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雪山の怪物

雪崩に関する一文があります。

雪崩や土砂崩れ、津波、地震などにトラウマがある方、

苦手な方はユーターンをお勧めします。

―――ぼんやりと、徐々に視界が晴れていく。

「アイラさん?」

「アイラさーん。」

ミオとベルの2人が俺のことを覗き込んでいた。

「あ、ああ……おはよう。」

「はい、おはようございます。」

「おはようございます。朝ですよ?」

こうして2人に起こされるのは久しぶりな気がする。

意識が少しずつ覚醒していき、ベッドから起き上がる。

体の状態は最高だ。とても質のいい眠りだったようだ。

「朝ごはん、できてますよ?」

「ん?朝ごはん?」

特に食材などもなかったはずなのだが、ミオはいったい何を作ったというのだろう?

覚醒しきっていない意識の中でも、それぐらいの事は考えられる。

ぼんやりとしたまま、丸いテーブルの上を見ると……パンだ。

3人分のサンドウィッチが用意されている。

正確にはフルーツサンドだ。昨日の夜出した食べ物の残りを使って、フルーツサンドを作ったらしい。

まったく、ミオは本当にすごいな。

「どうですか?果物は私が切ったんですよ!」

ベルが自慢げに言う。

「そうか。すごいな。美味しそうだ。」

「はい、どうぞ召し上がってください。」

ミオの言葉を受けて、フルーツサンドを頂く。

食事の後は、出発の準備をする。




「よし、いつでも出られそうだな。ミオとベルはどうだ?」

「はい、私も準備完了です。」

「はい、私も完璧です!」

2人とも支度は済んでいるようだ。2人の様子を見ても、3人とも最高の状態だ。

外出先にも関わらず、よく眠れたこともある。これなら怖いものなしだ。

「それじゃあ、出発しよう!」

宿屋を後にして、依頼の雪山へ向かう。

別に早起きをしたというわけでもないが、3人の状態も良いため、このままなら空の天辺に日が昇りきる前に目的地に到着できそうだ。

さらには、途中で強い魔物の襲撃もなかった。絶好調だ。




目的の雪山の麓に着く。

雪で覆われた村があった。いくつか倒壊した家もある。

人の気配は感じなかった。

おそらく救助を求めているような人間もいないだろう。

状況を見るに、大分前に魔物にでも襲われ、壊滅してしまったのだろう。

住人達も上手くどこかに逃げたと思われる。

情報がないのは心許ないが、山に登ることにしよう。

山の麓で情報を得られれば、それで依頼を達成することも可能だったかもしれないが、

それができない以上は、雪山に登って調査するしかない。

もともと、依頼の内容は雪山の調査だったので、特に問題はない。

「ミオ、ベル、これから山に登って調査をしようと思う。2人は平気か?」

「はい。大丈夫です。」

「もちろんです。行きましょう!」

2人の返事を聞いて、俺は倉庫に用意してあった防寒具をすべて転送する。

自分のものと、ミオとベルの分だ。

雪山に近付くにつれて寒くなってきていたので、

2人にも着てもらう。

2人とも、もこもこで可愛らしい。光に照らされた夜道でも歩こうものなら、キラキラと儚い雰囲気にでもなるだろう。

備えあれば嬉しいなというやつだ。何も憂う事もない。

「それじゃあ、改めて……行くぞ!」

「「はい!」」

3人で、雪山に登り始める。

雪山は、気温が低い事もあってなのか雪は固い。

これなら歩きやすい。寒いことが幸いした。

体力を奪われるので、会話は極力控える。

それなりに急な斜面の雪山だった。

もちろん、登れないほど急というわけでもない。

足場はしっかりしている。問題はないだろう。




少し登ると、ふわふわと雪が降ってくる。


登るにつれて、寒さも降雪も増していく。


小柄なベルが心配になり、後ろを振り向くが、特に問題なく付いてきていた。


何かあっても最後尾にいるミオがどうにかしてくれるだろう。


だが、問題は少しでも少ない方がいい。


「――――ミオ!ベル!少し雪も強くなってきたし、できるだけ距離を詰めて歩こう!」


俺は二人に聞こえるように声を張り、ミオとベルに言う。


「――分かりました!」


肯定の返事が返ってくる。


「――手を伸ばして届く程度の距離にはいてくれ!」


「分かりました!」


