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闇を統べしもの 3


 闇を統べしもの 3



 夕暮れの公園でタダユキたちは、まだ頭を突き合わせていた。


「大嶽丸さんでも倒せないって、いったいどんな敵なんですか? 姫 」


「大嶽丸さんは魍魎の中で最強です、彼に勝てる魍魎はいません でも、彼は倒せないと言いました、そして、倒せるのは私たちだけだと…… それはおそらく…… 」


 卯月は、澪たちと顔を見合わせ頷く。


「敵は怨霊 元は人間だった者が怨霊化し魍魎になったものです 怨霊はいかな大嶽丸さんでも倒せません 怨霊を滅する事が出来るのは私たちの真言 」


「元は人間? 怨霊? 」


 タダユキは理解が追いついてこなかった。


「そして、あの九尾を操る事が出来る程の怨霊となると…… 」


 タダユキが固唾を呑んで、卯月の言葉を待つ。


「それは”崇徳天皇”以外、考えられません 」


 天皇っ、タダユキが驚きの声を上げる。


「平安の世では天皇間での勢力争いは日常茶飯事でした その争いに敗れた崇徳天皇は自分の血で怨みの言葉を残し亡くなり怨霊になったと云われています 」


「崇徳上皇…… 私たちの遥か昔の先代たちが追い詰めながら倒せなかった怨霊か…… 」


 澪が拳を握りしめて言う。


「ふんふん なぜこの時代に突然また現れたのですかね? その辺にも何かありそうですが 」


「まぁ、細かい事は置いといて、崇徳上皇を倒すことを考えよう ある意味、あの九尾よりは戦いやすいかも知れないしな 」


 柊佳の言う事も尤もだった。真言も体術も、その圧倒的な力で跳ね返す九尾に比べれば、真言が有効だと思われる崇徳上皇は戦いやすいとも云えた。


「でも、よほど強力な真言でなければ無効化されてしまうでしょうね 」


「心配するな、卯月 いざとなれば私が”アグニ”を降ろして突っ込む 崇徳上皇を倒すのは私たちの長年に渡る悲願だ それが叶うなら私の命など…… 」


「駄目だよ、澪 あなたはそれでいいかも知れないけど、あなたを大切に思っている人が必ず居る その人たちを悲しませないで…… 」


 まったく姫は自分は無茶するくせに人にはそれを許さないんだからな、と考えていたタダユキの顔を卯月がジロッと見る。


「君、何か 」


「い、いや そうだよ、澪 バイト先の店長だって悲しむぞ 」


 慌ててタダユキは澪に無茶はするなと言うと、僕も卯月さんと一緒に戦いますからと宣言した。


「卯月さんは動けないですから、僕が手足になります 卯月さんは軽いから僕が背負って戦いますよ 」


「ふうーん…… なんで卯月が軽いって分かるの? 」


 澪が探るような目でタダユキを見る。


「そ、それはほら、見た目もほっそりしてますし、こうして車椅子を押していれば分かりますよ 」


「あやしいな 卯月が体重なんて言う訳ないし…… まさか、あなたたち二人すでに…… 」


 澪がタダユキと卯月の顔を交互に見る。栞と柊佳も覗き込むように二人の顔を眺めた。


「ふんふん そういえば異界で私たちが戦っている時、二人とも居なかったですよね 」


「そうだな タダユキ君が澪を探しに行ってから、いつの間にか卯月も居なくなってた 」


「ちょっと、君 この人たちに何とか言って下さいよ 」


 卯月がタダユキの顔を見ると、タダユキは顔を赤くし、何かを言おうとしたのか口を開けたまま固まっていた。そのタダユキの顔を見て、澪はふふんと笑う。


「もう、白状しな卯月 」


「あなたを探しに行ったんじゃない 彼一人で敵に会ったら危険だし…… 」


