闇を統べしもの 7
闇を統べしもの 7
タダユキが仕事帰り、いつもの公園に行くとすでに朱姫たちは準備万端待ち受けていた。
「お疲れ様ぁ さっそく始めるよ 」
朱姫が元気に声をかけてくるが、タダユキは朱姫の姿に驚いた。いつものセーラー服ではなく、体操着にブルマ姿だった。
「どうしたんですか? いつもの格好は? 」
「ふふん いつもタダユキにパンツ見せるの癪に障るから練習の時はこれにしたんだよ 」
「別に僕は朱姫さんのパンツ見ても何ともないですけどね 」
タダユキは、それがどうしたんですかと興味ない顔で答える。
「無礼な奴だな それはそれで頭にくるな 」
タダユキは車椅子の青姫に目を向けると、青姫も朱姫と同じ体操着にブルマ姿だった。
「姫 可愛いです いつもよりもっと可愛いです 」
「そんな…… そんなに見られたら恥ずかしいじゃないですか 」
青姫は顔を赤らめて俯くが嬉しそうだった。
「貴様ぁ ほんとに無礼な奴だな なんなんだ、その私との態度の違いはっ 」
玄姫と白姫が、朱姫をなだめながらタダユキとの間に割って入り、朱姫の動きが一番弥生に近いから重点的に朱姫と模擬戦をしてもらいますとタダユキに伝えた。そして、こそっとタダユキに告げる。
「朱姫にも可愛いって言ってあげなよ 」
「ふんふん そうですよ、朱姫さん 傷ついていますよ 」
タダユキは二人に言われショックを受けたようだった。俯きながら朱姫の前に歩いて行く。
「ごめん、澪 本当は澪の可愛いパンツ見たかったんだ 見せてくれないか 」
そう言いながらタダユキは朱姫のブルマに手をかける。
「な、な、な、なにやってんだ、貴様ぁ 」
朱姫の怒りがタダユキの頬に炸裂する。バーンと大きな音が公園に響き渡りタダユキの頬に朱姫の手形が赤く残っていた。玄姫と白姫は、呆れたようにそれを口を開けたまま呆然と見ていた。青姫はタダユキに可愛いと言われたのが嬉しくて一人自分の世界に入っていて、この騒ぎに気付かなかったのが幸いだった。
そして、一悶着あったがようやく練習を開始した二人であったが、タダユキはいいように朱姫の攻撃を受けていた。今回は青姫は参加せず、タダユキ一人で朱姫と戦っている。一人でもある程度は戦えなければという事と、青姫も客観的にタダユキの動きを把握しておく必要がある為だった。
・・・朱姫さんの動きを見ろと言ったって、全然見えないよ ・・・
タダユキの足は朱姫にローキックを何発も打ち込まれ、もうがくがくと震え立っているのもやっとの状態だった。とにかく、KОされないように頭をガードし耐えるのが精一杯だったが、それでは何にもならない。
・・・これじゃ朱姫さんのサンドバッグと同じだ ・・・
その時、朱姫に打たれ続けたタダユキは気が付いた。相変わらず朱姫の動きは見えないが、朱姫には一定の攻撃パターンがある。朱姫は右左とローキックを打った後、一瞬間を開け、その後かなりの確率で右のハイキックを放ってくるのだ。この攻撃パターンの時を狙う。このパターンがくるまでは、ひたすら耐える。タダユキはようやく活路を見出した。
・・・朱姫さんのハイキックをイメージして、ここで言霊を発する ・・・
タダユキはそれから朱姫の攻撃のタイミングを計る。何発も朱姫のローキックを浴びた足がそろそろ限界に近い。早めに攻略しないと何も出来ずに終わってしまう。タダユキは精神を集中する。そして、朱姫の右のローキックがきた。
・・・次に左のローキックがくれば ・・・
タダユキの予想通り左のローキックがきた。
・・・ここだ ここで一瞬間が開く ・・・
タダユキはガードを捨て、素早く印契を結ぶ。
「動くなっ 」
朱姫は右足を大きく上げたまま動きを止めていた。
「やったぁ 」
思わずタダユキがガッツポーズをとる。玄姫と白姫も、うんうんと頷いていた。青姫も優しい目でタダユキを見つめている。
「ようやく気付いたか、タダユキ 」
朱姫がタダユキに言い、青姫が後を続ける。
「朱姫は君に気付かせる為、攻撃の中にわざと一定のパターンを組み込んだのです 」
タダユキは、えっという顔で朱姫の顔をまじまじと見る。
「これにも気付かないようじゃ、戦いには向かないからな まあ最低限合格だな それと早く動けるようにしてくれ スカートじゃなくてもこの姿勢はあまりタダユキには見せたいとは思わないから…… 」
すいませんとタダユキは謝りながら、やっぱりこの人たちは凄いと認識を新たにした。そこへ、こんばんはと声がかかる。見ると西園寺弥生が着物姿で立っていた。
「あれ 弥生ちゃん、どうしたの? 」
青姫が驚いて弥生に声をかけるが、朱姫は、偵察に来たんじゃないのとニヤリと笑いながら言う。
「みなさん、いらっしゃらなかったので呼びに来たんですよ 魍魎が現れたんです こな街の外れの森の中から…… 私はまだ正式な”青姫”ではありませんので戦えないので、卯月先輩とみなさん、お願いします 」
「分かりました 君、いいですか? 」
「もちろんです 」
即答するタダユキに弥生が、待ってくださいと引き留める。
「私が卯月先輩を背負って戦います 戦力的にその方が遥かに高いと思いますが、みなさん、どうでしょうか? 先輩と一緒に戦うぶんには問題ありませんので 」
朱姫たち三人は、言われてみればそれがベストかもと、弥生の提案に傾いていった。タダユキ自身も、確かに僕より強い弥生さんと組んだ方が姫は安全ではないかと思い始めていた。
「弥生ちゃん、ありがとう でも、私は彼と一緒に戦います 真言は心の力 私は彼と居るとその力を最大限に発揮できると思うのです ごめんね、弥生ちゃん 」
青姫の言葉に一同言葉がなかった。
「まったく、ラブラブで熱いわ タダユキ、卯月の為に絶対に強くなるんだぞ 」
朱姫の言葉にタダユキは拳を握りしめた。