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友人

―――どこだ!?ここは………!?


いや、森の中だ。


そうだ、昨日は……あれ?なんだこれ……!?体が……重い!!?


かなり疲れていた……。


眠っている夜の間に、一体何があったのだろうか……。


俺は全裸で大の字に寝ており、その周りには、産まれたままの姿の湖の女性たちが眠っている。


可愛いな……。


じゃなかった。


――そうだ!ドリアードは……!?


……見当たらない……。


それにしてもだるい……。


むしろ眠る前よりも疲れているのでは……?


体が重い……。


身体が痛い……。


あと、なぜだか尻も痛い……。


俺が眠っている間に、一体何があったのだろう……。




俺は、脱がされていた服を装備し、湖の方へと向かう。


湖の(ふち)には、綺麗な緑色の髪をした美しい女性が立っていた。


――ドリアードだ。


「――あら、アイラさんではありませんか。昨夜はごちそうさまでした。」


綺麗だ……。


言葉の内容は少し気になったが、どことなく言葉遣いも昨日より神々しい。


そんなドリアードの顔を見ると、昨日よりも肌がつるつるとしており、頬もほんのり紅潮していて、少し若返ったようにも見える。


ふんわりと微笑む笑顔が、昨日よりも可愛らしい。


「……昨日の夜は……一体、なにが……?」


「……途中で、眠ってしまわれたのですよ。」


「ああ……やっぱりそうだったのか……すまなかったな……。」


「いえいえ、構いませんよ?構わず色々といただきましたから……。」


「……色々と……?」


「ええ……色々と……。他の乙女たちも楽しんでおられましたしね。」


「お、おお……えっと……約束を破ったってことになったりは……?」


「お気になさらずに。先ほども申し上げましたが、いただくものはいただきましたので。」


「そ、そうか……。」


「故に、私も約束は守りましょう。この森も、湖も、乙女たちも、私が危険から護りましょう。」


「そうか……ありがとう。」


「――い、いえ、か、感謝などいいのです。約束なのですから。」


……こっちが素なのだろうか……?


少し笑ってしまう。


「……ありがとう。よろしく頼む。」


そういうと、ドリアードは微笑む。


「はい。お任せください。」


これであの女性たちは、もう安心だろう。


「あ、あと……。」


まだいい足りないことがあったようだ。


ドリアードの頬が赤くなる。


「――き、昨日も申し上げましたが、あなたはまた時々ここに顔を出しなさい。その際にはまた、精気をいただきます。いいですね?」


「――お、おう、分かったよ。」


まぁ、いくら安全といっても女性たちのことも気になるし、そのついでくらいにいいかもしれないな。




「――それじゃあ、俺たちはこの辺で。」


「はい。大変お世話になりました。是非またいらっしゃってくださいね。」


女性たちに見送られる。


ドリアードと話をしたあと、女性たちも起きてきて、ミオやベルと一緒にみんなで朝食を作り、自警団連中、女性たち、ドリアードも含め、俺たちは楽しく食事をいただいた。


食事のあとは、今後の援助や方針などをみんなで相談した。


一通り落ち着いたため、やるべきことをやり終えた俺たちは自警団連中を残し、四人で一足先に帰ることとなったわけだ。


自警団連中は黙々と作業を進めている。


真面目な連中なのだろう。


「――そうです。是非またくるのですよ?ま、待ってますからね!乙女たちの安全は、私が保障します。」


女性たちの言葉を聞き、ドリアードも出てくる。


「そうか……ありがとう。任せるよ。」


「――は、はい。安心して任せるといいのです!」


ドリアードは顔を赤らめながらいう。


「ああ、頼む。」


俺はいいながらくすりと笑ってしまう。


「――な、何がおかしいのです!」


「いや、なんでも。じゃあ、みなさんもお気を付けて。何かあったら助けにきますので、遠慮なく頼ってくださいね。」


俺は、ドリアードも含め、女性たちに改めて挨拶をする。


「本当にありがとうございます。今度は私たちもあなた様を歓迎できるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」


「はい。それじゃあ、また。」




挨拶を交わし、ミオとベル、モナを連れて、少し離れた安全そうな場所へと移動する。


「――それじゃあ、帰るぞ。」


俺はきた時と同じように、太陰太極図(たいいんたいきょくず)の魔法陣を描き、意識を集中し、転送魔法を使う。


帰る時の方が自分たちの帰る場所をイメージしやすい。


あと、これはもう少しあとの話になるのだが……この湖のある森は、のちにアウロラの湖と呼ばれることになる。


理由としては、どうやらこの湖には美しい女性たちの幻影が現れる場所とされ、そこを襲ったもの、そこで助けられた冒険者がいるという話から、美しくも、幻影のような……オーロラのような場所だった。

