魔導具 3
「それに抵抗出来る物は?」
今、精神系は規制が厳しいと言ったばかりなのに、買うんだ。コレクターか、それとも何か事情が…?マフイアの仲間だったりして…?
鋭い赤眼は見れば見るほど、それっぽい気がしてきた。でも、精霊たちに悪意はなさそう。悪い事を考えている人には、それ相応の精霊が付く。ただ単に、顔面がワイルド過ぎるだけか。
「あるよ。買うかい?」
「ああ」
「ユリウスくんは、マントの試着をしてて大丈夫だよ」
「分かりました」
私はカウンターに置かれているマントを着る。マントは艶のある表面で白く、胸の辺りに赤く丸いブローチのようなボタンが付いている。丈は腰上ほど。
「……容姿の端正さが全く気にならないな。いや、それどころが気配も気薄だ。」
「精霊が近くに居ないからかな?」
「だろうな。」
ジルさんは、手で顎を触りながら答えた。癖だろうか。
奥から、ガッツさんが出て来た。
「ご注文の品だよ。」
「サンキュ」
ジルさんは、ガッツさんの手から青色のペンダントを受け取り、首に掛けて黒いの服の内側へ隠した。
「お代は、精霊阻害のペンダントが32万七千ゴール、魅了阻害のペンダントが、25万九千ゴール、認識阻害のローブが23万6千ゴールだよ。〆て82万2千ゴールだね。」
「負けてくれないのか?」
「さっき負けたよね?それに、余裕で払えるよね?」
「わーったよ。」
そう言って、ジルさんはポケットから財布を出すとと、白金貨1枚を指で弾く。
「分かってくれて、嬉しいよ。」
ガッツさんは、慣れた手付きでキャッチした。
ちょっと待って……白金貨!?82万2千ゴール……っ!?け、桁が可笑しいでしょ!?どんだけ、金持ちなんだ!?やっぱりマフィアなんじゃ……?
「自首しないんですか…?」
「…はあっ!?オレは犯罪者じゃないぞ!?」
「じゃあ、その金は何処から出てきたんですか…?」
「自分で稼いだに決まってるだろ!?」
「えぇ……」
「チッ、ほら見ろ。」
ジルさんは不機嫌そうに、胸ポケットからカードを取り出し、私へ見せた。
カードには、銀色の星が2つ。2級の冒険者を表している。
「…冒険者って、そんなに稼げるんですか?」
「これだから…田か…ゴホン、2級の冒険者なら、下級貴族並に稼げる。」
「へぇ〜…」
貴族、と言われてもピンと来ない。まぁ、恐らく凄いのだろう。
「そうだよ、ジル坊はこう見えても凄いんだ。それなのに値切ってくるし、ガサツだけどね。」
「そうなんですね!」
私は信じた。だって、ガッツさんの精霊は、とても純粋そうな精霊ばかりだからだ。
「最後は、よけぇーだ。」
ジルさんは不満そうな声だった。
「でも、何で買ってくれたんですか?」
「オレが助けなければ、普通に襲われてたぞ?」
反論は出来なかった。全員が全員眼をギラギラとさせていて、妙な雰囲気だったからだ。
「ガッツさんも、そう思いますか?」
「…そうですね。実は、ワタシも少し危なかったので。」
「……」
私は言葉が出なかった。いやでも、私の精霊による危機察知は有能だし、いい人なのは間違いない。
「っあ、今は全くないですよ?」
「はい。ずっと着きますね!…ジルさん、このお金は、絶対いつか何らかの形でお返しします!」
具体的には、この国に何らかの貢献をしたいと思う。私の力でなら、色々な事が出来る筈だ。
「気するな。さっきも言ったように、借りが出来たからな。」
「…借り?さっきも言ってましたけど、どんな借りなんですか?」
「お前には、関係ねぇーよ。」
「お前じゃなくて、ユリウスです。ユリでいいですよ?」
「へいへい。ユリ、ユリ。オレはもう帰るから、ユリも帰れ。」
そう言って、ジルさんは踵を返す。
「あの!」
「なんだよ」
ジルさんは立ち止まり、首だけ振り返る。
「ジルさん。助けてくれて、ありがとうございました!」
「おう」
ジルさんは少し笑った。ジルさんは扉を何度か揺らして、店から出て行った。
ーチリ!チリンチリン!
「乱暴だなぁ…」
ガッツさんは呟く。
どうやら、ジルさんと一緒に入店した時に、扉の鈴が勢いで、繋がっている横棒と絡まり、音が出なく成っていたようだ。
「でも、良い人です。」
「そうだね。」
「もう、いいのかい?」
嗄れた声が聞こえる。
「マージェさん、お待たせして済みません。」
「なぁーに、長い付き合いだからのぅ。」
「ありがとうございます。」
私も店から退出した。
ーチリンチリン
軽やかに鈴の音が響いた。
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