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清(きよ)の恋

作者: 沢松 青


 これは、人とあやかしがまだ共生していた頃のお話。


 ****


 今でこそ「妖怪」という存在は、おとぎ話や怪談話に出てくる架空の存在で、おおかた子供たちを怖がらせたり怠け者を戒めたりする為に作られたものだと信じられている。が、しかし、実のところ、彼らは比較的私たちの近くに生きていたのである。それは、夏の夕立の後、空にかかる虹に出くわすよりも珍しくなかった。彼らは当たり前に、そこかしこに存在し、人間たちと協力し合いながら生きていたのである。

 なぜそれが「見えざる存在」「架空の生き物」とされてきたか、それはとある「御触れ」によって妖怪たちの歴史が抹消されてしまったからに他ならない。詳しい話はここでは割愛するが、彼らが生きていた証拠となりうる書物の類はほとんど焼き払われてしまったのである。彼らが忌み嫌われるよう仕向けられた伝承のみを残し、真実は完全に闇へと葬られてしまったのだ。


 だからこそ今、真実を語るときが来た。

 妖怪たちは何を望み、何故消えてしまったのか。そして、本当に存在したのか。今もどこかに存在しているのか。


 それをつまびらかにするにはまず、あの少女の話から始めなくてはならない。

 とある自然豊かな田舎の、どこにでもありそうな小さな村で起きた、切なく悲しい話。この「小さな蝶のはばたき」が、その後「竜巻」となって日本列島を混沌に導くとは、そのとき誰が予測できただろうか。


 まだ、人と妖怪が心を通わせていた時代の、とある物語を始めよう。


 ****

 

 序


 その日の川の水は、いつもより濁っていた。水かさも増していたし、勢いもあった。前日までこの地を襲っていた大嵐のせいだということも十分分かっていたし、河童とて濁流に飲まれたら命がないことも父上や母上、兄者にきつく言われていたから分かっていた。

 でも、空は嵐の後で雲一つない快晴だったし、風も随分と穏やかになっていたのだ。木々の葉が揺れる音も、そこまで騒がしくなかった。だから、私は正直油断していたのだ。

 いや、油断は確かにしていたのだけれど、私がその日、河童族の根城である「河童砦」から、人間たちの集落への玄関口「河童淵」へつながっている水中洞穴へ潜った理由はただ一つ。それは「やっと泳げるようになったから腕試しがしたかった」からである。

 河童の子供は足が立つ前に泳ぐ。それは誰に教わるわけでもなく、人間の赤子が自然とつかまり立ちをして一歩踏み出すのと同じように、勝手にできるようになるのだ。しかし私の場合、なぜかちっとも泳ぐことができず、3歳を過ぎてやっと「河童砦」の滝つぼの真ん中で、静かに浮かぶのに成功した程度だった。両親も兄者もことのほか案じていたけれど、先日5歳の誕生日を迎えた日にやっと流れのある川で泳ぐことに成功したのである。

 やっと掴んだ「泳ぎの勘」を手放したくなかったのだ。これ以上日を空けてしまったらまた泳げなくなってしまう気がした。私はこの地域を治める河童族族長の娘だというのに、泳げないなんてことになったら、みんなに申し訳ないから。そういう焦りも少なからずあったんだ。

 河童の泳ぎでも10分ほどかかる水中洞穴を進んでいくのは割と簡単だった。確かに前夜の嵐のせいで水は濁り視界は悪かったけれど、流れはそう激しくなかったのである。ところが、洞穴を抜けた瞬間……そう、視界不良で洞穴の最終地点が分からなかったのだ……洞穴の中とは比べ物にならないほどの濁流が一気に押し寄せ、私は一気に足を取られバランスを崩してしまったのである。

「っ……あ…!!」

もうそこからはパニックだった。足はもつれ、手は自由がきかず、どちらが前か後ろか分からないくらい、ぐるんぐるん景色が回った。砂粒や小枝、石や木くずなど、様々なものが水中の中で大暴れし、私の体に何度もぶつかってくる。それらを避けたいのに避けられないし、手足の水かきもうまく開けないしで、ついに水中呼吸もできなくなってしまった。

(父上、母上……一人で来るんじゃなかった、私はどうなるの、死んじゃうのかな…河童なのに溺死?そんなの、みんなに怒られる……)

 そんなことを考えながらわずかな意識を手放しかけたまさにそのときだった。

『絶対に助ける!』

声が聞こえた。水中だから、声なんてものは聞こえるはずがないのだ。河童は水中でも意思疎通を交わすことはできるが、それは河童独特の言語で水中でのみ使えるもの。しかし今聞こえたのは地上で交わす、人間たちと同じ言語だ。

(誰……)

そう問い返そうと薄目を開けた瞬間、灰色の濁流の中から白い腕が一本ぬっと姿を現した。その腕は私の、透き通るような薄緑色の腕をしっかりと掴むと、川の流れと逆方向に思いきり引っ張ったのだ。

「っ……!!」

ごうごう、という川水の音がいっそう激しくなり、何が何だか分からないまま腕だけが引っ張られていく。

「もう少しだ!頑張れ!」

今度ははっきりと聞こえた。自分の頭が水面から出たり潜ったりを繰り返しているさなかに聞こえたのだ。男の子の声。その声がする方角を何とかして見ようとすると、みなもの向こうに荒波をかき分けながら泳ぐ人の影が見えた。

(にん、げん…?)

兄者やばあやが教えてくれた、人間という種族の話を思い出す。背格好は私たちと似ているけれど肌が白く透き通ってはおらず、陸で暮らしていると言っていた。泳ぎは河童には及ばぬものの、得意な者もいるという。

 やっとのことで川岸に上がると、溺れていた私の腕を引いて助けてくれたのは、人間の少年だということが分かった。全身びしょ濡れだったけれど、髪から滴り落ちる水も気にすることなく不安げにこちらを覗き込んできた。

「俺の言ってる言葉、分かるか?」

「………」

私が小さく頷いて返事をすると、少年の不安げな顔がぱぁっと明るくなった。

「ああ!俺の言葉、通じるかぁ!よかった……っそうだ、お前、ケガしてないか?」

「っ……」

少年が急に私の手を取ったので、急に怖さが出てしまいその手を払いのけてしまった。そう、この瞬間思い出したのだ。ばあやが言うには、人間と河童は確かに集落で共生しているけれど、中には意地の悪い連中もいる。特に子供は河童を囲んで虐めたり傷つけたりするものもいるとかいないとか……。

「……大丈夫だよ、怖がらないでおくれ」

その少年の手は、そのまま優しくすぅっと私の顔を撫でた。今度は不思議と怖くない。その指先からも、向けられたまなざしからも、敵意や悪意はこれっぽっちも感じなかったから。

「ゆうべの嵐で川が暴れてんだ。お前、河童の子供だよな…よし、大人を呼んでくるからちょっと待ってろ?」

「……?」

大人?大人って、誰が来るのかな。なんだか怖い……ここまで一人で来てしまったこと、溺れて死にそうになったこと、どれを挙げても怒られる未来以外見えない。

「英介さーん!光夫さーん!河童の女の子が迷子みたいなんだよぉ、ちょっと来ておくれよ!」

 しばらくして、かなり遠くの方で少年の声がした。おそらく半里ほど離れたあたりだろう。河童は耳も利くので私にもよく聞こえた。

 程なくして3人分の足音がこちらへやってきた。少年が連れてきた「大人」というのは、成人した河童だったのだ。人間と同じ着物をきていること以外は私と同じで、肌が透けた緑色をしていた。会ったことのない河童だ。

「おやまぁ、この子は頭領んとこのお姫さんじゃねえか」

「本当だ。なんだ、一人で来ちまったんですかい?」

エイスケとミツオと呼ばれた2人は、私の前でしゃがみこみ尋ねてきた。その問いになんて答えたら怒られずに済むかを考えていたら言葉に詰まってしまい、とりあえずこくんと首を縦に振った。

「この川の流れを一人ってのは随分難儀したでしょうよ。清ちゃんもよう平気だったなあ」

「俺は泳ぎが得意だからこれくらい大丈夫さ」

「ははは、河童の前で泳ぎが得意なんていう人間はお前くらいのもんだよ」

私を助けてくれた少年は「せいちゃん」と呼ばれていた。なんていう名前なんだろう。

「英介さん、光夫さん…この子、河童砦まで送ってあげてくれねぇかな。いくら泳ぎが得意な俺でも、水中洞穴は通れねえから」

「違いねえ。姫さん送り届けるに断る理由なんかあるもんか」

2人の大人河童は力強く頷くと、着物を脱ぎ、帯で私の体をおんぶするように背中へ括りつけた。赤子に戻ったような姿を助けてくれた少年に見られるのは、なんだか恥ずかしくて私は大人河童の背中に顔をうずめた。

「英介、一人で大丈夫か?」

「ああ、問題ねえ。んじゃあちょっくら行ってくる」

私を背中におんぶしたエイスケさんが川へ飛び込もうとしたそのときだった。

「ああ、ちょっと待って!」

呼び止めたのはせいちゃんと呼ばれた少年だ。彼はおぶさってだらんとなっている私の足をそっと握って言った。

「なぁ、もう少し大きくなったらさ、俺たちの住む村に遊びに来てくれよ。一緒に遊ぼう」

「………」

溺れたところを助けられ、大人の背中におんぶされた姿を彼に見られるのはあまりにも恥ずかしくて、私は早くその場を去りたい気持ちでいっぱいだった。だけれど、その一方で…なんだか彼に再び会えるのは当分先のような気がしたので、私は意を決して顔をあげた。

