闇を統べしもの 5
闇を統べしもの 5
白姫が飛び出し、あっと言う間にタダユキの眼前に迫る。
「右っ 」
タダユキの耳元で青姫の声がする。タダユキは、パッと右に体を動かし白姫の攻撃をかわす。
「上っ 」
続けて青姫の声が指示をだす。タダユキは、最初に白姫が迫って来た姿を見て以来、白姫の姿は見えなかった。タダユキの目では捉えられない白姫の動きを、青姫はしっかりと捉えタダユキに指示を出していた。
・・・凄い 姫たちはこんなに早い動きなのか 九尾の時は離れて見ていたから動きが見えたけど、間近でとなると見る事も出来ない ・・・
「左 次に下っ 」
青姫の指示で避ける度に、すぐ近くを白姫の蹴りが拳がかすめていく。
・・・どうするんです、姫 このままじゃ ・・・
「右 右 上 左 」
青姫は的確に指示を出してくる。しかし、白姫の攻撃は止まらない。タダユキの動きが段々と青姫の指示に追いつかなくなってきた。そして、ついにタダユキの動きが遅れ白姫の攻撃がヒットすると思われた瞬間、青姫の真言が発動し白姫の攻撃を跳ね返した。白姫はいったん後方に跳び距離をとる。
「ふんふん さすがは青姫さんですね でもタダユキさんはそろそろ限界のようですよ 」
「セーマンドーマン 青龍 」
青姫が呪符を投げ、神獣を呼び出す。青龍が白姫に襲い掛かっていき、今度は白姫が防御にまわる。
「ふんふん ここで大技を出して彼を休めるつもりですか 仕方ありませんね セーマンドーマン 白虎 」
白姫も神獣を呼び出し、青龍に対抗する。まさに龍虎相うつ感じだ。そして、白姫は青姫に向かって飛び出す。
「白姫は、当然そうするでしょうね だけど…… 」
白姫はローキックと見せ掛けて、ハイキックを放ってくる。が、青姫は白姫の動きを読んでタダユキに指示を与えた。今までは白姫の攻撃を避けていたタダユキだったが、今度は腕を上げて白姫のキックをブロックする。
・・・受けた? ・・・
白姫は、連続してローキックを放ちタダユキの機動力を潰しにかかるが、それもタダユキは避けずにそのまま足に受け一瞬ガクッと膝を落とす。
・・・ふんふん なるほど、いかに青姫さんでもタダユキさんは素人ですからね、少しのインターバルでは彼の回復は難しいのしょう ・・・
白姫はさらに連続で攻撃を叩き込む。その攻撃のどれもタダユキはかわす事が出来ず白姫に打たれ続けよろける。
・・・ふんふん 私の攻撃をこれだけ受けても素人のタダユキさんが倒れない 青姫さんが防御の真言を使っているようですね ・・・
白姫の攻撃スピードが上がり、タダユキは亀のように防御一辺倒になっていた。
・・・いくら防御を固めても無駄ですよ 青姫さんには悪いですが私も手を抜く訳にはいきませんから ・・・
白姫が青姫に向かって飛び出す。
「君っ、今ですっ!! 」
青姫の言葉にタダユキが印契を結び叫ぶ。
「動くなっ!! 」
白姫がまるで時間が止まったように動きが止まる。
•••くっ、ここで言霊 •••
白姫は必殺の錐揉みキックを使おうとジャンプする寸前で体の動きが止まっていた。そして、青姫の真言の詠唱が終わり不動明王が白姫の前に現れる。
「そこまでっ 」
朱姫が青姫を止める。
「やられたね、白姫 」
玄姫が白姫の頭をポンポンと叩く。
「ふんふん タダユキさんが言霊を使ってくるのは分っていたので、それを使わせないように動いていたのですが…… なるほど、最後わざと打たれたように見せかけて私を誘導した訳ですね 」
「もう動けなくなって防御を固めていると思えば、白姫は必ず必殺の錐揉みキックを使ってくる筈と考えたんですよ 」
青姫はタダユキに大丈夫ですかと声をかける。
「君には無理させてしまいましたが、白姫に勝つにはこうするより他なかったので…… 」
「大丈夫ですよ、姫 痛かったですけど、まだ動けます 」
「ふふ、それじゃ次は私だよ 」
玄姫が指をボキボキと鳴らす。
「玄姫は白姫ほど多彩な攻撃はありませんが、一撃のパワーが凄いです 気を付けてください 」
青姫がタダユキに耳打ちする。
「さあ、行こうか 」
玄姫が二人の前で構える。
・・・凄い威圧感だ、白姫さんとはまた違う でも僕も姫と一緒だ負ける訳にはいかない ・・・
タダユキがぶるっと武者震いした時、青姫が耳元で作戦を伝える。えっと思わずタダユキは顔を横に向けた。青姫は、うんと頷いた。
さっそく玄姫が突っ込んでくるが、青姫とタダユキは難なく攻撃をかわし、タダユキがパンチを出してきた。玄姫は、虚を突かれた感じだったが、あっさりとタダユキのパンチをかわす。
「そんな、ひょろひょろのパンチ当たったとしても効かないよ 」
そう言いながら玄姫は、あのパンチに青姫の真言かタダユキの言霊だ込めてあるのかもしれないと考える。まあ、当たらなければいいんだ。玄姫はそう思いながら攻撃を続ける。タダユキは玄姫の攻撃を避けながら時々パンチを繰り出すが玄姫を捉える事は出来なかった。
・・・このまま押し切る ・・・
玄姫が攻撃の回転を上げようとした時、それまでパンチを打ってきていたタダユキがキックを放ってきた。玄姫は腕でブロックしようとしたが警戒して横に飛び退く。そして、すぐに次の攻撃を仕掛けた。
・・・怖いのは青姫の真言だ 青姫に真言を唱えさせない為には攻撃あるのみ ・・・
玄姫は休みなくタダユキを攻撃し青姫に真言を唱えさせない考えのようだった。基本的に私たちの戦いは、体術で敵を動けなくし最後に真言で滅するというのがパターンだ、このまま体術で追い込んでやるよ。玄姫は笑みを浮かべ攻撃を続ける。タダユキの動きがだんだんと鈍くなり、ついに玄姫のキックがヒットし、タダユキと青姫は大きく横に跳ばされ地面に転がる。急いで起き上がろうとするタダユキに玄姫が迫る。
「残念だったな 青姫、タダユキ君 」
まだ起き上がれずにいるタダユキに向けて玄姫は大きく足を振り上げる。必殺の踵落としだ。が、そこで玄姫の動きが止まる。そして、印契を結んでいたタダユキがゆっくりと起き上がった。
「ごめんね、玄姫 今、転がったのはわざとなの…… 」
青姫がタダユキの背中から玄姫に言う。
「なるほどな、私の油断を誘ったのか それはそうとタダユキ君、そろそろ動けるようにしてくれないか この姿勢で動きを止められてるの、悪意を感じるよ 」
玄姫は大きく足を振り上げたまま動きを止められており、スカートの下が丸見えになっていた。
「す、すいません そんなつもりじゃ…… 」
タダユキは顔を赤くし俯いた。
「それじゃあ、最後は私とクロだよ 」
朱姫が言うと、クロも待ってましたと言わんばかりに魍魎化する。
「朱姫さんとクロ…… 」
タダユキは、それ反則じゃないのと思いながら朱姫とクロの顔を交互に見回した。