という話かららしいが……その話はまた別の話だ。


この湖が湖ではなく、もし海であったならば、きっと竜宮城などと呼ばれていたかもしれないな……。




――俺たちは、自分の家の前へと帰ってくる。


なんだか、すごく久しぶりな気がする……。


実際は二日程度しか経っていないはずなのだが、そんな感覚になった。


「それじゃあモナ、本当にありがとうな。今回はいろいろと助けられた。」


俺は一緒に転送魔法で帰ってきたモナに感謝する。


「ううん。そんなことないよ!アイラ君の役に立てたならよかったもん。また何かあったら呼んでね?……よ、用がなくても、呼んでくれてもいいからね?」


「そうか、ありがとう。じゃあ、今度はその内、どこか一緒に遊びにでも行こう。」


「――ほ、本当!?やったー!期待してるからね!!」


モナは素直に喜んで見せる。


「分かった。それじゃあ、気を付けて帰るんだぞ?」


「――うん、ありがとう!っていってもそんなに遠くないんだけどね。えへへ。それじゃあ、またね!」


モナは明るく答え、俺がまたなと挨拶をするや否や、颯爽(さっそう)と帰って行く。


「……さて……なんか久しぶりな気がするな……。ミオ、ベル、中に入ろうか。」


「はぁ……そうですね……。お家に入りましょう。」


溜息(ためいき)をつかれてしまった……。


ベルは少々、不機嫌な様子だ。


「そうですね。入りましょうか。」


ミオのいい方は冷たかった。


ベルだけではなく、ミオも不機嫌なようだ。


色々なことがあって疲れたし、今日はゆっくり休むことにしよう。


日はまだ空の上へと向かって昇り続けている。


つまりはまだ、昼前というわけだ。


まぁでも、起きてからそれなりに時間も経っている……。


お腹も空いてきたし、先に昼食を取ってもいいかもしれない。


湖のことやインプの件、ギルドへの報告は食事を済ませた後でもいいだろう。


時間もあるし、シチューを作ることにした。


今日は、俺が作る。


ミノタウロスの()の乳とピーグルの肉、人参やイモ類、食感のいい野菜なんかを使って簡単に作る。


簡単といっても、作り終える頃には、すでに日は空の頂点にあった。


二人はまだ不機嫌な様子ではあったが、極端に無視をしたりはしなかった。


二人とも大人になったということだろう。


もちろん、精神的な意味でだ。


シチューをおかずにパンを食べる。


保管してあったパンも小麦粉もなくなってしまったし、後で買いに行くことにしよう。


「……二人とも、なんでそんなに機嫌悪いんだ?」


食事をしながら、不機嫌な様子の二人になぜ不機嫌なのか聞いてみる。


「はぁ……。アイラさんはそんなことも解らないんですかぁ?」


ベルは目を細めながら、溜息混じりに口を開く。


ベルは最近、よくこういう目をする。


ジト目というやつだ。


まぁ、それもそれで可愛かったりはするのだが……。


「……え?ごめん。俺なんかしたのか?」


「まったく……アイラさんは……。そんなんだと、いつか痛い目に遭っちゃいますよ?」


今度はミオが口を開く。


「――ふ、不吉なこというなよ。本当にありそうで怖いだろ。」


「まったく、仕方ないんですから……。」


「……あんまりいろんな女の人とイチャイチャしないでくださいね?きっとその内、大変なことになっちゃいますよ?」


ミオに続いてベルもいう。


「……べ、ベルまでそんなこというなって。ごめんって……。」


俺は、謝ることしかできなかった。


「「はぁ……。」」


返ってきたのは……溜息だった。


でも、こうして警告をしてくれているということは、きっと心配もしてくれているということだろう。


今後はもう少し気を付けることにしよう。


「ごちそうさま。」


各々(おのおの)食事を終え、俺はパンや小麦粉の買い出しと、ギルドへの報告に行くことにする。


一人では()ちきれないかもしれないので、ミオに同行してもらうことになった。


ベルはお留守番だ。


先に、ギルドへ報告をしに行った。


報酬は、湖の女性の救援と、さらにはインプの件、またその内容もあり思っていたよりも大分よかった。


一年ぐらいはちょっと贅沢をして生活できてしまうだろう。


ギルドのお姉さんにはまた歓迎されてしまったが、他に依頼を受けるつもりでもなかったので、報告はあっさりと済ませ、さっそくパンと小麦粉の買い出しに向かう。


そういえば、ミオと二人きりというのもかなり久しぶりな気がする……。




「――久しぶりー。」


俺はパン屋にきていた。


友人の経営する店兼自宅でもある。


「――おお、久しぶりだなぁ。」


店の中に入り声を掛けると、優しそうな男の声が返ってくる。


こいつは、こっちの世界の友人だ。


見た目は……デ……ではなく、だらしのない体型……というわけでもないのだが、少し丸みのある体型をしている。


まぁでも、いうほどデブというわけでもない。


ただ、可愛らしい丸さとかではなく……恰幅(かっぷく)がいい。


まぁある意味、こいつの作るパンだからこそ美味そうにも見えるのだが……。


「――ダイちゃーん?お客さん?――あ、アイラさん!お久しぶりです!お世話になってまーす。えへへ。」


奥から焼き立てのパンを運んでくる可愛らしい女性の声が聞こえる。


ダイというのは、この恰幅(かっぷく)のいい男の名前だ。


そしてその名前を呼んだ可愛らしい女の子はマユ。


見た目は……それなりにスタイルもよく、おっぱいも大きい。


スタイルだけでいうなら、ミオにも(おと)らないだろう。


そして、田舎娘という表現が合うかもしれない。


目立つ程ではないが、そばかすなんかもある。


髪の色は、赤い髪をしている。


赤い髪というのは……実は、少し珍しい。


黒髪、茶髪、白髪、金髪、あとは……青系統の髪は見たことがあるが、赤い髪に関しては俺はこの子以外見たことがなかったと思う。


まぁ赤というのは茶色に近い赤もあるので、俺が気付いてないだけなのかもしれないが……見たことはなかった。

と、思う……。


少なくとも、この子の髪は赤と分かる程度には赤ということだ。


ちなみに、オレンジや緑色の髪というのも、ドリアードやアルラウネを除いては、今の所見たことがない。


というか、そもそも存在していない……と思う。


そして、それ故にといってしまっていいだろう……珍しい髪の色ではあるが、このマユという女の子は、紛れもなく人間だ。


髪型は……ショートボブとでもいうのだろうか?


パンを作るのに髪が長いと邪魔にもなるだろう。


赤い髪は肩の少し上ほどの長さであり、サイドの辺りの髪を編み込んである。


ショートボブ編み込みヘアーとでもいえばいいのだろうか?


