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暴走マッサージ機

各々風呂で疲れを取ったり、散々遊んだりした後、みんな一緒に風呂から上がる。

長い間風呂に入っていたので、体の熱を冷ますため、みんなバスローブ一枚の格好だ。

リネアもみんなに合わせてくれている。

時間はまだある。

他の設備の利用もしてみていいだろう。

個室で歌を歌える設備……カラオケじゃねぇか。

……だが、ここで流行ってる歌なんぞ知るわけがない。

球を使った様々なスポーツ設備。

俺が知っているもので言うのであれば、ボーリングや卓球。

他にもテニスや、バッティングセンターのようなものまである。

でも、折角長々と風呂に入ったのに、わざわざ大量に汗を掻くのはどうなんだ?

マッサージの設備。

この辺だろう。

他にも遊べそうな設備はたくさんあるが、この後帰って寝るだけということを考えれば、むしろ体の力は抜いておく方が良い。

早速マッサージ設備のある場所へ向かった。


「――あれなんでしょう?アイラさん?」

ユンが俺に問い掛てくる。

「ああ、あれは……。」

答えるよりも早く、ユンは駆け寄って行ってそれに跨る。

「なにこれ!ケンタウロスちゃんに乗ってるみたーい!」

乗馬マシンだ。

ユンは、跨った動き回る機械の上で楽しそうにしている。

果たしてマッサージ器なのかという疑問はあるが、そこにあるのだから仕方がない。

といってもユンは、ダイエットの必要もないとは思う。

他にも、落ちないように上でバランスを取る大きなボールの器具まである。

「――わ、私も……!」

言いながらベルは駆け寄り、ユンの隣で同じマシーンに跨る。

いつの間にやら2人はかなり仲良くなっていたらしい。

2人で楽しそうに乗馬している。

「――で、では、私はあちらを……。」

あれこそマッサージ器具だろう。

ミオは、椅子の形をしたマッサージの機械に腰掛ける。

「俺は……どうしようかな……。」

辺りを見回すが、別に目ぼしいものはなかった。


「――あ、あああ、う、う、う、う、う、ううう……き、気持ちいいですう、う、う、う、う……。」


むしろ目に付くのは……マッサージチェアの上で心地良さそうにしているミオだ。


相当に肩が凝っていたらしい。


その豊かなお胸様に目が向く。


肩から下がっているミオの豊満な果実は、振動で小刻みに揺れている。


興奮してしまうではないか。


ミオの顔も緩み切ってとろんとしていた。


どうやら、ここを選んだことは間違いではなかったようだ。


そんなことを思うが、結局俺はどの器具を使うことよりも、適当なベンチに腰掛けることにした。


風呂で散々遊んだせいで疲れたからな。

俺はこっちの方が良い。


「――リネアはいいのか?」


特に深く考えず、俺の隣を付いてきていたリネアに質問する。


「はい。私はアンドロイドですので、むしろ有事の際に備えておくこととします。」


それもそうか。


アンドロイドがマッサージを利用するというのも聞いたことがない。


「有事って言っても、別に何もないんじゃないか?」


そんな他愛もないやり取りをする。


「――キャッ!!――いや!止まって!」


しかし、リネアが次の返答をするよりも早く、声が聞こえる。


始めは短い悲鳴だった。


ベルの悲鳴だ。


隣で同じ機械に(またが)っているユンよりも、ベルのマシンは明らかに激しい動きをしている。


操作でも誤ったのだろうか?


ベルは振り落とされないように、なんとかマシンに掴まっている。


降りてしまった方がよかったのかもしれないが、突然マシンが激しく動き出せば、反射的に掴まってしまうのも無理はない。


「――大丈夫か?ベル?」


大したことはないだろうと思いつつも、一応ベルの乗馬マシンの様子を見に行く。


「――あ、アイラさん!!こ、この機械が急に――キャッ!!」


近付いてきた俺にベルが返答しようとした瞬間、乗馬マシンの動きがより一層激しくなる。


一体なんなんだ?


