魔導具店 1
……これ、四葉のクローバーだ。そういえば、服の中に儀式の為として沢山入れられたような……?
私は簡素な貫頭衣に腕を突っ込んで、クローバーを出す、全部で47枚だったはず…。
クソッ…40枚しか出てこない。ってか、所々欠けたり、燃えたりで、無事なのはその内の3枚だけだ。残りの7枚は恐らく背中の後ろに周っているだろう。
精霊にお願いしよう。私の服からクローバーを取って欲しい。
早速、私の周りに風が起きて、掌に6枚のクローバーが落ちてくる。
「ひっ!?」
思わず片手を耳に手を当てる。どうやら髪から、耳を掠って最後の1枚が出てきたらしい。
エルフの耳は敏感だ。もし摘まれでもしたら…………意外な弱点を発見してしまった。
チラリと受付嬢たちを見遣ると、守護精霊が興奮したように宙を舞っていた。見ての通りご機嫌な時の様子だ。
ただ、先程の受付嬢だけは、精霊の動きが少し鈍く、私から視線を逸らしていた。
…見てないのか?まぁ、気にしても仕方ない。今後は気を付けよう。
さてと、再び受付嬢の所へ…と思っていたけど、その前に周囲の視線を何とかしたい。受付嬢たちの眼はギンギンで、冒険者たちは男女共に、やっぱりこちらを凝視していて、妙な雰囲気になっている。もはや、襲い掛かって来そうな雰囲気だ。
ーキィイイ…
冒険者ギルドの扉が軋む音を立てて開いた。
「……はっ?何だよコレ」
入って来たローブを来た美形の男が眉を顰める。
「……来い。」
美形の男は私に近づいて腕を掴み、私を冒険者ギルドから連れ出した。彼の精霊は、主に火属性の子たちだ。火属性の子は情熱的な人が多く、エルフには少ないタイプだ。
ただ、彼の精霊たちがビュンビュンと跳ね周り、楽しそうな事から、恐らく彼に危険性はないだろう。悪意を持つ存在ならば、精霊は私の方を見ると逃げるように、囁くからだ。
もしくは、そもそも近づけないようにする。……長老たちは、精霊と仲がよかったから、僕と長老たちの何方を優先するか、判断出来なかったのだろう。でも、人間なら、違う…………と思うけど、実際の所は分からない。
暫く歩いていると、1軒の恐らく魔導具店に、美形の男は私を連れて入店した。
「ガッツ、認識阻害の魔導具は売っているか?」
「ジオ坊か、認識阻害なら……おお!?さっきぶりじゃないか。…そういえば自己紹介がまだだったな。ワタシはこの魔導具マニアの店主の、ガッツだ。」
それは、先程門前にいたおじさんだった。
「ユリウスです。」
「知り合いか?尚さら丁度良い、コイツに魔導具を買いたいんだが。」
「あの、ちょっと待って下さい。ボクたち初対面ですよね?」
「初対面だが、借りができた。」
「…借り?」
「守護精霊が多い程、魅力は増す。そうだろう?」
「……そうなんですか?」
「っ自分の事なにの分からないのか?」
怪訝な表情で聞かれた。
「何分、今日里から出てきたモノなので、人間の常識はさっぱりです。」
「田舎者に聞いたオレが馬鹿だった。店主、認識阻害の次いでに精霊阻害を試させてくれ。もちろん、無料でな。」
田舎者って……まぁ、その通りだから、反論は出来ない。
「…はぁ〜。全く、図々しいなぁ……まぁ良いよ。今後とも贔屓にしてくれよ?」
「流石ガッツさん。よっ、太っ腹!」
「ジル坊が言うと、そのままの意味に聞こえるから、止めてくれ」
「それは、失礼致しました。」
ジル坊?は妙に丁寧に謝った。なぜか皮肉にしか聞こえない。
「敬語も止めてくれ。」
「へいへい。客に対して注文が多すぎないか?」
「はいはい。客の店主へ注文が多すぎないかい?」
ガッツさんは、ジル坊?の言葉を、真似した。
「っ早く出してくれよ。後ろの客が待ってる。」
そう言いながら、ジル坊は片手を親指だけ突き出した、所謂グッドのサインを、肘を曲げて後ろへ手を遣る。
そこには、店主と話したそうにしている、腰の曲がったローブを被った鼻の大きな醜い老婆が立っていた。
白雪姫に出てくる、変装した女王の様な迫力が有った。全く気付かなかった。
「マージェさん、少しお待ちください。」
「はいよ。」
マージェと呼ばれた老婆は、嗄れた声で返事をすると、少し離れた位置で小さなりんごの様な魔導具を手に取り眺めだした。失礼だけど、白雪姫の1シーンにか思えない。
「じゃ、取りに行ってくるから、大人しく待って居てね」
そう言って、ガッツさんは、店の奥へ入っていった。
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