編み込んでいる辺り、短い髪ながらも女の子らしさを忘れてはいない。


ダイとマユ、この二人の関係は、ただのパン屋の同僚……というわけではなく、熟年夫婦……などでもなく、新婚さんのような関係……といって差し支えないだろう。


子供は、まだいない。


この二人とはとある一件以来、パンや小麦粉を安く譲ってもらい、時には俺がピーグルの肉をこちらから差し入れているような、お互い、与え与えられるいい関係を築いている。

と思う……。


そして、そのとある一件というのが…………―――――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――これはまだ、俺とミオが二人だけで暮らしていた頃の話だ―――。


「――ミオ、準備はいいか?」


「――え……あの……はい……大丈夫……です……。」


俺は、ミオに出発の確認をする。


ミオは、最近俺が召喚にて呼び出した紫の髪が綺麗な女の子だ。


我ながら自分の好みがダダ漏れではあるが、こんなに可愛い女の子とこれから一緒に生活をしていくと思うと……わくわくがとまらねぇぞ。


今までも一人で依頼を受けてはいたが、やはり一人だとできることも限られる。


あと、単純に寂しいしな。


まずは住むところをと思い、持ち家を購入したが、やっぱり独りは寂しかった……。


だから、一緒にいられる誰かがいるというのは、本当に嬉しい。


その嬉しさのせいなのか、ミオとはまだちょっと温度差もあるように感じる……。


俺が嬉しそうにしているのに対して、ミオはまだ遠慮がちで、打ち解けられないといった感じだ。


警戒心もあるのだろう……。


今日はそんなミオと仲良くなるためにも、ミオに積極的に行動してもらえるような依頼を受ける予定だった。




俺とミオはギルドに到着する。


さっそく、掲示板を確認した。


さすがにいきなり難易度が高い依頼を受けさせるわけにもいかない。


ミオに怪我をさせたくはないしな。


そんなことを考えながら依頼を確認していると、目に()まるものがあった。


『お手伝いお願いします!手頃な魔物を倒せるようになりたいので、私と一緒に訓練のために魔物討伐を手伝ってください!!』


そんな内容のものだった。


感情がすごく前面に押し出されたようなものではあったが、依頼としては手頃だと思われた。


「――よし、これにしよう!」


「――え……あ……はい……。」


ミオにもとりあえず肯定の返事をもらえたようだ。




俺たちは、ギルドからそう離れてはいないパン屋に向かう。


なぜパン屋?


そんなことも思ったが、依頼人のいる場所がパン屋なのだから仕方がない。


店に入る。


「――いらっしゃいませー!」


店の中は、町のお客さんで賑わっていた。


ここは近所でも人気のパン屋で、食事を手軽に済ませたい連中なんかはここでパンを買って帰る。


そして、ここを経営しているのも、もちろんあっちの世界の住人でもあるというわけだ。


あっちの世界でもパン屋をしているかどうかまでは俺には分からない。


「えっと……依頼を見てきたんですが、マユという方はいらっしゃいますか?」


比較的手の()いていそうな店の人に声を掛けて聞いてみる。


「マユですか?ちょっと待ってくださいね?……マユー!依頼を見てきたって人がきてるよー?」


マユという名の依頼人を、声を張って呼ぶ。


「――あ、はーい!私でーす!」


少し離れたところから、人懐っこいような可愛らしい声が聞こえてくる。


両手で持っていたできたてのパンを売り場に置いて、こちらに駆けてくる。


身長は……ミオよりも少し小さい。


見た目のイメージとしては……田舎から出てきてそこそこ栄えている町で献身的に頑張っている女の子。


また、ロリというほどでもないかもしれないが、柔らかく、素朴な雰囲気のロリ巨乳ちゃん。


とでもいったところだろうか。


胸は……ミオよりも大きいかもしれない……。


そんなことを考えていたせいで、ついついミオの胸と見比べてしまう。


ハッと気付き、ミオの顔を見ると……暗い目をしていて、なんですか?とでもいわんばかりの表情をしている。


これは、幸先が……悪いやもしれん……。


「えっと……マユさんですか?特訓を手伝って欲しいという依頼を見てここにきたんですが……忙しそうですかね?」


「あ、はい……えっと……。」


おそらく、失礼な返しにならないよう上手い言葉を探しているのだろう。


いい子だ。


「――マユちゃーん?どうしたのー?」


会計をしているカウンターから、年配の女性の声が聞こえてくる。


おそらくここの責任者、経営者だろう。


そういう雰囲気だ。


「――ちょっと待っててもらえますか?」


「あ、はい。」


マユという女の子は、俺に確認を取り、年配の女性の方へ走って行く。


「――あの……実は……前にお話ししていた依頼の件で、それを引き受けてくれた方がきてくださったんです。」


「あ、ああ……あの……いいよ、行っといで!なんなら何日かお休みにしちゃってもいいから、その時は遠慮なくいいな。」


「――え?でも……悪いですよ……。今日はお仕事終わってからでも……。」


「いいって、いいって。いつもマユちゃん頑張ってくれてるんだから。こういう時くらい甘えちゃっていいわよ。」


「いえ……そんな……。」


「それにせっかくのチャンスなんでしょ!気にしないでいいから頑張っといで!」


「え、えと……あ、ありがとうございます!じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……頑張ってきますね!」


「――行っといで!頑張ってきなさい!応援してるからね!」


「――はい!ありがとうございます!」


二人は、そんなやり取りをしていた。


マユは話を終え、こちらに小走りをしてくる。


本当に嬉しそうな笑顔だ。


年配の女性も……魔物退治に行くというのに、我が子を微笑ましく送り出すような笑顔をしている……。


ちょっと不思議だ。


「えっと……今から行ってもいいといってもらえましたので、さっそくお願いしてもいいですか?」


「ああ、もちろん。早速行こうか!」


「――はい!」


「ミオも……平気か?」


「あ……はい……。」




――俺とミオ、そして依頼人のマユは、町外れの森にきていた。


「それじゃあマユ……さん?ちゃんのがいいのかな?」


「――ちゃんでいいです!」


「じゃあ……マユちゃん。マユちゃんは……どんな武器を使うの?」


「……武器……。」


マユは口籠(くちごも)る。


「……えっと……実は私、戦ったことがなくて……。」


「そうなのか。じゃあまず……その特訓からだな。」


いろいろと聞きたいことはあったが、今は依頼人の意思を尊重することにする。


「――はい、お願いします!」


「じゃあ……これを振ってみてくれ。」


俺はさっそく、一番よく使われているような剣を渡してみる。


「――はい!よいしょ……っと!……お、重い……うぬぬぬ……。」


――ガシャンッ!


