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スクラップのアンドロイド

ガラガラと他の機械の残骸を掻き分けて、今にも停止しそうなアンドロイドを助け出す。

「ア、ありがとうございマス。他の機械タチに埋まっテ動けなくなってシまいマシテ。」

助け出したアンドロイドは……性別で分けるとすれば、明らかに女性だろう。

白と薄い青……いや、明るい水色だろうか。

そういった色が目立つ。

頭の両サイドには、髪型でいうところのツインテールのような飾りが付いている。

この青色が妙に目立つのだ。

だが、髪ではないのだろう。

おそらく、取り外しもできない。

「――えっと……どうしてこんなことに?」

目の前のアンドロイドの状況が全く分からず、そんな質問をする。

「実は、今コノ街は大変な状態にアリましテ、それニ巻き込まれテこんなことニ。」

人間的なものではない。

明らかに壊れた機械ということがわかるような……少し(イビツ)な話し方をする。

見れば一目でアンドロイドと判る反面、よくよく見ると美少女でもある。

「……なる……ほど。」

よく分からなかったが、適当に返事をする。

「ショウショウお待ちクダサイ。自己修復モードに入りまス。」

助け出したアンドロイドの女の子がそう口にした直後、静かな駆動音が聞こえる。

頭の両脇のツインテールが光る。

そしてそこから、機械の細い腕が出てくる。

あるいは、触手とでもいうのだろうか?それを使って自身の修理を始めた。

細い腕が器用にコンテナの中の残骸を拾い上げ、自身の不足する部分、壊れている部分に組み替えて行く。

きっと修復が終わるまで待つしかないのだろう……。


修理が多少進んだところで、アンドロイドの少女は自分自身の腕も使って修理を始める。


「――す、すごいですね……。」


その様子を見ていたミオが小声で口にする。


「ありがとうございマス。」


「――いや、喋れるのかよ!」


待つしかないと思い込んでいた俺は、思わず突っ込んでしまう。


「ハイ、この状態でも簡単な会話程度なら可能デス。」


なるほど……。


それなら、色々と聞けることは聞いておいた方が良いだろう。


「……えっと……じゃあまず、君は……なにもの?」


とりあえずの質問をしてみる。


「私は、アンドロイドです。」


ですよねー……。


でも、それに確証が持てただけでもよかったのかもしれない。


「――あんどろいど……ですか?」


ベルが聞いたこともない言葉に疑問を持つ。


そりゃそうだ。


普通なら驚いてもおかしくない。


「ハイ、アンドロイドでス。造られた機械人間……人造人間でス。」


「――造られた人間ということですか!?」


アンドロイドの返答を聞いたベルは、驚いた様子で質問を続ける。


「イエ、造られたアンドロイドでス。」


なるほど、本当に簡単な受け答えしかできないようだ。

微妙に噛み合わない……。


「じゃあ、アンドロイドさん。君は……何のために造られたんだ?」


難しい会話ができないことを悟った俺は口を挟む。


「ワタシは、人間、アンドロイドの治療ヲ受け持っておりまシタ。」


そうか、それで自己の修復作業もできるというわけか。


ここで俺は、するべきだった質問があることに気付く。


「――じゃあ、もう一つ。君の……名前は?」


「ワタシは、リネアと申します。」


やはり、名前は聞いておいた方が良い。


名前を付けてくれ、などと言われなくてよかった。


「リネア……。」


「はい。リネアです。――修復作業、完了いたしました。まもなく再起動に入ります。」


もともと静かだった駆動音、修理の際のカチャカチャという音が消え、完全に無音になる。


青く光っていたツインテールも、光が消える。


――数秒後……。


ブォンという音と共に、ツインテールが青く光り出す。


リネアは立ち上がる。


「よろしくお願いします。私は、リネアと申します。」


リネアは、改めて自己紹介をした。




「それじゃあ、リネア……もう一度聞くけど、一体……何があってここに?」


俺は、気になっていたことを再度聞き直す。


「私は、いつも通り治療の業務に従事していたのですが、突如清掃用のロボットが暴走を始め、その暴走に巻き込まれてしまい、気が付けばここに捨てられておりました。」


「――暴走……?」


「はい。このコンテナの中にいる他のアンドロイドも、巻き込まれたアンドロイドです。既に完全に機能を停止しておりますが、一緒に業務をしていたものもおります。」


「……そんなに大勢が巻き込まれて、大丈夫だったのか……?」


「はい。患者は無事だと思われます。既に私の代わりのアンドロイドが配置されており、私は完全に用済みのアンドロイドとなっていることでしょう。」