ベルは振り落とされまいとし、乗馬マシンに抱き着くような姿勢でどうにかしがみ付いている。


「――ま、待ってろ、ベル!今止めてやるからな!」


その動きはさすがに尋常じゃないと分かり、俺はその緊急性にようやく気付く。


このまま振り落とされれば大きく跳ね飛ばされ、怪我をしてしまうかもしれない。

そう考え、乗馬マシンを停止させるスイッチを探し始めた。


だが、その直後だった。


「搭乗者の危険を感知。機体に拘束します。」


マシーンは音声を発する。


ベルはマシーンに抱き着いた姿勢のまま、手足を金属のベルトで固定されてしまう。


これも一種の安全装置というやつなのだろうか?


なんにせよ、その間にマシーンの停止ボタンを探せる。


「――え?あ、なに!?いや!!」


安心する間もなく、今度はミオの悲鳴が聞こえる。


ミオの声が聞こえた方を見ると、ミオもまた……拘束されていた。


マッサージチェアにがっちりと固定されている。

見ようによっては、拷問用の椅子に拘束されているようにすら見える。


「――ミオ!大丈夫か!?」


「――あ、アイラさん……これは……一体……?」


ミオのマシーンも誤作動でも起こしたのだろうか?


ミオの方に駆け寄ろうとするが、拘束されている以外に問題はなさそうだと分かる。

とりあえずは後回しでもいいだろう。


「――あっ!やっ!いやっ!痛いっ!痛いですっ!」


それよりも、今はベルの方が問題だ。


激しい動きのせいで、身体がマシンに打ち付けられ、痛みを訴え始めている。


「――ベル!今何とかして――。」


言い掛けた時だった。


「搭乗者の苦痛を緩和するため、潤滑剤を使用します。」


再び乗馬マシンから音声が聞こえる。


それに合わせるように、ベルの抱き付いている椅子の部分、本物の乗馬で言うのならば(くら)の部分だろうか?