少し持ち上がったが、重すぎて振り回すことはできないようだ。


「……じゃ、じゃあ……剣は止めて、槍にしてみよう。」


「あ……はい!」


マユは槍を構え、突きの動作をしてみる。


腰が入っていない……。


こんなんじゃ、魔物を倒すことはできないだろう。


「……よし、じゃあ……ちょっと槍を回してみようか。」


「――はい!」


――ブォン!


「――あ、あぶっ!――危なっ!」


――カラン……。


「――ご、ごめんなさい!」


振り回す際にコントロールもできず、さらには槍を落としてしまった。


「――よ、よしわかった。じゃあ……次は弓ならどうだ!?」


俺は弓と矢を渡す。


「じゃあ、あの木を目掛けて矢を射てみようか。」


「――は、はいっ!」


構える。


――カラン……。


矢を落とす。


また構える。


――カラン……。


また落とす。


構える。


――ヒュンッ!


ようやく射れた!


「――ふおっ!?」


俺のこめかみを(かす)める。


隣にいたはずの俺のこめかみを掠める。


「――ご、ご、ご、ごめんなさい!!」


「――い、いいって、いいって、ダイジョウブ。よ、よーし、武器は止めよう。魔法を使ってみようか。」


「――は、はひ!ごめんなさい!分かりました!」


「よし、じゃあ……まずは、風の魔法を試してみよう。」


「――はい!お願いします!」


お手本を見せることにする。


「――――まず、風をイメージする……。強い風が吹いてくるのをイメージしてみようか……。それで、その風がもっともっと強くなっていって、強い風がそのまま強いまま小さく、丸くなっていく……。その小さくなった風を薄く伸ばして、飛ばすような感じ……。そうだな……。風の円盤を投げるようなイメージ…………。――ウィンドカッター!」


前方にあった木が、横に切断される。


「――どうだ?できそうか?」


「――お、おぉ……や、やってみます!」


マユは集中し、イメージする……。


「…………――うぃんどかったー!」


――そよそよそよー…………。


うん、涼しい!いい風だね!


いや、今のは普通に風が吹いただけかもしれない……。


「――よ、よーし……じゃあ、次は水の魔法だ。」


「――はい!」


水魔法といえば、ミオが得意な分野だ。


ここは、ミオに頼もう。


「――ミオ、水魔法を教えてあげてもらえないか?」


俺は、近くで座って膝を抱えて見ていたミオに声を掛ける。


「あ……はい……。」


「――お、お願いします!」


「……はい……。こうです……えっと……雨が……たくさん降ってくるみたいに…………。――アクアスプレッド!」


俺が切断した木は、ミオの魔法によっていくつもの水の弾に貫かれ、穴だらけになる。


「――お、おぉ……!すごいです!えっと……こう?……でしょうか?…………――あ、あくあすぷれっど!」


――ピチョン……。


水は出た。


一滴だけだった。


もしかすると、汗が垂れたのかもしれない。


……ミオよ、そんな(あき)れたような暗い目で、ムッとしながらマユちゃんを見ないでやってくれ……。


「――よ、よーし!じゃあ、火だ!火の魔法を使ってみよう!火ならパン作りでも使うし、イメージもしやすいだろう!きっと!」


「――は、はい!お願いします!」


「――火をイメージする……。燃え盛る炎。あるいは、日差しに照らされて段々と熱くなっていくようなイメージでもいい……。段々と熱くなっていって、熱くて熱くて、熱すぎて焦げ始める……煙が出て、赤く燃え始める…………。――フォイヤ!」


切断され、穴だらけになってしまったまっすぐに立っていた木は、炎を上げて灰となる。


木さん、ごめんなさい。


「――さぁ、やってみようか!」


「――はい!……()……(ほのお)……石窯(いしがま)の火……パンが焼ける熱い火…………。――ふぉ、ふぉいヤー!!」


――ボウ!!


切断され横たわっていた方の木から、炎が上がる。


マユの唱えた魔法は、まるで気合いを入れた掛け声のようでもあった。


「――やった!できたじゃないか!!」


思わず、本人よりも先に喜んでしまう。


「――はい!!やりました!!やったー!!」


マユはぴょんぴょんと飛び跳ねて、全身で喜びを表現する。


身体が跳ねるのにほんのわずかに遅れて、おっぱいもぽよんぽよんと弾む。


飛び跳ねるマユを思わず目で追ってしまう。


ふと気配を感じてミオの方を見ると、暗い目で俺を睨みつけてきている……ようにも見える。


ものすごく不満そうな顔だ……。


ごめんなさい。


「――さて……とりあえず魔法も使えたし、今日はこのくらいにしておこうか。」


もう夕方だった。


もう少しだけできなくもないだろうが、無理をしてもいいことはないし、一朝一夕(いっちょういっせき)で十分な状態になるような気もしなかった。


初日だし、早めに切り上げて疲れを蓄積させないことも大事だろう。


「――あ、はい!ありがとうございます!また明日もお願いします!それじゃあ!」


マユは必要なことだけをいって、急ぎ足で帰って行く。


いや、走って帰って行った。


急ぎの用事でもあったのだろうか?