そういうつもりで聞いたわけじゃなかったんだが……。


まぁ、いいか……。


となれば、もう一つ気になることが出てくる。


「その暴走ってのは……よくあることなのか……?」


「いえ、この街の技術によって作られたアンドロイドは、丈夫で故障しないことが有名で、本来、暴走などはあり得ません。」


リネアははっきりと答えた。


「……じゃあ……なんで暴走を?」


「実は。実は今、この街では――いえ、この世界では、未知のウィルスが蔓延しております。」


一瞬、話すのを躊躇(ためら)ったようにも見えた。


「……ウィルス?」


だが、気にしても仕方ないので、構わず質問を続ける。


「はい。私たちアンドロイドや機械にのみ感染する、病原菌のようなものです。病原菌と言っても、人間に感染するものではなく、いわゆる、コンピューターウィルスというものです。」


コンピューターウィルスか……。


歩く機械がコンピューターウィルスに感染し、そのウィルスによって暴走する。


それは、事と次第によっては大惨事になるだろう。


あるいは、ここのギルド……いや、センターとでもいったところだろうか?


そこのアンドロイドに追いかけられたことも、その暴走が関係しているのかもしれない……。


「――リネアは……そのコンピューターウィルスは平気なのか……?」


とりあえず俺は、さらに気になったことをそのままリネアに質問する。


「私は、本来ならそのウィルスに感染してもおかしくないでしょう。ですが先ほど、自己修復時にネットワークへの常時接続機能が故障していることが確認されたため、そのまま機能を停止させ、切断しております。色々と不便なこともあるでしょうが、ウィルスへの感染の可能性に関しましては、排除できているものと思われます。」


「そうか……。ならよかった……。」


「はい。ところで、助けていただいておきながらこんなことをお聞きするのは不躾(ぶしつけ)と存じますが、あなた方は、一体?」


ですよねー……。


いや、まぁ、丁度いいか。


俺たちのことも話すべきだと思っていたし、むしろ何か分かることがあるかもしれない。

話した瞬間、排除されたり……しないよな……?本当にしない?――どうかしませんように!!


「実は俺たち……なぜここにいるのか分からないんだ……。」


俺は覚悟を決め、話すことにする。


「分からない?ですか?」


「――ああ……気が付いたらここにいたんだ。もともとは、ここではない場所にいたことは間違いない。少なくとも、俺たちのいた場所にはアンドロイドなんていなかったし、こんなに高い建物もなかった。だから、俺たちも今どうしていいか分からないんだ。」


「アンドロイドの、いない場所。」


そう呟いたリネアは、少し寂しそうな表情をしたように見えた。


「だから……もしよければ、リネアに助けてもらえるとありがたいんだけど……どうだろう?」


そう口にしたあと、ついついミオとベル、ユンの方を見てしまう。


「構いません。分かりました。ですが。」


「……ですが?」


リネアが言葉を濁したことに不安を覚える。


「ですが、私もつい先程まではスクラップです。帰る場所もなく、できることもほとんどないと思われます。」


それもそうか……。


いや、なんとなくそんな気はしていた。


「……そうか。じゃあ……これからは一緒に行動しよう。」


「はい。」


リネアは一切迷いのない肯定の返答をくれる。


「よろしく頼む。」




リネアは、俺に付いてくる。


特に行く当てが決まったわけでもなかったが、俺はミオとベル、ユンの所へ行き、ユンを背負う。


「あ、そうでした。あなた方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「――ああ、そうか。そうだったな。俺は、アイラ……改めてよろしく。」


「アイラ様ですね。登録いたしました。」


――ピピッ、という妙な音が聞こえた。


「――あ、あの……私は、ミオと言います。」


「私はベルです。」


「私はユンでーす!」


ユンは俺に背負われているにも関わらず、元気に自己紹介をする。


みんながそれぞれに自己紹介をした。


これでみんな、お互いの名前を把握したというわけだ。


「それではアイラ様。これを。」


リネアは、自分の腕から外した腕輪を俺に渡す。


「……えっと……これは……?」


「これは、端末です。これにより、端末同士で連絡を取り合うことが可能です。他にも様々な便利な利用方があります。」


「……でも、俺に連絡する相手なんていないぞ……?」


「はい。ですが、お渡し致します。」


「……なんで俺に……?」


「先程、アイラ様をマスター登録いたしましたので、その証と思っていただければと思います。」


――マスター……マスター?マスターって……なんだっけ……?


