ローパー退治
―――外から光が差し込み、目が覚める。
ぼんやりした視界に、紫色と青色の髪が揺れる。
「……ん?ああ……おはよう……。」
二人がいることに気付き、声を掛ける。
どうやら、声も掛けずに待ってくれていたようだ。
「「――おはようございます。」」
二人は優しく微笑み、嬉しそうに挨拶を返してくれる。
今日もいい朝だ。
最高の朝だ。
なんて幸せな日常なのだろう。
起床後、朝食の支度をして食べ始める。
そうだ、昨日は金を使い過ぎたんだった……。
朝食を食べながら思い出す。
これは……稼がねば!
懐に全く余裕がないというわけではなかったが、二人には貧しい思いをして欲しくはない。
俺が命懸けで少し大変な思いをすれば、この二人が幸せに過ごせるというのなら、俺は頑張りたい。
今日は、少しだけ頑張ろう。
「あの……今日は少し、難しい依頼を受けませんか?」
考えていると、ベルが口を開く。
「はい、私もそう考えていました。」
ミオもそれに続く。
なるほど、二人も俺と同じことを考えてくれていたようだ。
みんな同じことを考えていたなら、これは反対する理由もない。
「――ああ、俺も同じことを考えてた。そうしよう。」
二人とも、肯定の返事をくれた。
ギルドへ到着し、掲示板を確認する。
「――ローパーか……。」
最近に比較すると、少し難易度が高い。
だが、うまく行けば一、二ヶ月程度は安心して生活できそうな報酬を貰える依頼だ。
「……どうだろう……?」
念のため、ミオとベルの意見も確認する。
「――問題ありません!」
ベルは即答する。
「私も……いいと思います。」
ミオは少し考える。
難易度と報酬のバランスで悩んだのだろうが、肯定的な返事をくれた。
ローパーとは、その名の通りロープのような触手を持つ。
『人間よりも少し大きな植物の柱』とでもいったところだろうか?
やつらは、動きは遅いが移動ができるため、樹木というわけではない。
そんなモンスターだ。
そのローパーが、ここから少し離れた洞窟に生息し、商人や洞窟の前を通った人たちを襲っているため、それを退治してきて欲しいというものだった。
この洞窟は、深い所まで入れば宝石の採掘もできる場所だ。
だが、今回はそこまで深い所に行く必要はなさそうだ。
また、今回の依頼にあるローパーがいる洞窟の前には、なぜか大きな赤い門のようなものがあるらしい。
ちょうどいい目印になって助かる。
聞いた話から考えるに、あっちの世界の神社なんかの前にある鳥居だと思われる。
そんなわけで、今回は動きやすさも考慮し、二人には巫女服を着てもらうことにした。
洞窟は暗いしな。
断じて、適当な理由を付けて二人に巫女服を着てもらう口実というわけではない。
とはいっても、偶然家の倉庫にあったそれっぽいものを見繕っただけなので、似非巫女服とでもいったところだろうか。
袴の丈は短い。
要は、赤いミニスカートのようになっている。
ギルドで着替えを終え、出てくる。
「――動きやすくて軽いですね。それに、身が引き締まるようです!」
ミオがいう。
「――どうですか?アイラさん?可愛いですか?」
ベルが聞いてくる。
二人とも気に入ってくれたようで、嬉しそうだ。
それにしても……これは可愛い!二人とも可愛い!
今後もっといろいろな服を着てもらってもいいかもしれない――。
さっそく、洞窟へ続く森を抜け、目的地へ向かう。
「――あった。これか……。」
鳥居だ。
間違いなく鳥居だ。
完全にあっちの世界の人間が関わっているだろう。
こうやって鳥居越しに見ると、洞窟もいわく付きに見える。
ここからなにか不気味なものが出てきてもなにもおかしくないと思えてしまう……。
――いや……逆か……。
むしろなにかが起こった結果、誰かが目印かなにかのために、ここにこんなものを造ったのかもしれない。
大きく薄暗い口を開けた入り口が、目の前に広がる。
あっちの世界の象なんかであれば二、三頭は軽く通り抜けられるだろう。
そのため、薄暗いながらもそれなりに深くの方まで光が差し込んでいる。
視界はよくないが、明かりを点けるほどではなさそうだ。
さて、じゃあ、さっそく……。
「――二人とも、準備はいいか?」
「――はい。シフタ、ア-マー、ファースト。」
ベルが返事をし……補助呪文を唱える。
一歩洞窟に踏み込めば、いきなり襲われるかもしれない。
さすがベル、いい判断だ。
身体が強化されたのを感じ、洞窟内に進んで行く。
歩き進み、暗くなり始めたなぁ……なんて思った頃に、ぬるりとした嫌な気配を感じた。
――いた、ローパーだ。
暗い色で、壁とほぼ同化しているため識別しづらいが、確かに動いている。
体表は……茶色っぽい。
暗い洞窟で身を隠すには適切な色といえるだろう。
二人の方を振り向き、目配せで合図を送る。
――先手必勝!ベルの補助魔法も掛かっている!