それぞれ二人の声が聞こえたのを確認して、最前列を歩く俺は登るペースを落とす。


距離を詰めるためだ。


もう山の中腹辺りだろう。


そろそろ何か見つかってもいい頃だが……。


そんなことを考えていると、少し先に建物が見えた。


――小屋だ。


この雪の中でも平然と建っているところを見ると、相当丈夫な作りをしているのだろう。


ひとまずは、あそこで様子を見てもいいかもしれない。


この雪山自体、あちこちに木々が生えているため、そういったいろいろな要因に守られているのかもしれない。


俺は小屋の存在を二人にも伝える。


「――――ミオ!ベル!小屋がある!ひとまずあそこに入ろう!」


「――そうしましょう!」


「――分かりました!」


二人は俺の指差した先を確認し、肯定の返事をする。


そして俺たちは、小屋に向かった。




小屋の中に入ると、小屋は意外にも簡単な作りでできていた。


簡単な作りにも関わらず、丈夫でもあった。


まるで、厳しい環境の中を小屋を建て直しながら移動をしていくために作られたような……そんな印象を受けた。


「……ミオ、ベル、大丈夫か?」


雪にまみれた防寒具から雪を払い落としている二人に確認する。


「はい、大丈夫です。」


「問題ありません。アイラさんは平気ですか?」


そう返事をする防寒具を脱いだ二人は、妙に色っぽく見えた。


「平気だ。しばらくここで雪を(しの)ごう。」


「はい、わかりました。」


俺たちは、一息付くことにする。


簡易的な暖炉も設置してあったため、魔法で火を点け、暖を取る。


防寒具も乾かす。

雪で濡れた状態の防寒具を着続ければ、体温が下がり過ぎてしまう。


このタイミングで小屋を見つけられたのは幸いだった。


会話もなく、火を見つめているだけだと、妙なことを考えてしまう。


それは、防寒具を脱いだ二人が色っぽかったこともあるのかもしれない。


こういった小屋で濡れた衣服を乾かす時は、着たままだと体温が下がってしまうため、裸になって、お互いの体温でお互いの体を温めあったりすることもある。


そんなことをぼうっと考えていたせいで、少しドギマギしてしまう。


「……アイラさん?どうかしたんですか?」


そんな俺の様子を見て何かを察したのか、ミオが声を掛けてくる。


「――い、いや、なんでもない……。」


ミオの裸は何度か見ているはずなのだが、妙に照れ臭く感じてしまう。


「そうですか……?」


沈黙する……。


睡眠は十分とっていたが、この静けさも相まって少しうとうととする。


すると、突然。


「――――グオオオオオオ!!!!!!」


外から雄叫びが聞こえる。


うとうととしていた意識は一気に覚め、即座に防寒具を着込む。


幸いにも、防寒具はすでに乾いていた。


「――ミオ!ベル!」


二人にも警戒を呼び掛ける。


二人は声を掛けるまでもなく、すでに防寒着を羽織っており、いつでも外へ出ることができる状態だった。


「――行くぞ!!」


「「――はい!」」


呼び掛け、小屋の扉から飛び出す。


雄叫びの聞こえた山頂の方へ目を凝らす。


雪が弱まっていたこともあり、うっすらとその影を確認できる。


――何か……いる…………。


二足歩行の……大きな生物が……いる。


俺たちはその影のいる山頂の方へ一気に駆け上がる。


「雪男……なのか……?」


目視で、姿がしっかりと確認できる距離まで走り、止まる。


まだ距離はあるはずなのだが、その存在を確かに確認できる。


それだけ大きいということだ。


おそらく、俺の五倍近くの高さがあるだろう。


こんなにでかい雪男が存在したとは……まったく……なんでもありだな……。


俺はさらに目を凝らし、その様相(ようそう)の隅々まで確認する。


――――いや、あれは雪男なんかじゃない!


「――ゴーレムだ!!」


ゴーレムは、様々なものが存在する。


大抵のものは土塊(つちくれ)で作られており、形も用途に応じ色々と存在する人形だ。


今目の前にいる巨大なものから、小型のものまで、大きさも様々なものがいる。


そして用途に関しても、多種多様のものが用意される。


単純な目的のために、単調な行動をするものがほとんどであり、身を守る護衛として用いられたり、家事などの手伝いだったり、はたまた男の欲求を発散するための人形として用いられる場合もある。