「……うん…ありがとう……」

 勇気をふり絞って、声をあげて本当に良かったと思った。

 彼の満面の笑み、優しそうなまなざし、温かい手のぬくもり…そのすべてが、この瞬間から以降、私の人生の数歩先で燦然(さんぜん)と輝く太陽のような存在になったからだ。

 これが、河童と人間が共生する菅谷村の少年、清一郎と私の出会いだった。


 ****


 1.付喪族


 河童は、妖怪の中でもかなり人間に近い場所で暮らしていた種族である。河童の出没する沢や水辺は日本各地に存在し、それぞれの地で伝説や逸話が伝えられていた。この菅谷村も河童と人間が共存する村のひとつで、村の人口の2割ほどは河童たちだったのである。

 人と共に暮らしていた河童族だが、村で一緒に暮らしていたのはごく一部で、その多くは河童淵の周辺や河童砦を根城としていた。時折村へ降りてきたり、村から来た者たちと川辺で交流したりするのが大半だったのである。

 河童たちは主に、人間たちの農耕や川での漁業、水車の管理など、水に関する仕事を担っていた。それに、河童は昔から薬事の知識に優れており、医者のような役目も果たしていた。その昔、大陸を旅していた有名なお坊さんに仕えた河童が、その旅の褒美に薬の知恵を授かったというのが始まりだという言い伝えがある。

 このように、河童はとても人懐こかった。少々ドジなところもあり、人間のほうが優れていることも多々あったが、お互いが尊重し合い支え合って生きてきたのである。



清姫きよひめ様!丘にあがってはいけませんよ!」

 木々の葉が揺れる音と、鳥の鳴き声しかしない穏やかな河童淵に、ばあやのやかましい忠告が響き渡る。

「……分かってる。ほら、あがってないでしょう。約束は破ってないわ」

 水面に顔を出し、うんざりした顔を見せながら、私は緩やかな川の流れに身を任せる。

 ここで濁流に飲まれ溺れかかってから実に10年の歳月が経った。当然私は泳げるようになり、平均的な河童族と同等の発育をしている。透き通った浅緑の肌、年頃の娘らしく発達した乳房、長く伸びた髪は母親譲りの藍色で、頭頂部には小さな皿がある(河童族は基本的に裸で暮らしているが、人間の集落に住まう者たちは着物を着ている)。歳を重ねるとこの皿は大きくなるのだが、男河童よりも女河童の皿は小さいのが常だ。

「大体、お館様からは『河童砦を出てはならぬ』と言いつけられているところを、内緒でここまで来ているんですから、謹んでくださいませね!」

「はぁい」

 そう、あの10年前の事故以来、私は河童淵まで出ることを父上に禁じられてしまった。確かに、河童砦に住む女子供はほとんどそこから出ないのが普通なので、特別厳しい罰を与えられたわけではないのだが、私には河童淵まで足を運びたい理由があった。それは…あのとき私のことを助けてくれた少年、「せいちゃん」に再会するためだ。

(今日も、会えそうにないな)

 毎日ここに来れば、万に一つ会えたのかもしれない。しかし、父上たちの目を盗んで、ばあやと一緒にとなると、週に一度が関の山。村に住む河童に遭遇することはあるけれど、「せいちゃん」のことを聞くのはなんだか気恥ずかしくてできなかった。

「あまり遅くなるとお館様に見つかってしまいますから…行きますよ、清姫様」

 滞在時間は半時くらいだろう。このままでは埒が明かない。きっと「せいちゃん」には二度と会うことはなく私たちは生涯を終えてしまうだろう。そんなことがあっていいものか。私は彼に「恩返し」がしたいのだ。精一杯のお礼がしたいのだ。……しかしどうすればいいのか、手段はまったく思いつかない。仕方なしに先を行くばあやの後をついていこうとしたまさにそのときだった。

「ふぅわ、ふぅわ、ふわっふわり~」

「…??」

 妙な鼻歌が背後から聞こえてきた。別の河童がいたのだろうか。いや、そんな気配は微塵も感じなかったし、振り返ってもそこには誰もいなかった。

「流れに身をまかせ、気の向くままに~」

しかし鼻歌はだんだん近づいてくる。いよいよ不気味になってきた。そこには河童も人間も、魚の類ですらいないのだ。あるのは、そう……川上から流れてきたらしい、白い一枚の「手ぬぐい」だけ。

「流れて飛ばされ300年~、将軍さまの~尻を拭き~」

「ぷっ……」

なんてふざけた歌なの?将軍様の尻?思わず笑いがこらえきれずに吹き出すと、今度は鼻歌ではなくはっきりとした声が聞こえたのだった。

「おや、愉快じゃったかのう、わしの歌」

「ひえっ!」

その声がした瞬間、私は心臓をひゅっと掴まれたような心持がした。なぜかってその声は確実に、目の前にたゆたう古びた白い手ぬぐいから聞こえてきたからだ。

「……なんで手ぬぐいが…」

「そりゃあ娘さんや、わしが『付喪族(つくもぞく)』と呼ばれる妖怪だからじゃよ」

「えっ…つくも、族?」

すると手ぬぐいはまるで水面の上に立つように浮き上がった。手ぬぐいはよく見るとボロボロで穴もあいており、それが元の柄と相まって絶妙な老爺の顔になっていたのである。

「人間の生み出した道具や品物は、100年大切にされると付喪神となって神様が宿ると言われておる。それがわしらのような存在じゃ。ま、さすがに自分のことを『神』っちゅうんは気が引けるでのう、付喪族と名乗っておる」

「っ、じゃああなたは、100年以上前の手ぬぐいってこと?」

「そうじゃ。さっき歌っておったろう、将軍様の…あの徳川家康公の尻を拭いていたと」

 そう説明されても、人間の世界のことや歴史について何も知らない私には少しもピンとこなかった。とにかく、ボロきれが勝手にしゃべって浮かんでいる目の前の出来事があまりに突飛で、かつ興味深くてたまらなかったのである。

「河童と人間以外に出会ったの、初めてだわ。すごい……!ねぇ、よかったら一緒に砦まで来ない?あなたの話もっと聞きたいわ」

「うむ、ここで会うたのも何かの縁じゃろ。ではしばらく娘さんに付き合おうとするかの」

 しゃべる手ぬぐいが私と一緒に来てくれることに同意したちょうどそのとき、しびれを切らしたばあやが洞穴の入口から河童語で呼んできた。私はその手ぬぐいの端をひょいと掴むと、すっと水の中へ潜り洞穴の方へ泳いでいったのである。



 その手ぬぐいは「白じぃ(しらじぃ)」と名乗った。白じぃは約300年もの間、諸国を巡り旅をしてきた手ぬぐいで、人里に降りる時は人間の姿に化けるのだという。聞くところによると、実は人間の集落には人に化けた付喪族がかなりいるのだという。元々物として人と共に暮らしてきたため彼らの生活様式はよく理解していた。そのため、どの妖怪種族よりも容易く溶け込めているらしい。

 白じぃは、河童砦にある私の部屋へ連れていくとその場で突然人間の姿に化けた。背中の曲がった人間のおじいさんの姿になった白じぃはくつくつと笑いながら「この姿は皆が優しくしてくれるで楽なんじゃよ」と言った。

 他にも、若い男性と小さな女の子に化けることができるらしい。なんでもその3つができれば大抵の集落で渡り歩けるのだとか。

「すごい……いいなぁ。河童なんて、泳ぎが得意なことくらいしか優れている点がないわ。私なんか、その泳ぎさえ仲間たちと比べたら下手だというのに」

「お嬢さん、そりゃあ思い違いじゃの。河童は妖怪の中でもとても優れた種族じゃ。付喪族なんぞ及びもしない立派な者たちじゃ」

「言いすぎよ」

滝つぼを囲む岩肌に作られた河童たちの集落。一番大きな岩壁に作られたのが、私たち種族の長である父上の治める砦だ。その一角に私の部屋があり、河童砦の滝つぼを一望できる場所に位置している。

「…ふむ。お嬢さんは神通力を持っておるようじゃな」

「神通力?」

おじいさんの姿をしたままの白じぃは、私の全身をしげしげと見つめながらそう言った。

「河童の種族は全員じゃないにせよ神通力を持つ者がおる。おぬしは泳ぎが不得手じゃと言っとったが、他の部分に才能があるのじゃな」

「そんなことまで分かるの?」

「そりゃあ、300年以上生きておったら簡単なことよ」

白ひげを撫でながら笑う顔は、元の手ぬぐいで見た老爺の顔にそっくりだった。

「その神通力があれば、わしのように変化へんげすることもできなくはないかもしれん」

「えっ…私が?!人間に変身できるの?!」

「もちろん、わしのようにさまざまな姿に変えるのは無理じゃろうが…同じ背格好で同じ年頃の娘に変化へんげするくらいは簡単じゃ。どれ、わしがやり方を教えてやろう」

予想もしない展開になってきた。河童淵に流れてきた手ぬぐいを拾ったら変化へんげの術を教わることになったのだから。

 ここで一つの仮説が立った。もし、人間の姿に化けて集落へ行ったら…私は「せいちゃん」に会えるかもしれないのだ。そして、その姿のままでいれば、父上たちに見つかることもない。これは、確実な「家出」のチャンスだ。