そこが、じんわりと……てらてらと光り始める。


さらには、それと擦り付けられたベルの身体からは糸が引いている。


どうやら、(くら)の部分から潤滑剤が染み出ているらしい。


激しい動きと潤滑剤のせいでベルが唯一身に(まと)っていたバスローブは(はだ)けてしまった。


だが、ベルからすれば今はそれどころではない。


ベルの様子に気付いたユンはマシンから降り、呆然とベルの様子を見ていた。

どうしていいか分からないのだろう。


俺も同じだ。


そんなユンがようやくはっとした様子で俺の方に駆け寄ってくる。


「――あ、アイラさん!どうしよう!ベルちゃんが!」


ユンは泣きそうな顔で俺に訴え掛けてくる。


「――あ、ああ、なんとかする。」


ユンを安心させるための気休めだ。


手段も当てもない。


「ベルちゃん……。」


ユンは本気でベルを心配している様子だ。


こんなにも仲良くなっていたとは……。


「――い、いや!!あっ!!やっ!!」


今度はミオの方から一段と大きな悲鳴が聞こえる。


これ以上一体何があるっていうんだ。


悲鳴の聞こえたミオの方を見ると、ミオの座るマッサージチェアからは、いくつもの腕が生えていた。


マッサージチェアに拘束されているミオのバスローブも、いつの間にか(はだ)けてしまい、既に装備としての役割を果たしていない。


ミオは、その身体の全てを(さら)け出し、マッサージチェアから生えた腕により、二つの果実を揉みしだかれている。


()まれ、(つね)られ、(つま)まれている。


幸いにもベルの方は潤滑剤のおかげか、痛みを訴えなくなっていた。


その代わりにベルが跳ね上がる度に潤滑剤のせいでぬちゃぬちゃと音を鳴らしているが、痛みがないのならばとりあえずミオを優先してもいいだろう。


急いでミオの座っているマッサージチェアに駆け寄る。


「――ミオ!!大丈夫か!?」


「――あ、アイラさんっ、これっ、ん、なんでっ!んんっ……。」


風呂上がりだからなのか、あるいはマッサージのせいなのか、ミオの表情はぼうっとして色っぽく見える。


「――なんでこんな……。」


「使用者の揺動(ようどう)を確認。固定します。」


()き出しの身体を(よじ)らせているミオを前に立ち尽くしていると、機械が不吉な音声を発する。


すでに充分固定されているはずなのだが、さらにそれ以上のことを意図する言葉が発せられた。


直後、ミオの座る椅子からはぬらぬらと光る二本の棒が飛び出し、ミオの身体を貫き、固定する。


「――っは、んっ、あっ――――――。」


ミオは突然の衝撃に目を見開き、酸素を求めるように口をパクパクとしている。


呼吸が止まるような異物感を覚えたのだろう。


「――ミオ!!」


顔を赤くして震えているミオの姿を見て、俺は叫ぶ。


「――あっ、いや……んっ……ああ……!」


ミオを椅子に打ち留めている二本のゴツゴツとした杭は、細かく振動しながら交互に上下し、ミオを翻弄する。


「――ミオ!今止めてやるからな!」


「――ああっ!は、はい……お、お願いしま――あっうんっ!あっ、はぁ……はぁ……。」


だが、そもそも停止させるボタンも、操作するパネルすらも見当たらない。


「――リネア!どうやって止めればいい!?」


俺はここにきてようやくリネアに質問する。


「こちらは本来、センサーと音声認識により動作を指示することが可能です。」


「――そうか、なら……止まれ!」


止まらない。


そもそも、ミオやベルの声にも反応していない。

少し考えれば分かることだ。


「ですが、こちらは暴走しているものと思われます。」


考えている間もなく、リネアが言葉を続ける。


やっぱりそうなのか……なんとなく分かってはいた。


「――じゃあ、どうやって止めればいい!?」


「お任せください。」


そんなやり取りをしている間にも、ミオからは余裕がなくなっていく。


「――んんっ!あっ!あっ!あっ!ん……はぁ……はぁ……んっ、あっ!あっ!あっ!あくっ……――――。」


ミオの身体からは力が抜け、表情はさらに(とろ)けていく。


想像を絶するほどに気持ちよさそうにしているように見えなくもない……。


マッサージ機の役目として間違ってはいないのだろうが、停止しないとなれば暴走していることは明らかだ。


「――リネア、どうだ?」


マッサージ機に手を触れているリネアに問い掛ける。


「少々お待ちください。」


答えたリネアが、電源を入れた機械のように切り替わるのを感じる。

おそらく、ネットワークやら何やらを利用し、なんらかの方法でマッサージ機に干渉しているのだろう。


「――あっ、んんっ!――はぁ……はぁ……んんっ――!!」


ミオは変わらぬ様子で責め立てられている。


いくらリネアでも、干渉した瞬間にすぐに解決とまではいかないらしい。


「――大丈夫です。あなたは壊れてなどいません。落ち着いて。」


リネアは妙なことを口にする。


俺やミオに話し掛けているのではなく、マッサージ機に話し掛けている。


そのリネアの様子は、暴れまわる獣を優しく抱き、落ち着かせようとする姫様のようだ。


リネアがそう口にしたあと、間を挟み、マッサージ機は徐々に動作を落ち着かせていき……停止する。


「――はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……。」


ようやく停止したマッサージ機の上で、ミオは乱れた呼吸を整える。


「……ミオ、大丈夫か?」


身体の力が抜け、すぐには動くことのできない様子のミオに、できる限り優しく声を掛ける。


「……はい……はぁ、はぁ……ありがとう……ございます……。」


力無いながらも、笑顔を向けてくれたミオに安堵する。


「――――キャッ!!いや!!あんっ!ああっ……!!」


安堵したのも束の間、今度は一際大きなベルの悲鳴が聞こえる。


ベルの方の機械も止めなければならない。


「――リネア!ベルの方も頼めるか?」


「はい、もちろんです。かしこまりました。」


ベルの方も暴走だと考え、リネアに任せる。


俺はまず、ミオをマッサージ機から動かすことにした。


リネアが対処してくれたのだから再び暴走することもないだろうが、万が一に備えたかったからだ。


「……ミオ、立てるか?」


「――は……はい……。」


そう答えるが、一人では立ち上がれないようだ。


「掴まってくれ、ミオ。」


ミオに手を貸す。


「――あ、ありがとうございます。」


ミオは今にも瞼を閉じて眠ってしまうほどに、かなり疲弊している様子だった。


ミオは俺の腕に掴まり、ようやく立ち上がる。

立ち上がる際に、ぬちゃりという粘度の高い音が聞こえた。


ミオが俺に体重を掛けると、冷え切っていたミオの体温を感じる。


俺に体重を掛けながら、ふらふらと歩くミオをなんとかベンチまで連れて行き、これ以上身体を冷やさないように羽織るものを渡す。


そんなことをしている間に、ベルの方もリネアが解決してくれているだろう。




そう思っていた。


だが実際には、ベルの様子を確認しに行くと、リネアはまだ手間取っているようだった。


(はた)から見れば、揺れる乗馬マシンにツインテールから伸びている配線を繋いでいるだけなのだが、ミオの時と同様に、マシンに手を触れるだけで対処できていないことが手間取っているのだと理解させた。