あるいは、実は俺と一緒なのがいやだったのか……?




そして翌日。


マユは火の魔法が使えることが分かった。


武器は、杖を使ってもらうことにする。


魔法を使うものには相性がいいだろう。


先端が棍棒のようになっているものを渡したので、打撃武器としても使える。


これなら、重くもないしな。


「――さて、じゃあさっそく、昨日使えることが分かった火の魔法を練習してみよう。」


「――はい、お願いします!」


「じゃあ、とりあえず……木に向かって何度か魔法を放ってみようか。」


「――はい!分かりました!えっと……火をイメージ……。(かま)の火……。熱い火…………。――フォイヤー!」


目の前の木は炎を上げて燃える。


成功だ。


「――おお!すごいじゃないか!マユちゃん!」


「――はい!」


「よし、そしたら、もっと早く使えるように練習していこう。」


「――はい!!分かりました!!」


一頻(ひとしき)り練習し、初めの頃に比べても大分早く発動できるようになった。


これなら、実戦で使うこともできるだろう。


「……大分上達したし、そろそろ魔物を退治してみようか。」


「……ま、魔物……は、はい!頑張ります!」


さすがに少し躊躇(ためら)いがあるようだ……。


当然だろう。


命の危険だってある。


この辺りには、ゴブリンが出る。


ゴブリンの一体でも倒せば、きっと自信も付くだろう。


俺は、辺りの探索を始める……。


「――いた!ゴブリンだ。」


割と簡単に見つかった。


しかも群れからはぐれたのか、一体でうろうろとしている……。


これはちょうどよさそうだ。


「マユちゃん。行けそう?」


ゴブリンに気付かれないよう、小声で話す。


「……はい……頑張ります!」


「じゃあ、火の魔法で攻撃して……倒しきれなければ、杖で叩くんだ。どうしてもダメそうな時は俺たちが助けに入る。」


「……分かりました!……頑張ります!」


マユはゴブリンの前に飛び出す。


「――フォイヤー!!」


さっそく魔法をぶつける。


いきなり現れた人間に驚き、(ひる)んだゴブリンにはなんなく魔法が命中し、その体を燃やす。


「――――うぎゃああああ……!」


コブリンは悲鳴を上げながら炎の熱さで暴れている。


だが、まだ生きている。


暴れながらマユの方へと近付いて行く。


これは……まずいか!?


「――い、嫌……!いやあああああ!!」


マユも悲鳴を上げながら、持っていた杖でゴブリンを滅茶苦茶に叩く。


「――うぎゃ!ぎゃ、うぎぎぎぎ…………。」


叩かれたゴブリンは地面に倒れ、動かなくなる……。


「……やったか……?」


しまった。


これフラグだ。


安心したのも束の間、ゴブリンはむくりと起き上がり、飛び上がる。


マユに向かって……跳び掛かる。


「――しまっ……。」


俺は、倒しきれたと安心していたせいで助けに出るのが遅れてしまう。


「――アクアスライサー!」


ミオが水の斬撃を放った。


「――――うぎゃああああああ!!!」


ゴブリンの胴体は真っ二つになる。


斬られた肉片は、マユの眼前にボトボトと落ちる。


その光景を見たマユは、へたり込んでしまった……。


「――う、うぇ……うえええええん。怖かったよぉ……。」


マユは泣き出してしまった。


俺は、反省せざるを得ない……。


――ミオとマユを連れて見通しのいい安全な場所へと移動する。


「……ごめん。マユちゃん……。俺が気を抜いたせいで……。」


「――い、いえ、アイラさんのせいじゃありません!私が……弱いから……。」


「――いや、俺のせいだ。本当にごめん……今日は……ここまでにしておこうか……。」


「――え?私まだ……っ!」


「……いや、今日はここまでにしよう。」


「……分かり……ました……。」


マユは、とぼとぼと落ち込んだ様子で帰って行く。


失敗だった。


自信をつけさせるどころか、これでは戦闘をすることに抵抗が出てきてしまうだろう。


まだ直接戦わせるのは早かった……。


もっとちゃんと話をしてから戦わせるべきだったかもしれない……。


「――あ、あの……。」


ミオが声を掛けてくる。


俺が沈んでいるのを見て、つい声を掛けてしまったのだろう。


「……あ、ああ……ミオ……ありがとうな。助かったよ。」


「……い、いえ……私は……その……私も、頑張りますので、もっと頼ってください……。」


「――あ……ああ……。」


驚いた。


ミオからこんな風にいわれるとは思っていなかったからだ。


ミオに励まされてしまった。




ミオのおかげで気を取り直した俺は、落ち込んで帰って行ったマユを追い掛けることにする。


パン屋に着くと、外から中の様子が見えた。


マユは働いていた。


だが、元気がない……。


しばらく様子を見ていると、恰幅(かっぷく)のいい男性が店の中へ入って行った。


その男は、店の中に入るとさっそくマユに声を掛けていた。


常連さんなのだろうか?


声は聞こえないが……。


「今日も来たわ。」


「あ、ダイさん……こんにちは……今日も、ありがとうございます……。」


「……あれ?元気ない?なんかあったか?」


「いえ……なんでも……。」


「よくは分からないけど、元気だせ。」


「はい……ありがとうございます!」


とでもいった様子だった。


よほどパンが好きなのだろう。


その男は、たくさんのパンを買って店を出て行った。


マユは、その男と話してから少しだけ元気になった様子だ。


男のことが気になったため、俺たちも中へ入ることにした。


「――いらっしゃいませー。あ、アイラさん……あの、ごめんなさい……。」


「マユちゃんが謝ることはないよ。それより……今の男の人は……?」


「――え?あ……えっと……。」


口籠る。


確かに、男の人といわれてもすぐに思い至らないだろう。


「今お店にいた人で、マユちゃんに話し掛けてた恰幅のいい人だよ。」


俺がそういうと、マユは顔を赤らめる。


「えっと……あの人は……ダイさんといって……。」


マユには珍しく、声が小さくなっていく……。


マユは助けを求めるように、会計のカウンターにいた年配の女性に目配せをする。


だが年配の女性は、別にいいよとでもいうように軽くウィンクをした。


これは……きつい……。


じゃなかった。


これは、伝わっているといっていいのだろうか?


