闇を統べしもの 10
闇を統べしもの 10
トビが卯月に頼まれていた仮面とからくりの手足を持ってきて卯月に装着した。
「どうだい? 卯月ちゃん 」
卯月は手足を動かし、どうですかとタダユキの方を向く。つぶらな瞳の卯月の仮面は可愛かった。
「最高ですよ、姫 前よりかわ…… いや、可愛いです 」
危ないところでタダユキは踏み止まり笑顔を向ける。青姫はからくりの手でタダユキに触れた。
「トビ君、ありがとう こうしてまた君に触れる事が出来るなんて…… 」
タダユキもトビに感謝する。トビも嬉しそうに二人に笑顔を向けた。
「僕は今まで自分の事ばかり考えてきたけど、こうして人の為になる事っていいよね 卯月ちゃんには昔から言われてきたけど、やっと僕も分かったよ 僕を会社に誘ってくれた人がいて、その人たちのお陰で僕は変われたんだ 今なら卯月ちゃんが前に言ってくれた事がよく分かるよ 」
三人が話しているところへ朱姫たちも集まってきた。
「凄いじゃない、卯月。なんか昔のヒーロー物の主人公みたい 」
朱姫が目を見開いて言うと、白姫も玄姫も信じられないという目で青姫を見ていた。
「そうそう、私たちも連絡ついたから、もうすぐ加勢が到着するよ そうしたら異界へ殴り込みだよ 」
「ふんふん 朱姫さんの言い方ですと軽く感じますが、もうこちらの世界には戻って来れませんから覚悟していかないといけませんよ 」
「そうだな この世界の見納めだな 最後によく見ておいた方がいいな 」
「決死の覚悟という理由ですね 」
玄姫が言った後、いつの間にかみんなの背後に来ていた二つの人影が言う。全員が驚いて振り向いた。
「月夜お兄さん 」
「チーフ それと忍さん 」
白姫とトビが揃って声を出す。
「栞ちゃん、久しぶり それにトビくんも一緒とはびっくりだね 」
「察するに、あの方がトビくんの幼馴染みの方のようですね 」
忍が、青姫を見て言うと青姫がぺこりと頭を下げた。
「さっき言った僕を会社に誘ってくれた人 高坂チーフと忍さん 二人は御夫婦なんだ 」
トビの言葉に忍が、グフグフと嬉しそうに反応する。
「おいおい、高坂チーフに藤林くん 結婚したなら言ってくれないとお祝いも出来ないじゃないか 」
またも、いつの間にかそこにいた鋭い目付きの老人が月夜と忍を見て言う。
「社長っ 」
「叔父さんっ 」
玄姫と月夜たちが声を揃えて叫んだ。
「いや、詳しい話は後でしましょう、社長 今は他にやらなければならない事がありますから 」
月夜は、とにかくこの場はお茶を濁して逃げる算段のようだったが忍は、すいません報告が遅れましたと頭を下げていた。
「一応紹介しておくわ 私の叔父の百地五太夫よ そこそこ強いから安心して 」
そこそこなんてもんじゃないと思うけどと月夜と忍は小声で話していた。
「ふんふん それでは私も こちらが私が子供の時忍術を教えてもらっていた月夜お兄さんと…… 奥様でいいんですよね? 」
月夜と忍が、よろしくと頭を下げる。忍は白姫の紹介にも嬉しそうにグフグフと微笑んでいた。
「それにしても驚きだな みんなうちの社員じゃないか 白姫くんの知り合いが高坂チーフ 青姫くんの知り合いが加藤くん そして、確か朱姫くんの知り合いの弟さんが、うちの会社にいると聞いたが…… 」
「ああ トラ 伊賀崎寅之助です 」
朱姫が答えると、月夜たちは驚いた。人の繋がりとは分からないものだ。どこでどんな風に繋がっているのか。それを考えると人の縁を大切にしていきたいと全員が考えていた。
「それにしても、柊佳 私はお前に普通に結婚して幸せになってもらいたかったが…… 」
「叔父さん、勘違いしてるよね。私は十分幸せだよ。心から信頼できる仲間と一緒にいられる事がどれだけ幸せか、叔父さんなら分かると思うけど…… 」
玄姫に言われ、百地は一本取られたなと苦笑いする。そうしているうちに蓬莱刹那も到着する。刹那をみんなに紹介した後、セーラー服を受け取った朱姫はすぐに着替え始めた。みんなの見ている前で平気で服を脱ぎ下着になる朱姫を見て、青姫が慌てて声をかける。
「ちょっと、澪。男性の方もいるんですよ 」
「急いでいるし、いいじゃん卯月 タダユキ、私の体も見納めだから、しっかり見ておけよ それで、私の事も忘れるんじゃないぞ…… ほら、卯月も急がないとっ 」
本音が出てしまいそうになった朱姫は、慌てて青姫に大声で言う。急かされた卯月は木の陰に行き着替え始めたが、澪の隣で忍も下着姿になり刹那の持ってきた予備のセーラー服に着替えていた。そして、いつの間にかカトリーヌもそれまでのゴスロリ調の服からセーラー服に着替えている。忍くん、なぜセーラー服に?月夜は大きな疑問を抱えながら、栞に話しかけた。
「栞ちゃん、もうこの世界に戻れないと言ってたけどいいのかい? 」
「ふんふん 月夜お兄さん。私はお兄さんと同じで自分の仕事に誇りを持っています これが私の責務なのですから是非もありません 」
「そうか…… それなら、栞ちゃん 立派にやり遂げてくれる事を祈っているよ 」
栞は最後にぎゅっと月夜に抱きつくと、異界への亀裂に向かって歩いていった。セーラー服に着替えた青姫はタダユキに目を向けると、お元気でと小さく呟いた。そして、空間に出来た亀裂の前に四人の魍魎討伐者が揃う。
「待ってください、姫 僕も行かせてください こちらの世界はトビ君や、こんなに頼もしい方達が来てくれた 弥生さんや刹那さんもいる 僕は足手まといかも知れないけど、捨て石くらいにはなれますよ それに姫、卯月さんがいない世界に一人残っても僕には何の意味もありません 」
タダユキの足元でクロもニャ~と鳴く。タダユキの必死の願いに、朱姫が青姫の肩を叩いた。青姫は朱姫や白姫、玄姫の顔を見ると最後にタダユキの顔を見る。
「君、いやタダユキさん…… 私と一緒に来て下さい 私もあなたがいないと勇気が湧いてこないんです 」
最後は叫ぶように青姫は言い、駆け寄ったタダユキと青姫は抱き合い。その二人の足にクロが嬉しそうにじゃれついていた。
「本当に熱いな、この二人 べつに羨ましくはないけどさ…… 」
「ふんふん 朱姫さんの何時もの強がりですね 」
「まったく 素直に羨ましいと言えばいいのに 」
白姫と玄姫に図星を突かれた朱姫は、二人をキッと軽く睨むと大声で言う。
「ああ、卯月が羨ましいよ 私もいちゃいちゃする恋人が欲しいよ だから崇徳上皇倒して絶対にここに戻って恋人つくってやる 」
朱姫と白姫、玄姫は顔を見合わせて大きく頷いた。