「私のブルマの内ポケットにボトルがあります その中身を自分の体に振りかけてください 」


・・・姫のブルマの中 ・・・


 そんな所に今、手を入れていいの、タダユキはこんな緊急事態でありながら躊躇していた。


「君、早く ”土蜘蛛が迫って来ています 」


 青姫の声にタダユキは慌てて青姫のブルマの中に手を突っ込む。そして、手探りでボトルを探すが、焦っている為なかなかボトルが見つからない。


「ちょっと、君 くすぐったいです 」


 堪え切れずに青姫が笑い出す。


・・・何やってんだ、あの二人 こんな時に余裕だね ・・・


 それを見た朱姫には、二人がじゃれ合っているようにしか見えなかった。


 ようやくボトルを探し当てたタダユキは、蓋を取り自分と青姫の体に中の液体を振りかける。柑橘系の匂いが周囲に漂った。


「なんですか、これは? 」


「蜘蛛は柑橘系の匂いが苦手なんです これで”土蜘蛛”はこちらに近付きにくくなります 多少、有利に戦えるわけです 」


 青姫の言葉にタダユキは脱帽した。本当に姫は、魍魎を詳しく研究している、僕は自分の仕事にここまで熱心に取り組んだ事があっただろうか、タダユキは、せめてこの姫の為には自分の精一杯の力を出そうと改めて心に誓った。


 ”土蜘蛛”は八つの感情の無い単眼でタダユキを見つめている。飛び掛かってこないのは、振りかけた柑橘系の匂いの効果だろう。その睨み合いの間に青姫が真言を唱え、そして、真言が発動する。”土蜘蛛”が光に包まれ苦し紛れに飛び掛ってきたが、今度はタダユキの言霊が発動し、”土蜘蛛”は動きを止まられたまま破裂し消滅した。まさに「敵を知り己を知れば百戦危うからず」だ。姫は、孫子の兵法にも精通しているのかとタダユキは誇らしく思った。

 しかし、朱姫、白姫、玄姫、弥生とそれぞれが素晴らしい働きで魍魎を滅していたが、次から次へと湧いて来る魍魎に、だんだんと劣勢に追い込まれていった。


「これは、かなり不味いね 早くあの異界とつながっている穴を封印しないと手遅れになってしまうよ 」


 朱姫の言葉に、全員が異界との穴へ向かおうとするが、途轍もない数の魍魎に阻まれ辿り着く事が出来ない。


「くそうっ 白姫、玄姫 二人で道を開いてくれないか 私が突っ込んで穴を封印するよ 」


 朱姫は印契(いんげい)を結び、真言を唱え始める。朱姫の体が、火のように赤く輝き始めた。


「駄目です、朱姫 死ぬ気ですか 」


 青姫の声に朱姫がこちらを向きニコリと笑う。


「ここを抑えなければ大変な事態になる事、それは青姫も解かっているよね 心配いらないよ、私にも私の後を継いでくれる後輩がいるんだ ”蓬莱(ほうらい)刹那(せつな)という女の子だよ 私に似て可愛いから彼女を宜しく頼むね、青姫 」


 朱姫の決意は固かった。青姫は朱姫の説得は諦め、タダユキに声をかける。


「君、ごめんなさい 私の最後のお願いをきいてくれますか 」


 青姫の真剣な表情にタダユキは思わず頷いていた。


「私と一緒に死んでください 」


 青姫の表情から、なんとなくそうではないかと考えていたタダユキは、迷うまでもなく大きく頷いた。


「勿論 僕と姫は一心同体じゃないですか 」


「ありがとう、君と出会えて良かった…… 本当は君の事を巻き込んでしまうのは心苦しいけど、私は弱いから…… 」


 青姫の声が途中から涙声になっていた。僕だって死ぬのは怖い。でも、姫と一緒ならとタダユキは心を奮い立たせる。青姫もタダユキのその気持ちが伝わったのか声に力が戻った。


「朱姫は真言を唱えるのが遅いから、私の方が早く唱え終わります そうしたら私を背負ったまま、あの異界とつながっている穴に飛び込んでください 」


 そう言うと青姫は弥生に目を向け、後は頼みましたとその眼差しで伝える。そして、素早く真言を唱え始めた。青姫の体が青く輝いていく。


・・・そんな、卯月先輩 私を残していかないで下さい ・・・


 弥生は、卯月を力付くでも止めようと卯月に向かって走り出すが、魍魎に邪魔をされて卯月に近付く事が出来なかった。


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