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新人

―――ジリリリリリリr………。


朝だ。


今日も面倒くさい……。


布団から出た方がいいという頭の中の天使と、布団の中でまた二度寝してしまえという頭の中の悪魔が、格闘ゲームよろしく頭の中で戦っている。


……だが、ライフギリギリで天使が勝ったようだ。


布団から出て体を起こし、真っ先に顔を洗いに行く。


まだ頭はぼんやりとしている。


着替えを済ませて食事を取る。


だるい……。


いつも通りの朝だ。


支度を完了させ、家を出て、電車と徒歩で職場に行く。




「おはようございまーす。」


職場に着く。


今日はいつもよりも少し人が多い気がする。


まぁ、シフト制なのでそんな日もあるのだろう。


「――それじゃあ、みなさん、ちょっといいでしょうか?」


店長がそんなことをいい始める。


そのまま、うしろにいた子を前へ出るように促す。


「では、こちらへ……。」


「……はい!」


店長のうしろからは、見慣れない女の子が出てくる。


可愛らしい声で元気に返事をし、少し緊張気味な様子で前に出てきた。


小動物のような子とでも表現するのだろうか。


なんにせよ可愛らしい子だ。


(うい)といいます。(はつ)と書いてういと読みます!よろしくお願いします!!」


実際に跳ねているわけではないが、ぴょんぴょんと飛び跳ねるような可愛らしい印象だ。


新規雇用の新入りさんってやつだろう。


そんなことより、今日は相野さんも出勤していたな。


思い出して見回すと、相野さんと目が合う。


ぱちっと目が合い、相野さんは目を泳がせ、すぐに顔を逸らされる。


……やはり、まだ嫌われているのだろうか……?


とりあえず許してくれただけで、人間の気持ちというのはそんなに簡単に変わるものでもないだろう。


しょんぼりだ……。


そんなことを考えていたせいで、そのあともダラダラとなにか喋っていた店長の言葉を聞き逃した。


しまった。


まぁ、別に大したこともいってないだろうからいいけどな。


「……と、いうわけで、みなさんも初さんと仲良くするようにお願いします。それじゃあ、みなさん、仕事を始めてください。」


店長がそういい終えるのと同時に視線を感じ、初さんの方を見る。


なぜだか少し不機嫌そうな目つきで俺の方をじっと見ていたようだ。


これは、新しく入った子にも嫌われたのだろうか……?




「――それじゃあ、まずはレジの操作からできるようになりましょう。じゃあ、瀬濃君、さっきいったようによろしくね?」


……え?さっき……?あ、ああ……どうやら、大したことをいっていない。

というわけではなかったようだ。


俺が初さんにレジ操作を教えることになっていた。


真っ先に俺と一緒でいいんだろうか?


嫌われていた様子だったのに……。


――レジでできることと、その操作について教える。


初さんは俺の顔をチラチラと気にしながらだったが、真面目に聞いていた。


「それじゃあ、隣で見てるから、お客さんがきたら実際にやってみようか。」


「――はい!」


初さんはしっかりと返事をする。


とはいっても、今は店内にそのお客さんがいない。


これはしばらく待機だ――。


ようやく何人かのお客さんが入ってきて、レジ操作を実際に(おこな)ってもらった。


呑み込みが早い。


容量がいいのかもしれない。


特殊な客がこなかったというのもあるが、割とあっさりできるようになってしまった。


――午前中は、初さんにレジ業務を教えながら終えた。


もう何度か経験すれば、すぐにできるようになるだろう。


俺と初さんは、休憩に入る――。


「――あ、あの……瀬濃さんは、あの女性の方……えっと……相野さんと、お付き合いをしているんですか?」


二人で休憩に入り、休憩室でのんびりしていると、初さんが俺の様子を(うかが)いながら声を掛けてくる。


さっそく名前を憶えているようでなによりだ。


それにしても、いきなりすごいことを聞いてくるな。


「……え?……えっと……付き合ってはないかな……?もっと仲良くなれるといいんだけどね……。」


いきなり聞かれて驚いたこともあり、自分の気持ちも織り交ぜながら正直に答えてしまった。


「……え?そうなんですか!?私はてっきり……いえ、ならいいんです!」


初さんは少し驚いた様子だったが、そのあと納得したようでにこりと笑い掛けてきた。


そんな話をしながら、休憩を終える――。


午後は、在庫の整理について相野さんが初さんに教えるようだった。


一通り教え終わり、実際にやってもらっている。


やはり要領のいい子のようだ。


相野さんのことが……いや、新しく入った初さんの様子が気になり、ギリギリ声が聞こえるところで俺も在庫の整理を始める。


二人はそれぞれ棚に並べてある在庫の方へ向かい、作業をしながらなんの変哲もない女の子同士の会話をして楽しそうにしていた。


「……そうだ!相野さんは、瀬濃さんのことどう思いますか?」


「……え?ど、どうって……どういう意味ですか……?」


……え?なにそれ……気になるじゃないか……。


「いえ、午前中は瀬濃さんに色々教えてもらったので、どういう方なのかなって?」


「あ、ああ……そういう……。」


ああ……そういうことね。


――ビックリしたー!


「どうといわれても……真面目で仕事のできるいい人ですよ?」


相野さんは答える。


んー……これはどうなんだ……?なんとも思われてないってことなんだろうか……?


「――え!?そうなんですか!?」


初さんは少しわざとらしく驚いていた。

 

「でも、真面目で仕事のできる人なら、好きになっちゃったりしないんですか……?」


「――え……そ、そんなわけ!……ない……じゃないですか……。むしろ、なんかちょっと嫌いです……。」


――――――嫌われていた…………。


…………これは、ショックだ………………。


「――ええー本当ですかぁ?」


初さんは相野さんを茶化すようにいっていた。


「――ほ、本当です!」


はっきりと答える。


はぁ……マジかぁ…………。


それにしても、この初さんって子は……グイグイ行く子だな……。


「じゃあ、もし他の女の人が瀬濃さんとお付き合いしたら、どう思いますか……?」


「――――ど、どうって!べ、別にどうも思いませんよ?好きにすればいいじゃないですか!」


ですよねー……。


俺は……悲しくなった。


うしろからなので、表情が見えないのが悔やまれる……。


せめて顔が見えれば、どんな気持ちでそういっているのか、少しくらいなら分かるだろうに……。


「へー……そうなんですね……。」


初さんは、相野さんのいる方とは反対側へわずかに顔を伏せた。


口元がフフッと笑ったように見えて少し怖いような気もしたが、きっと気のせいだろう。


うしろからだし、よく見えないしな。




今日は初さんが初出勤ということもあって、いつもとは少し違ったが、いつも通りに仕事が終わる。


「――あ、瀬濃さん!今日は本当にありがとうございました!明日からもよろしくお願いしますね!!」


帰ろうとすると、初さんが声を掛けてきた。


ニッコリと可愛らしい笑顔だ。


「あ、ああ……まぁ、なんか困ったことがあったら何でもいってよ。それじゃあ……お疲れ様です。」


「――はい!お疲れ様でーす!!」


ニコニコとしながら挨拶をしてくる。


そのあとは、いつも通りに帰宅し、いつも通りに食事を取り、いつも通りに風呂に入り、寝る支度をした。


相野さんと初さんの会話を思い出し……初さんに次は何を教えるかを簡単に考えたが、実際に教えながらでないと分からないので、考えるのをやめて寝ることにした。

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