「ふーん、私が洞穴から出て卯月を見た時、あんなひどい怪我なのに妙に落ち着いているように感じたから私も安心したけど、実はその前に何か良い事があったわけね 」


「あ、あるわけないでしょ 」


「なるほど、わかった タダユキ、あなた、手足に怪我した卯月を無理矢理襲ったね だから、卯月は言いたがらない 」


「僕が卯月さんを襲うわけないじゃないですか 」


 言葉とは裏腹に後ろめたい事があるのか、タダユキが澪から顔を背けて言う。澪たちは、タダユキと卯月の態度から確信する。


「タダユキ あなた、嘘つくのは下手だね 私の目を見て言いなさい、この鬼畜野郎 」


「ちょっと待って下さい、僕は…… 」


 慌てるタダユキを庇うように卯月が声を上げる。


「澪っ 彼がそんな乱暴な事するわけないでしょう 彼は凄く優しかったですよっ 」


「ふふっ 」


「ふふふっ 」


「ふふふふっ 」


 三人が笑い出す。


「ふんふん 語るに落ちましたね、卯月さん 」


「何が優しかったのか、白状しなさい、卯月 」


 卯月は、しまったという目で黙り込む。タダユキは何を思い出しているのか、顔を真っ赤にして俯いていた。そんな二人を見て、どう白状させようかと楽しそうに邪悪な笑みを浮かべ腰に手を当てた三人が、再び二人に尋問を開始しようとすると……。


「卯月先輩 」


 卯月を呼ぶ声が聞こえ、全員が声のした方に目を向ける。そこには着物姿の少女がいた。牡丹柄の着物を着た少女は静かにタダユキたちに向かって歩いて来た。


「弥生ちゃん…… 」


 卯月が少女を見て呟く。タダユキは少女の目を見て、卯月や澪たちと同じ目だと気付いた。


「初めまして、皆さん 私は”西園寺弥生”、43代目”三善青姫”を継ぐ者です 」


「ちょっと待って ”青姫”はまだ卯月が居るでしょう 」


 澪が弥生に向かって言うと、弥生は冷たい刺すような視線を浴びせる。


「卯月先輩は、その体ではもう戦えないでしょう 戦えない人が”青姫”を名乗る事は出来ません それでも無理にその体で戦えば今度は確実に殺されるでしょう 」


「僕が卯月さんの手足と成ります 卯月さんはまだ戦えますよ 」


 タダユキが思わず口を出すと、弥生は、誰この男という目でジロッと睨み付ける。タダユキは、遥か年下の少女に睨まれヒッと息を呑んでいた。


「弥生ちゃん 私を心配してくれるのは嬉しいけど、私はまだ戦えますよ 彼が言ったように、彼が私の手足となってくれます 」


「こんな男が卯月先輩の…… 」


 弥生は蔑むような目でタダユキを見る。そして、それから他の三人の顔を見回した。


「なるほど 他の皆さんもこの男の事を信頼しているようですね いいでしょう、それでは卯月先輩 私と戦って勝つ事が出来たら、私も認めましょう 」


「戦う? 」


 タダユキは卯月の顔を見る。


「いいですよ、弥生ちゃん でも、今は無理 私は彼に背負ってもらって戦うつもりですが、今はその道具がありません 」


「分かりました、卯月先輩 それでは一週間後の夜、この公園でいいですか 」


 卯月は了解と頷いた。弥生は、一礼すると来た時と同じように静かに去っていった。


「ねえ、君 弥生ちゃんの事もありますが今度一日付き合ってくれませんか 実は幼なじみに会いに行きたいんです 」


「いいですよ 姫の為なら 有給いっぱい残ってるし毎日残業してるんだから一日位大丈夫です 」


 タダユキの言葉に卯月は嬉しそうに微笑んだ。


「あーあぁ アツいねぇーっ 」


 澪はタダユキの目を見つめる。その目は、卯月の事を頼んだよと言っていた。タダユキも澪の目を見返し大きく頷いた。



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