「教えてください!お願いします!私、人間の集落に行って、会いたい人がいるの!」

 それから私は、自分が溺れて死にかけた話から今迄の経緯と、なぜ集落に行きたいかという理由、そして行くための計画について一気に話した。話し終える頃にはとっくに日が暮れて、滝つぼに面した窓から月明かりが差し込んでいたのだった。



2.菅谷村


 その日、菅谷村はどんよりとした雲におおわれていた。夜のうちに降っていた雨はかろうじて止んだものの、お天道様は少しも顔を出す気配がなかった。そのような天気であることは別段珍しくもなんともなかったのだが、一つだけいつもと大きく違うことがあった。

 それは、村と河童淵のある森との境にある小さな沢のそばに、一人の女が倒れていたことである。

 その女を最初に発見したのは、幸いにも村はずれに住む粉引き屋の女房だった。幸い、と言った理由というのは、その倒れていた女が何も着物を着ていない裸の状態だったからである。

「こりゃ大変だ、何か着るもん持ってこなけりゃ」

粉引き屋の女房は、連れていた7歳の娘に頼んで、家から自分の着物を持ってこさせた。取り急ぎその着物を羽織らせて、村の人たちを呼び、野次馬を含めた何人かの人たちが集まる頃にはその裸で転がっていた女は意識を取り戻したのである。

「あんたァ、一体なにがあったんね?誰かに乱暴されたんかね?」

「………」

ぽかん、とうつろな目で粉引き屋の女房を見つめていた女は、はっとなって急に起き上がると、自分の手や足先を、まるで珍しいものを見るようにしげしげと眺めた。

 その様子があまりに奇異に映ったのか、集まってきていた野次馬たちは訝しげに囁き始めた。

「…乱暴されて、気が触れたんじゃないだろうかね」

「いやぁ、かたわなのかもしれないよ」

「大体、村のもんじゃないのにどうしてこんなところに……」

しかし、その女の耳には野次馬たちの心無い囁きは届いておらず、突然はっとして介抱してくれた粉引き屋の女房に尋ねた。

「あの、この近くに…せいちゃんは、いますか?」

「ん?あんたの身内かい?」

女がやっと口を利いたので、ざわめきが一旦収まる。

「身内じゃないけども、私はせいちゃんに会いに来たんです…どなたか、存じ上げませんか」

「せいちゃん、ねえ……」

「……そりゃおめぇ、清一郎せいいちろうのことでねぇのか?」

野次馬の一人がそう言うと、皆、合点がいったように「そうだそうだ」「子供のときそう呼ばれてたなぁ」などと口にした。

「せいちゃんは、清一郎さんというのですか」

「あんたの言うせいちゃんかどうかは分からないけどねぇ、確かにこの村には清一郎ってモンがいるよ」

「会わせてください!どこにいますか?!」

興奮した様子で粉引き屋の女房に詰め寄った女を、周りは咄嗟に押さえ込み引き離した。

「きゃっ!」

「お前、粉引き屋のおっかさんに近づくんじゃねえ!」

「そうだそうだ、どこのモンかも分からねえのに……清一郎にだって合わせられるかよ」

「大体お前、どこから来たんだ。どうしてここで、素っ裸で寝転がってたんだ…理由が分かるまで、村には入れねえぞ」

「っ……」

村の男衆に突き飛ばされ、女は沢の横に尻もちをついた。怯えた顔つきの彼女を男衆が取り囲み、縄で縛るか、座敷牢に連れていくか、そんな相談を囁き合っていたまさにそのときだった。


「おーい、どうしたんだー!」


彼らの後ろ…遠く、村の方角から若い男の声がした。後ろには数人の河童を引き連れている。

「おお、清一郎じゃねえか」

「っ!!」

その瞬間、女の顔色が変わったけれど、それを見ていた者は誰一人いなかった。女は男衆に囲まれているので清一郎の顔はおろか姿さえ見えない。

「お前のことを探しにきたっていう怪しい女がいてよ…どうするか決めあぐねてたんだ」

「女?」

男衆は女を左右から押さえ込もうとしたが、清一郎がそれを制した。そして…扉が開くかのように2人をさえぎっていた人垣が消え、女は清一郎と対面したのである。

「……あ…」

目もとを赤く染めながら、固まってしまう女に、清一郎はしゃがみこんで笑いかけながら話しかけた。

「初めまして。この菅谷村で若い衆をまとめている清一郎ってモンだ。向こうにいるのは河童なんだけど、薬に詳しいから…もしケガしてるんなら言ってくれ」

「………」

女は素直に首を横に振る。すると清一郎は、後ろに控えていた河童たちに

「ケガはしていないみたいだ。来てくれてありがとう」

と、声をかけた。それを聞いて河童たちは帰っていく。

「清一郎、こいつ、お前の知り合いか?」

「うーん……俺は覚えがねえんだけど、名前を知ってるなら知り合いなのかもしれねえ」

「なんだお前、こりゃとんだスケコマシだな!清一郎よ!」

「いって!んな馬鹿力で叩くなって!」

先ほどまで、女をつるし上げる勢いだった不穏な雰囲気が、清一郎のおかげで一気に和んだ。

「お前、腹減ってないか?よかったらうちに来いよ。朝餉がまだ残ってるぜ」

「っ……いいの?」

「ああ、いいよ、心配すんな」

清一郎は、縮こまっていた女の手を取った。その瞬間、ふっと時間が止まったような感覚に陥り、2人の間に懐かしい空気が流れた。

「……あれ…やっぱりどこかで、会ったかなぁ」

「………」

小さな清一郎の呟きは誰の耳にも届かなかった。その女を除いては。でも女はその呟きに何も応えることなく、手を引かれるまま菅谷村へと向かったのであった。


 ****


 人間世界のことは何も知らなかったけれど、これだけは分かった。

 せいちゃんは、この「すがや村」の中心人物で、みんなに愛されているということ。そして、見ず知らずの私に優しくしてくれて、この村を案内してくれたのだ。田んぼや水車小屋、畑、丘の上からの景色、河童淵へつながる清流、あぜ道に咲く色鮮やかな野花。せいちゃんが教えてくれたものは全てきらきらと輝いていた。河童淵にはないものが、たくさんあった。

 せいちゃんは、私の身の上も無理に聞き出そうとはせず、「アテがないならうちにしばらく泊っていきなよ」と言って空き部屋を貸してくれた(せいちゃんの家は村の中でもかなり立派で大きな家だった)。せいちゃんはおばあちゃんと2人暮らしで、部屋はたくさん余っているから大丈夫だと笑って言ってくれた。


「キヨって名前、字はどう書くの」

「字?」

 二人で河童淵までやってきたとき、せいちゃんが尋ねてきた。

「言葉には字があるんだ。字が書ける人はほとんどいないんだけどな…俺は、死んだ父ちゃんが都の役人さんと友達でさ、子供のころ教わったんだ」

せいちゃんはそう言って棒きれを拾うと、土の見えている地面に何かを描き始めた。不思議な絵が3つ並んでいる。

「…俺の名前。せい、いち、ろう。これでせいいちろうって読むんだ」

「そうなんだ…」

すると、せいちゃんが「せい」と読むらしい字に丸を付ける。

「この字、『きよい』とも読むんだ。もしかしたら、キヨのお母さんも、『清』って字をつけてたのかもしれないな」

「私も、この字?」

「ああ」

せいちゃんは微笑みながら頷いて、その後「清一郎」の下に「清」という字を書いた。

「同じだな、ほら」

せいちゃんの名前の下に、私の名前。おそろいの「字」だ。

「うん、同じだね!」

嬉しくて、ただただ嬉しくて笑みがこぼれた。あのとき、私を濁流から救ってくれた私の正義の味方。ずっと会いたかったのに、勇気が出なくて会えなかったせいちゃんが、今目の前にいる。ずっとそばに居てくれて、いろんなことを教えてくれた。いろんな美しいものを見せてくれた。河童砦に閉じこもっているだけでは知らなかった、人間たちの優しさや温かさを知った。

「あ、清……目つぶって」

「えっ」

せいちゃんに言われるがままに目を閉じると、まつ毛に何かが触れてくすぐったい感じがした。

「まつ毛がついてた。もう取ったから目、開けて大丈夫だぞ」

「ん……」

目を開けると、さっきよりかなり近い距離にせいちゃんの顔があって、私は心臓が跳ねあがるのを感じた。

「あ、あ、ありがとう…」

「あれ?清、お前の目…少し色が薄いんだなぁ」

「えっ?」

せいちゃんはこっちの気も知らず、更に距離を詰めてくる。

「なんていうか、黒の中に、うっすら灰色が混じってら」

「えっ、そう、かな……気のせいだと思うけど」

「俺、目はかなり利く方なんだ。だから間違いないと………っ、悪い、近すぎたよな」

我に返ったせいちゃんが、慌てて後ろに身を引いた。そして、照れながら頭をかく。

「すまねえ、俺はどうも人との距離を見誤っちまうことが多いんだ。清は年頃の娘なのに、男に迫られたらいい気がしねえよな」

「そんなことない」

「えっ?」

咄嗟に口をついで出た言葉が、よくよく考えると随分とはしたない意味を持っていたことに気づき、私は慌てて弁解しようと首を横に振ったり何かしゃべろうとしたりと試みたが、なんだか訳が分からなくなってしまった。

「えっと、せいちゃんが近づいてもイヤな気持ちはしないの、だから謝らなくていい…」

「清……」

恥ずかしい。なんだか、せいちゃんと目を合わせることができなくて私は俯いてしまった。胸が苦しいのはなんでだろう。この村にきてせいちゃんと再会してからずっと、嬉しさと楽しさしか感じなかったはずなのに、今はなぜか、ものすごく苦しい。心臓が騒ぎ立てて言うことをきかない。人間の姿に変化してるから?

