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最終話・未来へ

いよいよ最終話となります


殺された青姫はどうなるのか

現れた人物は何者なのか


ブラックイットから続いてきた物語は、ここで完結です


 最終話・未来へ



・・その声は、まさか ・・


 タダユキは恐る恐る振り返る。そこには、飛び付いたクロを抱いた朱姫の姿があった。

 

「朱姫さん、殺されてしまったかと思っていました。早く、姫を助けて下さい 」


「それは無理だ、タダユキ 私はもう朱姫としての力がない 魂核を卯月に渡してしまったからな 」


「でも、朱姫さん 不死身じゃないですか 僕は朱姫さんが首をはねられて倒れている姿を見ましたよ 」


「不死身じゃないよ、タダユキ 私は朱雀の力を持っていただけだ 朱姫を名乗る者だけが持つ特別な力 卯月にだけは打ち明けておいたけれどね いいかい、朱雀というのは火の鳥 火の鳥はフェニックス もう分かるだろう、タダユキ 」


「フェニックス、つまり“不死鳥“ですか 」


「そうだ 私は一度だけ甦る事が出来るんだ それは朱姫の名を継いだ時に伝えられ、誰にも話してはいけない決まりだ そうしないと誰だって朱姫にばかりなりたがるだろう それより、タダユキ 時間がない 早く青姫を救ってくれ 」


「救えと言っても姫はもう…… 」


「そう、卯月の肉体は死んだ あの串刺しにされた姿を見れば分かるよ 普通なら、あんな風に頭まで串刺しにされれば絶命しているのは間違いないけれど、卯月は最終奥義を発動出来ていた 女神様が卯月の体に降臨している以上、卯月の肉体が消滅するまでは意識も力もある 今は九尾への恐怖と自分の肉体が残酷に殺されたショックで萎縮して動けないんだ タダユキ、自分の力を忘れたのかっ!!! 」


「僕の力……? 」


「そうだ、今こそ卯月に心からの声援を送れっ!! タダユキの言葉なら必ず卯月に届く いや、タダユキの言葉でなければ卯月に届かない 卯月の九尾に対する恐怖の呪縛を砕くんだっ!!! 」


・・・そうだ、朱姫さんの言う通りだ 僕は何をやってたんだ ・・・


 タダユキは立ち上がり印契を結ぶ。頭上に”晴明桔梗”が燦然と輝き、タダユキは想いの全てを込める。


「姫ぇーーっ!! 僕は知っています 姫こそが最強だ ”崇徳上皇”や九尾ごときに負ける筈がない 」


 タダユキが絶叫する。”言霊”、タダユキの言葉に青姫を思う気持ち、信じる気持ち、全ての気持ちが込もっていた。股間から脳天まで串刺しにされ、まったく動かなかった青姫の指がピクリと動く。


「届いたっ! 届いたぞっ、お前の言葉が卯月にっ!! 」


 朱姫も興奮して叫ぶ。


「卯月ぃっ! お前は私たちの中で最強の青龍だ そんな奴らに負けるんじゃないぞっ!! 」


 まるで眠っていた者が起きたかのように青姫は、自分を股間から串刺しにしている九尾の尾を4本の腕で掴み、ズルズルと強引に引き抜く。


ズボゥッ!


 自分を串刺しにしていた九尾の尾を引き抜いた青姫は、宙に浮きながら覇気の戻った目で九尾を睨みつける。


「ば、馬鹿な…… あり得ない 股間から頭まで串刺しにされ完全に死んでいた筈だ 生きていられる筈がない 」


 動揺する九尾の前で青姫は4本の腕を広げる。4つの掌に各々光が集まってきた。そして、激しく発光する。


「四神・青龍 」


 青姫の右上の掌の光から青龍が飛び出す。


「四神・朱雀 」


 次に左上の掌から朱雀が飛び出す。


「四神・白虎 」


「四神・玄武 」


 続いて現れた白虎と玄武と共に、四神は九尾に咆哮をあげて襲いかかった。


「凄い 前に見た四神とは全然違う 」


「呪符で呼び出す四神とは違う、これが本物の四神だよ 私も見るのは初めてだ 」


 四神を相手に九尾は防戦一方になっていた。四神の攻撃を、辛うじてやっと防いでいる。もう完全に攻守が逆転していた。青姫は、その間に4本の腕で印契を結び真言を唱えている。そして、ついに青姫の真言が唱え終わった。青姫の4つの掌が、各々青、赤、白、黒と輝きだしている。そこには凄まじいエネルギーが集まってきていた。