また、それ以上に、ベルを見ればリネアが手間取っていることを嫌でも解らされてしまう。


「――――んっ!いや!!あ、あっ!んぐぅ!!ああっ!!がはっ!!あっ!!」


乗馬マシンに跨るベルの様子を見れば、状況が悪化していることは明らかだ。


もはやベルが跨っているというよりも、強引に捕らえられ、拷問されているようにも見える。


さらには、ミオの時と同様にベルも二本のゴツゴツとした杭で身体を固定されてしまっている。


「――ベル!大丈夫か!?」


駆け寄り、ベルの返答を待つ。


「――――んぐぅ!がっ!あっ!あっ!はあっ!!ああっ!はっ!あっ!!」


ミオの時とは違い、ベルは返答する余裕もなかった。


「――リネア!?」


ベルの状態、その返答をリネアに求める。


「もう、少々、お待ち、ください。」


リネアの返答に歯切れの悪さを感じさせられる。

それは作業中のためなのか、あるいは、解決が難航(なんこう)していることを意味するのだろう。


「――――はっ!んん……!がぁっ!あっ!あっ!あっ!ぐっ、や、やめ……ああっ!!」


ベルは、拘束され離れることもできない身体を、暴れる乗馬マシンに強引に揺さぶられ、突き上げられている。


拘束されているため落ちないとは分かっていても、力が入り激しい動きに翻弄されてしまう。


もともと乗馬マシンとはそういうものだ。


落下しないようにバランスを取ることによって、身体に良い効果をもたらす。


そういう道具だ。


暴走して停止しないという一点を除けば、これもまたマッサージ機と同様に、マシンとして役割を果たしていることになる。


「――アイラさん!どうしよう!ベルちゃんが、ベルちゃんが!」


ユンは目に涙を溜めながら、俺に訴え掛けてくる。


ユンも、どうしようもできないがどうにかしたい、でもどうしようもないという状態で困惑しているのだろう。


クソ、何か手はないのか……。


リネアに任せていれば解決できるのかもしれないが、このまま何もしないでそれを見ているだけというのももどかしい。


俺は、ふとリネアの改造してくれた銃で破壊することを思い付く。


だが、それはベルにも怪我をさせてしまうかもしれない。


すぐに選択肢から外し、代わりに行動を開始した。


俺は、乗馬マシンに近付き、乗馬マシンの動きを少しでも緩和しようと手を触れてみる。


魔物やらモンスターとは違い、触れて噛みつかれるものでもない。


片手で乗馬マシンに触れ、片手でベルの頭や背中を撫でてやる。


「……ベル、もう少しの辛抱だ。もう少しだけ()えてくれ。今リネアが頑張ってくれてる……。」


気休め程度だろう。


あるいは気休めにもなっていないかもしれないが、ベルに声を掛け励ます。


「――――あっ、ぐっ!うっ!あ、ああっ!ん、んんっ!」


わずかに乗馬マシンの動きが緩和したようにも感じたが、ベルの様子は変わらない。


「――大丈夫です。心配しないで。あなたを捨てたりなんかしません。だから落ち着いて。」


リネアがようやくといったように口を開く。


リネアはまた機械に語り掛けていた。


これが意味のあることなのか、あるいはつい言葉にしてしまっているだけなのか、俺には分からない。


だが、リネアがそう口にした直後、乗馬マシンは徐々にその動きを緩やかなものへと変え……停止する。


「――はぁ……はぁ……あ、アイラ……さん……――――。」


ようやく停止した拷問に安心したのだろう。

ベルは一番最初に目に入った俺の名前を呼び……意識を失った……。




「――ベル?大丈夫か……?」


「――――あれ……?私……?」


眠っていたベルが目を覚まし、声を発する。

起きたばかりでまだぼんやりとした様子だ。


「……どこか痛い所はないか?」