「――えっと……マスターって……なんだ……?」


急に出てきたリネアの言葉に対して、聞き返していた。


「マスターはマスターです。ご主人様とも申します。呼び方に関しましては、アイラ様。マスター。ご主人様。他にも、おにーちゃんやパパ、ダーリン、ハニー等々、様々な呼び方が可能となりますが、いかが致しますか?」


――いやいやいやいや、何それ可愛い。


じゃなかった……。


大丈夫なのか……?

マスターとか……。


「とりあえず……普通に名前で呼んでくれればいいよ。」


「かしこまりました。それではアイラ様と。改めまして、私はリネアと申します。よろしくお願いしますね。マスター。」


これは……突っ込めってことなのか?あるいは、リネアは天然さんなんだろうか?


なにはともあれ、どうやら悪い子ではなさそうだし、きっと楽しくなるだろう。


――そして俺は、今後のことを考え、頭を抱えることとなる。


幸いだったのは、銃を持ったアンドロイドたちは既に街の中からいなくなっていたことだ。


俺たちの排除は諦めたのだろうか……。


しかし、何があるか分からないので、警戒は続けながら街の中を当てもなく歩き回っていた。


「――あれ?端末……?」


ふと気付く。


思わず声に出していた。


「――いかがなさいましたか?アイラ様?」


「いや……どこかで聞いたような気がして……。」


「聞いたことがあってもおかしくないかと思われます。この世界では、この端末。デバイスなどと呼ぶ場合もありますが、本来、皆様が所持しているもので、身分証明書としても利用されます。」


そうか……身分証明書……。


「――いや、身分証!!」


「どうなさいましたか?」


「……なぁ、リネア?これがあれば、あそこで何かできることはないか……?」


俺は、街の中央にある一番大きな建物を指差しながらリネアに問う。


「はい。端末で身分の証明ができれば、センターにおいて大抵のサービスが受けられるかと思われます。」


やっぱりセンターって言うのか。


「よし。じゃあ、早速センターに行こう!」


「あ、ですが、私の端末だけでは限界があるかと思われます。それに、アイラ様はもともとこの世界の住人ではないようですので。」


「なるほど……他に何が必要なんだ?」


何か制限があるのだろうか。


「そうですね。私は、スクラップとはなりましたが、端末はもともと医療用アンドロイドとして登録されているので、問題ないかと思われます。あとは、マスターがいれば…………あ――。」


「――どうかしたのか?リネア?」


「イ、イエ、キット、アイラ様なら何とかなるデショウ。センターに行ってみマショウ。」


「……リネア?何か気付いたのか……?」


「イ、イエ、ソンナーワタシハナニモー、あ、オンセイ機能の調子ガーアーレー……。」


まぁ、いいや。


リネアの様子を見るに、とりあえずセンターに行けば何とかなりそうだし、今はセンターに向かおう。




俺は、ドキドキしながら自動ドアを(くぐ)る。


さすがに、入って目の前の窓口に声を掛ける勇気はなく、いくつか隣の窓口へ向かう。


「いかがいたしましたか?」


受付のアンドロイドは、いつも通りといった調子で事務的に質問をしてくる。


「あ、いえ……。」


――しまった。


ちゃんと入れるかどうかばかりが気になって、何を言うか考えてなかった……。


「お仕事のご紹介でしょうか?」


言葉に詰まっている俺を見て、そう聞いてくる。


あるいは、そのための窓口だったのかもしれない。


「あ、いえ……そういうわけでは……。」


とはいったものの……この世界にも、俺たちが受けられるような依頼があるのだろうか?