「女神ラクシュミー最終拳・イーヴィルエンド」


 青姫が九尾の目前に瞬時に迫り掌底を撃つ構えをとる。四神は四方に飛び、それぞれが守護する方角から青姫に力を送った。九尾は青姫に向かって9本の尾で、また串刺しにしようとするが、もはや九尾の攻撃など青姫にとって何の障害にもならなかった。青姫の直前で見えない壁に阻まれ、九尾の攻撃は青姫にかすり傷一つ付けられなかった。そして、青姫は九尾に向かい掌底を打ち込む。


「一の掌・ダルマ 」


 青姫は九尾に第一の掌底を打ち込んだ。青姫の一撃で九尾の巨体がぐらりとよろめく。青い光が九尾を包む。


「二の掌・アルタ 」


 再び青姫に掌底を打ち込まれた九尾の動きが目に見えて鈍化する。更に赤い光も九尾を包み込んだ。


「三の掌・カーマ 」


 三撃目を打ち込まれ九尾は金縛りにあったように動きが止められる。そして、白い光も九尾を拘束するように包み込む。


「四の掌・モクシャ 」


 最後の掌底が九尾の額に打ち込まれ、“終末の光“と云われる黒い光が九尾を包み込むと、九尾の体が四色の光に包まれ崩壊していく。


「そんな馬鹿なぁ!! 私は無敵不滅の存在 そうだ、九尾の体から離れればいいのだ 」


 ”崇徳上皇”は融合した九尾から分離しようとするが、それはかなわなかった。


「無駄ですよ、”崇徳上皇“ 私の拳を受けてしまった以上もう逃げられません 神とは非情なのです もう輪廻の輪からも外され、あなたは二度と生まれ変わることもありません 永遠の暗闇の中で、未来永劫反省するのです 」


「そんな 助けてくれ 私が何をしたと云うのだ 」


「時間はたっぷりとあります ゆっくりと自分のした事を振り返り反省すると良いです そこには、もうあなたを邪魔する人はおりませんので 」


「嫌だぁ、助けてくれ 私は…… 」


 “崇徳上皇“と九尾は光の中で崩壊し消滅していった。青姫は、ゆっくりと振り返るとタダユキたちの元に降りてくる。


「ありがとう、君 君のおかげで私は勇気を持って戦う事が出来ました 君がいなければ私は何も出来ずに消滅していたでしょう 」


「姫…… これで本当にお別れなんですか? 」


「ごめんなさい 君にはそれしか言えません それに君も見ていたでしょう、私が殺されるところ 私の体はもう死んでいるんですよ 今は女神様の力のおかげで、こうして君と話せているんです ねえ、君…… 私が守った世界を、これからは君たち皆んなで良くしていって下さいね 」


 そこへ朱姫が二人の間に割って入る。


「おいおい、卯月 私には一言もなしかよ まったく二人はあついねぇ 」


「何言ってるんですか、澪 澪にはお願いしたい事があります 」


「なんだよ、卯月 改まって 」


「彼にクラッカーボールを買ってあげて下さい お金は払いますから 彼と約束してたんですよ 」


 卯月はそう言うと律儀にお財布からお金を取り出そうとした。

 

「ばか、お金なんか要らないよ クラッカーボールなんて10個でも20個でも買ってやるから心配するな 」


「フフっ 私、澪の涙なんて見たの初めて 」


「最後だからな 特別サービスだよ 」


 そう言いながら澪は泣き崩れて卯月に抱きついた。タダユキも卯月に言葉をかけたかったが胸が一杯で言葉が出てこない。


「う、卯月さん 僕は卯月さんの事を一生忘れませんから 絶対に絶対に何があっても忘れません 」

 

 タダユキはようやく言葉を振り絞って言う。


「ありがとう、君 最高のはなむけの言葉です 嬉しいです 」


 そして、卯月はしゃがみ込んでクロを抱き上げると頭を撫で、優しく雪面に降ろした。


「それでは、みんな サヨナラです トビくんと弥生ちゃんにも宜しく伝えて下さい 」


 卯月は後ろを向いて飛び立とうとした。


「待って下さい、姫 何処に行くんですか? 」


「私の崩壊して崩れていく姿を君には見せたくないので 」


 後ろを向いたまま卯月は震える声で言う。卯月も泣いているように見えたが、くるりと振り返った卯月の顔は、にっこりと微笑んでいた。タダユキが今まで見た中で最高の笑顔だった。そして、卯月はどんとタダユキの胸に飛び込む。


「……大好きです…… 」


 卯月はタダユキの目を見つめて一言呟くと口づけた。そして、タダユキから離れると今度は振り返ることなく、どんどんと空を飛んで登っていく。卯月の姿が小さな点になり、さらに見えなくなった後、眩い光が天空に輝き、そして静かに消えていった。タダユキと澪、クロたちは、何時までもその光の消えた空を見つめていた。