「――え……?あ、はい…………――っ!」


俺の言葉で何かを思い出したようで、慌てて自分の股を手で隠す。


股に違和感でもあったのかもしれない。


顔も赤い。


「――大丈夫か?やっぱりどこか――。」


「――ベルちゃあああん!!よかったよぉ!ベルちゃあああん!!」


俺の言葉を(さえぎ)り、ユンがベルに飛び付く。


「――え?あ、ユン……さん?」


「――大丈夫?ベルちゃん?痛いところない?」


「あ、はい……大丈夫……ですよ?」


ユンに対して元気な素振りができる程度には問題ないらしい。


ベルは嬉しそうに自分に抱き着いているユンの頭をよしよしと撫でている。

外見としてはベルの方が少し小さいのだが、中身は反対らしい。


「ベル、もう動けそうか?」


「えっと……はい、多分平気だと思います。」


多分ということは、まだ完全ではないということだ。


だが様子を見る限り、立って歩くことくらいはできるだろう。


「……これから風呂に入り直そうと思うけど……どうする?」


「――お風呂……ですか……?入りたいです!身体を洗うくらいなら平気だと思います!」


遊べるほどの気力はないのだろうが、重たい身体を動かしてでも身体を洗いたいらしい。


「そうか。じゃあ、入るか。」


すでにベルよりも元気になっていたミオにベルのことを任せて、みんなで風呂に入り直すことにした。




着替えを終え、改めて風呂に入る。


中に入ると大きな滑り台が目立つため、ついつい遊びたくなってしまうが、ここは本来風呂だ。


中に入り、滑り台に向かわずに通路を()れると、シャワーやら石鹸やらが設置されている。


「――あ、アイラさん、お待たせしました。」


着替えを終えたミオが俺の姿を見つけて声を掛けてくる。


「――ああ。それじゃあ、先に身体洗うか。」


「はい、そうしましょう。」


「はーい!」


うしろにいたユンも元気よく返事をする。


ユンのことだから一人でも遊びたいと言い出すのではないかとも思ったが、遊ぶ以上にベルのことが心配なようで、ベルのことを気遣いながら歩いているのが分かる。


なんだか嬉しくなってしまう。


「――あ、あの……アイラさん?よければ……私の身体、洗ってもらってもいいでしょうか?」


ベルが突然とんでもないことを頼んでくる。


「――っな、いや、そんなの――。」


そんなのミオに頼んだ方がいい。


そう言い掛けたが、考えてみたらミオだって疲れている。


ユンに頼んだら遊び始めそうだ。


リネアは……まぁ、頼みづらいだろう……。


「……ダメ、ですか?」


そんな目で見るな。


「分かった……。いいよ。仕方ないもんな。」


「――はい!お願いします!」


俺の返答にベルは喜ぶ。


「――じゃ、じゃあ、私もいいですか!?」


ミオが勢いよく訴え掛けてくる。


マジか……。


まぁ……いいか……。


「分かった。いいよ。」


「――ありがとうございます。お願いします。」


ミオは少し照れながら控えめに喜ぶ。


「――じゃ、じゃあ私も!いいよね!アイラさん!」


当然ユンもそう言ってくるだろう。


「……いや、ユンは自分で洗えるだろ?」


「ええー……なんでー!いいじゃん!私も洗ってよー!」


「……よし、分かった。」


「――え!?いいの!?」


「リネア、ユンの身体を洗ってやってくれ。」


「かしこまりました。」


「――ええー!!なんでー!?」


ユンは期待を打ち砕かれ、ブーブーと駄々を()ねながらリネアに連れて行かれる。


「――さて、それじゃあ……まずはベルからにしようか。」


「――はい!おねがいします!」


ベルは姿勢を正し、改めてお願いしてくる。


自分で頼んだにも関わらず、緊張でもしているんだろうか?


