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クラーケン退治

―――朝の光が差し込む。


「――ん……朝か。そうか、宿屋か……。」


目を覚まし、見慣れない景色に一瞬戸惑うが、すぐに昨日のことを思い出す。


気分が暗い……。


いつもであれば、あっちとこっちのことは完全に分けて考えているのだが……さすがに今日だけは違った。


頭が、ぼんやりとしている――――。




――コンコン。


扉を叩く音が聞こえる。


「――アイラさん。入っても、いいでしょうか……?」


ミオの声だ。


俺が起きる頃合いを見計らってやってきたらしい。


――すごいタイミングだ。


ずっと監視でもされているのではなかろうか…………。


――いや、まぁ、そんなわけはないか……。


きっと、普段の俺から大体のパターンが分かるのだろう。


「――あ、ああ……いいよ。どうぞ?」


「――失礼しますね。」


ミオは、もうすでに今すぐ宿を出てもなんの問題もないくらい完璧に身支度を済ませている。


「……どうかしたのか?」


「――いえ、そろそろ起きる頃だと思って、様子を見にきたんです。」


……なるほど……エスパーか――!


俺の心臓だとか脳みそだとかは、実はミオが握っているのではなかろうか――?


おお、恐ろしい……。


「今日は、頑張りましょうね!」


「あ、ああ……それだけか?」


「はい。それだけです!」


満面の笑顔でそう答え、部屋を出ていく。


宿の出してくれた朝食を食べ、支度を済ませた。




宿屋をあとにし、クラーケン退治のためさっそく海に向かう。


ここから海までは、それほど遠くはない。


うまく行けば、一度も戦闘をせずに海に辿り着けるくらいだ。


――クラーケンは、巨大なイカのような見た目をした怪物だ。


足の数は十本。


その内二本は腕なのではないかともいわれているが……とりあえず、身体から十本、細かい吸盤がたくさん付いたものが生えている。


イカの怪物というだけあって、水棲生物だ。


海の中に引き()り込まれれば、ほぼ勝ち目はないだろう。


またクラーケンは、捕らえた相手に密着し、十本の足に覆い隠された口に当たる部分にある針で、女性の身体に穴を空け、その穴から卵の入ったカプセルのようなものを打ち込むという。


さらには、クラーケンはその身体に寄生虫を飼っており、クラーケンに捕らえられ苗床とされた女性は、悲惨な末路となることはいうまでもない。




海に到着する。


今日は少し暑いのだが、ミオとベルの二人はそんなことなど気にもなっていないかのように楽しそうにしている。


まったく……クラーケン退治という目的を忘れているのではなかろうか……。


「――ミオ!ベル!いつ襲われるか分からない!絶対に油断するなよ――――!!」


海に着き、すでに海パン一丁になっている俺は二人に注意する。


二人の視線が痛い……。


自分の身体に自信があるわけではないが、さすがにこう暑く、海を目の前にして、美少女二人が同行しているともなればテンションも上がるというものだ。


あとついでに……俺は、泳げない。


苗床にされる女性のようにはならないと思うが、クラーケンに捕らえられれば、俺も悲惨な末路となるだろう。


「――ミオ!ベル!準備はいいか?」


まだクラーケンの姿は見えないが、海パン一丁の俺は二人に問う。


「「――はい!」」


二人の返事が聞こえる。


振り向くと……二人揃って服を脱ぎ出しているではないか――!


そういう準備ではない!


なんと破廉恥(ハレンチ)な――!


「――ちょ!なにしてるんだ二人とも!?こんなところで――!!」


「んしょっ……と。」


そんな声と共に、服を全て脱ぎ終えてしまった。


いくら三人しかいないとはいっても、さすがに全裸……――ではない!しっかりと水着を着込んでいるではないか!


