森
魔導具店を出た後、私は森へ向かった。今日、早足に森から出て、また今日の内に戻って来る事に成るとは、思わなかった。
門を通る時は、冒険者カードを台座にスキャンした。身分証明書の代わりとなるらしい。
暫く、門のすぐ側から流れる川に沿って歩くと、大体30分くらいで森の入り口へ到着した。ただ、森の入り口には、冒険者がチラホラと居る。森が広大なせいで、冒険者と鉢合わせなかったのだろう。
そろそろ日が暮れてきた。茜色に輝く日差しは綺麗だが、宿屋が満室になる前に、帰る必要がある。
「ね、ねぇ……ルーク、本当に行くの?シスターも駄目だって言ってたよ…?」
冒険者には似つかわしくない、小さな女の子の声を私の高性能な耳が捉えた。その方向を見ると、冒険者たちが集まっている辺りよりも、50mほど離れた辺りに6歳くらいの男の子と女の子が居た。
「大丈夫だって!カル兄ぃも大丈夫だったんだから、大丈夫だよ!」
「カル兄ぃは、頼りなくても冒険者なんだから、当たり前だよぉ…」
「そんなに言うなら、アリスは残ってればいいだろ?おれは、1人でも行く!」
「や、やだぁ、置いてかないで!」
「君たち、何してるんですか?」
「わっ!?」
「きゃっ!?」
私は精霊に頼んで、そっと近づくと、声を掛けた。
アリスは、ルークの後ろに隠れる。ルークは、警戒するように、アリスを背にして私と対面する。
「だ、誰だよお前!」
「通りすがりの者です。」
「…あれ?もしかして、エルフさまっ!?ほんもの!?」
アリスはルークの背に隠れたまた、ひょっこりと顔を出して、私を見上げる。っか…可愛い。
「本物のエルフですよ。」
「やっぱり!この森にエルフ様は居たんだ!」
アリスは嬉しそうな声を上げる。どうやらエルフは人間の間でも有名らしい。
「エルフなんて、いる訳ないだろ!この嘘つき!」
「嘘つきじゃないですよ。ボクも嘘つきは嫌いですから。ところで、何をしようとしてたんですか?」
「言うわけないだろ!」
「薬草を取りに来たんです。アリスたちは孤児だから、お金がなくて…」
「アリス…」
ルークは不満そうにアリスを見つめる。
「ごめんね、ルーク。でも、勝手に森に入るのは、駄目だと思う、シスターも心配しちゃう……。」
「おれは行くからな!」
「ボクが付き添おうか?丁度依頼だらかね。」
「…依頼って、冒険者なの?」
「そうですよ」
「エルフの旅のアキレア様みたい!」
「アキレア様?」
「知らない?アキレア様っていうエルフさんの冒険記。」
「申し訳ありません。まだ、人間の国には来たばかりですから。」
「え、そうなんだ!じゃあ、アットラ王国の首都、エルマータへようこそ!」
「ありがとう。アリスちゃん、で良いですか?ボクはユリウス、よろしくお願いしますね。呼び方はユリでも、何でも構いませんよ。」
「うん!エルフ様と…ユリ様とお友達に成れるなんて夢みたい!」
「呼び捨てで構いませんよ。」
「え!?駄目だよ、ユリ様はエルフ様なんだから、様付けしないと!」
「…そ、そうですか?」
何やら拘りがあるらしい。
「アリスは、エルフを信仰してんだよ。訳わかんねぇーよな?」
ルークは私を見上げて同意を求める。確かに、些か行き過ぎているようだ。
「信仰じゃなくて、崇拝だよ!?間違えないで!アリスはセリアス教のけいけんな信徒だよ!」
「はいはい、わぁーってるって。おれとは大違いだな。」
「ルークは適当すぎ!そんなんじゃ、信徒って名乗れないよ!?」
「いいんだよ、おれ信じてないから。」
「駄目だよ、信じないと!」
「いーんだよ、信じなくても良いってシスターも言ってただろ?」
「そういうの、タテマエってヤツだよね?アリス知ってるよ!」
「いーんだって!信仰しなくても、死なないんだから。」
「駄目だよ!」
「いーんだよ!」
「駄目なの!」
「いーの!」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いてください。アリスちゃん、信仰は個人の自由ですよ?押し付けるのは、良くないですよ。」
「ユリ様が言うなら…わかった。」
ルークはフッと、笑い声を漏らした。
「日が暮れそうなので、急ぎましょう。」
「うん!」
「おー!」
ルークは右手を空に突き上げて、アリスちゃんの隣にピットリと並ぶ。私はソレが微笑ましくて、少し笑った。
私は先導して歩きながら、精霊に薬草の在り処を教えて貰う。
ーービュービュー
風の導くまま私たちは進んでいく。薬草はすぐに見つかった。運良くか群生地だったので、そのまま採集に移る。確か、注意事項があった。
「根本から取らないように、気を付けて下さいね」
「うん!」
「うん!いーっぱいあるな!」
私は一瞬で三つ葉を風の刃で摘み取った。
「わぁ!」
「うわっ!?」
「すごい、すごーい!アリスのもして!」
「分かりました」
私はアリスへ微笑んで、アリスの辺りの薬草を一瞬で、風の刃で摘み取る。
「んだよ…」
ルークはしかめっ面だった。精霊たちは同じ場所でフルフルと振動しつつも、動きがある。目立ちたがり屋によくある動きだ。どうやら自分でしたかったらしい。私は苦笑いした。
「後で、魔法を教えましょうか?」
「おれも、シュバッ!って使えるのか!?」
しかめっ面から、一転してキラキラした瞳で見つめてくる。…可愛い。やっぱり子供は可愛いなぁ…。ついにニヤケそうになる顔を必死で抑え、微笑に変える。
「風の魔法は使えませんが、水の魔法は上手く使えますよ。」
「風は無理かよ…」
「ユリ様、アリスも、アリスもできる!?」
アリスは右手をピンと上げながら、ぴょんぴょんと跳ねる。…かわいい。
「アリスは、火の魔法が上手く使えますよ。」
「やったー!」
「おれも、そっちが良い」
「火にも少し適正が有りますから、アリスちゃんと一緒に練習しますか?」
「やる!」
「アリスも水の魔法使いたい!」
「分かりました。水も練習しましょう。」
「やったー!」
「いえーい!」
ルークはアリスとハイタッチをしようとてアリスが気が付かず逸れるが、2回目でハイタッチが出来ていた。
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