魔物
精霊はソワソワとして、少し離れ、また私の方へ戻ってを繰り返していた。…何かが可笑しい。早く帰ろう。
ーーバキボキッ…ドサッ…バキボキッ…
私の高性能な耳が、森の中を真っ直ぐに走って来ているナニカを捉えた。
「…何か来ています。」
「え?」
「シスターとか?」
「恐らく魔物です。森の中を突っきているので、このままだと……冒険者たちに鉢合わせるかと。」
「へ〜なら、大丈夫だろ。」
「…浅瀬の冒険者は薬草依頼で来てる5級だから、殆どの人は戦えないかも……?」
「…不味いですね。」
私は考える。いや、考える必要もない、か。
「ボクが行きます。二人は、冒険者ギルドに報告をお願いしますね。」
「ユリ様がっ!?」
「おれも行く!」
「アリスちゃん、お願いします。ルークくん、それ駄目です。君は冒険者じゃないでしょう?アリスちゃんを守りながら、冒険者ギルドに行ってください。ルークくんにしか、頼めない事なんです。」
「…仕方ねぇーな。いいよ、行ってやる!行こう、アリス!」
「うん!」
二人は手を繋いで、森の外へ掛けていく。私も急ごう。
「精霊!早く!」
私は精霊にお願いして、道案内と追い風を頼んだ。
ービューー!!
木々は私を避け、風とは私を押し、土は私の足元を支える。私は1陣の風に成った。
アリスとルークは暫く走り、冒険者ギルドへ到着した。
「助けて!ユリ様が!」
「魔物が出たんだ!」
二人は一直線に走った先の受付へ向かった。緑のリボンの受付嬢、オリビアは答える。
「…分かりました。どのような魔物かは分かりますか?」
「分かんねー!でも、魔物が森に出て、浅瀬の冒険者に向かってるんだ!」
「ねぇ、その情報は確かなの?ここは、子供の遊び場じゃないわ。」
隣の受付の、赤色のリボンの受付嬢は会話に口出しする。
「ベラ、本当であれば大変な事よ。」
「ふーん。それ、あんた達が見つけたの?それとも、他の誰か?」
「ユリ様が見つけてくれたの!」
「それって、冒険者?何級?」
「階級は分かんねーけど、今日来たばかりって言ってたぞ!」
ルークが答える。
「…ねぇ、ユリって、ユリウス?」
ベラはゆっくりとした口調で尋ねた。
「お姉さん知ってるの!?」
「エルフだって言ってた!」
「よし……援軍出すわよ!そりゃあ、もう、じゃんじゃん出したげる!だから、アタシが協力してくれたって、ユリウスに伝えてね?良い?じゃないと協力できないわよ!?」
「わかった!お姉さんが、頑張ってくれたって伝えるから!援軍お願い、です!」
「ガッテン承知之助!ほら!聞いてたでしょ、みんなーー!アタシに従いなさい!」
「「「サーイエッサーーー!」」」
冒険者たちの声が響く。
「声が小さいっ!!」
「「「サーイエッサーーーー!!!」」」
冒険者たちの怒声のような声が響いた。
「な、何だよコレ…」
ルークは驚愕した。
「ベラは、元2級の冒険者なのよ。」
「うえっ2級!?」
ルークは驚愕の声を上げる。
「だから、あんなにキョニューなんだ」
アリスは納得したように言った。
「それは違うと思うわ…」
オリビアは苦笑いした。
「あのーこれって、なんですか?」
「今から森へ援軍を出しに……ユ、ユリウス様?」
「ユリ様!?」
「何で帰って来たんだよ!?」
「何でって言われても……」
精霊の力を全力で借りたお陰で、すぐに目的地まで辿り着けた。…思ったよりも随分と数が多い。精々20匹だと思っていたけど、その倍は軽く越えている。
魔物の種類は、ゴブリンとオークだ。私には魔物の知識が少ない。里から出る事も、里で知識を得る事も殆どなかったからだ。
でも、精霊たちは知っている。火の精霊が活発に動いていることから、彼らは火が苦手なのだろう。風の精霊に、木々に引火しないよう風を吹かせて貰う。火の精霊は魔物を燃やす作戦で行こう。
因みに、少し肌から離れた守護精霊たちは、既に戻っている。一瞬でも忘れると、すぐに戻ってしまうのだ。
「植物を風で守って!魔物を燃やして!」
私がお願いすると、一瞬でイメージが具現化した。
「ギギっ!?」
「ブモッ!?」
「ギーッ!」
「モォーーッ!?」
火は風に吹かれ勢いを増し、地獄の業火のように、彼らを炙り溶かし灰にして、風に吹き飛ばされた。灰はキラキラと宙を舞い、まるで夢だったように綺麗さっぱり消えた。
だけど、肉の焼けた匂いだけは残っていた。……焼肉の匂いにしか感じられない。紹介された宿屋のご飯は美味しいと聞いていたけど、夕陽も沈んで夜の世界に成ってしまった。空いていると良いけど……。
と、その前にギルドに報告に行った二人を追いかけないと。
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