――ミオの水着は、ごく一般的なビキニというやつだろう。


派手過ぎず、地味過ぎない。


ミオの引き締ま……っていると思われる、出るところは出ている身体を強調するには、最適といえる選択だろう。


――それに対してベルの水着は、風を象徴するかのように緑の水着である。


上下は分かれているが、下はひらひらとした……スカートのようなデザインになっている。


その小さな外見に、違和感なく合っている。


髪をそれぞれ左右で(まと)めたツインテールも、その可愛らしさをまた引き立てているのだろう。


昨日の夜、宿屋の部屋で楽しそうに話していたのは、おそらくこの水着選びでもしていたのだろう。


二人とも、これ以上ない選択だと思う。


よく似合っている。


三人揃って素肌(すはだ)(さら)しまくった(すき)だらけの格好で、クラーケンを探すため海沿いの砂浜を歩いていく。


依頼の説明では、クラーケンは岩場に(あらわ)れたとのことだった。


砂浜を歩いていると、ナイスバディなお姉さんとすれ違う。


草や葉、花をイメージさせるような大胆な水着を着たお姉さんだ。


近くを通ると、甘くていい(にお)いがして、頭がくらっとする――。


(にお)いにやられたのか、相野さんのことを思い出してしまい、胸がズキズキした……。


――クラーケンが出る場所だというのに、その格好といい、危機感のない女性だ……。


まったく……これは俺がさっさとクラーケンを退治して、あのお姉さんも誘って一緒に楽しく遊ばねば――――!!




…………見つからない………………。


岩場の方も確認したが、結局、なにも見当たらなかった……。


これは……もしや海で遊べという神のお告げなのでは――!?


――よし、それなら仕方がない……。


「……見当たらないし、さっきの砂浜に戻ろうか。」


「はい、そうしましょう。」


ミオが答える。


俺たち三人は、砂浜に戻る。


みんなそわそわとし始める――。


「――よし、遊ぶか!」


「――はい!」


ミオの今日一番の返事だ。


「――わーい!」


ベルも無邪気に喜ぶ。


二人は一目散に海へと走って行き、水を掛け合い、遊び出す。


俺は、そんな二人を遠くから見て、海がキラキラしているのに見惚れる。


決して泳げないから海に近寄らないとか、そういうわけではない。


ふと、相野さんのことが頭を()ぎる。


ぼうっとしていたせいだろうか……。


どうしてもそのことが頭から離れず、また気分が落ち込む……。


なんで相野さんはあんなことを……いや、本当は大体予想は付いているのだ。


相野さんは可愛いからな。


きっと、いろいろな男に好意を持たれているのだろう。


朝のあのやり取り、相野さんのいっていたあの内容、それを吹き込んだといったところだろう。


そんなことを考えていると……。


「――――ひゃあ!」


明らかに水の掛け合いとは違う、ベルの悲鳴が聞こえてくる。


「――ベルさん!あっ、いやっ!」


ベルに呼び掛けるミオも捕まる。


二人を捕らえた主は…………――。


――――クラーケンだ!!


完全に警戒を解いていたところを狙われたのだろう。


(まい)った……これは目を離してしまった俺のせいだ。


すぐに短剣を両手に構え、クラーケンへと走り寄る。


クラーケンは、細かい吸盤がびっしりと付いた太い足を二人に巻き付けている。


浅瀬(あさせ)で捕まったおかげで、溺れさせられることはないはずだ。


だが、俺も近付いて捕まり、そのまま沖に連れて行かれれば……全滅は確定だ――!


「――んんっ!!ああっ……!!」


二人の身体に巻き付いた足が、うぞうぞと動き回る。


今はもともと面積の少ない装備だ。


小さい吸盤が吸い付いては離れる刺激がくすぐったいらしい。


「――ああん!ちょ、やめっ……あん……ひうっ!ひふ……ふへへ……。」


巻き付いている足が動くのに合わせて、二人の口から甘い声が漏れる。


くすぐったさからか、時々ぴくぴくと身体を震わせていた。


口元も緩んでいる。


……いや、むしろこれは……楽しんでいる……?