「あのさ、清」

「っ……うん」

「やっぱり俺、昔お前に会ったことがある気がする」

せいちゃんは真剣な眼差しでこっちを見つめて、私の手を取った。そしてその瞬間、わずかに眉根を寄せた。

「……こんな風にしたことが、あったような」

「っ…せいちゃん、私はね……昔、ここで」

あなたに助けられた河童の子だよと、意を決して伝えようとしたまさにそのときだった。

「清一郎さん!!」

 藪の向こう、遠く離れたところから女の呼び声が聞こえてきた。私としたことが、せいちゃんに夢中で近づく足音にまったく気づかなかった。

 その女の足音はどんどん近づき、河童淵のほとり、つまり私たちがいる場所へと姿を現したのだった。

「探したのよ!!」

 その人は、つやつやの黒髪を丁寧に結い上げ、鮮やかな橙色の着物を着ていた。菅谷村では一度も見かけたことのない上等な着物であることは私にもすぐわかった。真っ赤な紅を差し、柔らかそうな頬をぷぅっと膨らませて、その女の人はこちらへやってくる。

「お屋敷にもいないし、村の人たちに聞いたらこちらの方面に歩いてったと言うから来てみたら……何これ、逢引?」

「違うよ、愛子さん、この子は違うんだ」

愛子、と呼ばれた女性は私の方を睨みつけ、食ってかかりそうになった。それをせいちゃんが慌てて止める。

「一昨日、この村に迷い込んできた子なんだよ。アテがないから俺が面倒見てるんだ」

「清一郎さん、あなたももう少し『自覚』を持ってもらわないと困るわ……お父様があなたを探してるの。早く村に戻るわよ」

「分かったよ。じゃあ清、一緒に…」

「はぁ?あのねぇ…!」

私の手を取ろうと伸ばしてくれたせいちゃんの手が、愛子さんによってさえぎられる。彼女は白く美しい顔を険しくゆがませながら、蛇のようにこちらをねめつけた。

「どこのあばずれだか売女だか知らないけどね、清一郎さんに取り入ろうとしても無駄よ。私はこの人の許嫁。来月には祝言もあげるのよ。分かったでしょ?ならさっさと自分の家にお帰りよ、どこから来たのか知らないけど」

「っ、愛子さん……そんな言い方は…」

「何よ、事実じゃない」

許嫁。それってつまり、結婚を約束しているっていう、こと?

「……そう、だったの」

「ええ、そうよ。あんたみたいな小汚い醜女の入る隙はないわ。さ、行くわよ」

愛子さんに腕を掴まれ、村の方へ引っ張られるせいちゃんの後ろ姿が、藪に消えて見えなくなった。足音がどんどん離れていって、やがて風の音や川の音にかき消されるまで離れていってしまった。随分と時間が経ったと思うけれど、私はその場から動けずにいた。

 せいちゃんは、もうすぐ祝言をあげる。お祝い事だから、喜ばなきゃいけないんだ。おめでとうって言ってあげなきゃいけないんだ。大事な、大事なせいちゃんのお祝いなんだから、笑って祝わなくちゃならないのに。

(どうしてだろう)

冬の氷水が体じゅうにしみこんだみたいに冷えて、胸の奥がひどく苦しい。あまりに苦しくて、涙が止まらないのだ。


 ****


3.企みと別離


 村の真ん中に位置する寄合所には、愛子の父であり都の役人でもある久原茂雄が訪れていた。茂雄が来訪するときは決まって村の年寄衆や取りまとめ役が集まり、彼をもてなすのだった。洋装に身を包んだ彼は、清一郎と愛子が到着すると、深刻な面持ちで話を切り出した。

「清一郎、祝言の前だというのにお前にこんな酷な話をしなくてはならないのは本当に忍びない。長年可愛がっていたお前だからこそ、なんの憂いもなく娘の愛子との門出を祝いたかったのだが…もうこれは無視できぬ状況になってしまったのだ」

「茂雄おじさん、一体なんの話ですか」

訳が分からず彼が尋ねると、周りに座する村の者たちも一堂に神妙な面持ちをして俯いた。

「ここのところ、都とこの村の間に位置する集落で、家畜が亡くなる事件が後を立たなくてな。皆そろって泡を吹いて死んでるもんで、都の役人が調査をしたんだ。その結果、家畜たちは『トリカブト』の毒によって意図的に殺されたものだと分かった」

「トリカブト……?」

「ああ。そして、更に我々が調査を重ねたところ、この地域一帯でトリカブトを育てている場所が一か所だけあったのだ。それが……菅谷村の河童たちの畑なのだよ」

「えっ?!」

絶句した清一郎が村の者に言葉を求めるように視線を巡らせたが、皆揃って首を横に振った。

「家畜は我々の貴重な食料源。いくらいたずら好きとはいえ、これは行き過ぎている…」

「待ってください、彼らが犯人と決まったわけじゃ…」

「『河童』、だからねぇ」

 茂雄の物言いには、蔑みの意が込められているのは誰の耳にも明白だった。いくらかの沈黙が流れた後、彼は背広の内ポケットから紙煙草を出し、煙を燻らせた。

「実は今回、私が来た理由はもう一つあるのだよ」

「……」

「実はねえ、今…日本各地で『人間と妖は生活を別々にする』という決まりごとが進められているのだよ。江戸の世は当たり前に共生していたようだけど、もう時代は明治だからね…外国から新しい文明が流入してきた今、妙なものを信じたり助けたりしているようではいつまでも我々は発展しないんだよ」

「何が、おっしゃりたいんですか」

「清一郎……我々もそろそろ、時代の流れに乗るべきじゃないかと思わないかね」

「……河童たちと、村から追い出せと?」

「もっといい方法があるのだよ」

茂雄が、村の衆に目くばせをする。気まずそうな、何とも言えない重たい空気が寄合所の中に流れた。

 茂雄の煙草が、よどんだ部屋を更によどませる。人間の内側にもし毒があるのだとしたら、ドロドロとしたえげつない姿をしているのだろう。この漂う空気のように。

「……清一郎、河童の血が万病の薬になるという話を知っているか」

 その言葉の恐ろしさを理解しない者はいなかった。青ざめる清一郎の周りを、白煙が不気味に揺らめいたのだった。


 ****


「……ねぇ、白じぃ。今の話は本当…?」

 村はずれのあぜ道。誰も通らないその道の曲がり角に小さなお地蔵さんが立っていた。その横にある石の上にちょこんと腰掛けた老爺姿の白じぃの隣で、私は村の中心部に耳を傾けながら尋ねた。

「今の話の、どのあたりのことを言うてるんじゃ」

白じぃは見た目に相反して私と同じくらい耳が利くらしい。ちゃんと、寄合所での会話を聞き取れていたようだ。

「全部だよ……村の河童が家畜を殺したことや、妖怪と人間が別々に暮らさなくちゃならない御触れが出ていることや…」

「河童が家畜を殺したっちゅうんは、疑わしいがの…妖怪と人間は別々に暮らせっちゅうお達しは確かに出ておる。わしも随分生きにくくなったもんじゃ」

「あと……河童の、河童の血が…って、本当?」

「そりゃあわしには分からん。しかしの、昔から妖怪の血肉は人間に多大な影響を与えると言われとる。人魚の肉は不老不死をもたらすっちゅう噂が流れてから、人魚は絶滅したらしいからの」

「………そんな…」

「お嬢さんや、ここで重要なのは事実ではなく、人間が何を信じとるかっちゅうことじゃ。この村のモンは皆、あの役人の言葉を信じとる。いや、信じていなかったとしても従わざるを得ん状況なんじゃろ。それは声で分かるわい……」

ということは、だ。せいちゃんたちはあの茂雄という人の言うことを聞いて河童たちを殺すってこと?