補助のおかげでいつもよりも素早く動ける!
俺は、飛ぶように突進する。
いや、した……はずだった……。
「――あ、痛ったー!」
転んだ――。
顎から……。
スピードも出ていたせいで……これは痛い……。
涙が出ちゃう、だって男の子だもん……。
だが、そもそもそんな余裕すらもなかった。
ローパーの触手に足を取られている。
こちらに気付いたローパーの触手に足を絡め捕られている。
いや、あるいはローパーは、俺が突進する前からすでに気付いていたのかもしれない。
なんて情けない……。
とほほ……。
などと考えている余裕もなく、足を絡め捕られた触手に、本体の方へとジリジリと引き寄せられる――。
「――ウィンドカッター!」
ベルの声が聞こえると同時に、引き寄せられる力から足が解放される。
ベルは俺が捕らえられたことに気付き、すぐさま足に絡んでいた触手を切断してくれたのだ。
急に解放されたため、引っ張られるのとは反対側へ反発していた力のせいで、俺はまたもや転んでしまう。
今度は顎を打ち付けるのを避けられただけでもよしとしよう。
「――アクアスライサー!」
俺が解放されたのを確認し、空かさずミオが水の刃をローパーに向けて放つ。
心なしか、いつもよりも多めだ。
ローパーはバラバラになる……。
まったく……今日の俺は本当に情けない……。
「――くっそぉ……。」
その恥ずかしさと悔しさから、口からそんな言葉が零れる。
俺は、倒したローパーに近付く……。
確かに倒したのを確認し、三人の空気が安堵の空気に変わる――。
さらに奥側も警戒し、俺は目を細める……。
これより奥には、なにもいないようだ。
これで終わりか……。
「――きゃあ!」
突如、うしろからベルの悲鳴が聞こえる。
「――あっ!いやっ!」
少し遅れてミオの声も聞こえる。
――振り向く。
入り口側だったこともあり、倒したローパーの時とは違い、すぐに判別できた。
洞窟の両側の壁にそれぞれ一体ずつ、ローパーがいる。
――しまった!挟み撃ちか!?
もともとそこに潜んでいたのか、初めの一体を倒している間に洞窟の外から入ってきたのかは分からない……。
奥のローパーはすでに倒しているが……。
これは不味い――。
二人の手足には触手が巻き付き、軽々と本体の方へ引き寄せられている。
あっという間に本体の体表へと磔のように捕らえられてしまった。
体表のどこから出てきたのかもわからない、無数に生えた何本もの触手に絡め捕られている。
「――あっ、んっ……いや……。」
ミオの声が聞こえてくる。
本体の身体はぬるぬるとしている。
気持ち悪いのだろう。
「――嫌です!気持ち悪いですっ!」
ベルも悲鳴混じりの声を出す。
無数の触手で身体を弄り回される。
触手は様々な形のものがあり、いろいろな違う形のものが生えている。
太い触手に毛のようなさらに細かい触手が付いているもの、触手の先端が細かく分かれているもの、触手の先が開いていて口のようになっているものなど、多種多様だ。
「――あっ……ん……んんっ……!んあっ――!」
よく見ると、いくつかの触手はすでに巫女服の中へと入り込んでしまっている。
「――ん……んあ……ふぁ……!んっ……いっ……。」
二人の声は、艶っぽいものへと変わっていく。
触手で身体を弄り回すローパーは、身体から甘い匂いを放出している。
弱いながらも媚薬のような効果があるらしい。
昆虫を捕らえる植物のようだ。
二人ともが捕らえられ、俺はどう助けるか、どちらを優先して助けるかを迷ってしまう。
今日の俺は本当に情けない……。
いや、いつもしっかりしているというわけではないが……今日は特別情けない。
「――はぁ……はぁ……。んっ……はぁ……んあっ――――!」
そうこうしている間にも、二人の表情はますます蕩けていく……。
――――ビリィッ!!