「今の光は“でんでん“か? 」


 タダユキたちが振り向くと、そこには落花星人の着ぐるみが立っていた。


「大嶽丸さんっ! 姫は勝ったんですよ、あの“崇徳上皇“と九尾に でも、姫も…… 」


 タダユキはがくりと肩を落とし、澪も涙を流し俯いている。


「おいおい、元気だせ、お前ら あの“崇徳上皇“と九尾に勝つなんて凄いじゃないか さすが“でんでん“だな それに“でんでん“はお前たちに未来を託したんだろう そのお前たちが凹んでてどうするんだ あの威勢のいいおばちゃんにも怒られるぞ 」


 大嶽丸は周囲を見回して玄姫の姿がない事に気付く。


「あの、おばちゃんもか…… 」


 さすがに大嶽丸も声を落とした。その時……。


「ふんふん、おばちゃんなんて言ったら柊佳さん怒りますよ 」


「えっ!! 」 


 タダユキと澪が驚いて飛び上がる。


「栞っ!! 」


「白姫さん 」


 落花星人に背負われた白姫・栞が申し訳なさそうに、ピョコンと顔を出す。


「良かった 生きてたんですね 」


「さすが、栞 しぶといな 忍術死んだふりってやつか 」


「大嶽丸さんが異界中の魍魎を集めて治療してくれたんですよ 腕は一本失いましたが、お陰さまで命拾いしてしまいました 」


「良かったじゃないですか 栞さん 」


「大嶽丸 栞を助けてくれてありがとう 」


 澪に抱きつかれ大嶽丸は照れたように話題を変える。


「九尾の奴は俺が倒したかったけどな でも“でんでん“ いや、卯月が倒したなら文句はないな 」


 照れる大嶽丸をクロが嬉しそうに見つめて、ニャンと鳴いた。




 エピローグ


 しばらくしてネットの動画配信サイトで、一つの動画が話題になった。“空中錐揉み三回転ツイストジャンプ“という舌を噛みそうな名前の技を、落花星人の着ぐるみを着た謎の男と、白いセーラー服を着た片腕の少女が披露し激しいダンスを踊りまくる。その人間離れしたダンスに、その動画は話題になりどんどん拡散されていった。

 そして、その人気動画の第2弾が配信された。夜の公園で撮影された、その動画のタイトルは…… 。


「謎の落花星人と栞姫+クロの超絶ダンス・ナイトバージョン 」


 前作の二人に加え、目を光らせた黒猫が人間の様に片腕で倒立したり錐揉みジャンプしたりする仕草と効果的なライトアップ、それに絶妙のカメラアングルで人気は爆発し前作以上のヒットとなる。

 その動画のスタッフロールには、監督・神来社(からいと)澪、撮影・カモノタダユキとなっていた。




 エピローグ2


 あの異界での決戦から時間が過ぎてゆき、タダユキの心も以前の様に落ち着きつつあった。卯月を思い出さない日はないが、日々の生活を頑張ろうという気持ちになっていた。あの一連の戦いは失ったものも多かったが、得たものも多かったと気が付いた。もし、彼が1人きりであったなら、苦しむことも悲しむことも少なかっただろうが、嬉しかったことも楽しかったことも少なかっただろう。卯月が命をかけて救った世界。この世界をみんなが幸せになれるよう僕も少しでも頑張らなければ、タダユキは顔を上げ胸を張り歩く。その横を、同じ課の女性が追い越していく。


「主任、お早うございます 」


「ああ、お早う 」


 タダユキは笑顔で、追い越した女性“風魔伊織“に挨拶を返し、会社の門を通り抜ける。その門には金属板で大きく社名が輝いていた。


「株式会社サイレンス 」






   了




 最後までお読みくださり有り難うございます。


 長かった物語も、これで完結となりました。


以前、漫画家の本宮ひろ志先生が「大ぼら一代」を連載中、主人公が行くか退くか、どちらを描こうかと悩んだ場面があり、そこが転機だったと仰っていましたが、私もこうして物語を書いてみて、その意味が分かりました。

何気ない台詞1つで作者でさえ予期しない展開に進んでしまう事があるんですね。

この物語は当初、短編として書いていましたので朱姫がクロを倒して終わる予定でしたが、それだとあまりに普通なので、朱姫が負けたらどうなると考えたのが始まりでした。そこから、色々アイデアが湧いてきて気が付けばここまで長くなっていました。

また、この物語では言葉の重みについて書きたかったのですが、作中、青姫も語っている事が少しでも伝わってくれれば幸いです。

蛇足ですが、ラストシーンは私の他の物語も読んでくれている方がいれば、ニヤリとするかと思います。


 それでは本当に有り難うございました。

御意見、御感想頂ければ幸いです。


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