脱出
暫く走ってたが、全く息切れもせず、車で言えば100キロくらい出ている筈なのに、森の木々へ衝突しなかった。いや、違う。
森の木々が私を避けているのだ。これはハイエルフが特に精霊と親和性が高くいため、木や土の精霊が気を使っているのだろう。
だが、今までは何となくそうだろう程度だったのに、今は私の目前に、ほぼ一本道が出来ている有様だ。後ろを見ると、ズズーと森の木々は、有るべき場所へ戻っていた。
高速で変わる景色を楽しみながら、1時間と少しで、ようやく森を抜けた。
後は、あの大きな川を目印にして行けば良いだろう。
私は、森から脱出できた事に安堵した。流石に、あの速度で走ると目立ち過ぎるので、歩いていこう。
暫くすると、門前へ到着した。そこは賑わいを見せており、沢山の行商人や旅人、冒険者と思われる人々が並んでいて、テンションが上がる。
ただ、僕…じゃなくて、私?のようなハイエルフはもちろん、エルフも居なかった。彼らと同じように、私も列に並ぶ。
普通に並んだ筈なのに、何故かジロジロと見られている。
…何でだろう?エルフが珍しいのかな?
それにしても、無遠慮に見過ぎじゃないかなぁ…?僕の前にいた行商人のおじさんも、僕の方を目を見開いて凝視しているし。
……そんなに僕の顔が変ってこと?エルフに居ても、可笑しくない様な顔だった筈だけど。
「おじさん、前進んでますよ」
おじさんは、私の方をずっと凝視していた為に、前の人が進む様を見ていなかった。まぁ…その前の人も、私の方を凝視していて、途中で進んだ事に気がついたようだったけど。
「……あ、あぁ。とっ、済まなかったね。」
おじさんは、今やっと夢から覚めたように、目を瞬かせて、謝罪する。
「そんなにエルフが珍しいんですか?」
「…まぁ、それも有るが。容姿がなぁ…」
「…人間からすると、そんなに不細工ですか?」
「いやいや、逆だ!?美しすぎて…」
「……美しければ、凝視するのが習わしなんですか?」
「ない、が……まぁ勘弁してやってくれ。」
おじさんは、その場にいた人々の代弁をしているらしい。親切な人なのかな?
「…分かりました」
「そうだ。詫びの印に、うちの商品を安く売ろう。」
「何が売っているんですか?」
おじさんは、ニヤリと笑って答えた。
「魔導具だ」
「要りません」
私は即答した。他の人間は、如何か知らないけど、私には魔法がある。特に必要ない。
「そうだろう、そうだろう、要りませ……え゛?こ、高価な魔導具が値下げされることなんて、滅多にないんだぞっ!?」
「要りません」
私は、また即答した。
「わ、分かった…ならば、半額で」
「…えぇー」
私は渋い顔をする。そもそも要らないのだから、いくら安くても買う必要はない。
「…せ、せめて見るだけでも…!」
「嫌です」
「…そうだ。この街に来た目的は何だ?観光目的なら、色々と教えられるが。」
「働ける所と宿屋が欲しくて、できますか?」
「働ける所は…冒険者ギルドでいいか?」
「はい」
「宿屋は…安い方が良いかい?」
「そうですね」
「なら鳩のとまり木亭だな。部屋は少しボロいが、飯は美味い。地図を書こう。」
おじさんは、バックなら鞄とペンを取り出し、スラスラと地図を書き込み、私へ渡した。
「ありがとうございます、おじさん」
私がニッコリと微笑むと、おじさんは一瞬、硬直した。
「あ、あぁ…」
その後も、他愛のない世間話をしていると、おじさんの番になった。
「次、前へ!」
「では、お先に」
「身分証明書を持っているか?」
「どうぞ」
おじさんが、門番の隣にある腰くらいの高さの台座の上にカードを置くと、ピピッ!と、聞き慣れた電子音が聞こえた。駅の改札の電子音とよく似ている、いや、そのモノに聞こえた。
「確認した。行って良し!次、前へ!」
「身分証明書を持っているか?」
「持っていません」
「この街へ来た目的は?」
「観光です」
「通行料は、銀貨1枚だ。」
「はい」
私は銀貨1枚を差し出す。このお金は、おじさんが、後で返してくれれば良い、と言って私に渡してきたものだ。
凝視したお詫びだそうだが、情報の借りもあるので、倍にして返そうと思う。
日本円に無理やり直してみると、お金の単位はこんな感じだ。
鉄貨1枚ー10円
銅貨1枚ー100円
銀貨1枚ー1000円
金貨1枚ー1万円
大金貨1枚ー10万円
白金貨1枚ー100万円
である。とても分かりやすい、ただ、白金貨なんて貴族でもなければ、早々使わないだろう。
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