ついには、ミオの服の中に入り込んでいた触手が、そのままミオの服を引き裂いてしまう。
「――ああ……!いやぁ……。」
ミオは弱々しく悲鳴を上げる。
気付けば、ミオの大きくて綺麗なバストも、その身体の大事な部分も、すべてが露わになっていた。
そんな敏感な部分に、歯の代わりに細かい触手の付いた口のようになっている触手が、咥えるように取り付く。
「――――んんっ!ああんっ!!」
それと同時に、ミオが一際大きな嬌声を上げ、ぐったりとする。
――これは……迷っている暇はない――!
幸か不幸か、ベルの巫女服はまだ無事だ。
ベルには悪いが、まずはミオを助ける――!
両手に短剣を構え、集中し、周りの状況をよく観察する。
ミオを磔にしているローパーをしっかりと視覚で捉え、確実に刃を叩き込めそうな部分を直視する。
幸いにも、ベルの掛けてくれた補助魔法はまだ残っている。
――これならいける!
最大限集中し……突っ込む――!
ローパーはそれに気付き、無数の触手で刺し穿つように俺を攻撃してくる。
その触手を見切り、身体を回転させながら躱す。
本体に到達するまでに邪魔な触手を切り落としつつ、ローパー本体に接近する。
「――てりゃあ!」
自分の気持ちを押し上げるためか、そんな声が出ていた。
―――ズブゥ!
ギリギリまで接近し、短剣の一本を胴体に突き刺す――!
そのまま、真っ二つにするよう――切り裂く!
ミオを捕らえていた触手からは力が抜け、ミオはぐったりと地面に倒れこむ……。
「――無事か!?ミオ!!」
ミオを抱き上げる。
無事なわけがあるか。
全裸な上に顔も赤らんでいる。
「――はぁ……はぁ……。だ、だい……じょうぶ……です……。」
熱い息を切らせながら、どうにか返答してくれる。
とりあえず、致命傷はないようだ。
――安堵したのも束の間だった。
俺の足が触手に捕らわれ、逆さ宙吊りの状態で持ち上げられる――。
なんて力だ……。
引き裂き、倒したと思っていたローパーは、まだ絶命していなかった。
ミオを抱き上げる際、武器は地面へと転がしてしまった。
「――ちくしょー!――アイスバレット――!」
空間から、銃を両手に取り出す。
弾丸に氷の魔力を込め、俺の足を捕らえたローパー目掛けて撃ち込む!
――ダンッ!ダンッ!ダンッ!――――!!
弾丸が命中した場所が凍り付き、次の弾丸が凍った場所を砕きながら、さらに凍らせていく。
それを、ローパーが絶命するまで続ける――――。
――ローパーは……完全に沈黙する。
足を捕らえていた触手から解放され、そのまま落下。
俺は、頭から落ちる――。
「――あ、痛ったー!」
――ちくしょー!どうして今日はこうも格好よく決まらないんだ!
弾丸も無駄使いしてしまった……。
まぁ、仕方ない……倒せただけよかったとするか……。
だが、ローパーはもう一体いる……。
ベルを、助けなければならない――。
「――――はぁ、はぁ……んっ……。ああ、いやぁ……!んっ……んん……んんっ……!はぁ……はぁ……。」
ベルの表情は蕩け切っていた。
服は完全に剥ぎ取られ、ぐったりと力なく息を切らせている。
疲弊し、ローパーの触手にされるがままだ。
薄暗く、また、距離もあるためよくは見えないが……小さな胸の頂点を触手でころころと転がされている。
下半身もまた同様だ。
「――ん……んんっ!あっ、あっ――あっ……!!あぁぁぁ……っ!」
―――ぷしっ、ぷしゅううう…………。
ベルが目を見開き、諦めたように悲鳴を上げるのに合わせ、液体が噴き出す。
気付くと、ローパーの足下……いや、正確には捕らわれているベルの下には水溜まりができていた……。
「――はぁ、はぁ……はぁ――。」
ベルは息も絶え絶えだ。
一刻も早く助け出さなければ!
さすがに不味い!いろんな意味で!!
