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闇を統べしもの 14

 闇を統べしもの 14



 雪原を駆けていた青姫と朱姫が突然足を止める。後ろを走っていたタダユキが激突しそうになり慌てて横に避けて足を止めた。


「どうしたんですか、姫? 」


 青姫と朱姫は後ろを振り返ると、小さな声で呟く。


「白姫が…… 栞が、今、力尽きたようです 」


 タダユキが絶句していると、白く輝く小さな珠が飛んできて青姫の胸に消える。


「知識の魂核 栞の魂核です 」


 青姫は寂しそうに言うと、急ぎましょう、九尾が追ってくると思います、と再び雪の上を走り出した。何も言わず朱姫も後に続く。タダユキとクロも言葉なく走り出した。

 タダユキは思う。今、人間界では多くの人がぐっすりと幸せな夢を見て眠っているだろう。それなのに彼女たちは、こんな異界で命を落とす戦いをしている。タダユキは、そんな彼女たちの事をみんなに知ってもらいたかった。誰にも知られずに消えていくなんて、あまりにも寂しすぎる。タダユキは走りながら涙が出てきて止まらなかった。

 そんなタダユキの隣に朱姫が並んできた。


「タダユキ もしかして私たちを可哀想なんて思ってないか? 」


 タダユキは図星を突かれて俯いてしまった。


「やっぱりな いいかタダユキ 私たちの仕事は警察官みたいなものだよ 相手が人間ではなく魍魎だと云うだけ みんな、自分の仕事を一生懸命勤めているだろう 私たちも同じた それに、この仕事が好きなんだよ 私だけじゃなく全員ね だって、格好いいだろ、人を守る為に戦うのって…… だから、前から言っているけど私たちの事はあまり気にしないようにな 」


 朱姫の言うことは、もちろん分かるがタダユキは、みんなと別れたくなかった。いつまでも楽しく笑っていたかった。



 * * *



 ようやく、九尾に追い付かれずに山の麓に辿り着いた一行は、休む間も惜しんで山道を登りだす。すると、道の先に人影が見えた。警戒しながら近付いて行くと、それは一人の老婆だった。しかし、明らかに普通の老婆ではない。右手に青蛇、左手に赤蛇を構えている。


「“蛇骨婆(じゃこつばあ)“か…… 私が行く 青姫はここに居てくれ 」


 朱姫は青姫の返事も聞かず飛び出して行く。タダユキは今までの流れから、何か嫌な予感がしていた。まさか、ここで朱姫までが……。そう思うと自然に足が動き出していたが、青姫に腕を捕まれ止められた。


「姫っ 何か嫌な予感がするんですよ 僕も加勢した方が良くないですか? 」


「大丈夫ですよ、さっきの雪女に比べれば何でもありません 気を付けるのは毒を持っている両手の蛇ですね でも、朱姫であれば問題ないでしょう 」


 青姫の言葉通り朱姫は、縦横無尽に飛びかかってくる二匹の蛇の攻撃を易々とかわし、“蛇骨婆(じゃこつばあ)“の顔面に拳をヒットさせる。そして、倒れた“蛇骨婆(じゃこつばあ)“に向けて印契を結び真言を唱える。が、真言を唱え終わる前に体勢を立て直した“蛇骨婆(じゃこつばあ)“の蛇が襲いかかってきた。青姫とタダユキは顔を見合わせて苦笑いする。


「やっぱり、君 手助けしてあげて下さい 」


 タダユキはクラッカーボールを取り出し、狙いを付けると“蛇骨婆(じゃこつばあ)“目掛けて投げつけた。クラッカーボールは“蛇骨婆(じゃこつばあ)“の左手の赤蛇にぐるぐると巻き付き動きを止めた。そして、もう一つのクラッカーボールが右手の青蛇の動きも止める。敵の攻撃が止まり、朱姫は真言を唱えて倒すものと思ったが、真言を唱えず精神を集中する。朱姫の両手が眩しく輝く。


