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ベルとデート<中編>

辺りは廃墟(はいきょ)に囲まれている。

見渡すと、人が住んでいたと思われる建物は所々崩れ落ち、人の気配がない。

そういうシチュエーションらしい。


周囲に気を配りながら前進する。

すると、建物の陰から人影が……いや、あれは人ではない。

着ているものはボロボロで、顔はただれ、血が出ている。

さらには、どこを見ているのか分からない(うつ)ろな目をしており、口からは不気味な音をさせ、ゆっくりと近付いてくる。

――ゾンビだ。

「――キャッ!」

そう聞こえた後、ドスンと体の右側に衝撃を感じる。

ベルだ。

衝撃のあった場所に首を向けると、ベルが俺に抱き着いている。

明らかにベルではあるのだが、さっきまでとは格好が違った。

背丈や顔は変わらない。

だが、迷彩柄(めいさいがら)の服を纏っている。

そしてそれは、俺も同様だった。

服の素材は固そうで、ある種防弾チョッキのようになっているらしい。


「ベル、大丈夫か?」


「は、はい……。すみません。」


俺の一言で落ち着いたのか、ベルは体勢を立て直す。


普段のベルならこうならなかっただろう。


遊びだからと少し油断していたのかもしれない。


ゾンビの見た目は、吐き気がしたり目を背けたりするほどのものではないが、突然目の前に出てこられれば確かに驚く。


子供でも遊べる程度の見た目ではある。


そんなことをしているうちに、腕を伸ばせば届く距離にまでゾンビが近付いてきていた。


――マズい!


――バンッ!バンッ!


ベルが離れた方の腕を反射的に上げ、引き金を二度引く。


小気味のいい射撃音。


撃っていることが楽しくなるような音だ。


弾は二発とも命中し、ゾンビはうしろに下がるような挙動をしたあと、うしろ向きに倒れる。


視界の右上辺りに二回、50の数字が表示されていた。


しかし、ゾンビは一体ではない。


三体のゾンビが襲い掛かってきていた。


そして、残った一体のゾンビが右腕を振り上げ、その腕を俺に向けて振り下ろす。


俺はそれを銃を持っていた右半身を反らせるようにし、ギリギリのところで(かわ)す。


「――――っ。」


だが、その直後、俺の左腕に衝撃が走る。


――痛っ……くはない。


見ると、左腕にゾンビが噛み付いていた。


噛み付かれた部分にピリッと静電気のような痛みを感じたが、実際に噛み付かれた時ほどの痛みは感じない。


その静電気も演出の一つなのは分かっている。


刺激や痛みを感じなければ、人間は自分の身に対する危険に気付くことができない。

その臨場感を出すための演出だろう。


「――アイラさんっ!」


俺から離れてゾンビから逃げるため、俺の視界の大きく右の方へ離れていたベルの声が聞こえる。


――瞬間。


――――バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!


ベルの持つ銃から銃声が響く。


銃弾は、腕を振り下ろし隙のできたゾンビを二発で吹き飛ばし、俺の腕に噛み付いていたゾンビに三発命中する。


俺はゾンビの噛み付きから解放される。


だが、視界の右上に表示されていた五つの赤い丸の内一つが消滅し、残り四つとなってしまった。

これがなくなると、俺は強制的に離脱させられてしまうというわけだ。


「ありがとう。ベル。助かったよ。」


「はい。こちらこそすみません。」


そんなやり取りをしている間にも、視界には次のゾンビの影が入り込む。


――バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!――――。


二人で次々とゾンビを倒しながら前進していく。


銃の音があまりにも心地よく響くので、射撃することそのものが楽しくなってくる。


ゾンビは、頭部に弾が命中した際には100の数字が表示されると共に一撃で絶命する。


もともと生きているものではないので、絶命という表現が合っているかどうかは分からないが、それで消滅する。


上半身に命中した際には、50の数字が表示され、二発命中させないと絶命させることができない。


下半身の場合は三発だ。


数字は一回あたり30と表示される。


だが代わりに、ゾンビの動きを鈍らせることができる。


弾数に制限はなく、無限に射撃を行うことが可能だ。


絶命し倒れたゾンビに関しては屍を残さない。


倒れたあと、金色の光を散らせながら跡形もなく消滅していく。


そこら中不気味な死体だらけ、ということにはならないようになっているらしい。


――バンッ!バンッ!バンッ!


