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やらかし女神と忘却の勇者  作者: 鹿苑寺ゲン
序章 勇者、異世界へと転生する
2/19

異世界へ出発

 拝啓、父さん、母さん、サトシ(弟)、ココア(愛犬:犬種はミニチュアダックスフンド)・・・。お元気でしょうか? もしかしたらそちらでは既にご存じかもしれませんが、俺は志半ばで死んでしまったようです。どうか悲しまないでください・・・あとなんか天国的なところで美人な女神様に会いました。生前、女の子との出会いはあったものの、すべて友達どまりで終わってしまった私に対する最後のチャンスなのでしょうか?


 「駅で電車を待っているあなたの近くで酔っ払いのおじさんとサラリーマンが口論からもみ合いに発展し、突き飛ばされたおじさんにぶつかって、その勢いでホームから転落。そこに運悪く電車が来てしまいバリバリバチグチャグチャグチャ・・・!!」

 「やめてぇ! 俺の体がミンチになる音まで再現しなくていいですから!!」

 「おっと・・・失礼しました。お茶の最中にする話ではありませんでしたね」


 庭園の奥にある東屋に案内された俺は、女神ことサレン様が入れてくれた紅茶をすすりながら、自分がどうやって死んだのかを聞かせてもらった。

 うーむ。死因を聞いたもののホームから転落する部分の記憶はまったくない・・・というより自覚がないんだよなぁ。


 確かあの時は朝から閉館時間までずっと本を読みながら論文に勤しんでいたわけで、晩飯も食べてなかったから相当疲れていたし、イヤホンを付けて音楽を聴いていたから、後ろで酔っ払いとサラリーマンが喧嘩してたなんて気づかなかった。

 それに理不尽な課題を出す教授へのイライラでストレスゲージがマックスに到達していたので、大好きなアニソンを爆音で聞いて解消していた。それゆえに怒声もまったく聞こえていなかったのである。


 享年二十一歳。あまりにも唐突に訪れた自分の死と、その理不尽な死因は到底受け入れられるものはない。第一たどり着いたのが、三途の川ではなくきれいな庭園なわけだし。実は夢だったりするのではないか?


 「・・・ほんとに俺は死んだのですか?」

 改めて問う俺に対し、サレン様は憂い気な表情で答える。


 「疑うのもしかたありませんが事実です。色々とつらいお気持ちは察しますが、まずは、どうか自身の死を受け入れてください。話の続きはその後にしましょう」

 「いやいやいや待ってくださいよ! 第一、死んだら三途の川を渡って天国か地獄にいくんでしょ? 目を覚ましたらこんな貴族の庭みたいなとこってありえないでしょ!?」

 「・・・しかたありませんね。ご自身のミンチになった死体をご覧になります?」

 「あっ・・・すいません! 信じます! 理解します! 自分の死を受け入れます!」


 サレン様が、どこからかタブレット端末のような物を取り出し操作し始めたので、俺は慌てて叫ぶ。

 自分のスプラッター死体なんて見たくないよ。グロい物は苦手だし気分が悪くなる。


 「・・・少し荒療治になってしまいましたが、落ち着かれたようですね。それでは話の続きをしましょうか」

 空になった俺のカップにお代わりの紅茶を注ぐと、女神さまはニコッとした表情をして、説明を始める。


 「まずはこの場所の説明をしましょう。ここは天国と地獄の間にある『境界』というところで、神が死者との交流をする際に使う場所です。主に九重さんのように若くして死んでしまった清らかな魂を持った者—―端的にいうと、生前に極悪非道なことをしていない人を招致して、三つの選択肢を与えます」


 よく聞いてくださいね、とサレン様が前置きを述べて続ける。


 「天国に行くか、今までの存在を捨て、新たな生命となって地球に戻るか、生前の肉体と記憶を維持した状態で、滅びの危機に瀕した別の世界を救いに行くか、この三つの選択肢から死者が望んだことを実行します」


 ほうほう、つまり女神さまが言うにはまず俺が地獄に行くことはないようだ。

 そりゃあ生前にまったく悪いことをしていないとは言い切れないものの、世間に迷惑をかけることは一切していない。ましてや人を殺したいほど憎んだことはいくらでもあったが、殺めたことなんて一度もない。

