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闇を統べしもの 13


 闇を統べしもの 13



 再び現れた九尾に青姫たちは絶望に叩き落とされる。九尾はあの時よりも更に力が上がっているようで、その圧倒的な威圧感の前に青姫たちは足がガクガクと震え立っているのもやっとの状態だった。


「わたくしは“崇徳上皇“に新たな力をいただいた その“崇徳上皇“のご命令で、貴方たちを皆殺しにします そこの男も残念ですが死んでもらいます 」


 青姫がとうとう立っていられなくなり、雪に膝を落とす。


「大丈夫ですか、姫 」


 タダユキが慌てて駆け寄り青姫の肩を抱く。


「ありがとう 大丈夫です あの時の恐怖と苦痛が甦ってきて…… 」


 無理もないとタダユキは思った。あの時青姫が味わった死の恐怖と地獄の激痛は、早々に拭いされるものではなかった。しかし、この状況での九尾の出現は最悪のタイミングと云えた。


「ここで、こいつが出てくるなんて…… 」


 朱姫が震えながら呟く。その時、タダユキがハッと気付いた。


「そうだ、大嶽丸さんに貰った笛ですよ あれで大嶽丸さんに来てもらえば 」


 そうだと朱姫が笛を取り出す。しかし、白姫がそれを止める。


「どうした、白姫 早くしないと…… 」


「すいません、朱姫さん ですが、ここで大嶽丸さんを呼ぶ訳にはいきません 玄姫さんが考えたように“崇徳上皇“を倒すには私たちの最終奥義しかないでしょう でも、最終奥義は今まで使えた人はいません 何故だと思いますか? 」


 白姫の問いに朱姫は答えられず、青姫の顔を見る。青姫は白姫の顔を見つめると、口を開いた。


「信頼と覚悟と信念…… ですね 」


「私もそう思います お互いを思う信頼、責務を全うする覚悟、それを遂行する揺るがない信念、どれか一つ欠けても最終奥義は発動出来ないと私も思います もし、ここで大嶽丸さんに頼ってしまったら…… 私たちの覚悟が試されているのではないでしょうか そして、私は私たち四人なら、最終奥義を発動出来ると信じています 」


 白姫はみんなの顔を見回すと断固とした決意を秘めた顔で告げる。その足はガクガクと震え、顔色も悪かったが、瞳の光だけは失っていなかった。


「九尾は私が食い止めます 皆さんは先に進んでください 私も白姫の名に誇りを持っています 前回、私は何も出来ませんでしたが、白姫の名にかけて時間を稼ぎます 皆さんが九尾から逃げ切れるよう、命を賭けて食い止めます さあ早く、行ってください 」


 一人では無理なのは分かっている。しかし、青姫たちは白姫を止める事が出来なかった。白姫の覚悟が痛いほど分かる。青姫たちは白姫を残して駆け出していた。


「わたくしを相手に一人ですか なめられたものですね 」


 九尾が怒りで燃える目で白姫を睨み付ける。


「やあぁぁぁーーーっ 」


 白姫は雄叫びを上げ、自分を鼓舞し震えている足を叩くと、印契を結び真言を唱えようとするが、九尾は九本の尻尾で攻撃を仕掛け容易に白姫に真言を唱えさせない。しかし、白姫の動きはこれまで以上の動きをみせ、九尾の攻撃を全て避けながら、守護の真言を唱えた。


「オン・サンマヤ・サトバン 」


しかし、九尾もその一瞬止まった白姫を見逃さない。巨大な前足で白姫の体を叩き付ける。ボスッと雪面に叩き付けられた白姫に九尾は間髪入れず口から火炎を吹きかけた。白姫は飛び起き火炎を避けると、更に動きのスピードを加速させる。白姫の体の残像で、まるで四人の白姫が居るように見える。幼い頃に修行した忍者の技の一つ、影分身の術だった。


「ほほう、面白い 矮小な人間にしてはやりますね 以前とは違うという事ですか ふふふっ、その覚悟に見合った最後を与えて差し上げましょう 」


 九尾も白姫の術に驚嘆するが、動じる事はなく九本の尻尾で四人の白姫を同時に攻撃する。攻撃された白姫は四人とも煙のように消えていた。その時、九尾の死角にいた本体の白姫は、大技を発動する。


「秋の落葉乱舞 」


 鋭い刃と化した落ち葉が九尾に襲いかかり、九尾の体を斬り刻む。九尾の再生能力で切り裂かれた傷が瞬時に修復されるが、白姫の攻撃はそれよりも早い速度で九尾を斬り刻んでいった。