「……ちょっと……待っててもらえますか……?」


マユの要求に対し、首を縦に振り店の外で待つことにした。




少しして、マユは店の外に出てきた。


「……えっと……さっきのお話なんですが……あの男の方はダイさんといって……このお店の常連さんなんです……。」


(わず)かな沈黙のあと、さっそく説明をしてくれる。


やっぱり常連さんなのか。


「それで、よくきてくれる方だったので……私が『今日も来てくれたんですね!』なんて声を掛けたのがきっかけで、お話をするようになって……内容はなんてことのないお話ばかりだったんですが、あの方はすごく優しい方で……お話ししているだけでもいい人だなって分かるようになって……それで、きていただけるのが楽しみになって……えっと……それで、お話をしている内に、あの方は自警団をしているということが分かりまして……。」


ゆっくりと話してくれてはいるが、いまいち話が見えてこない……。


それにも関わらずミオは、なるほどそういうことですかとでもいいたげな顔をしている。


マユの顔は赤くなっていく。


「――えっと、えっと……それでそれで、自警団ということは魔物を退治しているのだろうと思いまして、私も魔物を倒せるようになったら、ダイさんとその……一緒に……あ、ああ……えっとぉ……ダイさんとお付き合いしたりできるのかな?って…………――ご、ごめんなさい!不純な動機で!それで特訓をしてもらうようにお願いしたんです!――ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」


……なぜ、謝るのだろう……?


この話を聞いて最初に思ったのはそれだった。


別に、謝る必要なんかない。


別にいいじゃないか。


好きな人のため頑張る。


むしろすごいことじゃないか。


なんなら、そのために命の危険すらもあったわけだ。


これは、応援しないわけにはいかなくなった。


「……別に、謝る必要はないだろ……?だって、マユちゃんはなにか悪いことをしたわけでもなくて、好きな人のために自分なりに頑張ろうとしたんだろ?」


「――い、いえ……でも、その……アイラさんには大変な想いをさせてしまって……。」


「そんなことないよ。別に大変なことなんてなかったよ。なんなら、ちょっと楽しかったしな。」


俺は、マユに笑い掛けた。


マユは、呆気に取られたように驚いている。


そんなに予想外のことをいっただろうか?