 至極全うに日常を生きてれば、死後の世界では天国行の条件として、既定のラインに到達できるようだ。


 「続いて三つの選択肢について説明しますね。まず一つ目の『天国に行く』ですが、こちらは争いもなく、いつまでも平和でのほほーんとした世界に永住するプランです」

 「なんか生前に思ってた通りの天国って感じですね。それにしてみようかなー」

 「えーこちら解説すると、人間としての欲という概念が消えるため、娯楽のない世界で永遠に過ごすという内容となっています」

 「すいません、次のプランの説明をお願いします」


 詳細情報を聞いて、即座に次へと促す。

 欲深い人間にとってはそんなの地獄に等しいじゃないか! でも、確かに欲がなければ、争いなんて起きることもない。ある意味理にかなっているが・・・が、俺のイメージにあった天国が崩壊した。


 女神様がですよねーという表情を返すと、カンペをめくって次の説明に入ろうとする。

 やはり人気がなかったんだな・・・。他の死者たちも天国の詳細を聞いて、俺と同じ気持ちになったに違いない。


 「二つ目の『今までの存在を捨て、新たな生命となって地球に戻る』ですが、これは例えると、九重遊星という存在をこの場で消して、新たな生命となって地球での生活をやり直すプランです」

 「・・・そのまま解説お願いします」


 なんか嫌な予感がしたので、続けてもらう。


 「九条さんは境界に招かれているので、来世も同じ人間になれる確率は高いですが、もしかしたらそれ以外・・・動物、虫、植物に生まれ変わる可能性もあります」

 「それもなしでお願いします」


 さらに話を聞くと、どうやら人間の希望者が多いために抽選形式で決めているんだとか。

 しかも植物を当ててしまうと、次に死後の世界に行けるのは、下手したら何百年もかかるらしい。  

 今まで樹齢何百年の木を見てすげーと思っていたが、この話を聞いてしまうと気の毒にしか思えない。


 「最後のプランですが、魔王が再臨して、滅びの危機に瀕した世界を異世界から来た勇者として救う。端的にいうと剣と魔法のファンタジーな異世界に転生してもらいます。し・か・も・生前の肉体と記憶のまま、転生先での生活に困らないよう、むこうの言語や文字の読み書き、身体能力の強化、魔法の使用を可能、さらに神器という強力な武器を一つプレゼントと、神様の手厚いサポート付き! どうでしょう?」


 女神さまは得意げな顔をして、俺に問いかける。

 ほうほう、これはなかなか興味深いプランではありませんか。

 ゲームのような世界に行ってみたいと願ったことはあったが、まさか死後にかなうことになるとは思いもしない。

 魔王という存在がどれほど脅威なのかは気になるが、それに対抗できる力もくれるっぽいし、このプランなら承諾してもいいかも。


 「補足説明ですが、もし転生先で死んでしまったら現世には戻れません。万能な魔法な力があっても命は一人に一つ。これは神々が制定した世界のルールです。その代わり、世界を救いに来た勇敢なる御霊として、好条件で転生させてもらえます。例えば、何不自由なく暮らせる裕福な家庭とか、偉大なる才能を持って生まれて将来に開花し、歴史に名を残せる存在になれる・・・という感じです」

 「ぜひともそのプランでお願いします!!」


 もはやメリットしかない条件に俺は、迷わず承諾した。

 異世界に転生してもそこで死んで別の存在になっても富、名声、力を得ることができる。


 「かしこまりました。それでは、こちらの書類にサインをお願いします」

 渡された契約書にサインをし、用紙を手渡すと、サレン様は再びタブレットを取り出す。


 「転生先の世界の言葉の識字力、解語力、それから身体能力強化と魔法の使用可能云々は、送り出した後、肉体の再構築と一緒に設定しますので、最後に神器の選定をしましょう。何か希望の武器はありますか?」

 「あ、好きな物を選ぶわけではないんですね」

 「神器は神が選んで渡すというルールなもので・・・ただし、本人の希望する武器の種類は考慮できます。メジャーな物からマニアックな物もあるので、こんなのがいいとか細かく希望を言ってもらえれば、できる限りチョイスしますよ」


 タブレット片手に得意げな顔を向ける女神さまを前に、俺は考えこむ。

 ここはやっぱり王道の剣か・・・それとも槍とか? それとも弓とか銃とかの遠距離系にするか? いやーでも魔法も使ってみたいし魔法の杖とか・・・あ、でも話聞いてる限り杖なしでも魔法使えるみたいだな。うわー悩むなぁ・・・よし、俺は日本人だ。大和魂を持って生まれた男なら、やっぱり憧れを持つ『あれ』にしよう!