少し気になる……。


「端末を確認させていただけますか?」


受付のアンドロイドに言われ、俺は左腕に()めた腕輪を見せる。


「お、お願いします……。」


――ピピッ。


「承認いたしました。医療従事アンドロイド、リネア様のマスター様でいらっしゃいますね。お名前のご登録がございませんが、登録いたしますか?」


「――あ……は、はい。」


思っていた以上に簡単に話が進む。


「それでは、お名前をお願いいたします。」


「アイラです。」


「アイラ様ですね?医療従事アンドロイド、リネア様のマスター、アイラ様にて承認。他にご家族の方などもいらっしゃれば、ご一緒にご登録をお願いいたします。」


「ミオ、ベル、ユンです。」


これは予想外の幸運だ。


こうもあっさり進むとは……。


「かしこまりました。ご本人様はいらっしゃいますか?」


「――あ、はい。」


俺は、ミオとベル、ユンに前へ出るよう促す。


「それでは、身分証のご提示をお願いいたします。」


――しまった。

そうなるのか……。


俺は、慌てて三人の前に出る。


「すみません。実は三人は身分証がなくて……。」


ここまで言って、これもまずかったのではないかと思う。


「かしこまりました。今回は、信用度の高いリネア様のマスターのご家族様ですので、ご登録させていただきます。次回以降は端末をお持ちいただくようお願い致します。加えまして、データベースに登録がございませんので、それぞれ、端末の発行をさせていただきます。」


なんとか、なったのだろうか……。


「は、はい……。」


また排除されるのではないかと気が気でなかったが、どうやらリネアの信用度なるものは相当のものらしい。


実は、かなりすごいやつなのかもしれん。


「本日は、住居のご紹介でしょうか?」


登録情報等のデータからなのか、受付のアンドロイドはそんな質問をしてくる。


だが、家を買ったり借りたりするような金はない。


どう返答をするか頭を悩ませていると、リネアがこれは好機とばかりに、俺の前へ出る。


「はい、それでお願いします。」


「かしこまりました。物件をお探しいたします。少々お待ちください。」


「……リネア?俺……金なんか持ってないぞ……?」


俺は、リネアに小声で話しかける。


「金?なんですか?それは?」


「――なにって、おま……金だよ金。」


リネアは、何のことを言われているか分からないといった様子だ。


「お待たせいたしました。こちらの物件はいかがでしょう?」


そんなやり取りをしている間に、受付のアンドロイドの物件探しが終わったようだ。


受付のアンドロイドに提示された物件を見るが……これは……。


部屋は二部屋のみ。

それなりに広くはあるが、この人数、このメンバーで住むにはさすがに不足しそうだ。


「――あ、あの……。」


「他にはありませんでしょうか?」


言い掛けるが、俺が次の言葉を発するよりも早く、リネアが口を開く。


「他と申しますと、どのような住宅でしょうか?」


「もう少し広くて、部屋数が多いといいのですが。」


「申し訳ございませんが、現在ご紹介できる物件は総数が少なく、リネア様のマスター、アイラ様の信用度では比較的広めのお部屋のご紹介となります。」


どうやら、俺のせいでこの部屋の紹介となるらしい。


「そう(おっしゃ)らずに、もう一度だけ探してみてもらえませんか?」


「かしこまりました。」


受付のアンドロイドは、リネアの申し出に素直に応じ、次の物件を探し始めている。


実際、リネアの申し出は助かった。

リネアが言ってくれなければ、俺が言っていただろう。


そんなリネアの方を見る。


受付のアンドロイドが操作している端末と、リネアのツインテールから伸びている配線が繋がっている……。


――ピピピー、ガガ、ピピー。


妙な音がした。


いや、気のせいかもしれない。

そうであって欲しい。


「それでは、こちらの物件はいかがでしょう?」


受付のアンドロイドは、別の物件を提示してくる。


先程とは比較にならないほどの優良物件だ。


家全体も大きく、部屋数も多い。


一体、何があれば先程の物件からここまで変わるのだろう。


「……え?でも……こんないい所でいいんですか?」


「はい。アイラ様であれば、こちらのお部屋をご紹介させていただけます。」


「でも……。」


「では、こちらでお願いします。」


何か裏があるのではないかと確認しようとするが、リネアが割り込んできた。


「はい、かしこまりました。」


リネアの言葉に、受付のアンドロイドは承諾し、登録の作業に入る。


登録はすぐに終わる。


「お待たせいたしました。端末のご用意もできましたので、お渡しさせていただきます。」


住宅の登録作業終了と共に、三人分の端末を窓口にて受け渡しされる。


「それでは早速、新しいお部屋へ行きましょう。」


リネアがそう言い、俺たちを新居へと連れて行く。

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