「止めなきゃ……」

「お嬢さん、お前さんにゃ無理じゃて」

「でも、このままじゃ一族が皆殺しにされちゃう……せいちゃんならきっと分かってくれるはず、私行ってくる」

白じぃの制止を振り切り、私はせいちゃんの家まで走った。せいちゃんは、村でも一番河童たちに優しく接してくれていた人間だった。村の河童たちもせいちゃんを可愛がっていたし、なんといっても、あの濁流の中に飛び込んで私を助けてくれたんだ。そんなせいちゃんが、河童を殺すなんて、絶対あり得ない。

 せいちゃんの家にたどり着いた頃には、日が随分西に傾いていた。庭先に置いてあった畑の道具や井戸が橙色に染まっていて、さっきの凶事の相談なんてなかったかのように綺麗だった。

「せいちゃん!」

名前を叫びながら、私は玄関に行くのもまどろこっしくてそのまま縁側に上がった。

「…清?ああ、よかった、ちゃんと帰ってこれたんだな。さっきは置いて行っちゃって悪かった」

せいちゃんの顔が西日に染まりながら笑みをたたえていた。ぽん、と撫でられた頭がじんわり温かくて、それだけで泣きそうになる。

「ねぇ、せいちゃん……河童を殺すの?」

「……っ……」

その言葉を発した瞬間、せいちゃんの顔から笑みが消えた。こんな悲しそうな顔のせいちゃんを見るのは、当たり前だけど初めてだ。

「ねぇ、違うよね。何かの間違いだよね?」

「……聞いてたのか、清…」

「うん……あのさ、河童たちがトリカブトを育てているのは毒として使うからじゃないよ?!私知ってる、河童たちの間では附子ぶしっていう薬を作るためにトリカブトを使ってるの。だから家畜を殺したなんて、絶対違うから…」

「分かってるよ!!」

「っっ!!」

おだやかなせいちゃんが急に大きな声を出したので、私は驚いて頭が真っ白になってしまった。せいちゃんは……せいちゃんは、苦しげに眉根を寄せて、いらだったようにため息をついた。

「河童たちが悪さをしていないことくらい、俺には分かってる。だけど……俺は、あの人の言うことを聞かないとならないんだ。あの人は…茂雄おじさんは、死んだ父ちゃんの友達で、愛子さんとの結婚も昔からの約束だったんだよ」

「………」

「茂雄おじさんに逆らうってことは、父ちゃんの遺志に背くってことだ。結婚のことも、今回のことも、何もかも、俺はあの人に逆らえない」

「どうして!せいちゃんは河童が嫌いなの?」

「違うよ!!」

ふと視線を落とすと、せいちゃんは感情を抑えようとして必死に手を握りしめていた。あまりに強く握っているせいか血が滲んでいるようにも見えた。

「あの人に逆らったら、この村なんて簡単につぶされる……若い連中も、年寄りも、育ててくれたばあちゃんも……俺はみんなを守りたいんだ。だから、茂雄おじさんに言われたことは全部飲むしかねえんだよ…!!」

うわずったせいちゃんの声が、痛々しかった。これ以上彼を追い詰めたくない…苦しめたくない。私の命を助けてくれた正義の味方のせいちゃん。せいちゃんから笑顔がなくなるのが、私は一番つらいんだ。

 だから、意を決して……私は強く握りこめていた彼自身の手をそっと取った。

「…せいちゃん」

「……清…?」

 これから、せいちゃんや村の人たちは私たち河童族を殺しにくる。

 私は、一族を見殺しになんかできない。

 …だから、ここでお別れだ。

「私、もう行くね。親切にしてくれて、本当に…本当にありがとう」

「清……お前、どこに行くんだ、アテはあるのか?愛子さんのことなら、気にしなくていい…しばらくはここに泊れるようにしてあるから」

「大丈夫。大丈夫だよ……せいちゃんに会えただけで、嬉しかったから。もう十分」

私の発する言葉の意味を理解しきれていないせいちゃんは、いぶかしげに私を見つめていた。

「でも、もう暗くなる…故郷に帰るんならせめて明日の朝に」

「平気だよ。近くに知り合いがいるから、心配ないの」

せいちゃんの顔。もう会えないであろうその顔をしっかりと目に焼き付けようと、私はじっと彼の顔を見つめた。黒々とした髪、人懐こい茶色の瞳、端正な目鼻立ち、優しそうなまなざし、手の温もり、声、笑顔……全部、全部。一生忘れない。

「……私を、助けてくれて…ありがとう、せいちゃん。一緒に遊ぶ約束は、もう果たしたよ」

「えっ…?」

 握っていた手を離し、すぐに後ろを振り返って駆けだす。振り向いたら負けだ。離れがたくなる……だから走って走って…流れる涙がそのまま風で乾くくらい、私はただひたすら走ったのだった。


4.悲劇


 できることならそのまま一晩中、泣いて過ごしたいところだったがそうもいかなかった。河童の一族の危機を、黙って見過ごすわけにはいかない。河童族は戦いを知らない温厚な種族だけれど、こんな事態ならば多少反撃…いや、最低でも逃げることくらいはできるはずだ。村に住む河童たちに知らせようと彼らの住む地域に向かった頃にはもうすっかり日が沈んでおり、夕餉の時間が終わりかかっている頃だった。

 ところがここで想定外の事態が起こっていた。

 河童たちの家々が並ぶ方面から、物音一つしないのだ。一体どうしたことか…まさかもう殺されたのか?青ざめながら耳を澄ませ、村全体の音を拾って探そうとすると、河童たちの声が寄合所の方から聞こえてきた。どうやら人間たちに招かれ、食べ物や酒をふるまわれているらしい。これは一体どういうことか。

「おお、来なすったかお嬢さん」

暗くなった道端で途方に暮れていた私の元に、どこからともなく現れたのは白じぃだった。

「白じぃ!」

「河童たちは一人残らず寄合所に集められた。清一郎の祝言の前祝いだって名目でな…しかし実際は、酒に薬を盛って眠らせるっちゅう魂胆じゃぞ」

「そんな…すぐ止めなきゃ!」

「いや……小娘のおぬし一人が行ったところでどうにもなるまい」

「じゃあ……どうすれば…」

万策尽きたと思いその場にへたりこむ私の背中を、白じぃがぽん、と叩いた。

「まだじゃ。まだ策は残っとる。おぬしは砦に戻って、応援を呼ぶんじゃ」

「えっ」

おかしな話かもしれないが、私は今の今まで河童砦のことを忘れていたのだ。父上や母上、兄者、そして他の仲間たちのことを。彼らが応援に来てくれたら、村の河童たちは殺されずにすむかもしれない。

 いや…でも。

「家出した私の話を、まともに聞いてくれるかな…怒られて、部屋に閉じ込められてしまうかもしれない……だとしたら、なんの意味も…」

「それはやってみんと分からんじゃろ。少なくとも、お前さんが一人で今、寄合所に乗り込むよりは可能性が高いとわしは思うがの」

「………」

 正直、怖いのだ。皆に怒られることや、悲しませること、閉じ込められるかもしれない不安と恐怖。

 でも私は、白じぃの協力もあってやっと、せいちゃんと会うことができた。今なら、もし砦の一室に幽閉されることになっても後悔はない。

「分かった。私、砦のみんなに知らせてくる」

「そうと決まればわしも一つアテを頼ってみよう。ああ、それとお嬢さんや」

「え?」

河童砦につながる河童淵へ急ごうと背を向けたとき、白じぃが声をかけてきた。

「…付喪の変化術は、他人様に見られたらもう二度と使えん。河童に戻るとき、また人間に変化するときは、くれぐれも誰かに見られんように気を付けるんじゃぞ」

「わかった。ありがとう、白じぃ!」

 闇夜がすぐそこまで迫ってくる中、私は河童淵までの道をまっすぐ違わずに走っていったのだった。


 ****


 その日は月のない新月の夜だった。

 頼りない星明りさえ、なぜか今夜は瞬きが弱い。人間たちは小さなたいまつを携え、村はずれの小高い丘の下…河童淵に続く森の入口近くにやってきた。

「ここなら人目につくこともない。…おい、明りをこっちにもくれ、手元が見えねえ」

男たちは丸太を組み、簡素だが横幅のある大きなやぐらを立てた。そして、片隅に積まれたドサ袋を開け、中に入っていた……意識のない河童たち総勢30名をやぐらの端から順々に吊るした。吊るした河童たちの下にたらい桶を並べ、村の衆は……河童たちの喉元を掻っ捌いていったのだった。

「ウゥッッ!!」

すんなり即死する者もいれば、断末魔のようなうめき声を上げて絶命する者もいた。今までずっと、共に田畑を耕したり、水車を動かしたり、川魚を捕まえたり、薬を分けてもらったりした、かけがえのない仲間たちを、一人残らず…手にかけたのである。

 力なく、だらりと垂れ下がった両手や髪から、河童の血が滴り落ちる。静かな夜に、その血の滴る音だけが響き渡るのがあまりに不気味で、若い者の中にはその場で倒れたり嘔吐してうずくまる者もいた。しかし、ここまで来たらもうやるしかなかった。血まみれになった腕を光を失った瞳でぼんやり見つめながら、清一郎は全てが終わるのをじっと待っていたのだった。

 東の空がわずかに白んできた頃には、河童たちの亡骸からほとんどの血が抜けていた。抜けた亡骸から下し、再びドサ袋に入れる。たらい桶の血液はそのまま樽に移していく、村の衆がそんな悪の所業を淡々とこなしていたとき、遠くの方で木々の葉がこすれざわめくような音が聞こえてきた。風が出てきたのかと思ったがそんなことはない。ここは悲しいくらい無風で、河童たちの血生臭い匂いで充満していたからだ。

「…なんか、聞こえねえか」

ざわざわとした音に重なって、地鳴りのようなごおおという音。正体不明のその音に、村の衆は嫌な予感がした。眠気と疲れが出て進みが遅くなっていた手を無理やり早めてさっさと終わらせようとすると、たらい桶の血を樽に流し込んでいた一人が手元を滑らせ血を地面にぶちまけてしまった。

「おい!何やってんだ!しっかりやれ!」

「すいません!……でも、なんか…妙な気配がして、手がこわばるんです」

先ほどからガタガタ震えていた村の若い男は、掠れた声でそう答えた。

「達吉、少し休んでな…俺が代わる」

「清一郎さん…ありがとうございます」

薄闇の中でもはっきり分かるくらい顔色の悪い清一郎が、作業を代わってやった。しかし、気のせい程度だった音は徐々に近くなり、やがて誰もがはっきり分かるほどに音が大きくなってきた。