地面に転がった短剣を拾い上げる。
さて……どうするか……。
ベルの補助魔法の効果もとっくに消えている……。
ミオは……どう見ても動ける状態ではない……。
くそ、これは――。
短剣をしまい、代わりに双銃に持ち換える。
あんな状態のベルを見たら、さすがに弾丸が勿体無いなどとはいっていられない。
ベルを傷つけないよう、ギリギリまで接近してゼロ距離射撃。
思い付く方法はこれくらいだが……。
問題は、接近方法とどうやってベルを開放し、ローパーを撃滅するかだ。
ローパーを倒すことができれば、当然ベルを解放することができる。
だが、ベルを解放しさえすれば、高威力の攻撃、魔法にてローパーを一撃で仕留めることもできるだろう。
それなら……やはり、ベルの解放を優先しよう。
まずは、ベルを解放することが最優先だ。
こうして考えている間にも、ベルの身体はローパーに好き勝手に弄り回されている。
卵のようなものが大量に入った、ローパーの透き通った太い触手が揺れる。
なんとしてでも、一刻も早くベルを救出する必要があるというわけだ。
俺は、短剣を一本、手元に取り出す。
それを、洞窟の奥側、その側面の壁に向かって……力一杯投げ付ける――。
「――刺さった!」
あとは……全力で入り口に向かって走る――!
敵一体の横を通り抜けるくらいは容易い。
そう、つまり……。
――二人を置いて逃げる!!
わけではない……。
捕らえられたベルと、ローパーの側面に回り込む。
――俺は……イメージする……。
自分の持っている銃、その弾丸に、魔力を乗せる……。
そして――。
「――――レールガン!!!」
叫ぶ。
奥の壁に刺さった短剣を狙って……いや、それは狙う必要もなく、引き寄せられているといってもいいだろう。
電撃の魔力を限界まで乗せた弾丸が、短剣という避雷針に向かって一直線にローパーの身体を貫く!!
「――んんっ!!んっ……!!いううううう――――っ!!!」
ベルの嬌声が聞こえる。
―――ぷしゃああぁぁぁ………。
瞬間的に電撃の光に照らされた薄黄色の液体が、ベルの下半身から噴き出したように見える。
ベルはびくびくと細かく痙攣する。
一瞬といえど、それなりに電気が込められた弾丸だ。
電気の刺激によりピリッとするだろう。
だがそれ故に、瞬時にローパーの身体を貫く攻撃手段を取った。
ぬるぬるとした、水分が豊富な身体のローパーだ。
電撃による攻撃は効果が高いだろうが、確実にベルにも大きなダメージを与えてしまう。
そのため、弾丸と電撃による瞬時の攻撃。
これにより、ベルへのダメージを最小限に抑えられるというわけだ。
予想外だったのは、思っていた以上にベルの身体が敏感になっていたことだろうか……。
――――電撃によって怯んだローパーへ一気に接近し、ゼロ距離射撃にて銃弾を何度も撃ち込む。
――ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!――――!!
触手の締め付けが緩んだ隙を突き、ベルを助け出し、ミオのいる洞窟の奥側へと一気に距離を取る。
小さい身体のベルだ。
抱えて少し離れるくらいのことなら俺でもできる。
ローパーは、まだ倒し切れてはいない……。
――ダンッ!ダンッ!
氷の魔法を乗せた銃弾を撃ち込んでみる。
だが、距離があるせいか絶命させるほどの効果はなく、時間稼ぎ程度にしかならない。
どうする……。
さすがに二人を抱えて逃げることなんてできない……。
「――ベル。大丈夫か?」
取り返したベルに声を掛ける。
「――だい……じょうぶです!」
ベルは意識を失ってはいなかった。
「――もう、許……しませんっ――!」
フラフラとしながら立ち上がる。
力ないが……力強い!