 「刀でお願いします」

 やっぱりニッポンの男児たるもの、刀には憧れを持つよね。


 「おおーいいチョイスですね。刀は私も渋くてかっこいいと思いますよ。よーしそれでした ら・・・」


 おもむろにタブレットを操作し始めると、これにしようか、あーこれもいいなぁと、今度は画面を見始めた、サレン様が悩みだす。

 女神さまのチョイスに任せる・・・が、センスのあるかっこいいやつにしてくれよ? 

 やがて数分経っただろうか、これに決めたぁ! と、女神様がタブレットを俺に向ける。

 そこには『星霜刀ムラクモ』と書かれていた。


 「おおおお、名前かっこよ!! さすがです女神様! 美しいだけでなくセンスも冴えていらっしゃいますね!!」

 「いやだなぁ、褒めたってなにも出ないですよぉ。なぁーに女神なんだから当然ですって」


 ほめちぎる俺にサレン様は体をくねくねと曲がらせ、デレデレとした表情をむける。

 うわぁかわいい・・・おっといかん。相手は女神だぞ? 恋しちゃったって人間風情など相手にしてくれるわけない。

 いかんいかん、と首を横に振る俺のことを無視して、女神様はコホン、と咳払いをして続ける。


 「ムラクモは忘れ物防止のため、この場ではなく、転生先の世界でご自身の手元に持った状態で現れますのでお楽しみに! それでは神器の選定も終わったので、あとは異世界に向かうのみ! さあ、奥の建物へと移動しましょう」


 椅子から立ち、先導する彼女の後をついていく。庭園のさらに奥へと進んでいき、こじんまりとした石造りの橋を渡ると、床に魔法陣が書かれている離れに着いた。


 「床に描かれている魔法陣の中央に立ってください」


 どうぞ、と手を促されると、俺は頷いて言われた通りの位置に立つ。

 ここから異世界へと向かうのか! やばい、ゲームのオープニングみたいでテンション上がってくる!


 「それでは、九重遊星さん! 少しの間のお付き合いでしたが、楽しかったですよ。向こうの世界でも、あなたに神の祝福があらんことを」

 「こちらこそ色々とありがとうございました、サレン様! 俺、絶対魔王を打倒して世界を救って見せます!」

 「はい! 私も天界から応援しますので、頑張ってくださいね」


 俺の言葉に、サレン様はとびっきりの笑顔を返してくれた。

 かわいすぎる! 惚れてしまうやろ!

 心の叫びも出そうになるが、慌てて抑える。最後なんだからかっこよく旅立とう。


 「女神サレンの元に命じる! 彼の者を救いの者とし、災厄の地へと送りたまえ!」


 サレン様が魔法陣に手をかざし、詠唱のような言葉を叫ぶと、俺の足元にある魔法陣が青く光り始める。

 すごい、これも魔法の一種なのか? やべーかっこいい!  

 輝く魔法陣に俺は好奇の目を向けてると、足元から何やらバチバチと火花が起き始める。

 派手な演出だなぁーと、そんなことを思いながらふとサレン様の方に顔を向けると―――


 「あれ? あれれ!? なんでエラー起きちゃってるの!? もしかして魔力入れすぎちゃった!?」


 そこには、先ほどまで凛々しく、可憐な女神様・・・ではなく、頭に手を当てながら無茶苦茶に慌てふためく女神様の姿があった。


 ・・・ん? 今、エラーがどうとか言ってなかった? 

 嫌な予感がするなと思った直後、それに答えるかのようにゴゴゴゴゴッ! という地響きのような音と共に周りに電気が舞い始める。


 「え、ちょっ、これ大丈夫なんですか!? 爆発とかしたりしません!?」

 「ししししし心配しないでください! ちょっと魔力の調整間違えちゃっただけですので! お身体だけでも無事に異世界へ転送しますから!!


 女神様はもはやパニック状態だった。もう目がぐるぐると渦巻いちゃってるし。


 「いっ、いったん中止にしましょう! どう見てもこれやばそうな感じがしまっ―――」


 俺の言葉を遮るように足元の魔法陣から青白い閃光が走りだす。そして落雷が落ちたかのような―――とてつもない轟音が響き渡った。


 そこから後のことも前のことも―――俺は覚えていない

いよいよ異世界転生が始まりました!

これにて序章が終わり、次回より第一章となります。

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