朝食
「ユリウス様、起きていらっしゃいますか?」
「はい、起きていますよ。」
「開けても宜しいですか?」
ボクは鏡に布をかぶせた。
「どうぞ」
ーガチャ
オリビアさんが入ってきた。今は私服のようで、緑色のシンプルなワンピースを来ている。オリビアさんの上品は雰囲気とよく合っていた。
「朝食が出来ています。一緒に食べませんか?」
オリビアさんは、微笑みながら告げた。
「…え、良いんですか!?」
「もちろんです。」
「ありがとうございます。」
ボクはオリビアさんと共に向い、1番奥の部屋の前まできた。ギルドマスターのグレゴリオさんの部屋だろう。一瞬、体が強張る。
ーガチャ
「オリビア…」
グレゴリオさんは、魚の骨が喉に引っ掛かっているような顔をする。
「お爺ちゃん」
「わかって居るがのぅ…」
「グ…」
オリビアさんの言葉を遮って、グレゴリオさんが慌てたように言った。
「わかっておる!……すまな かった…坊主。」
グレゴリオさんは、とても苦々しい顔でボクに告げた。グレゴリオさんの守護精霊からは、プライド、不安、諦め、を感じた。
……不安?あぁ、そうか。グレゴリオさんはオリビアさんに対して、とても過保護なんだ。だから、よく知らないボクが近づいて来て、警戒している。
「大丈夫ですよ。」
ボクは極力優しく微笑んだ。グレゴリオさんの不安を少しでも取り除けるように、と。
「…ふんっ。謝りはするが、ワシは認めておらんからなっ!」
グレゴリオさんは一瞬、意表を突かれたような惚けた顔をしたが、直ぐに悪態を付いて、ボクは苦笑いした。
「お爺ちゃん?」
オリビアさんの声が低くなる。
「大丈夫ですよ、オリビアさん。」
「はぁ……お爺ちゃんもユリウス様の寛大さを見習ってよ。」
「ワシはいつも寛大だがの。」
「それならお弁当も食べてよ。毎回作るのは面倒なの。」
「嫌だ。オリビアが作った料理が1番美味しいのじゃ。」
「……食事にしましょう」
オリビアさんは、我儘な子供を見るように、でも守護精霊からは、嬉さも感じられた。
オリビアさんは、己の頬に片手を当てて、フゥーと静かな溜息を付き、朝食の開始を告げた。
主食は、拳一つ分くらいの丸い白パンが木製のバスケットに入っていた。主菜は、香草の効いていそうなソーセージにキャベツの千切りとひよこ豆のサラダが置いてある。
副菜は塩味の効いた豚肉の入った野菜スープ、そしてデザートに葡萄があった。
すべて美味しくて驚いた。中世ヨーロッパというくらいなので、味は期待していなかったが、美味しかった。
香草の効いたソーセージも、余り好きではない筈なのに、パクッと食べてしまった。
デザートの葡萄は、一口食べただけで果汁が口の中にはじけた。甘すぎず、酸っぱ過ぎず、ちょうど良い甘さだった。
ボクは、食事にえもいえもいわれぬ幸福感を感じた。
でも、違和感が3つあった。
1つめ、食前に空腹感を覚えなかった。 昨日はこの世界に来たときから、全く食事を口にしていなかったのに、空腹感を感じないことは、些か変だ。
エルフの食生活は、1日2食だ。食事前はいつもお腹が空いていたから、エルフに成ったせい、と言うの可笑しい。
2つめ、私はパンが少し苦手だ。いや、苦手と言うと語弊がある。殆ど食べないのだ。食べると口の中がちょっと痒くなる。大した事のないアレルギーなので、普段は食べない。
そして、食べるとアレルギー反応はほぼ確実に起きる。それなのに、全くその感覚が起こらなかった。
3つめ、美味しすぎる。これは、料理の腕が良い限度を越している…と思う。食材すべてが最高級品と言われても納得してしまう程だ。異世界特有の事なのか?
「気に入って頂けて嬉しいです。」
オリビアは、嬉しそうに微笑んだ。
「今まで食べた中で、1番美味しい朝食でした」
「オリビアの料理が上手いのは当然じゃ」
フンスと鼻を鳴らすグレゴリオさんが、自慢気に答えた。
「もう、お爺ちゃんったら」
オリビアさんは、恥しそうに上品に口元へ人差し指を当てて微笑する。
ボクは、オリビアさんに丁寧に、この恩はいつか絶対に返します、と礼をした後、昨日の報酬を受け取った。
「合計、2200ゴールです。」
「ありがとうございます」
以外と少ない金額だ。もっと依頼を受けないと。そう思いつつ、本来の目的を忘れていた事を思い出す。
そもそも、ボクは何をすればいいのだろうか?
女神は、
「…何でもいいわ。人間の住める地域を増やす、発展を手伝う、人間を幸福にする、戦争を止める。はぁ…説明めんど……ともかく人間が絶滅しなければ、いいから。」
と言っていた。
兎も角、依頼は受けるとして、先ず服と靴がいる。ボクの格好は、薄茶色の貫頭衣と、緑色の宝石が埋め込めれたペンダント、そして白地に赤色のブローチ風ボタンの付いた腰上丈のマント。そして裸足。凄く微妙な格好だろう。
「この辺りに安く服と靴を揃えられる店は有りますか?」
「そうですね……この辺りですよ」