ゴーレムには、知能と呼べるほどのものはほぼ存在しないのだが、人形といえど、感情も存在する。


また、言葉を話せるものもいる。


ゴーレムは様々なものが存在するため、人間同士でやり取りをすることが苦手なものでも、その性質上、ゴーレムとであれば生活できる人間もいるというわけだ。


そして、今視界に(とら)えているゴーレムは、どういった用途のために存在するのかはわからないが、少なくとも平和的なものでないことだけは分かる。


それを証明するかのように、俺たちを確認したゴーレムは一目散に走り寄ってくる。


「――ミオ!ベル!」


おそらく突っ込んでくるであろうゴーレムに対する警戒を呼び掛ける。


ものすごい速度で、まるでゴリラのように走り寄ってくる。


なんて大きさだ……。

遠目である程度大きいことは予測できたが、目の前にくるとこうも大きく感じるものだろうか…………。


ゴーレムはその勢いのまま右手を振り上げ、その拳を使い俺を払い除けようとする。


「――――なっ!?」


俺はギリギリでその腕を(かわ)す。


あんなものに当たれば、遥か遠くまで吹き飛ばされてしまうだろう。

当たるわけにはいかない。


さらに厄介なのは、体が雪で覆われており、肉眼での判別がし難いことだ。


この雪原の下に白い体、さらには降雪も続いている。


状況はよくない。


一瞬、逃げることも考える。


だが、逃げたところであのスピードではすぐに追いつかれるだろう。


さらに言えば、逃げてミオやベルに標的を変えられ、襲い掛かられてはたまらない。


標的が俺であったのは幸いだったといえるだろう。


そして、そうであればここは戦うしかない。


ゴーレムはすでに第二撃目のために両腕を振り上げていた。


直後。

その腕を勢いよく地面に向かって叩き下ろす。


「――んなっ!!?」


ゴーレムから離れるようにギリギリで回避する。


「――ライトニング!」


すぐに体勢を立て直し、魔法を放つ。


魔法はゴーレムの肩のあたりに命中し、その部分の雪が剥げ落ちる。


どうやら、体は岩石のような硬い素材でできているようだ。


電撃の魔法がほとんど効いていないことがその証拠だろう。


「――――グオオオオオ!!!」


ゴーレムは雄叫びを上げる。


俺の一撃で怒らせたのだろう。


ミオとベルは、自分たちへとすでに強化の魔法を(ほどこ)していた。


そしてゴーレムが雄叫びを上げている隙に俺に対しても強化の魔法を施し、直後そのままゴーレムに攻撃をする。


「――ウィンドカッター!」


「――アクアスライサー!」


命中はしたが、ほとんどダメージがない。


ゴーレムはその攻撃を受け、ミオとベルの方へ標的を変える。


――――まずい!


「――フォイヤ!」


標的を俺の方へと変えさせるため、炎の魔法を放つ。


体の雪が溶け、硬そうな身体が(あら)わになる。


もともと白に近い体の色をしていたようだった。


ダメージは……無い……。


だが、今は体の色を気にしているどころではない。

ゴーレムの標的は、ミオとベルから()らされることはなかった。


ゴーレムは右腕を水平に突き出し、構える。


いや、その腕の先は、わずかに下を向き、ミオたちのいる方へと向けられている。


すると、手首のあたりが開き、明らかに何かが打ち出されるような口が見える。


――――まずい!何かくる!


「――ミオ!ベル!」


「「――アイラさん!!」」


俺は、脇目も振らずミオとベルに駆け寄り、二人を守るように立ち塞がる。


瞬間、ゴーレムの腕から勢いよく水流が放たれる。


防御は……間に合わない――――。


その水圧に、俺たちは押し流される。


「――――ぐっ……うううっ……。」


「――いやっ……!」


「――ああっ……!」


水に飲まれ、雪の地面の上を転がるように飛ばされる。


水流が止み、ゆっくりと立ち上がる。


どうやら、水の威力自体はそこまで強いわけではなかったようだ。


だが、この寒い中、まだ雪も降っている。


長期戦になれば三人とも命の保証はない。


遠くに飛ばされたわけではないようで、ゴーレムはまだ視界に捉えられる。


このまま(きびす)を返してくれればいいのだが……。


そんなことを考えるも、そんな思惑とは正反対にゴーレムは追撃をしようと走り寄ってくる。


「――――くそっ!ミオ!ベル!立てるか!?」


「……はい…………。」


「……大丈夫……です……。」


言うよりも早く、二人はよろよろと立ち上がっていた。


とにかく今は、ゴーレムの接近を妨がなければいけない。


「――アイスウォール!!」


俺は、巨大な氷の壁をゴーレムの走り寄ってくる方向に向けて立ち上がらせる。


――――バリーンッ!!


氷の壁はゴーレムを弾き返すことはなく、叩き割られてしまう。


だが、勢いを殺すことには成功したようで、ゴーレムは足を止める。


何か、打開策はないのか…………。


即座に思考を巡らせる。


どんな攻撃もダメージにはならず、攻撃を受けようものなら即死級、さらには自分たちの体は水で濡れ、時間を掛ければそれだけで命を落とす可能性もある……。


まさに、万事休すというやつだ……。


その間にも足を止めたゴーレムは右腕を構え、俺たちに追撃しようとしている……。


……どうする…………。


……――――――そうだ!