痴態を晒してしまった恥ずかしさからか、好き勝手に身体を弄られた怒りからか、ベルは、力強くローパーを見据える。
―――ベルは強い子だ。
身体は小さくて控えめな性格ではあるが、芯はある。
こんなにフラフラになりながらもまだ立ち上がれる気力があるほどだ。
そして――。
「――――サイクロン!!!」
ベルは、魔法を放つ。
風の魔法だ。
洞窟を崩さないようにするためか範囲は抑えてあるようだが、その分一点集中し、威力を増加させている。
それは、超局所的な極大威力の台風のようだ。
――その風の魔法は、ローパーの身体をバラバラに切り裂きながら、洞窟の外へと吹き飛ばしていく。
さらには、入り口付近にも潜んでいたもう二体ほどの他のローパーを巻き添えにする。
鳥居を潜り抜け、粉々になった三体分のローパーの破片を吹き飛ばしながら、その魔法は空えと消えていった――――。
「――はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………はうぅぅぅ――――。」
全力で魔法を放ち、息切れしたベルは、そのまま倒れるように気を失ってしまった。
ミオには羽織るものを渡す。
まだ回復し切ってはいないフラフラなミオを歩かせるのは申し訳なくも思ったが、俺はベルを抱き抱え、家へと帰宅する。
二人には、動けるようになったら風呂に入るようにいった。
俺はギルドへと依頼の報告に行く。
結果的に五体のローパーを倒していたようで、予想していたよりも多く……三ヶ月は不自由なく暮らせる程度の報酬をもらった。
用が済み、家に帰る。
今日は二人があんな調子であるため、俺が食事を作ってみんなで食べることにした。
二人ともかなり疲れているのか、熱でもあるように怠そうにしていて、食事中はほぼ無言だった……。
ちょっぴり寂しい……。
かくいう俺も、当然疲れている。
さっさと風呂で汚れを落として、眠ることにした。
うとうととし始めた頃だった。
人の気配がし、眠りに落ちるのを妨げられる。
「――はぁ、はぁ……アイラ……さん……?」
ミオの声だ。
「――どうした……?」
驚き、目が覚める。
「――わたし……ダメ、なんです……身体が……熱くて…………。」
暑くて寝苦しいということだろうか?
今日は涼しいほうだが……いや、なんなら少し寒いくらいだ。
やはり、熱でもあったのだろうか?
「――寝苦しいのか?」
起き上がり、一応聞いてみる。
「――ベルさんばっかり……いつも、大事にして……ずるい、です……。私にも……私だけに優しくして、欲しいです……。」
目に涙を溜め、うるうるとしながらそんなことをいう。
少し涙声ですらある。
というか……会話になっていない。
まるで、酒にでも酔っているような…………。
……酔っている?
自分で考えていて、なにかが引っかかる。
目が覚めたといっても、うとうととしていたのだ。
完全に頭が回っているわけではない。
「……俺にとっては、ミオもベルも大事なんだ。どちらかだけに特別扱いはできない。」
一応弁解してみる。
……ん?二股掛けてるやつのいいわけみたいになってるが……そうなんだから仕方がない。
とりあえず、これで引き下がってくれると助かるんだが……。
「――じゃあ……触って……下さい…………。」
――――ん?――え?……なんて……?
「――身体が……熱いんです……。私の身体……触って、慰めて……もらえませんか……?」
スルスルと着ていた服を脱ぎだす。
「―――っな――。」
驚いて声が出なかった。
「―――なにしてるんだっ!?」
ようやく声を絞り出す。
「……触って……ください…………それとも……やっぱり、ベルさんの方が、いいんですか……?」
泣きそうな声でそんなことをいってくる。
「――そんなことはない!ミオのことは大切に想ってる!!」
「――だったら……!!」
ミオがいい掛けた時、もう一つ人影が見える。
「…………あの……アイラ……さん……?」
――ベルだ。
最悪のタイミングだ……。
いや、もちろん、ベルからもすでにミオの姿は見えているだろう。
ただ、なにを話しているかまでは分からないはずだ。
「……えっと……その……すごく、いいづらいんですが……なんだか、その……身体が、ムズムズして…………。」
ほほぉ……なるほど、こりゃあれだ。
修羅場ってやつか。
なんだ?この天国と地獄が同居しているみたいな状態は……。
いつから付き合い始めたの!?いつの間にそんなに深い関係になってたんですか!?
心の中で、同居する天国と地獄にそんな突っ込みを入れる。
こともあろうに、気付けばベルも一糸纏わぬ姿になっている。
なんてこったい……。
こりゃあ……あれだ。
あれがあれであれがあれだったからあれなだけだよ。
うん、きっとそうだ。
ダメだ……。
頭が回らない……。
なんなんだこの状況?
一体、どうすればいい?
――どうしてこうなった?
二人とも昼間の依頼で疲れておかしくなったのか……?
――ん?……あれ?昼間の……依頼…………?
――――……そうか……ローパーか――。
あの媚薬効果のある匂いだろう。
まだ、効果が続いているというわけか……。
これは……参ったな……。
いや……嬉しいよ?嬉しいけどね?
全裸の可愛い女の子二人に迫られるとか、男なら誰しも一度くらいは夢見たことがあるだろう?