洗い場の鏡の前に座ったベルの後ろに座る。


まずは頭からだ。


ベルは髪が長い。


少し多めのシャンプーを手に取り、よく泡立ててから、少しずつ磨くように髪を洗っていく。


「――痛かったら言うんだぞ?」


「はい。ありがとうございます!――えへへ……アイラさーん……。」


髪を洗われているベルは急に甘えた声を出す。


「……なんだ?どうかしたのか?」


「いえ、なんでもありません。……なんか、アイラさんに髪の毛洗ってもらってると、優しくなでなでしてもらってるみたいだなぁって……えへへ……。」


「……そうか?まぁ痛くないならよかったよ。」


「はい。ありがとうございます。」


髪を洗っている間、ベルはずっとご機嫌な様子だった。


泡を洗い流し、ベルの髪を見ると、お湯で湿っていながらもしっとりと綺麗で、愛おしく思えてくる。


「えっと、じゃあ……次は身体だけど……いいのか?」


「――はい!お願いします!」


なるほど、緊張の正体はこれが原因か。


髪の毛同様によく泡立てた泡で肩や背中を洗っていく。


ベルの身体は大きくないのであっという間だ。


「……前は……自分で洗うか?」


「――い、いえ……お願いします。」


ベルはさらに緊張したような声で答える。


「分かった。」


俺は、うしろからベルを抱き締めるような格好になる。


見た目はウェットスーツだ。


だが実際には、確かに地肌に直接触れている。


すべすべとして、柔らかく、体温も直に感じる。


「――ふあっ、あ……。」


「――痛かったか?」


「――い、いえ……続けてください……。」


爪でも立ててしまったのだろうか。


心配になるが、可能な限り気を付けて再開する。


「―――っ。あ、ん……あっ、や、そこ、ダメ!」


「――え?ダメ?――やっぱり、やめようか……?」


「……い、いえ、気にしないで続けてください!」


「……よ、よし、分かった!」


気にしないでというなら、もう続けるしかない。


「――――あ、やっ!んっ……あっ、そこ……んっ……んんっ!?あっ、あっ、あっ……。」


小動物のようにフルフルと、時々ビクビクと身体を震わせた。


ベルの身体をどうにか洗い終わり、泡を洗い流す。


なんだか、洗う前よりもぐったりとしているような気がする……。


そう思っていると、俺に体重を預けて寄り掛かってくる。


「――だ、大丈夫か?ベル?」


「――は、はい。ありがとうございます。……ありがとう、ございます……。」


反応がおかしい。


髪を洗うのにも時間が掛かったし、もしかするとのぼせてしまったのかもしれないな……。


ベルのことはユンかリネアに頼んで、次はミオの身体も洗ってやらないといけない。


「リネア……――――!」


俺はリネアの名前を呼ぶが、リネアが反応するよりも先に、二人の姿が目に入る。


「――痛い痛い!もう!だからもっと優しくしてよー!」


ユンがリネアに身体を洗ってもらいながら文句を言っている。


「す、すみません。どうしていいか分からず。」


それに対してリネアはおろおろとしながらなんとか対応している。


貴重なリネアの姿だ。


そんなやり取りをしながら身体を洗い終え、あとは洗い流すだけのようだ。


泡を流し終わる頃合いを見て、ベルを抱えて連れて行く。


「――リネア。すまないけど、ベルのことも頼んでいいかな?なんか疲れちゃったみたいで……。」


「あ、はい。かしこまりました。ベルさんとユンさんのことはお任せください。」


「それじゃあ、俺はミオの方も洗ってやらないといけないから……頼んだ。」


「かしこまりました。」


二人のことはリネアに頼んでミオを探す。


ベルを洗っている時には近くにいたと思ったんだけど……。


「――うおっ!?ミオ!?すまん、待たせた。」


ミオは(うつむ)いて頭からシャワーを浴びていた。


シャワーのせいで髪が不気味に垂れ、顔は見えなかったが、紫の綺麗な髪のおかげでミオだと判別できた。


「アイラさん……お待ちしてました……。」


なんだか元気がない。

かなり待たせてしまったからだろうか。


「……すまん。お待たせ……。えっと……ミオの身体、洗わせてもらってもいいかな?」


できるだけ控えめに聞く。


「もう、アイラさんってば……仕方ありませんね。お願いします。アイラさん。」


なぜか少し機嫌が直ったようだ。


ミオのうしろに座り、ベルと同様によく泡立ててから洗い始める。


ずっと頭からシャワーを浴びていたおかげだろうか?よく濡れていて洗いやすい。