「――――ミオ!アクアウォールだ!ゴーレムの右腕に撃てるか!?」


ひらめき、ミオに呼び掛ける。


「――はい!――アクアウォール!」


何の疑いもなく俺の指示に従い、即座にゴーレムの身長よりも高い水の壁を、ゴーレムの右腕に向かって放つ。


当然それだけではゴーレムがダメージを受けることも怯むこともない。


「――ベル!――フリーズ!!」


俺はベルへ呼び掛けると同時に、ミオの放ったアクアウォールを凍らせる目的で魔法を放つ。


「――はい!――サイクロン!!」


ベルは少し遅れ、俺の意図を察し魔法を放つ。


ベルは、風の魔法に関してはこの中の誰よりも優れている。


その魔法は、砕く目的とともに、凍らせることにも一役買うこととなる。


「――――グオオオオオオオ………………!!」


――バリーンッ!!


ゴーレムの右腕は凍り付き、水の壁を仕切りに分断され、粉々に砕ける。


ゴーレムは右腕を失った。


これだけやってやっと右腕だけだ。


これ以上こいつと戦うのは無理だろう。


「――ミオ!ベル!逃げるぞ!」


ゴーレムが怯んでいる隙を見て、二人に呼び掛ける。


「「――はい!」」


逃げようとする俺たちよりも早く、ゴーレムは身を翻し、山頂の方へ走り去っていく。


それを見て、俺たちは足を止めた。


「……逃げたのか…………?」


安堵とともに、そんな言葉が口をつく。


ゴーレムは見る見るうちに山頂の方向へと走って行く。


ここからでは山頂をはっきりと確認することはできないが、ゴーレムが豆粒大になった辺りで停止するのがわかった。


「……何を……する気だ……?」


嫌な予感がした。


その時だった。


その豆粒が高く飛び上がり始める。


高く飛び上がり、着地する度に、ズドン、ズドン、という地響きがある。


そして、その地響きが五回ほど聞こえた直後だった。


別の地響きが聞こえてくる。


五回の地響きとは比較にならないくらい恐ろしい音だ。


ドドドドとも、ゴゴゴゴとも聞こえる。


俺は瞬時に、その音の理由に思い至る。


「――――――雪崩だ――――!!!」


…………これは…………ダメだ………………。


この音から察するに、おそらく逃げることはできないだろう…………。


自然の猛威というものは、如何なるものよりも恐ろしい。


どんなに強大なドラゴンの咆哮よりも力があり、どんなに強力な生物の一撃よりも大きく、どんなに強靭な武器の一太刀よりも重い。


何者すらも(あらが)うことが(かな)わないだろう。


そしてこれは……その自然の猛威の中でも最大級のものだ。


加えて、この雪山の雪は固く、気温も低い。

さらには、所々に木々が生えていることもあって、土砂すらも巻き込むだろう。


まさに、最大級以上の雪崩と土砂崩れがまとめて押し寄せてくるというわけだ。


「――――これは……死ぬのか…………?」


絶望から、そんな言葉が漏れる。


「……アイラ……さん……?」


俺の様子を見て、ミオが不安そうな声を漏らす。


「…………アイラさん……?」


ベルも同様だ。

あるいは、俺のことを心配してくれているのかもしれない。


二人の顔を見て、俺はすぐに頭を切り替える。


絶望している場合じゃない。


なんとしてでも、この二人だけでも俺は護らなければならない。


そんな強い使命感にも似た感情が、怒涛のように押し寄せる。


即座に考えを巡らせる。

考えながら動く。


辺りを見渡すと、一時凌ぎに利用した小屋が見える。


あの小屋に避難するか。


一瞬そんなことも思ったが、おそらく何の意味もないだろう。


小屋ごと潰されてなにもなくなる。


さらに考えを(めぐ)らせる。


であれば、防がなければならない――――。


そう思ったからだろうか。


山頂方向に向かって、倉庫にあった全ての盾を突き立てる。


――――いや、既に突き立っていた――。


防ぐことを考え盾を用意したのではなく、防ごうと感じた時には既に全ての盾を地面に突き立てていた。


その盾の中には、名のある盾……熟練の鍛冶士が長い年月を掛けて作った盾、何人もの人間を守ることのできる盾。

レプリカではあるが、ギリシャの最高神が娘に与えたとされる盾や、(かかと)を矢で射られて死に至ったとされる駿足(しゅんそく)の大英雄と同名の名を持つ盾。

さらには、竜の王を倒し、さらわれた姫を救った伝説の勇者と同名の名を持つ盾など、あらゆる盾が突き立っている。


だが、それでもなお……この音は、それをもってしても防げるものではない。


であればなんだ。


俺にできることで、あれを防ぐ手立て…………。




それは……やはり…………魔法だろう。


それ以外に、あの音に対抗する手段を、俺は持ち合わせていない。


奇跡でしかあれを防ぐことはできない!