一体何体のゾンビを倒しただろう。


心地のいい銃声を響かせながら大分進んできた。


目的地とされていた中央にそびえ立つ一番大きな建物内に辿り着く。


だが、ここで終わりではなかった。


目的地はその建物内の最上部らしい。


ゾンビを倒しながら五階建ての建物の階段を上がり、最上部を目指す。


建物の内部は、長い廊下が通っており階段は中央と端側に二ヶ所設置されている。

その廊下にもゾンビたちが待ち構えており、さらには廊下に面している扉からもゾンビたちが飛び出してくる。


ご都合的にも中央の階段は崩れて使えなくなっており、端にある階段に関しても上に上がる度、交互に崩れた状態になっており一階層上がる毎に反対側の階段まで行かなければならなくなっていた。


ようやく五階に到達する。

あと少しで終わりだろう。


だが、五階から屋上に進む階段だけはそこまでのものと違っていた。


端の階段を交互に使いながら四階から上がってきたが、五階に関してだけは、中央までくると端まで進めなくなっている。


その代わりに、中央の階段を上がることができるようになっていた。


階段を上がり、屋上につながる重たい鉄の扉を開け、室内と違う眩しい光が差し込む屋上へと出る。


屋上は、大きく開けていたが特に何もなかった。


「……これで終わりかな?」


まぁ、なかなかに遊べたし、楽しかった。

こんなところだろう。


右上に表示されている赤い丸も、いつの間にやら残り二つになってしまっている。


「……どうでしょう?」


俺の独り言にベルが答えてくれる。


そんなベルには、二回ほどゾンビの攻撃が命中していたのを俺は知っている。


屋上に出てそれなりに時間が経過したが、終わる気配がない。


――直後。


――――グオオオオオオオオオッッッ!!!


建物の下から雄叫びのようなものが聞こえる。


俺とベルは視線を合わせ頷き、即座に下の景色を見下ろすことのできる屋上の縁の部分まで走っていく。


そこに柵や網はない。


下を見下ろすが、特に異常はない。


……いや、屋上から見える景色の中に唐突に黒い空間が現れ、その空間が大きくなっていく。


その黒い塊は形状を変え、人型へと変異していく。


いや、人型と呼ぶにはあまりにも禍々(まがまが)しい。


そして……巨大すぎるっ!!


「――なんだ……あれっ!?」


「――あわわわわわわわっ!」


その巨大な何かは、胸から上が屋上よりも高い位置にある。


顔は禍々(まがまが)しく、人の形を成していない。

角のようなものが生えているようにも見える。


影の化け物と言ってもいいのかもしれない。


あるいは、あえて例えるのであれば、ミノタウロスのような形と言ってもいいだろう。


だが、俺の知っているセクシーな身体をしたミノタウロスではなく、二足歩行可能な……どことなくオスのミノタウロスっぽい形をした影の化け物だ。


「……あれを……倒すのかよ……。」


「……そのようですね……。」


遊びであるのが分かっている反面、その臨場感(りんじょうかん)に妙な現実味を帯びてしまう。


俺もベルも驚く半面、呆れたような声が出てしまう。


――――グオオオオオオオオオッ!!


化け物は再び雄叫びを上げる。


その雄叫びに合わせるようにビービーと警報の音が聞こえ、視界には赤い文字で「WARNING‼」と表示される。


おそらくこれが最終戦というやつだろう。


化け物はどう攻撃をしてくるものかと見ていると、両手を組み、振り上げる。


そしてその腕を……――振り下ろす!!


