闇を統べしもの 4
闇を統べしもの 4
「どうするんですか、姫っ あの娘、相当強そうですよ 」
「もちろん、弥生ちゃんは”青姫”を継ぐ資格がありますから強いですよ 」
「まあでも、タダユキが足を引っ張らなきゃ楽勝でしょう 」
澪が軽い調子で卯月に言う。
「ふんふん そうですね、卯月さんは歴代”青姫”の中でもトップクラスですからね 」
「そうね もし負けたら間違いなくタダユキ君の責任ね 」
三人からのプレッシャーで、タダユキはズーンと沈み込む。
「大丈夫ですよ、君 私を背負って印契を結ぶのと、弥生ちゃんの攻撃をかわしてくれればオーケーです 」
卯月も他の三人同様軽く言う。タダユキは更にプレッシャーで固くなったが、三人はすでにタダユキが卯月を背負う為の道具をどうするかに話題が移っていた。
「おんぶ紐を改良するのが一番だよね 」
澪の提案で、いくつか購入して試してみようという事になり、ようやくこの日はこれで解散となった。もう、すっかり日が暮れていた。帰り際に澪がタダユキを呼びつけ、早く卯月と一緒に住みたいなら卯月が生活しやすい住居を用意しなさいと言い、私も協力するからと付け加えた。
タダユキがそのまま公園のベンチに座っていると、にゃーと声が聞こえクロが植込みの陰から姿を現した。そして、タダユキに走りよるとスタッと膝の上に乗ってくる。
「クロ 今日、大嶽丸さんが来たんだぞ クロにも宜しくと言ってた それと久しぶりにみんなと会えたよ 」
タダユキが嬉しそうに言うと、クロも嬉しそうだった。
「クロ 今度さ、引っ越そうと思うんだ 卯月さんと一緒に住みたいからさ、バリアフリーで今風の音声認識で色々出来る家を探そうと思うんだ その時はクロも一緒に住まないか? 」
クロはタダユキを見上げるとジッと見つめ首を横に振った。
「えっ 嫌なのか 」
まさかとタダユキが驚いて言うと、クロは違うよと云う様にまたタダユキを見つめる。その目は、最初は卯月と二人で暮らした方がいいと言っているようだった。
「クロ ありがとうな 」
タダユキはクロの心遣いに感謝した。それに、考えてみればあの異界から生還できたのもクロのおかげであるのは間違いない。
「クロ 僕たちは何があっても友達だからな 」
クロもタダユキに撫でられながら、嬉しそうに喉をごろごろ鳴らしていた。
* * *
「凄い所に住んでいるんですね 幼馴染みの方 」
「少し変人なんですよ 」
タダユキは舗装のされていない獣道を苦労して車椅子を押していく。そして、やっと目的のピンク色の家屋が見えてきた。
「幼馴染みの人って女性ですか 」
タダユキが、その可愛らしい小洒落たピンク色の建物を見て卯月に言うと即座に否定された。
「いえ ”加藤トビ”という男性ですよ 引き籠っていたんですが、最近ようやく働きだしたようで安心しました 」
卯月の言葉でタダユキはトビのイメージを頭の中で創り上げていたが、実際のトビはごく普通の青年だった。トビは、卯月の姿を見て驚き色々と心配する。いい人じゃないか、タダユキも安心した。
「事故で手足失くして顔も酷い事になってしまったんです トビ君、私の面を作ってくれない トビ君なら私の顔、よく知ってるし お願いっ 」
「卯月ちゃんの頼みなら断れないな 大丈夫、任せてよ 本物より可愛く創るから 」
卯月の目がピクッと動く。
「トビ君、またお仕置きされたいようですね 」
「ひぃぃーーっ ごめんなさい 」
トビは頭を抱えて縮こまる。タダユキは、この二人いったい何があったんだと怖くなった。
* * *
いつもの公園に澪たち四人が集まり、タダユキの帰りを待っていた。クロも何が始まるのかと期待した顔で座っている。澪たち全員、戦闘用の服装・セーラー服を身に着けている。
「おっ、帰って来たよ 」
澪の言葉で全員が、公園に入って来たタダユキに目を向ける。タダユキは勢揃いしている澪たちを見て、ギョッとした顔をした。
「どうしたんですか? みなさん、お揃いで…… それにその恰好…… 」
何が始まるのかと困惑するタダユキに、これから模擬戦をするからと澪が軽く言う。
「模擬戦って? 」
「あなたと卯月で、私たちと戦ってもらうのよ 」
そんないきなりと逃げようとするタダユキを捕まえて澪は、スーツの上着を脱がしネクタイも外し、準備を進めていく。そして、栞と柊佳が卯月を持ち上げタダユキの背中に乗せる。
「これが一番ぴったりしそうだな どう、卯月、苦しくない? 」
「大丈夫です これくらい密着していた方が安定感があっていいですね 」
卯月や澪たちが、わいわいと話している中でタダユキは背中に感じる卯月の体の感触に動揺していた。
・・・いかんいかん、何考えているんだ僕は 僕が恥ずかしがったら卯月さんはもっと恥ずかしいじゃないか ・・・
そんなタダユキの心の葛藤など意に介さず準備が整えられていった。
「よーし、オーケー それじゃあやるか 」
「ふんふん では私からいきますね 」
白姫がトントンと軽くジャンプし、クルッと後方転回する。タダユキが緊張で、ごくっと唾を呑む。
「いいですか、君は私の言う通りに動いて下さい 上と言ったら上へジャンプという具合です そして、君の言霊で白姫の動きを止めます 言霊は闇雲に言ってもそれほど効果はありません その動作をイメージ出来た時に最大の効果を発揮します 白姫は決め技として踵落としではなくキックを使ってきます 高くジャンプして身体を錐揉み状に回転させ敵に打ち込む必殺の技です それをイメージしてください 白姫の動きは多彩なのでおそらく有効な言霊を使えるのは、その一瞬だけです わかりましたか タイミングは私が指示します 」
タダユキは頷いた。この白姫に勝てれば、あの弥生という女の子には勝てるだろう。
「君、私を信じてくださいね 」
「もちろんです、姫 」
負ける訳にはいかない。タダユキは大きく息を吸い込み体に力を込める。白姫は、そんな二人を見つめ、いつでも飛び掛かれるよう腰を落とした。
「それでは、始めっ!! 」
澪の合図で、白姫が飛び出す。青姫・タダユキと白姫の戦いが始まった。