魔法で……奇跡を起こすしかない!!


「――――アイスウォール!!!……――――アイスウォール!――――アイス、ウォール!!」


力いっぱい、氷の壁を、いくつもの盾の後ろに三重に突き立てる。


だが、突き立ててから気付く。


――ダメだ…………。


こんなもので防げるわけがない……。


振り返り、ミオとベルの方を見る。


二人の不安そうな姿が目に映る。


……どうする…………どうする、どうする、どうする――――!!




……――――盾だ――――――。




やはり、盾で防ぐしかない。


何ものにも負けない、最強の盾が要る。


「――――ミオ!!ベル!!」


そう、叫んでいた。


いくつもの盾と氷の壁、そして俺の後ろにミオとベルを控えさせ、山頂の方向を見据える。


気が付けば、小屋の近くまできていた。


二人を背にして、俺は山頂に向かって右腕を突き出し、(てのひら)(かか)げる。


「――――アイスシールド!!!!!」


可能な限りの力を乗せて、氷の盾を構える。




――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――!!!!!




――地響き――。


その音と振動が、大きく、近付いているのを感じる。


ここまで、何秒の出来事だっただろう。


時間が……長く感じる。


まるで、自分以外のすべてがスローモーションで動いているような感覚だった。


それ故だったのだろう。


すぐにこの程度の氷の盾であれを防ぐことはできないと察する。


これほどまでに大きく強固な盾を用意したことはなかったが、それでもなお不可能だと分かる。


あの音は……それほどのものだ……!!


思考を巡らせる。


とにかく考える。


まるで走馬灯のようにあらゆる考えが頭に浮かぶ。


しかし、死が頭を()ぎり、もう一度ミオとベルの方を振り向いてしまう。


そして、願う……。


さらに強力な……最強の盾を!!!


俺は、走馬灯の中からなぜかスライムを思い出した。


いや、実際にはスライムそのものではなく、スライム退治の一件だった。


より強力なものを用意するには、より強力な力が、量が、言葉が必要になる。


「――――ミオ!!ベル!!頼む――――――!!!」


その一言を聞き、ミオとベルは俺の背に手を添える。




――――――次の瞬間だった――――――。






「「「――――――グランドアイスシールド――――――!!!!!!!!!」」」






三人は声を揃え、同じ言葉を発した。


そこに、巨大で強固な、氷の盾が出現する。


その盾は、透き通っていながらも、光り輝き、結晶のようでもあり、流体でもある。


その盾は、凍り付きながら風を纏い、さらに大きさを、厚さを、強度を増していく。


――――――刹那――――――。


迫りくる音が、最大音量に到達する。


視界に、押し寄せる白い地獄が映る。




――――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――!!!!!!!




視えたと思った次の瞬間……いや、そんなことを考える一瞬すらもなかった。


山頂から押し注いだ雪は、木々は、土砂は、その全てが、掲げられた盾に叩きつけられていた………………。




――――無音にすら感じられる。




突き立てられた幾重もの盾を巻き込み、跳ね飛ばし、氷の壁を一瞬で叩き壊す。


そして、三人の力で作られた巨大な盾をも砕こうとばかりに、白き猛威が叩きつけ続けられる。


それは、時間にして永遠のようにも感じられた……。


流されてきた土砂の中には、自ら発生させた雪崩に飲み込まれたゴーレムの姿もあった。


あれほど強固で、砕くことすらもやっとであったゴーレムは、バラバラになっていた……。


その体の部品は、巨大な氷の盾に叩きつけられ、山の(ふもと)へと向かって流されていく。




――――ピシッ!ピシッ!




巨大な盾へと雪崩は押し寄せ続け、ついにはその盾にヒビが入る。




「――――――うおおおおおおおおおおおおお――――――!!!!!」




俺は、自身の生命力すらも削り、限界を超えて全てをその盾に乗せて盾を維持する。




――――――――永い――――――――。




……一体……いつまで続くのだろうか………………。




…………凌ぎ切ることができるのだろうか………………。




…………俺は……この二人を……護り切ることができるのだろうか………………。




――――いや……!!護り……通さなければ――――――!!!




――――ピシッ、ピシッ!――…………。




…………パリーンッ――――――――――。


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