「秋の落日 」


 続けて次の技を繰り出す白姫。秋の真っ赤な夕日の様な火球が九尾の体に落ちていき、九尾の体を焼き始める。先程の斬り刻まれた傷も癒えないうちに、今度は超高温で体を焼かれ九尾はのたうち回った。


「ぐはぁーっ、人間の分際でわたくしの体に傷つけるなど、万死に値します 」


 大技の連続で九尾にダメージを与える事が出来た白姫だったか、その代償として体力を相当失ってしまった。白姫は急ぎ、月夜から貰った兵糧丸を口に入れる。忍者飯の即効性で多少体力が回復した。


・・・ありがとう、月夜お兄さん これで後二回は大技を使える 九尾を足止め出来るのは大技しか考えられませんから ・・・


 続けて白姫は大技を使い続け、九尾には攻撃の隙を与えない。


「秋のカシオペア 」


 白姫は九尾に五つの光点をカシオペアの形に打ち込むと、打ち込まれた光点は輝きを増し爆裂する。かなりレベルの高い魍魎であっても、白姫の大技を一つでも受ければそこで消滅してしまう程の威力ではあるが、九尾はそれを三発も受けながら体を再生させている。白姫は更に続けて大技を放つ。


「秋の名月 」


 九尾の頭上に小さな月が現れ、その引力で九尾の巨大な体が吸い上げられていく。そして、遥か上空から今度は斥力で、地面に物凄い勢いで叩き付けられる。それを無限に繰り返され、さすがの九尾も再生が追い付かず口から血を吐き弱っていった。しかし、白姫の方も限界にきていた。体力を使い果たし、もう動くことも出来ない状態になり、肩で息をし立ち尽くしてしまう。九尾がそれを見逃す筈がなく、前足の鋭い爪が白姫に襲いかかった。


「ぐうっ 」


 なんとか直撃は避けた白姫だが、左腕が肩口から切断され血が噴き出した。


「うわぁぁーーっ 」


 右手で肩口を押さえて涙を流しながら悲鳴を上げる白姫に、九尾の容赦無い追撃が襲いかかる。


どすぅっ


 白姫の腹部を九尾の鋭く太い爪が貫通していた。九尾が、グリッと抉りながら爪を引っ込めると、ポッカリと穴が空けられた白姫の腹部から血が噴き出す。


「ごがぁーっ 」


 白姫は口からも激しく血を吐き出し雪面を真っ赤に染め、ガクガクと足を震わせ崩れ落ちた。九尾は白姫にトドメをさすべく口を開け火炎を吐き出す。自分に迫る燃え盛る火炎を見た白姫は、まだ少しでも九尾の足止めをしようと最後の技を使おうとしたが、既に体を動かす事が出来なかった。みんなが九尾に追い付かれない程、遠くへ行く事が出来ただろうか?白姫にとってそれが最後の気がかりだった。そんな事を思いながら白姫は視界がぼやけて意識が遠くなっていった。



 * * *



「嬢ちゃん、大丈夫か? 」


 白姫が目を開けると、目の前に落花生の顔があった。こんな時なのに白姫は、血だらけの口で笑みを浮かべてしまう。


「なぜ、俺を呼ばなかった 友達だろう 」


「お友達だからですよ 皆さんは呼ぼうとしたんですよ でも私が止めました 貴方に頼ってはいけないと思ったから それに、この九尾はあの時と違う、更に強くなってる 貴方は大切なお友達だから戦いで傷付いたりしてほしくなかった だってまた無心で一緒にダンスを踊りたかったから でも却って迷惑をかけて仕舞いましたかね 」


「そうだな、でも大丈夫だ 頑張れ 嬢ちゃんなら、頑張れるだろう また一緒に踊ろう 空中錐揉み三回転ツイストジャンプという技を編み出したんだ 」


「ふんふん 何ですか、それは? 見てみたかったで…… 」


 白姫は言葉途中で静かになっていった。


「そんなふざけた格好で、わたくしの火炎を遮るとは何者ですか わたくしの邪魔をした以上死んでもらいますよ “崇徳上皇“に力をいただいたわたくしは、この世界で最強ですから 」


「俺は人間がどうなろうが、魍魎がどうなろうが、そんな事には興味はない だがな、友達の事は別だ 貴様を生かしておいた事を後悔している 今度こそ貴様の魂も残さず消してやる 」


 落花星人の着ぐるみを脱いだ大嶽丸が憤怒の表情で体を震わせ巨大化し、咆哮する。空気がビリビリと振動し地面が地震のように激しく揺れ崩れ落ちる。空もバリバリと亀裂が入り、この異界そのものが破壊されてしまいそうな程の凄まじい咆哮だった。完全に力を解放したブラックイット。二体の黒い魔獣が相対した。




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