「――痛かったから言ってくれよ?」


「はい、ありがとうございます。でも……ふふ、気持ちいいです。」


「そうか。ならよかったよ。」


「アイラさん。女の子の髪の毛洗い慣れてるんですか?」


何か引っかかる言い方だけど……きっと褒めてくれてるんだろう。


「それは、洗うのが上手いってことか?」


「うふふ……どうでしょうね?でも……すごく優しいです。」


「それ、ベルにも言われたよ。きっと、大切なミオやベルの、大事な髪だからだな。」


「もう、アイラさんってば……。――ふふ……でも、そうですか……。大切、ですか。」


ベルの名前を出したからか、一瞬怒った様子になったが、すぐに顔がほころぶ。


「……なんだ?なんかおかしかったか?」


「――いえ、アイラさんは私たちのことを……ずっと変わらず大切にしてくれてるんだなって……。」


「――え?なんて……?」


ミオの声が突然小声になったので、ちゃんと聞き取れなかった。


「――いえ、なんでもありません。」


もともと綺麗なミオの髪を、綺麗に洗い終える。


「じゃあ、次は……身体だな。」


「はい。お願いします。」


ベルよりも落ち着いた返事だ。


まずは背中を洗う。


ベルよりは大きい背中だが、触れてみるとやはり華奢(きゃしゃ)で、守るべき存在であることを改めて実感する。


「……さ、さて……じゃあ、あとは……自分で洗うか?」


「――もう、なんでですか?ベルさんは洗ってあげてたじゃないですか!私もお願いします。」


見てたのか……。


「……ああ……分かった……。でも、下手でも文句言うなよ?」


「はい。お願いします。」


ミオは俺のことをからかうように、少し明るい声で返事をする。


ベルの時と同様に、ミオをうしろから抱きしめるような格好で身体を泡で洗い始める。


「……えっと……大丈夫か?」


「はい。平気で……んっ、あんっ!」


「――な、なんだ!?」


「もう、アイラさんってば……そんなところをそんな風に洗っちゃいけませんよ?」


ミオの声からすると、どうやら俺のことをからかっているらしい。


「……ミオ……からかうなよな……。」


「うふふ……。でも、本当に優しくしてくれなくちゃダメなんですから――んっ、あっ!」


「……ミオ……。」


悪ふざけが過ぎる。

ため息混じりに少し怒ったような声が出てしまった。


「――あっ、ん……いや、ダメ!そこはホントにっ!……んんっ!あっ!」


ベルの時よりも、柔らかく、重量感を感じる。


さらには、ベルの時には分からなかったが、柔らかい中にもコリコリとしている部分があり、手触りがよく、余計に洗ってしまう。


「……ミオ?あんまり悪ふざけが過ぎると怒るぞ?」


「……い、いえ、でも――んっ、はぁ、あっ……んんっ、あっ、やっ!ダメぇ……!」


足の指の隙間まで余すところなく綺麗に洗い終わり、泡を流す。


流し終わった頃には、ベルと同じようにぐったりとしていた。


「……ミオ?大丈夫か?」


「……は、はい……。らいりょうぶれふ……。」


やっぱりのぼせてしまったのだろうか?


湯船……いや、プールか?お湯に浸かりたかったが、ミオもベルもそんな余裕はなさそうだ。


仕方ないので、自分の身体も洗い、そのまま風呂から上がることにした。


結局、ミオとベルは俺が自分の身体を洗っている間に、先に上がって待っていたらしい。


何か冷たい飲み物でも飲みたい気分にもなるが、ミオとベルを早く帰らせてやりたいし、我慢して帰ることにしよう。


飲み物なら帰ってからでも飲めるしな。




長い時間風呂にいたため、火照った身体に夜風が心地いい。


他のみんなも同じ様子だ。


家に着く。


あとは寝るだけだ。


先にミオとベルを自分の部屋に連れて行って寝かせてやる。


いつでも飲めるようにと、冷たい水も置いておく。


「――それじゃあユン、リネア、おやすみ。」


「はーい!アイラさん。リネアさん。おやすみなさーい!」


「はい、おやすみなさい。」


お互いに挨拶をするユンとリネアを見ると、少し仲良くなったように見える。


これが裸の付き合いってやつなのだろうか。


「それじゃあ、リネア。おやすみ。」


自室に行き、付いてきたリネアにもう一度挨拶をする。


「はい、アイラ様。おやすみなさいませ。」


かなり疲れていたらしい。

目を閉じると、瞬く間に眠りに就いた。

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