でも、これは……ここは、我慢しなくちゃいけない場面なんじゃないか?
二人は酔っているみたいな状態なわけだし、こういう状況で欲望を剥き出しにするのは、ズルいことなんじゃないのか……?
「――あの……わたし、どうしたら……?」
俺がそんなことを考えてパニックになっていると、長時間の無言に堪えられなくなったのか、ベルが口を開く。
――いや、俺が聞きたいよ!なにこれ!なにこれ――!?
――どうしたらいいの!?
「――ダメ……ですか?お願いします!いっぱい……触って欲しいんです!私を……その……抱いて……くれませんか……?」
ミオも口を開く。
――待て待て待て待て!!
――ダメだろ!それはいっちゃダメなやつだろ!!
いやね、この家で三人暮らし、男の俺が一番スケベだと思っていたけれども……。
――違うのね!?この家で一番スケベだったのはミオさんだったわけだ――!!
……まぁ、なんにせよ……いつまでも無言でいるわけにもいかない……。
……なにかいわねば……。
「…………えっと……二人は今、昼間のローパーのせいで一時的に精神的に不安定な状態になってるんだと思うんだ。だから……今日はみんな、それぞれ寝ることにしないか……?」
うん、真実を伝えて、どうすればいいのか伝えた。
よく頑張った!俺の理性!!
これ以上の回答はないんじゃないか!?
むしろ、なにかご褒美があってもいいくらいだと思うわけよ、これ!
「はい……。」
ミオは、艶めかしい声で静かに肯定の返事をする。
一段落といったところか……。
俺はその返事を聞いて、布団を被り、二人のいる方に背を向けて横になる。
――だが、油断したのが失敗だった。
ミオの手が……静かに俺の掛布団に伸びてくる。
「……わたしも……いいですか……?」
ベルも便乗するようだ。
……ん?どゆこと……?
布団に冷たい風が入り、一瞬寒気があったあと、背中に体温を感じる。
―――え?なに?なんで!?
ベルも同じく布団の中に潜り込み、俺の前側に回り込んでくる。
「――んあっ!んっ……はぁ……はぁ……。」
背中側からはミオのセクシーな声が聞こえてくる。
自分の敏感な部分を弄って快感を得ているらしい。
「――ちょ、ミオ!」
「――はぁ、はぁ、はぁ…………はい、ばんざーい。」
酔ったような声でいいながら、俺の服に手を掛け、ほぼ強引に脱がされてしまう。
……あれ?ベルは……?
下半身の辺りでなにやらもぞもぞと動いている。
これはまぁ……間違いなくベルだろう。
「えへへ……。」
ベルは柔らかい顔で笑いながら、潜っていた布団から顔を出し、なにやら見慣れた……いや、さっきまで俺が下半身を守るために装備していた薄い防具を剥ぎ取っていた。
なるほど、つまりこれはあれだな。
今、一枚の布団の下に、産まれたままの格好の三人が一緒に寝てるわけだな……。
――――なんでさ!?
このほんの僅かな時間に一体なにがあったんだ!?
なんで、どうしてこうなった!?
「――ん……はぁ、はぁ、はぁ……。」
ミオが俺の背中に抱き着き、身体を擦り付けてくる。
快感を得るため、自分で敏感な部分を刺激しているようだ。
「――んんっ……!んあ……やぁん……んっ…………。」
ベルも同じようなことを始める……。
――違う。
俺の求めていたご褒美というのは、これじゃない。
いや、ものすごく素敵なご褒美だけれども!これではない!!
あと、俺がいったのは……みんな、それぞれ寝ることにしないか?だから!
みんなで、それぞれで寝ることにしないか?ではないからね!?
そんなわけで……俺はただただ黙って堪えることしかできない……。
二人がそれぞれで満足するまで、俺は堪えなければいけないのだ……。
――いや……無理だろ!!
そう思った直後だった――。
「―――んんっ!んっ、ああああああっっっ――――!!」
俺の身体の前後で、ほぼ同時にそんな嬌声が発せられる。
「――はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………。」
荒い息遣いが聞こえ……。
「すぅ……すぅ…………。」
息遣いは安らかな寝息へと変わった……。
――――俺!……生殺しじゃんか――!!
そんなことを思うも、二人の温かい体温を感じながら、昼間の疲れもあり、あっという間に眠りの底へと沈んでいった――――。