「何だ、一体何が起きた?」

「ウオォォォォ!!!」

獣のような唸り声。ざわめき。地鳴り。それは、森のほうからだった。そう、河童淵のある方角からだ。

「見ろ!河童淵の方から何か来る!!」

丘の上で休みがてら見張りをしていた者が大声で皆に呼びかけた。

「あれは……河童だ!河童の大群だ!!」

「何だって?!」

闇深い森の入口に、体を光らせうごめく大群が押し寄せてきた。それは、村に住む河童たちとは違い着物をまとわず薄緑色の肌を露出させた河童たちの群れだったのだ。その多くはこん棒のようなものや、農具に毛の生えたような代物しか持っていなかったが、たたえている殺気は熊か獅子のようであった。

「皆、作業をいったん中止!応戦だ!!」

「武器を持て!久原様から支給された武器で戦うのだ!」

丘の上には河童の亡骸を運んだ荷車の下に、大量の刀と槍などが用意されていた。久原茂雄は村の者たちに「河童は森の奥にも大量に住んでいる。機があればやつらの血も搾り取れ。材料の血が多ければ富は何倍にも増えよう」と吹聴していたのだ。河童一人分の血で作られる万能薬がいくらで売れて、それをどれくらい分配してもらえるのか…実際の数字を見せつけられた者たちは、どこか「タガが外れた」状態になっていたのである。

 人間たちは武器を手にし、河童の大群と相まみえた。妖怪というと人間より恐ろしく強い印象かもしれないが、河童は元々戦いを好まない種族のため武器の扱いをまったく知らなかった。加えて水中でなく陸の上というのも彼らにとって不利に働いた。多くの河童はいとも容易く人間たちに倒され、バタバタと倒れていった。あっという間に有利な立場になった村の人間たちが完全勝利を確信したまさに次の瞬間であった。

 バシュン!と、力強く空を切る音が辺りに響き渡った。人間たちは何事かと辺りを見回したので、一瞬戦況が凪いだ。そして、ドサリという鈍い音と共に、脳天に矢が命中し絶命した村の者がその場に倒れたのである。

「うわぁぁぁ!!」

人間側に初の犠牲者が出たことで、彼らの士気が乱れた。そこに、矢が飛んできた森の奥から声が響いてきたのである。

「私は、河童砦の長にして河童族の族長であるうしおと申す。人間たちよ、今すぐ武器を捨て、我ら同志の躯をこちらに引き渡してほしい。今、刃をおさめれば、報復はしないと約束しよう」

低く、落ち着いた声の主は、ゆっくりと姿を現した。壮年の河童で、他の河童に比べると筋肉質でがっしりとした体つきをしている。人間ならば老兵と言われるような、そんな貫禄があった。人間たちは、自分たちが夜通しかけてやった「悪事」への後ろめたさもあり、その呼びかけに答えたほうがいいのではないかという考えがよぎった。血さえ集められたらよかったのだから、もうこれで十分なのではないか、と。

 しかし、そんな迷いを断つように、人間たちの背後から声がとどろいた。

「皆の者!河童砦にはおそらくまだ、女子供の河童がたくさん住んでいる!!全ての血を集めるのだ、そうすればこの村は一生安泰、お前たちは左うちわだぞ!」

「……久原さん…」

この一連の事件を企てた張本人である茂雄は、丘の上から馬に乗って姿を現した。そして高らかに言い放つ。

「夜明けと共に、都から援軍が来る。そうなれば我々の勝利は確固たるものとなるぞ…さぁ、村の者たちよ…ここでやらねば次は家畜ではなく我々が殺されるぞ!!」

「おおお!!!」

人々の士気が、援軍という言葉で再び高まった。人間たちはそのまま森へ突っ込んでいき、河童たちを押すようにして攻め入った。もうその時分にはかなり空が明るくなり、開けの明星がまばゆいばかりに光っていたのだった。


5.風向きの変化


 俺はこの村に住む及川清一郎だ。

 母ちゃんは俺を生んですぐに亡くなり、村役人だった父ちゃんは俺が10歳の頃、病で倒れ亡くなった。以来、俺はばあちゃんと暮らしてる。

 だけど、寂しいことは一つもなかった。村には同じ年頃の友達もたくさんいたし、村の人たちや河童たちはみんな優しくしてくれた。時折、父ちゃんの友達だった茂雄おじさんが都から様子を見に来てくれて、字を教えてくれたり、様々な本や見たこともないお菓子をたくさんお土産に買ってきてくれた。大きくなってから気づいたんだが、多分おばあちゃんにお金を渡していたんだと思う。つまり俺は間接的に茂雄おじさんに養育されていたんだ。

 愛子さんとの結婚も、父ちゃんと茂雄おじさんとの間で交わされていた約束だったらしい。初めて会ったとき、器量のいい子だと思ったけれど、随分気が強くてちょっと苦手に感じた。でも、河童の英介さんや粉引き屋の旦那は皆、口をそろえて「女房は気が強いくらいがちょうどいいんだ」と言っていたから、愛子さんでよかったんだろう。

 穏やかに何事もなく、俺は茂雄おじさんの言うままに愛子さんと結婚してこの村で皆と楽しく暮らしていくんだと思っていた。

 なのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。河童たちを吊るして殺めたあの瞬間、英介さんの目がギロリとこっちを見た気がした。光夫さんのうつろな眼差しがずっとこっちを見ていた気がした。血はいつまでも手について洗っても落ちず、人間の血とは違う生臭い魚のようなにおいがいつまでも鼻についていた。

 やがて河童の大群が河童淵方面からやってきたが、茂雄おじさんの一声で村の人たちの士気が高まり、全面戦争が始まった。俺たちは河童の大群を河童淵にまで追い込んだ時には、河童たちが明らかに劣勢だった。潮と名乗った河童の族長の弓矢は確かにすごかったが、それ以外の河童たちは戦う術をまったく知らない者たちばかりで、容易く人間たちに倒されてしまった。俺は、というと、先ほどの業が生み出す罪悪感に耐えられず、防衛一本で進んだ。あれだけのことをしておきながら、もう手にかけたくないなど自分のご都合主義と偽善っぷりには反吐が出そうだったが、それ以上どうすることもできなかったのだ。

「助けてくれ、もうよしてくれよぉ…」

泣きながら訴える裸の河童たちを、目の色を変えた村人たちが容赦なく切りかかる。絞り出すような断末魔の声はあちこちで聞こえ、いつもは穏やかな河童淵が地獄と化してしまったのである。

 どうすればいい、どうすればこの戦いは終わるんだ。茂雄おじさんは女子供の河童も連れ出せと言っていたけれど、河童淵と河童砦をつなぐ水中洞穴は河童しか通ることのできない道だ。もうこれ以上進みようがないのではないだろうか。時折襲い掛かってくる河童たちを避けながら考えていると、少し離れたところから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「やめてーっ!!お願い、やめてみんな!!」

「…清?!」

藪の向こうから走ってきたのは、間違いなく清だった。清はまっすぐこの戦場へ走ってきて、人間と河童たちの間に立ちはだかり両手を広げた。

「お願いです、もうやめてください…村に帰ってもらえませんか……?」

「おい、お前この間まで村にいた女だな?」

「ここで何してるんだ、女が来ていい場所じゃないぞ」

「なぜ河童を庇うんだ?お前、人間だろうが」

村人が一斉に清に詰め寄るが、清は一歩も引こうとしなかった。

「もうこれ以上、河童を殺さないでください……彼らは何も悪さなんてしてません」

「何も知らねえくせに知った口利くな!ここいらの家畜がトリカブトで殺されてんだ、河童が育てたトリカブトでな!!どうせ次は人間を殺そうとしているに決まってる!!」

「違います!トリカブトは薬の材料です……皆さんもその薬を使ったことがあるはずです」

「なんだと?!あいつら既に俺たちにトリカブト飲ませてたっちゅうことか?!ますます許せねえ」

「だから、それは薬なんです…!!お願いですから、もうよしてください……!!もう帰って、お願いだから」

「うるせえ!あの族長の首を取るまでは帰らねえよ!!」

「おおお!!」

清の言葉にまったく聞く耳持たない村人たちは、一層士気を高めて雄叫びをあげた。

「清…もうよい。お前は戻れ」

「……父上、しかしもうすぐ兄者が」

「仕方なかろう。あれが来ればあやつらの命はない……残念だが、忠告を無視した結果よ」

清は河童の族長と二言三言、言葉を交わしているように見えたが、人間の声にかき消されまったく聞こえなかった。

 ここは危ない。せめて清だけでも安全なところへ連れて行かなくては。そう思い立ち清の元へと近づこうとした、まさにそのときだった。

「オォォォォ!!」

「うわっ、なんなんだ!!」

突然河童淵の中から、ヒグマのような大きさの何かが姿を現した。川の水がザバァンと大きな音を立てて流れ落ちると、そこには今迄誰も見たことがない大きさの巨大な河童が大きなモリを携えて陸に上がってきたのである。

「グォォォ!!」

「わぁぁぁっっ!!」

巨大な河童は人間たちの前に立ちはだかるとそのまま一気に銛で人間たちを薙ぎ払った。そして、倒れこんだ者を突き刺しては藪の向こうへ放り投げ、を繰り返したのである。

「ひるむな!所詮河童だぞ!刀を持て!戦え!」

しかし、距離を詰めようとすると巨大な銛が振り回されるので、人間たちは一向に巨大河童の懐に入ることができずにいた。そうこうしているうちに一人、また一人と人間が串刺しにされていき、いよいよその矛先が俺の方を向いたのだった。