「夏の蝉時雨 」


 突然、凄まじい音量の蝉の鳴き声が響き渡る。朱姫の背後にいるタダユキたちでさえ耳を押さえて動けなくなるレベルで、朱姫の前でまともにこの音を浴びている“蛇骨婆(じゃこつばあ)“は体をブルブルと震わせて火を噴き燃え出した。分子運動を音で加速させ発火させたのか、タダユキは朱姫の能力の威力に脱帽したが、一緒に燃えていく自分のクラッカーボールを見て、あーっと声を上げる。


「僕の唯一の武器なのに…… 」


 涙目になっているタダユキに青姫が肩を叩くと、人間の世界に戻れたら私が買ってあげますからと慰めてくれたが、タダユキは青姫をがしっと抱き締めると、必ずですよ、約束ですよと言い続ける。青姫は悲しそうに頷いた。


「いやぁ、私、ちょこちょこと動く奴苦手なんだよね 白姫なら得意なんだろうけど 」


 全然悪びれずに言う朱姫にタダユキは、真言をもっと早く唱えられる様にしなさいと本気で思った。

 その後も現れてくる魍魎を、青姫と朱姫が交代で力をセーブしながら倒していき、遂にラスボスである“崇徳上皇“の元に辿り着いた。“崇徳上皇“は山頂の雪の上に座している。


「お待たせ、上皇 これから、あなたを滅します もう逃げられないですよ 」


「逃げる? 麿(まろ)が何故逃げるのでおじゃる 」


 朱姫は青姫とタダユキを振り返る。その顔は必死に何かを耐えている顔だった。が、遂に耐えきれず爆笑する。


「まろだって!! おじゃるだってよ!! 本当にこんな喋り方するんだ 」


 朱姫は可笑しくてたまらないと、遂に腹を抱えてスカートの下が見えるのも構わず足をバタつかせ雪原を転げ回る。見ると、クロも朱姫と同じように雪原を転げ回っていた。青姫とタダユキは、その緊張感の欠片もない朱姫の姿に、頼もしいやら呆れるやら複雑な気持ちであったが“崇徳上皇“は怒りを露にする。


「貴様が私はこういう喋り方をするのではと期待しているようだったから合わせてやれば無礼千万! 即刻始末してしんぜよう 」


 崇徳上皇は目の前の香炉に火を入れる。すると、思わず鼻を押さえたくなるような匂いが漂い、妖しげな紫色の煙が立ち上がり、それは徐々に人の形になっていく。


「げ、玄姫さん? 」


 タダユキたちの前に現れたのは、砕け散った玄姫だった。


「あれは“返魂香(はんごんこう)“ あなたは死者への礼節も失ってしまったのですね 」


 青姫が怒りで体を震わせるが、激昂した朱姫がすでに飛び出していた。玄姫はそれを腰を落として待ち構え、朱姫に向かって掌底を放つ。それも、ただの掌底ではなく、玄姫の掌から全ての動きを停止させる波動が放出される。しかし、朱姫もそれをかわしスライディングしながら玄姫の足に蹴りを入れるが、玄姫もジャンプしてかわすと朱姫の顔面を狙って踵を落とす。転がってかわす朱姫に追撃しようとした玄姫に青姫の真言が炸裂する。


「オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン 」


 阿弥陀如来の力で玄姫の体が煙となり消えていった。


「崇徳上皇 貴方は酷い方ですね 貴方をこれ以上自由にさせる訳にはまいりません 」


 青姫と朱姫は、崇徳上皇に詰め寄ろうとしたが、見えない壁に阻まれて進むことが出来ない。


「これは? 」


 崇徳上皇は二人を見下し高笑いすると、その体が宙に浮く。


「この結界は千年もの間、私を守護してきたものだ  人間ごときに破壊出来る代物ではない 」


「これか この結界が奴の最後の砦 ここを突破すれば…… 」


 青姫と朱姫は顔を見合わせた。





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