夢
「…あれ?開けっ放しでしたっけ…?」
「中に誰か居るようですね。」
「……もしかして。少し離れていてくれますか?」
私は、扉の前から離れる。オリビアさんは体を横に向け、扉に隠れるようにして、鍵を開けると、一気に扉を開いた。
「お爺ちゃんパーーンチッ!!…誰も居らんだとっ!?」
白髪のお爺さんは、お爺さんという言葉よりも随分と元気そうだ。青の柔道着?に黒い紐、日に焼けた肌、鍛えられた筋肉、ピント伸びた姿勢、突き出した拳も、掛け声は変だが、とても堂に入っている。
守護精霊は…土属性が多い。身内に執着しやすいタイプだ。
「お爺ちゃん…」
オリビアさんの守護精霊は、飽きれ半分、怒り半分を表している。
「おお、愛しのオリビア!そっちのチンチクリンが、今日泊まる奴か。ワシが相手にしてやろう!」
チンチクリンって…まぁ、身長はオリビアさんよりも小さいけど、成長期だからね?それに、オリビアさんがスラリとして背が高いのも有ると思う。だから、けしてチンチクリンでは、ない筈だ。
「お爺ちゃん…やめてっ」
オリビアさんの精霊がワナワナと震える。凄く怒っている。オリビアさんの主な守護精霊も、土属性だ。
「オリビア、お爺ちゃんはオリビアを思ってだな。」
「お爺ちゃん、いいえ、グレゴリオさん、辞めてください。ギルドマスターですよね?冒険者へ攻撃しないで下さい。」
「な、なぜ、お爺ちゃんと、呼んでくれんのじゃ…?」
「グレゴリオさん、いいですね?攻撃しないで下さい。とても、みっともないです。」
土属性は、身内へ執着する分、愛するが故の鞭も強いらしい。
「…みっともない……じゃと!?」
グレゴリオさんは、この世の終わりのような表情を浮べて、一歩後ずさる。
「う、嘘じゃよな?」
「本当です」
「ガーーン…」
グレゴリオさんは膝を付いて、倒れ込み四つん這いとなる。精霊たちもズーんと、下へ下へと沈んで行き、絶望感を顕にしている。
「はぁ……邪魔なので退いてください。」
グレゴリオさんは、10歳くらい老けた様子で、フラフラと歩いて行く。
「後で行くから。」
「わかったのじゃよ!愛しのオリビア!」
グレゴリオさんは、一瞬で復活した。そして、確かな足取りで一番奥の部屋に入った。恐らく自室だろう。どうやら私の使う部屋の隣らしい。
「っもう。…済みません祖父が。何時もああ、なんです。」
オリビアさんは、可愛らしくプリプリと怒る。
「それだけ、オリビアさんが大切なんですね。」
「…ええ。恥ずかしくらいですが。食事とお風呂は大丈夫ですか?」
「大丈夫です…っふぁ…」
今日はもう、一度休みたい。食欲よりも睡眠欲の方が限界だ。自覚すると、より一層眠気が襲ってきて、大きく欠伸がでた。
「それでは、おやすみなさい。」
オリビアさんは、微笑んだ。
「おやすみなさい」
私もオリビアさんへ微笑み返した。
「ハイエルフのお前は、神へ捧げる為に産まれてきたんだ」
エルフの長老は、毎度の言葉を繰り返す。ボクの名前は、ない。ただ、ハイエルフ、生贄、とだけ呼ばれてきた。
ボクの父さんと母さんは精霊にとっても愛されたエルフだった。
「これは、名誉なことなのよ。」
母さんは、言っていた。
「そうだぞ、喜びなさい。」
父さんも、言っていた。
でも、そんなに名誉な事なら、変わって欲しかった。他の姉や兄たちと一緒に、ボクにも本当の家族のように接して欲しかった。
父さんと母さんはいつもボクを叱ってくれなかった。でも、兄や姉のことは叱ってていた。始めは、ボクのこのが好きだから、叱らないのかのと思った。
でも、聞いてしまったんだ。
「母さん、どうしてアイツは叱らない?」
「あんな穢耳、教育する必要はないわ。」
それを聞いた後は、イタズラを沢山したけど、叱ってくれなかった。寂しくて泣いていたボクを慰めてくれたのは、いつも精霊たちだった。
ボクは精霊たちが好きだ。いつもキラキラしてて、輝いている。雨上がりの虹よりも、雨の後の葉っぱの露よりも、ずっとずっと綺麗だ。
一緒におしゃべりは出来ないけど、寂しい時は寄り添って、楽しい時は一緒に笑ってくれた。
精霊たちさえ居れば良い、そう思っていた。
でも、彼らとの別れも案外早かった。ボクが神様へ捧げられる日が到来した。
エルフの信仰するバータラノ神は、ハイエルフを捧げることで、その後1000年間の平和を約束する。
だから、ボクを神様へ捧げる。捧げるには、洞窟の奥深くの石の台座に載せられ、儀式をする。そして守護精霊が抵抗できない眠っている間に殺し、神輿に乗せて森に捨てるらしかった。森に捨てるのは、神様に御供えすると言う感覚だった。実際は森の魔物が食べるだろう。
そして、ボクは長老たちに殺された。森に捨てられていた所を、私が憑依して、転生したのだ。
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