ミオもじっと俺の方を見ている。


まるで品定めでもしているような顔だ……。


「……あ……あの……。」


マユはなにをいっていいか分からないといった様子だ。


「――とにかく、明日からも頑張ろう!それで、ダイの手伝いをできるようになろう。」


話を聞いて理由が分かった以上は、少しでも早くマユを戦闘に参加できるように鍛える方がいいと考えを改める。


「……は、はい!!」


マユは驚いた様子だったが、笑顔になり、元気よく返事を返してくれた。


気のせいかもしれないが、ミオもなんとなく微笑んだようにも見えた。




そしてさらに翌日。


今日もゴブリン退治をして経験を積んでいく予定だ。


マユは……やる気満々といった様子だった。


「――さて、始めるか!」


そんなことをいった時、遠くから音が聞こえてくる。


おそらく、戦闘の音だろう……。


無視するわけにもいかず、こちらに危険が及ぶ可能性もあるため、念のためにも見に行く。


――現場に到着すると、三人の人間がいた。


二人は、抱き合って(おび)えていた。


もう一人は、剣を持っている。


おそらく、自警団の人間だ。


どこかで見覚えがあるような気もするが……。


「――ダイさん!!」


マユが叫んだ。


ああ、そうか。


昨日見た恰幅のいい男だ。


ゴブリン五体を相手に、なんの変哲もない平凡な剣で応戦している。


これはまずいかもしれない。


このまま放って置けば、あの男がゴブリンにやられるのも時間の問題だろう……。


「――ロックブラスト!」


石の(つぶて)をゴブリンに向かって射出する。


どうやら魔法も使えるらしい。


石や土の魔法といったところだろうか。


おそらく、このダイという男は自警団である故……いや、そうでなくとも、優しいやつなのだろう。


うしろの二人を(かば)いながら戦っている様子からもそれが分かる。


だが正直……強くはない。


自警団といっても、なにも戦闘をするやつだけが自警団ではない。


福祉や介護、あるいは、ボランティア程度のことを主にしているやつもいる。


もともと複雑な手続きがあるというわけでもないが、転職や転居の諸々(もろもろ)の手続きなんかは、ギルドのカウンターが担っている。


ギルドがそういった関係の事務仕事を行うのに対して、当然、実際に体を使って働かなければならない人間も必要になる。


揉めごとの解決や火事への対処、病人、怪我人の搬送なんかも行ったりする。


他にも、年寄りなど一人で生きて行くことが困難なものへの手助けなんかも当然ながら必要だ。


それをしてくれているのが自警団の人間だ。


そもそもが個人でやりたくてやっている結果自警団という形になっているため、給料なんかも特別よくはない。


それにも関わらずこんな仕事をするやつは、よほど正義感が強いか、頼みごとを断れないやつ、はたまた金持ちで時間を持て余している暇人辺りだろう。


このダイという男がどれに該当するのかは分からないが、優しいやつであることはほぼ間違いないだろう。


それは、マユの様子を見ても明らかだ。


ダイは、特にやることもないが根が優しいやつで、他人の頼みを断れない性格故に、とりあえず自警団という人助けを始めたのかもしれない。


たった数日だが、マユの様子からそれくらいのことは理解できる。


「――ダイさん!!」


マユは戦闘中のダイのもとへと走り寄って行く。


「――フォイヤー!!」


近くに行くや否や、魔法を放つ。


ゴブリンの一体が身体を焼かれて暴れる。


マユが加わっても二対五。


決して有利なわけではない。


当然、俺とミオも少し遅れてマユの援護のために走り寄る。


マユとダイは、マユを後衛にする形で戦う。


ダイの邪魔にならないよう、少し後ろに立つようにしたのだろう。


俺は走り寄りながら、そのまま両手の短剣に魔法を付与、一番端にいたゴブリンに斬り掛かる。


「――フレイムスラッシュ!」


一撃では倒しきれなかった。


斬り付けた右の短剣とは反対側の短剣で追い打ちを掛ける。


二撃ともが胴体を斬り付けるが、まだ倒しきれていない。


そのまま遠心力を利用し体を横に一回転させ、その勢いに乗せ首を斬り付ける。


「――ぐぎいいいいっ!」


ゴブリンは苦しそうに藻掻(もが)きながら絶命する。


それと同時にミオも俺の倒した横のゴブリンに水の刃を放ち、すでに倒し終えていた。


俺たちの援護を確認し、その間にダイは俺たちの倒したゴブリンとは反対側の端にいるゴブリンを剣で斬り伏せていた。


それを受け、マユも火の魔法を重ねて放ち、ゴブリンを怯ませていた。


だが、倒しきれてはいない。


「――ロックブラスト!!」


ダイはゴブリンを斬り伏せたあと、マユと戦闘を行っているゴブリンに追い打ちを掛ける。


体を焼かれ、苦しんでいるゴブリンの頭に石の塊が命中し、そのまま息絶えた。


あまりにも円滑にことが運んだため、俺は気を抜いてしまっていた。


もう一体のゴブリンの姿が見えないことに、俺は気付くのが遅れる。


そのもう一体のゴブリンはマユに跳び付くため、空中に高く飛び上がっていた。


マユは、ダイが追撃し倒したゴブリンに気を取られており、自分の方へ跳び掛かるゴブリンに気付けなかった。


「――――マユさん!危ないっ!!」


マユのすぐ近くにいたダイがそれに気付き、マユを(かば)う。


剣を構えながらではあったが、(わず)かに遅れた。


ゴブリンの鋭い爪は防具を貫通し、腕を裂かれる。


「――ぐっ……。」


傷は深くはないようだが、ダイの左腕からは血が流れていた。


「――――あ……いやっ!……ダイさんっ!!」


マユの目には涙が()まる。


俺は走りながら右手の短剣でゴブリンの腹を斬る。


「――アクアスライサー!」


ミオも追い打ちを掛け、ゴブリンは絶命した。


マユは、腕から血を流し膝を突いたダイの手を握っている。


どうしたらいいのか分からないまま、無意識に手を握ってしまったのだろう。


ゴブリンを倒し終えたことを確認した俺は、マユとダイのもとへと近寄る。


見る限り、傷は深くない。


俺は簡単な治癒魔法を(ほどこ)す。


治癒魔法といっても、本来人間が持つ回復能力を魔力で飛躍的に上げる程度のことだ。


仮に腕が落とされていた場合は、治すことはできなかっただろう。


ダイの出血は止まったが、マユの目からは涙が零れ続けていた。


「――ごめんなさい!ごめんなさい!ダイさん……!私のせいで……!ごめんなさい!!」


泣きながら謝り続けている。


「……わ、私は大丈夫だから。そんなに泣かないで……。」


ダイは、マユを気遣うように声を掛けていた。




マユが落ち着くのを待ち、(おび)えて抱き合っていた二人の安全を確認し、その二人が町の方へ帰って行くのを見届けた。


「――ダイさん……本当にごめんなさい……私のせいで……。」


二人を見送ったあと、マユはすぐさまダイに声を掛けていた。


マユは自分の油断でダイが傷を負ったことをずっと気にしているのだろう。


「いえいえ、私は大丈夫。マユさんこそ、怪我はなかった?」


「――あ、はい!大丈夫です!本当に……ごめんなさい……!」


沈黙を挟む。


「……あの……こんな時にいうのもあれなんですが……。」


