作戦会議
告白をした後、すぐにレナード武具店に向かい、店主に申し訳なく返品を希望したものの、俺が店を去った後にすぐ売れてしまったらしい。店主に買った客の特徴や風貌を聞いて街中を探し、聞き込みをしたものの見つからずじまいだった。
この街にはもういないのでは、と街の正門の近くにある馬車の乗合場を当たってみると、その特徴に似た冒険者が王都行の馬車に乗っていったという情報を得た。
しかし、王都にはある資格がないと入れないことを知り、既に日も暮れていたため、宿屋の俺の部屋で作戦会議をすることとなった。
だがその前に―――
「いくら記憶喪失だからといって! 異世界に来て、まず最初に持ってた武器を売るおバカさんがどこにいますかぁあああ!!」
「すいません・・・」
部屋に着くなり女神さまに床に正座させられ、説教タイムに突入。
さっきまでとは打って変わって、今度は俺が謝罪する側になってしまった。
だけど言われっぱなしは癪に障る。
「こっちも言わせてもらいますけどね! サレン様がやらかしたせいで、俺は記憶喪失の状態で異世界に投げ出されたんですよ! 初めから記憶があれば神器だって売らないで済んだはずです!」
「うぐっ、そ、それは・・・!」
俺の言葉に女神さまは言いよどむ。
少し意地悪にはなるが、やらかしたという部分をつけば、例えどんな状況でも女神様の方が弱い。。
「・・・失礼しました。それでは、作戦会議に入りましょうか」
サレン様もこれ以上の言い合いは自分に分が悪いと判断したのか、ごほんと咳払いをして話題を変えた。
ツッコまれないかと一瞬俺の顔をちらっと見てきたので、「続けてください」と手でジェスチャーを送る。
彼女は俺の返しに表情をほっとさせ、話を続ける。
「我々の目標は、神器の回収。そのためには手掛かりのある王都に行かなくてはなりませんが・・・今の私たちでは中に入れません」
「馬車乗り場のおじさんが言っていた、資格ですね」
この国では、自国の民でも王都には気軽に出入りができないのだ。
貴族や領主、それから騎士団に所属する兵士以外の者は、ある資格を持っていないと中に入ることは許されず、王都の門を拝む羽目になる。
その資格というのは、ギルドに加入しており、なおかつギルド長による都入りの承認を得た者。
「ここで三つのギルドが出てくるわけです」
突然、サレン先生による講義が始まった。
この世界には商業ギルド、生産者ギルド、冒険者ギルドの三つのギルドがあるようだ。それぞれ役割があり、物流や商人を行う人が所属しているのが商業ギルド、鍛冶師や薬剤師、その他に錬金術師等の職業の人が所属するのが生産者ギルド、そして魔物の討伐や傭兵稼業、その他に素材採取や未開の地を探検したりする冒険者は、冒険者ギルドに所属している。
資格にあるギルド長による都入りの承認を得た者、それを得るには、ある程度の功績や地位がないとだめだ。
その基準というのは商業ギルドや生産者ギルドでは明確ではないが、冒険者ギルドは冒険者ランクがBランク以上の者とはっきりしている。
「そう! なので私たちのまずやるべきことは、冒険者ギルドに加入してランクBまで上げることです!」
「サレン様はともかく、神器なしの俺がそんな簡単にBランクまでいけるんですかね?」
前の世界の普段着っぽい格好の俺はともかく、サレン様はきっちりと装備が揃っている。なんでも普段から槍術を教わっている師匠の神様から、強力な防具と槍の神器を貰ってきたようだ。
その防具というのが、防御力の薄そうなピッチピチのボディスーツなのだが、戦神による強力な加護が付いているため、耐久力も逸品。並大抵の攻撃じゃ傷つくどころか痛みも感じないらしい。更に自己修復機能や呪い等の状態異常の無効など、とてつもない機能がてんこ盛りのため、まさに反則級な代物である。
「それに関しては問題ございません。九重さんには、神器がなくとも女神の加護が付いているので、私と同等の力を持っていますよ。明日の冒険者登録の際にステータスを見れば、一目瞭然です。」
にわかには信じがたいが、サレン様が自信ありげに豪語するから信じてみるか。
「じゃあ明日の予定は、まず九重さんの武器と防具を調達。その後に冒険者ギルドで冒険者登録を済まして、戦いの訓練がてらにクエストをこなしていきましょう!」
「わかりました。それでは明日の朝、宿の食堂で集合することにしましょう」
作戦会議にて当面の方針と、翌日の予定がまとまったので本日は解散。
おやすみなさいと挨拶をして、サレン様が部屋を出て行くのを見送った。
一息つくと、ベッドの上に大の字に寝転がる。
異世界転生をして初日だが、なかなか内容の濃い一日であった。
記憶喪失の原因がすぐにわかったのはいいものの、まさか女神様のミスとはなぁ・・・。
あんな礼儀正しくて知的な感じがするのに、実はおっちょこちょいだったりするんだろうか?
なにはともあれ、当面の方針が決まったことだし明日も早い。
風呂に入ってさっさと寝るとしよう。
クローゼットから備え付けのバスタオルと寝間着を取り出して支度をしていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
女神様か? なんか言い忘れた事でもあったのかな、と扉を開けると予想的中で、サレン様が立っていた。
「あの、すいません・・・実はお金が無くてですね、宿代を貸していただきたいのですが・・・」
指を合わせ、もじもじさせながら気恥ずかしそうに彼女は言った。
やっぱり神器を売ってよかったのでは?
次回も説明回となります。