屋上のど真ん中に叩きつけられた腕を見て、あんなものに当たれば一瞬で潰されてしまうだろう……などと思う。


まぁ、そもそもあんな勢いで巨大な腕が叩き付けられれば、この建物自体も崩壊していてもおかしくないはずなのだが……そんな様子はない。


この建物が実は滅茶苦茶頑丈に作られているということも考えられるが、これが意味するところは、逃げずにこの屋上であれを倒せということだ。


そしてそれを意図するように、振り下ろされた腕はなかなか動かされない。


(すき)だ。


あの腕をどうにかしろということだろう。


「――ベル!!」


その呼び掛けだけで、ベルは俺の意図を理解し、反応できる。


「――はい!!」


――バンッ!バンッ!バンッ!――――。


二人同時に、振り下ろされた腕めがけて銃弾を撃ち込む。

それぞれ右腕と左腕に十発は撃ち込めただろうか。


だが、銃弾を撃ち込まれた腕はびくともしていないように見える。


「――本当にこれでいいのか!?」


思わずそんなことを口にしてしまう。


「……さぁ?どうでしょう?」


ベルも分からないといった様子で苦笑いをする。


だが、視界の右上に100の数字が何度か表示されていたところを見ると、おそらくこれでいいのだろう。


腕を引き下げ、間を置いたあと、今度はベルを目掛けて左腕が叩きつけられる。


「――ベル!」


「――だ、大丈夫です!」


ベルはギリギリのところで(かわ)したようで、命中しなかったようだ。


だが、ベルに気を取られてしまったせいで、俺は化け物が腕を引き下げるギリギリのところで数発撃ちこんだが、折角の隙を活かすことができなかった。


ベルと一緒に同じ場所を狙った方がいいかもしれない。


「――ベル!こっちに!」


「――はい!今行きます!」


次の攻撃がくる前にベルと並び、化け物の右半身寄りに立つ。


そしてそれは正解だった。


今度は何もない場所に向けて、化け物の右腕が振り下ろされる。


ベルと二人で、隙だらけの右腕に銃弾を撃ち込む。


すると化け物は、それが痛かったかのように右腕を引っ込めながらのけ反る。


どうやらこれであっていたようだ。


それが頭にきたと言わんばかりに、化け物は再び両手を組み屋上のど真ん中目掛けて振り下ろす。


だが、今度は少し下がるだけでその腕を回避できる。

立ち位置が良かったのだろう。


――――バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!――――――。


ベルと一緒になってその腕に可能な限り銃弾を撃ち込む。


三十発ほど撃ち込んだだろうか。


化け物は再びのけ反る。


だが、今度は先程と違い、散々銃弾の撃ち込まれた右腕が消滅している。


残るは左腕だけだ。


しかし、左腕だけになった途端、化け物の挙動が変化する。


体勢を立て直した化け物は、俺たちから一番離れた屋上の端に左腕を置き、俺たちのことを払い()けるように、屋上を……――払う。


「――――ぐあっ!?」


「――――キャッ!」


――あんなのどうやって避けろっていうんだ!?


跳ね飛ばされ、壁に打ち付けられた背中に、ピリッとした刺激を感じる。


それは、攻撃の当たらない位置取りをした俺たちに対して、ズルをするなと言わんばかりに避け様のない攻撃だった。


右上に表示された赤い丸も残り一つになっている。

あと一度でも攻撃に当たれば終了ということだ。


俺もベルも体勢を立て直したが、化け物のその次の一撃は回避するだけに留まった。


左腕が振り落とされるギリギリの場所に位置取りをする。


化け物も、ある程度は命中するように微調整しながら左腕を振り落としてきていたが、右腕と同じ要領でどうにか左腕も消滅させることができた。


左右合わせて百二十発程度の射撃を行っただろう。


なかなかに危なかったが、これで終わりだろう……。


――そう思った矢先だった。


化け物は、足に滑車でも付いているかのように、銃弾の当たらないところまで滑るように大きく後退した。


化け物の視線は、こちらを向いているような気がする。


――嫌な予感がした。


「――ベル!くるぞ!」


「――はい!」


化け物が動き出すギリギリのところでベルに声を掛けた。


その声に少し遅れ、化け物は猛スピードで俺たちのいる屋上向けて頭を突き出しながら突進してくる。


それはまるで……闘牛のようだ。


その頭と角をギリギリのところで回避する。


ベルも同様だ。


化け物は突き出していた頭部を持ち上げ、屋上の縁から俺たちを見下ろす。


ここが隙だ。


化け物の真正面に立ち、胸の辺りにある明らかに弱点と言わんばかりのコアのようなものを目掛けて、ベルと共に銃口を向ける。


――――バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!――――――。


今度こそ、これで終わりだ。


これ以上ない程に夢中で引き金を引き、時間の許す限り銃弾を発射し続ける。


――――グオオオオオオォォォ…………。


化け物は弱り切ったような声を上げ、空を(あお)ぐ。


よし、倒した。


「――やったな!ベル!」


「――はい!」


二人で向かい合い喜ぶ。


――完全な油断だった。


自分たちに覆い被さる大きな影に気付くその時には、時すでに遅し。


空を(あお)いでいた化け物は、そのまま俺たち目掛けて倒れ込んできていた。


「――んなっ!?」


――――ピーーーーーー。


そんな音と共に終了する。


どうやら俺は、やられてしまったらしい。


ヘルメットを外し、隣にいたベルを見る……。


――ようやくベルがヘルメットを外す。


ベルがヘルメットを外すまでには、大分時間差があった。


ベルはきっと最後まで遊ぶことができたのだろう。


俺とベルが見ている風景が映し出されていた目の前の巨大な画面に点数が表示される。


ベルが獲得した75000という点数が一覧の最上部に登っていく。


どうやらベルは、今までで最も高い点数を獲得したということらしい。


そして俺はというと……45000の数字が三番目に表示される。


二番目にある数字は俺と近いもので50000だった。

俺と同じような終わり方をしたのが想像できる。


台の上から降りる。


ベルも俺に付いてくる。


「――楽しかったですね!アイラさん!」


離れた所まで行くと、興奮冷めやらぬと言った様子で、ベルが俺に話し掛けてくる。


「ああ、そうだな。俺も楽しかった。」


ベルが楽しめたのなら何よりだが、確かに俺も楽しかった。

この世界の技術には改めて驚かされる。


「アイラさんってば、最後でやられちゃうんですから。」


うふふと笑いを(こら)えながら笑う。


そのあとも感想を言いながらふらふらと店の中を回り、建物の外へ出る。

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