「清!逃げろ!早く!!」

「っ、せいちゃん?!だめ、逃げてせいちゃん!!」

清はやっぱりおかしな子だなと思った。俺が逃げろと言ったのに、なぜか清がそのままそっくりオウム返ししてくるじゃないか。でもそんなことを笑い合う暇もなく、巨大河童は俺に向かって何度も銛を突き刺そうとしてきた。幸い、清のことは眼中にないらしい。このまま俺が清から離れればいくらか時間稼ぎができるか…そう思った矢先、清は不可解な言葉を口にした。

「……その人を殺さないで、兄者…!!」

 え……。

 清は、この巨大河童に向かって、兄と言っていた。

 どうしてだ、どう見ても清は人間だというのに。

「清……お前……今…」

「っ……せいちゃん、ごめんね…ごめんなさい!!」

 そのとき、俺の目の前で起きたことは……この後俺が生涯を閉じるその瞬間まで忘れることができない光景となった。

 ちょうど清が立っているところに朝日が差し込み、清の体がきらきらと輝きだしたのだ。黒髪が濃紺色になって長く伸び、白い肌が透けたかと思えば淡い緑色を帯び始め、瞳は青灰色になって、頭のてっぺんにはまるでご神体に使われる鏡のようなまばゆい輝きを見せる小さな皿が乗っていたのだ。

「……清………」

河童の姿になった清は、まとっていた着物を脱ぎ捨て、猛る巨大河童に縋った。何か必死に説得しているようだったが、俺にはもうその言葉が何だったのか分からなかった。そんなことを考える隙も無く、俺の頭の中には、幼いころの記憶が濁流のようにして押し寄せてきたのである。


『絶対に助ける!もう少しだ、頑張れ!』

『ゆうべの嵐で川が暴れてんだ。お前、河童の子供だよな…よし、大人を呼んでくるからちょっと待ってろ?』

『なぁ、もう少し大きくなったらさ、俺たちの住む村に遊びに来てくれよ。一緒に遊ぼう』

 あの時助けた河童の女の子は、そのときこう答えていた。

『……うん…ありがとう……』


 そして清は、村を去るときにこう言ってた。

『私、もう行くね。親切にしてくれて、本当に…本当にありがとう』

別れ際の、清の声。幼いころ出会った河童の女の子と、完全に一致する。


「……お前、だったのか…」

 ああ、なんで気づかなかったんだろう。あのとき俺は「せいちゃん」って呼ばれていて、それをずっと、清は覚えていてくれたんだ。清は俺との約束を守るために、姿を変えて菅谷村に来てくれたんだ。

 そうだ、河童たちはいつだって俺たちのそばにいた。母ちゃんのいない俺をおんぶしてくれていた河童のトヨさん。トヨさんの旦那さんで、水車の管理をしてくれていた英介さん。畑の耕し方を教えてくれた光夫さん。ケガに効く薬や手当の仕方を教えてくれた三郎さん…俺たちの周りにはいつも河童たちがいて、いろんなことを教えてくれたじゃないか。嵐が来たら一緒に畑を守ったし、川が氾濫したときは河童砦の仲間と一緒に川の流れを沈めてくれた。いつもみんな笑って、頭撫でてくれて、せいちゃんは可愛いなぁって言いながら……大事に、大事にしてくれたじゃないか。

 俺は、そんな大切な人たちを、家族同然の人たちを…殺したんだ。そして今も、殺そうとしているんだ。

(だめだ、そんなの…あっちゃならない……)

「清ーーーっっ!!」

 俺は、力の限り叫んで、清の名を呼んだ。

 清、清。今まで気づかなくてごめんよ。そしてお前の一族を殺めてしまって、本当に申し訳ない。この過ちを、俺はどうやって償えばいいんだ…見当もつかない。

 人間と河童が右往左往する混沌とした河童淵。荒れ狂う巨大河童は清が縋りなだめることで徐々に目の色が正気に戻ってきたようだった。振りかざしていた銛を下し、清を見つめる。

「…清、一族がむごい殺され方をしたのだ……あやつら根絶やしにせねば、我らの怒りは収まらん」

「うん、分かってる。でも、もうこれ以上殺すのはやめて。終わりにしよう?」

「お前がそこまで言うならこの刃、収めても良いが…人間たちはどう思っているか分からん」

 清の兄である大きな河童は、ギロリとこちらをねめつけた。生き残った数人の村人の中でも、まっすぐ俺のことを見つめている。

「……清…本当に、申し訳ないことをした」

「せいちゃん……」

「取り返しのつかないことをした……いくら、世話になった茂雄おじさんの言いつけだとはいえ、やってはいけないことをしてしまった……本当に、本当に申し訳ない。どう償っていいか…分からない……」

俯き、つんとなる鼻の奥を必死にこらえながらそう告げると、清の兄が静かに言った。

「……お前は昔、清を助けてくれた人間の子だな」

「はい」

顔を上げて頷き、清と視線を交わす。

「ではその恩に免じてここは目を瞑る。さぁ、早く自分たちの村へと帰れ」

「………」

何か言いたげだった清に小さく頷き、俺は数名の、戦意を喪失した村人たちに目くばせした。こうなっては、引くことが最上だったからだ。踵を返し、朝日が差し込み始める河童淵を後にしようとしたまさにその瞬間だった。


 パァン!


 乾いた轟音が森に鳴り響いた。銃声だとすぐに分かる。しかしどこからどこへ向かって放たれた?辺りを見回し、そして背後へ視線を送った瞬間…その恐ろしい光景に俺は足元から崩れ落ちそうになった。

「兄者?……兄者!!」

 清の兄は胸に一発の銃弾を受け、そのまま崩れ落ちるように倒れたのだった。


 ****


 兄者が倒れた。

 強くて、大きくて、いつも優しかった兄者が私の目の前で倒れた。胸に銃弾を受けて、おびただしい量の血を流して。

 掠れた声で私の名を何度も何度も呼んで……そして瞳が光を失った。朝日はたくさん降り注いでいるのに、もう兄者の目は光を宿すことはないのだ。

 しかし、悲しみに浸る間もなく、せいちゃんの背後からは無数の銃弾が飛んできた。とっさにせいちゃんが私の腕を取って庇うように地面へ倒れこんだ。また何人かの河童が倒れ、父上も腕に傷を負った。兄者が倒れ、父上がケガをした今、もう河童族で戦える者はいない。

「……都の援軍だ」

「え」

私を抱きかかえながら、せいちゃんが呟いた。

「茂雄おじさんが言ってたんだ…都の援軍が来るって。それで、河童たちを全滅させるって言ってたんだ」

「そんな……どうしよう」

「清、大丈夫。お前のことは守るよ…あのときみたいに」

いつのまにかせいちゃんの手が私の手をしっかりと握っていた。人間の体温と河童の体温は全然違う。せいちゃんの手は、ものすごく温かいんだ。でも、せいちゃんには冷たい思いをさせちゃってるかな…。

「撃たないでくれ!!」

 すぐそばまで迫ってきた都からの援軍に向かって、せいちゃんは立ち上がり叫んだ。

「彼らにもう戦意はない。河童の血も、もう十分なはずだ……終わりにしてください!」

「清一郎!私の言うことが聞けんのか!」

援軍を先導していた男性…茂雄おじさんと呼ばれていた男性が、河童淵の開けたところまで進んで来て姿を現した。

「お前をここまで育てたのはこの私だ…私の援助がなければ、私の指南がなければ、今のお前はないんだぞ?!菅谷村がどうなってもいいのか?菅谷村の将来を、お前はくだらない正義感でつぶす気か?!今なら間に合う、早くこっち側へ来い。もう時代は変わったんだ…さぁ、清一郎!早く!」

「目を覚ましてください、茂雄おじさん……俺は、もうこんなむごいこと、止めてほしいんだ…!」

せいちゃんが一生懸命訴えているのに、茂雄おじさんの表情は少しも変わらなかった。あんなに冷たく恐ろしい顔をしている人を、私は見たことがない。彼は忌々し気にため息をつくと、背後に控える都の援軍に合図を出した。

「残念だよ、清一郎……一同、構え!」

せいちゃんの手が、私の手をより一層ぎゅっと握りこんだ。もう助からないの…?私たち…せいちゃんも、みんな死んじゃう?そんなのダメ!

「やめて!!」

どうすることもできず、空に向かって力いっぱい叫んだ、まさにそのときだった。


「皆の者、放て!!」


その号令は、なぜか頭上から聞こえてきた。都の援軍に向けての指示じゃないの?銃弾が降ってくるんじゃないの?そう思ったのに、代わりに降ってきたのは、矢の雨だったのだ。

「わぁぁぁっ!!!」

援軍のいる場所だけに、鋭利な矢が降り注ぐ。その矢は防具を貫き、武器を砕き、兵士たちの肉を割いた。あれだけの矢を降らせるのは誰なのか……河童族にはそのようなことができる者はいない。じゃあ一体……。

「おっふぉっふぉ、間に合ったようじゃのぉ」

「っ、白じぃ?!」

どこから来たのか突然背後に背中の曲がった白じぃが現れた。そして空を仰ぎ見る。

「わしのコネでな、ちと力を借りてきたわい」

「あれは……」

 空を舞う影。大きな翼に一本歯下駄。長い鼻に赤ら顔……古くから河童族とも親交のある、天狗の一派だ。

「遅れてすまん……おぬしらの同志の仇、我らが取ろう」

 その後の戦況はもう目も当てられない程、圧倒的に天狗族が優勢であった。彼らは元々修験者の一派で、森で厳しい修行を重ねているため妖怪の中でもかなり屈強な一族であった。都から来た鉄砲隊は壊滅し、撤退を余儀なくされた。人間の血も、多く流れたのである。

 辺りは人間と河童の亡骸と血の匂いがひどく立ち込めていた。あまりに悲惨なその光景が、「どこでどう間違ってしまったのか」というどうしようもない問いを、繰り返し心に響かせてくる。菅谷村では河童と人間が仲良く暮らしていた。せいちゃんは茂雄おじさんにお世話になっていた。もうすぐ…祝言を、あげる。いいことばっかりだったはずなのに、どうしてみんな死んじゃうことになったの?