そう口にしながら、マユは頬をほんのり赤くし、目をうるうるとさせている。


「――――私……ダイさんのこと……す、好き……なんです!!」


随分とはっきりという。


積極的な娘なのだろう。


ダイも驚き、目を泳がせている。


「――――え?……あ……え……?」


「私……ダイさんが好きなんです!」


もう一度いった。


なかなかの勇気だ……。


いや、一度いったことによって吹っ切れたのかもしれない。


まぁ、これだけ頑張れる子だ。


おかしくはないだろう。


「そ、それで……も、もしよければ……このあと一緒に…………パ……パンを食べませんか!?」


なるほど、まずは食事のお誘いですね。


きっと、こういう色恋とかに慣れていない初心(ウブ)な娘ということだろう。


ダイもどぎまぎとしていたが、これが告白だと察してはいる顔をしていた。


「……えっと……こ、こんな私でよければ……。わ、私も……パンも、パン屋さんで働くマユさんも好きなので……。」


数秒の空白。


「――ほ、ホントですか!?やったーーーっ!!ありがとうございます!!!」


そういい、ダイよりもずっと体の小さなマユは、恰幅のいい体のダイに抱き着いていた。


ダイは照れくさそうにしている。


このダイという男も、おそらく女性とちゃんと付き合ったりしたことはないのだろう。


――これで依頼は達成だ。


一安心といったところだろう。


まさか恋人同士のイチャイチャを見せられることになるとは予想していなかったが、マユとダイの二人が幸せなら今回はよしとしようじゃないか。




――そしてその日の夜の話。


ダイの暮らす部屋のその隣に住む自警団の男の談によると……一晩中すごかったらしい――。


「――えっと……ダイさん……今日は本当にありがとうございました。私……嬉しかったです!」


二人の雰囲気は、どことなく気まずい。


「――お、おう、そ、そうか。」


「そ、それで……えっと……こ、子供は……どうしますか?」


「えっと……。」


「……わ、私は……三人ぐらい欲しいかな?って…………が、頑張りましょうね……!」


「わ、私はまだ……そんな……。」


「えへへー……。」


ほんのりと顔を赤くしたマユは、ダイに抱き着く。


「え、えっと……いい……ですよね……?」


マユは自分から服を脱ぎ、ダイの上半身も(あら)わにする。


抱き着く。


「――わー!ふっかふか!あったかいですぅ!」


「ちょ、マユさん……!」


「えっと……いっぱい……してくださいね……?」


二人はベッドの中で一糸纏わぬ姿だ。


「じゃあ、まずは……私から…………ん……んん……。」


マユはダイに馬乗りになる。


「……い、い……た……え、えへへー…………。」


「マユさん!大丈夫か!?」


ダイはマユの辛そうな声を聞き心配する。


「――だ、大丈夫ですよ。ちょっと痛かったですけど……幸せです!」


マユは笑顔で応える。


数秒の間を置き、マユは自分の身体を上下させ始める。


「……あ……ん……ああ……ああんっ!……はぁ……はぁ……あっ!ああ……っ!」


「――ま、マユさん……。」


「はぁ……はぁ……はぁ……んんっ!……んあっ!あ、あ、あっ、き、きもちいぃ……。」


「――ま、マユさん!!」


ダイは(こら)え切れなくなり、マユを抱き締め、上下身体を入れ替える。

その恰幅のいい身体で、マユを圧し潰すような体勢になる。


「――――ああんっ!!ダイさん!!ダメ!!これ!!んんっ!!!」


「――ま、ユマさん……っ!……はぁ……はぁ……はぁ……!」


「――ああんっ!!ああっ!!これ!!これ!!ダメっ!!あああんっ!!!ダイさん!!好き!!大好きっ!!!」


「――ま、マユさん!!マユさん!!はぁ……はぁ……はぁ……。」


「――あ、ああんっ!だ、ダメ!ダメ!ダメ!ダメなのぉっ!!大きくてふかふかのダイさんとベットに挟まれて……――――サンドウィッチになっちゃううううっっっ――――――!!!!!」


などと、一晩中そんな声が隣のダイの部屋から聞こえたとか聞こえなかったとか……。


自警団の男は、目の下にクマを作り、何かに操られたような顔でそう語っていたらしい…………。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――と、まぁ、それ以来、マユに関してはその時のこともあり、ダイとは男同士のため、時々相談なんかも受ける関係性になっており、今では仲のいい友達になっている。


二人は現在、郊外(こうがい)にある場所に家を建ててパン屋兼自宅という形で二人で幸せにやっている。


ダイはパン屋の運営にあたり、自警団は辞めている。


それでも十分に生活をしていけるという意味でもある。


さらには、(みずか)ら小麦の栽培などもしており、素材にもこだわった美味しいパンを提供してくれている。


ダイとマユの二人はめでたく、パンと子供、その両方を作り続けているというわけだ。


そしてこの一件以来、(うち)には安くておいしいパンが食卓に並ぶようになっているというわけだ。


どうやら、二人が幸せな生活を送ることができるようになったのは俺のおかげだとのことで、タダ同然の安値でパンを買わせてもらっている。


そして普段のそのお礼に、俺は時々ピーグルの肉をお土産として差し入れている。


小麦を栽培できる畑もあるため、二人はすでにほぼ完全に自給自足も可能な環境にある。


そのため、タダでも問題ないらしいのだが、さすがにそれは気が引けたので、現在の形に落ち着いた。


つまり、実はモノアイの一件の時も、この二人のおかげで大量の小麦粉を女性たちに提供することができ、それにより女性たちが食いつなぐこともできているので、結果的にはこの二人のおかげでたくさんの命が助かっているということでもある。


俺も二人の一件以来、小麦に困ったこともないしな。


ダイは恰幅のいいやつで、マユは素朴な田舎娘という感じだが、まさに人は見かけによらないとでもいったところだろう。


なんなら、俺なんかよりこの二人の方がよっぽどすごいのかもしれない。


「――それじゃ、俺たちはこの辺で帰るよ。今日もありがとうな。」


「いやいや、こちらこそ。」


「そうですよ?アイラさんのおかげでダイちゃんと私は今こうして暮らせているんですから!ねー?」


そういいながら、マユはダイの腕にしがみ付く。


今でもまだずっと仲良しのようだ。


むしろ、あの時よりも仲がよさそうにも見える。


「じゃあ、またそのうちくるから、よろしくな!」


「おう、いつでもきてくれ!」


「はーい!」


俺とミオは、持てるだけたくさんのパンと小麦粉を買い、帰路に着いた。




今日の夕食は、できたての美味しいパンと、昼間俺が作ったシチューを食べる。


買ってきたパンは、様々な工夫が凝らしてあった。


いろいろな具材が乗ったものがあり、飽きることはない。


この美味しさは、まるで二人の幸せを象徴するようでもある。


そんなことを思いながら三人で美味しい食事を終えた。


今日は特に危険もなく、平凡な一日だった。


明日からもまた、こういう平凡な一日が続くといいな。


そんなことを思いながら、風呂に入り、床に就いた。

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