久しぶりの接触
―――ジリリリリリリr………。
朝だ。
――うるさい!
目覚ましを止め、時間に遅れないように起きる。
支度を済ませ、食事を済ませ、家を出る――。
今日は、相野さんに話し掛けてみようと思っている。
面倒なことになる可能性はかなり高いが、やはりこのまま放置もできないからだ。
「おはようございまーす」
職場に到着する。
さっさと着替えをすませ、仕事を始める。
相野さんがいるのも確認した。
タイミングを見計らってはみたが、午前中は声を掛けられず休憩に入る。
休憩中も特になにもなく、いつも通りだった――。
午後、仕事を始める。
今日は客入りがなんとなく多い気がする……。
なんで俺はこう、世界に邪魔をされるのだろう……。
頭にくる――。
もうじき、仕事も終わりだ。
幸いにも、客は引いた。
相野さんを探すと、なにか作業はしているが、忙しいわけではなさそうだ。
声を掛けてみよう――。
「――相野さん!」
意を決して、声を掛ける。
相野さんは声に反応し、振り向く。
俺の顔を確認するなり、不機嫌そうな顔をする。
「……なんですか?私、瀬濃さんと喋りたくないんですけど……。」
明確な敵意だ。
ミオやベルからでもここまでの敵意は向けられたことがなかっただろう。
「……えっと……少しだけ……いいかな?」
なんとか話をしようと話し始める。
「いやです。話し掛けないでください。」
完全な拒絶だった。
俺が一体、なにをしたというんだ――。
なんでこんなに嫌な思いをしないといけないんだ――。
意味が分からん――。
少なくとも、これ以上話を続けられそうにはない。
いえることをいうしかないだろう。
「嫌な思いをさせたみたいですまなかった。ごめん。謝るよ。ごめん!」
正直、心当たりがあるわけではなかったし、原因もなんとなく分かってはいるのだが……今の俺にいえるのはこれくらいだろう。
一体なにを謝っているんだ?そんなことも思わなくはなかったが、実際、相野さんは俺に関わることで嫌な思いをしているのだ。
謝ることに間違いはないと思う。
相野さんは沈黙する。
考えているようだ。
「……もういいです。別にいいんで……。」
どう見てもよさそうではない。
「本当にごめん……。」
もう一度、謝る。
俺の初めの気合はどこへやら……それぐらいしか出てこなかった……。
「………分かりました。」
一応聞こえてはいたのだろう。
間を置き、返答をくれる。
そう答えると、目を合わせることもなく、俺から離れていった……。
もどかしい気持ちのまま、家に着いた。
あのあとはいつも通り仕事が終わり、いつも通りの道を暗い気持ちのまま辿って帰ってきた。
今日は少しだけ美味しいものを食べ、少しだけ熱い風呂に入って、少しでも早く眠ることにした。
だが、しばらく相野さんのことが頭から離れず、実際に眠れたのはいつもよりも遅い時間だった――――。