「……もう…終わりにしようよ……ねぇ!ねぇ、みんな、もうやめようよ!!」

「清…」

涙が止まらなかった。でも、この叫びを、この訴えを止めてはならないと思った。

「もう十分だよ…っ…せいちゃんは、もうすぐ祝言あげるんだよ……幸せになるんだよ?もう悲しいことはやめてよ!誰も殺さないで、お願いだよぉ……!」

 天狗たちに私の声は届かなかった。矢は降り注ぎ、父上も白じぃも、それを止めようとはしない。人間の全滅という結果をただただ静かに待つ……この場にいる妖たちが皆それを望んでいるように見えた。

「人間は一人残らず弓で射てしまえ!妖の力を貪らんとする卑しき者どもよ、冥府で己の業を悔いるがよい!」

 そのときだった。恐れていたことが現実のものとなったのだ。天狗の一人が弓を引き絞り、矢の切っ先をせいちゃんに向けたのである。

「っっ……!!清、逃げろ…!!」

 滑空しながら一気に距離を詰めてくる天狗。ぎろりと目が光り、鷹のようにせいちゃんを捕捉した。

「だめ、いやだ……せいちゃんっっ!!」

 バシュン!空を切る音がひと際大きく、河童淵に響き渡った。


6.収束


 この戦いで放たれた最後の矢は、河童族の姫の胸に深々と突き刺さった。

 その姫を抱きとめたのは、人間の青年だった。

「清!……しっかりするんだ、清!!」

光を失いかけている青灰色の瞳に、清一郎は必死に声をかけた。長いまつ毛が落ちそうなりながらも呼びかけに応えるようにゆっくり持ち上がる。

「……せいちゃん……ケガ、してない?」

「ああ、俺は無事だよ…お前のおかげで、どっこもケガしてねえよ」

「よかった……恩返し、できたね……」

「そんな、そんなのどうだっていいんだよ…清!だめだ目を閉じたら!」

閉じかかる瞳に何度も訴える。矢が刺さった胸元からは血が溢れて止まらない。清一郎の着物はあっという間に血の色に染まった。

「お前、あのときの河童だったんだな……気づかなくてごめん。お前のことも、お前の家族も、たくさん傷つけて…本当に、本当にごめんなぁ……」

「せい、ちゃ……」

 清の声はどんどん掠れて小さくなっていった。まるで命の灯が消えゆくのを現しているかのように。

 清一郎の懺悔に、清は微笑んだ。

「……ありがと……ありがとう…あえて、うれしかった」

つないだ手の、握り返してくる力が弱まっていく。呼吸が浅くなっていっているのが伝わってくる。もう残された時間はかなり少なくなっていた。

「……だいすきな、せいちゃん…しあわせに、なって……」

「清…清……!!」

 やがて、すぅっと一呼吸したかと思うと、清は微笑みながらゆっくりと目を閉じた。その瞳からは最後に一滴の涙が流れ落ち、もう二度と……その瞳が開くことも、呼吸がなされることもなかった。力を失った清の亡骸は、清一郎の腕の中でだらりとうなだれた。

「っ、清ぉ……!!」

 旅だった河童の姫を、生き残った者たちが囲んだ。河童の長、天狗たち、付喪族の年寄……皆一堂に俯き、この悲しい結末に静かな祈りを捧げた。

「最も清らかな心を持つ者の魂が、今肉体を離れた」

「しかしこの悲しみは、これで終わりはせぬ」

「始まった…全ては始まったのじゃ」

 妖たちの言葉が、収束を迎えた河童淵にこだました。多くの犠牲者を出したこの戦場には、いつもと同じように柔らかい穏やかな風が吹き抜けていったのだった。



 こうして菅谷村は、そこに住んでいた全ての河童と村人の大半を失い、解体され近隣の村に統合された。

 久原茂雄は戦の真実を隠蔽し、全ての罪を妖怪になすりつけ、河童と天狗を根絶やしにせよと人々に訴えた。何も知らない者たちは妖怪を恐れ、憎むようになっていった。

 河童たちは、河童砦と河童淵をつなぐ水中洞穴に結界を張り、二度と人間と関わり合いを持たないこととする掟を定めた。以降彼らは、砦の中でひっそりと暮らしていくことになる。

 さきの事件があり、清一郎と愛子の祝言はふた月先に伸ばされた。菅谷村が解体となったので、祝言は村で挙げ、その後は都に住まいを移すことで話が進んでいた。茂雄の娘である愛子と夫婦になることは清一郎にとって苦痛でしかなかったが、清の最期の言葉…「幸せになって」という言葉の意味はおそらく、祝言を挙げて幸せになれという意味だったのであろう…清の遺言を守るためにはこの祝言を挙げるべきだと彼は判断したのである。



 祝言の前夜、清一郎は一人、河童淵に来ていた。あれから毎日、清一郎はここを訪れ水中洞穴のあった方角へ向かって手を合わせている。そして、二言三言、まるで清に話しかけるように報告をするのだった。

「清…明日、いよいよ祝言をあげるよ。俺、正直まったく気乗りしないんだけどさ、幸せになれってお前の言葉、守らなきゃなって思うから」

静かな河童淵は何も返してくれない。提灯の明りがぼんやりと辺りを照らしているが、もう河童の気配はしなかった。本当にそんな生き物が存在したのか疑ってしまうほど、なんの痕跡も残さずに彼らは消えてしまったのだ。

「……清…」

「気乗りせんのならやめてしまえばよい」

「うわぁっっっ!!」

 暗がりの中、気配もまったくしなかったのに突然真後ろから声がして、清一郎は叫び声をあげて飛びのいた。そこには、水色の着流しを来た男が立っていた。見たことのない男だが、なぜかどこかで会ったような気がする。

「だ、誰だお前……」

「幸せになれって言ったのは、気乗りしない祝言を挙げろって意味じゃなかったはずだよ。ねぇ君、そうやってまた『あの人がこう言ってたから』って言い訳して逃げるつもりかい」

「…なんだって…?」

男に挑発され、清一郎は眉根を寄せる。

「茂雄おじさんが言ったから、愛子さんが言ったから、清が言ったから……だから仕方ない…そういってあの悲劇を招いたんじゃなかったかな?」

「お前、なぜ知ってる…茂雄おじさんのことや清のこと」

いぶかしむ清一郎に応えることなく、男はせせら笑って受け流すように言った。

「あのような悲劇はなにもここだけの話じゃないのだよ。日本のあちこちで今、似たような出来事が起きている。だのに君はここで納得行かぬ嫁と嫌悪を抱いている舅と共に生きるつもりなのかい?あのようなおぞましき悪事に手を染めたというのにね」

「っ、うるさい!!お前に何が分かるんだ!!俺は、俺は……!」

「分かっているとも」

すると男は急に清一郎と距離を詰め、彼の手を取った。まるで人間とは思えない身のこなしに驚きを隠せずにいると、男はひと房の束のようなものを彼に渡した。

「清一郎よ、君は人間と妖怪の懸け橋になれる人間だ。君の身に起きたあの悲しい出来事への償いは、祝言を挙げることじゃないことぐらい分かるだろう?その髪に誓いたまえよ…二度とあのような悲劇を起こさない、と」

「この、髪…?」

清一郎は、赤い紐で結ばれた房をしげしげと見た。確かに髪の毛のようだ……。

「まさか、これは」

「無理言って、形見分けしてもらったんだよ。大事にするといい」

「待ってくれ、そんな、お前のような人間風情が、どうして清の髪を…!」

「人間風情に見えるかい?……なら、『わしもまだまだ現役じゃな』」

「?!」

 男は、その風貌に似つかわしくない老爺のような口ぶりでそう言い残し、再び闇夜に姿を消してしまった。清一郎には覚えがあった。あのとき、傍らにいた老爺……天狗を呼んだと清に言っていた、そして最期の瞬間を見守っていた、あの人だ。

「……清…」

 清一郎はそのひと房の髪を掴み、一目散に走った。そして自宅に戻ると、慌てて転がっていた荷物をまとめた。

 そして、誰にも告げず、誰にも悟られることのないまま、静かに…村を出ていったのである。



 清一郎は旅立った。

 それは、償いの旅であり、弱い自分と決別する旅でもあった。アテはない。行先も分からない。ただ、ここにいて漫然と過ごすことだけは、あってはいけないことだと理解していた。

「清……」

 その旅の原点となった者の名前を口にして、清一郎は一歩、また一歩踏み出す。

 空はあの夜と同じ新月だったが、星がきれいに瞬いて、旅立つ彼を煌々と照らしてくれていたのだった。

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