闇を統べしもの 16
闇を統べしもの 16
クロは怒りに満ちた鋭い眼光で魍魎を睨み付ける。“白沢”はクロの強大な波動に当てられ、狂ったように突進してきたが、クロに触る事も出来ずに消滅していった。”鎌奇”は一目散に逃げようとするがクロに追い付かれ一呑みにされる。”泥田坊“は果敢にクロに立ち向かってくるが、最早クロにダメージを与える事も出来ず、鋭い爪で粉々に切り刻まれた。
青姫とタダユキは“崇徳上皇”の結界を破る為に集中していたが背後で何が起こっているのか、薄々と感じていた。元気な朱姫の気配が消え、クロの闇の波動が爆発的に大きくなっていく。いくら鈍いタダユキでも、それを感じていた。
「うおぉぉぉーーーっ 」
タダユキは雄叫びをあげると、更に結界に集中する。自然と涙が溢れて止まらない。それでも、後ろは振り返らずに”崇徳上皇”に、結界に意識を集中する。タダユキの頭上に再び”晴明桔梗”が現れ、タダユキの体も輝いていく。
青姫は、自分の胸に飛び込んできた”強さの魂核”で何が起こったのか理解していた。
・・・朱姫、それに白姫、玄姫、私に力を貸して下さい ・・・
青姫の足下にベツレヘムの星が現れ、青姫の体も輝きを増していく。
「ふむ。人間にしては素晴らしい力であるが、その程度では私の結界を破る事は出来はしない 」
”崇徳上皇”は余裕で青姫とタダユキを見下していたが、その直後に余裕を失う事になる。
ズガァーーッ
凄まじい衝撃音が響き渡る。それまで微動だにしなかった結界が、結界毎ぐらぐらと激しく揺れた。何が起こったのか”崇徳上皇”も慌てて目を向けると、クロが結界に体当たりし鋭い爪で結界に斬撃を与えている。青姫とタダユキの力で結界の防御力が低下しているところへ、クロの凄まじい攻撃を受け、さすがの”崇徳上皇”の結界もピシッピシッとひび割れてきていた。光と闇の力の結合。その凄まじい威力は”崇徳上皇”の想像を超えていた。
「馬鹿なっ! 何故、魍魎が人間に協力する? 」
あり得ない事態に”崇徳上皇”の顔が強張る。”崇徳上皇”の結界は、上空から六芒星”晴明桔梗”、下方から四芒星”ベツレヘムの星”、側面からクロの斬擊を受け、更に青姫の真言が包み込む。結界のひび割れが、どんどんと拡がっていく。
「ぬうっ。よもや私の結界が破られる時が来ようとは…… しかし、結界が破られたところで人間と魍魎ごときに何が出来る…… 」
パリーン
白銀の世界に澄んだ音が響き渡った。薄い硝子の器が割れていくように”崇徳上皇”の張り巡らした結界が静かに、そして、細かく、まるで雪のように崩れていく。
「やった!! 姫、やりましたよ 」
「ええ、これでようやく”崇徳上皇”と対峙することが出来ます。朱姫の”強さの魂核”も私の中に有ります。健康、知識、強さ、そして、私が持っている”繁栄の魂核”。これで、全ての魂核が揃いました。あとは私が最終奥義を発動するだけです 」
青姫は、しかし、プレッシャーに潰されそうであった。今まで歴代の誰もが発動出来なかった最終奥義。だが、発動出来なければ全てが水泡に帰してしまう。
「大丈夫ですよ、姫 姫なら必ず発動出来ます 」
「君、ありがとう 」
青姫は微笑むと、後ろを振り返る。少し先の雪原に、首を切断された朱姫が倒れている。
「朱姫さん…… 」
タダユキは言葉がなかった。朱姫との出会いから今までの出来事が、頭に溢れて涙が止まらなかった。青姫もタダユキの隣で倒れている朱姫を見つめていたが、青姫は別の事を考えていた。この異界に来て、玄姫が倒れてから朱姫が、打ち明けてくれた事を…… 。
「フギャーッ 」
二人が倒れている朱姫を見つめているうちにクロが”崇徳上皇”に襲いかかっていた。クロの鋭い爪が”崇徳上皇”を切り裂いたかに見えたが、”崇徳上皇”は何事もないように宙に浮かんでいる。
「くだらぬ そんな攻撃が私につうじると思っているのか 」
”崇徳上皇”の言葉通り、クロが何度攻撃を繰り返しても”崇徳上皇”にダメージを与える事は出来なかった。
「姫っ!! 上皇は無敵なんですか? 」
「”崇徳上皇”は怨霊なので物理攻撃は通用しません。ですから最強の大嶽丸さんでも倒せないのです クロちゃん、戻ってっ!! あとは私に任せてっ!! 」
青姫がクロに声をかけるが、クロは気持ちが収まらないのか”崇徳上皇”に対し攻撃をし続ける。
「愚かな魍魎が…… 」
”崇徳上皇”が印契を結び真言を唱える。すると、空に黒雲が広がり雷鳴が轟始める。そして、稲妻が走ったかと思うと、クロを直撃した。
「クロッ!! 」
「クロちゃんっ!! 」
タダユキと青姫は、クロに駆け寄る。クロは魍魎化が解け、黒猫の姿で雪面に横たわり全身からブスブスと煙をあげ酷い火傷を負っていた。
「大丈夫か、クロ? 」
タダユキが抱き上げるとクロは、弱々しくニャーとタダユキを見上げた。
青姫は、キッと”崇徳上皇”を睨み付ける。
「ほうっ、私の”いかずち”を浴びて消し炭にならないとは、その薄汚い猫、なかなかの魍魎であるな 」
”崇徳上皇”は高らかに笑うと、再び稲妻を呼ぶ。かろうじてかわした青姫たちであったが連続で放たれる稲妻に防戦一方に追い込まれた。
「姫っ、僕が”崇徳上皇”の動きを一瞬なら止められると思います その一瞬で姫の言ってた最終奥義を発動出来ますか? 」
「えっ、でもそんな事をしたら、その後一番に狙われるのは君ですよ 」
「この異界に来てから、みんな、姫が最終奥義を発動出来ると信じていました 僕も姫ならば出来ると信じています その為ならば僕だって力になりたい ”崇徳上皇”が稲妻を落とす動作のイメージはできてます 任せてください 」
青姫は考える。もうここまできては躊躇してはいられない。青姫はタダユキの目を見つめ、お願いしますと呟いた。タダユキも大きく頷く。そして、”崇徳上皇”が高笑いしながら稲妻を呼ぼうとした瞬間、タダユキが言霊を発する。
「動くなっ!!! 」
”崇徳上皇”の動作が停止した刹那、青姫が印契を結び真言を唱える。
「ぬぅっ、私の動きを停めた? 」
”崇徳上皇”は稲妻を呼び、タダユキに向かって”いかずち”を落とす。タダユキは”いかずち”に射たれ黒焦げになったかに見えたが、青姫の真言が一瞬早かった。
「女神降臨 豊穣の女神ラクシュミー 」
タダユキに向かって放たれた”いかずち”はラクシュミーの持つ壺に吸い込まれ消滅した。青姫の体は光輝き宙に浮いている。そして、なんと青姫の腕が四本になっている。
・・・これが最終奥義 ・・・
タダユキは青姫の神々しい姿に圧倒されていたが、それ以上に”崇徳上皇”の動揺は大きかった。