――いやいや、そんなことはないだろう。


「――んんんっ!!」


考えている間にも、巻き付く足と吸い付く吸盤によって、二人の着ていた水着はずりずりとずらされていく。


もともと引っ掛かりの少ないベルのバストはあっという間に(あら)わにされる。


「――ああっ!いやっ!!」


ベルは抵抗し、(さら)されてしまった胸を隠そうとするが、複数本存在するクラーケンの足には()(すべ)もない。


じたばたと(あば)れて払い()けても、すぐに次の足が巻き付こうと動き回るのだ。


二人の乙女のシンボルは、あっという間にこのよく晴れた空の下、海の上で(さら)されてしまった。


また、ミオのビキニは側面を(ひも)で固定するタイプのものであったため、するりと解かれ、青空の下、その白い肌全てを日光に(さら)すこととなった。


ベルの方はというと……上半身はあっという間に(あば)かれることになってしまったが、下の……スカートのような水着に関しては、なかなかに強固らしい。


ベルよ……お子様水着でよかったな。


直接そんなことをいおうものなら二、三日口も利いてくれなくなるようなことを考える。


さて、本来なら電撃を使って倒したいところだが……捕まってしまった以上は、刃物で切り裂いて、二人を助けてからイカ刺しにでもしてやるのが最もいい方法だろう。


仕方あるまい。


とりあえず……突っ込むしかないか――。


まずミオを助ければ、そのあと援護を受けながらベルはどうとでもなるだろう。


――いや、他にも手はあるか……?


相野さんのことがあったせいか、少し自暴自棄(じぼうじき)にでもなっているのかもしれないな……。


だが、今の俺にはそれしか思いつかない――!


「――てりゃあああ!!」


そんな声を上げながら突っ込む――。


クラーケンの足の数本が、俺を払い除けようとするのに対し、短剣で斬り付ける。


「――重いっ!!」


これだけ太いのだ。


そりゃ一撃が重たいに決まってる。


手が痺れるのに耐える――。


「――くっ……そりゃあああ!!」


だが、その重さと勢いがクラーケンにとっては命取りでもある。


勢いに任せて振り回されたその足が、鋭い短剣の刃に切り落とされる。


短剣に足を擦り減らされ、攻撃手段が徐々になくなっていくクラーケンに接近していく。


――シュパッ!


ミオを捕らえている足の根元に一撃を入れると、ミオに絡み付いていた足が解ける。


「――ミオ!」


「――はい!」


身体が自由になったミオは、すぐに距離を取る。


散々身体を(いじ)られたためか、少し顔が赤く、はぁはぁと息を切らせてはいるが、立つことも走ることもできるようだ。


俺はベルの救出のため、すぐさまもう一本の足の根元を目指す。


「――アクアスライサー!――アクアショット!」


ミオは片腕で胸を隠したまま、水の刃で援護をしてくれる。


断然(ふところ)に飛び込みやすくなった。


先に助けた意図をすぐに理解し、援護をしてくれるミオはさすがといったところだろう。


「――そりゃあ!」


クラーケンの足の根元を斬り付ける。


巻き付いていた足が緩み、ベルが水面に落とされる。


ベルも身体を(いじ)られ、そのくすぐったさからか疲弊はしているが、立ち上がれないほどではない。


助け上げ、すぐに距離を取るようにベルの背中を押し、走るよう促す。




――よし、うまくいった。


ベルのひらひらと揺れる緑色の水着を見て、下は剥ぎ取られていないことも確認する。


お子様水着でよかったなベルよ。


まぁ、口には出さないけどな。


そんなことを口にしたら嫌われて……――。


『嫌われる。』というワードのせいで、相野さんのことを思い出してしまう。


なんでこんなタイミングで……。


――すぐにクラーケンに向き直り、短剣を構える。


が、少し遅かった――。


――瞬間、クラーケンの太い足が、俺の胴体目掛けて勢いよく振り付けられる。


――ダメだ!防げない――!!


「――しまっ――――!」


――腹に重たい衝撃を受ける――。


「――――ぐぅっ!」


遠心力に任せた足の攻撃で、俺は大きく後方に飛ばされる――――。


「――――がはっ……!」


直後、背中から地面に叩き付けられ、一瞬呼吸ができなくなる。


――痛い!!背中が痛い……!!


痛みと衝撃で動くことができない――――。


――まずい!ミオとベルは――!?


「―――ミ……!!」


声を出そうとするが、声が出ない――。


わずかに、意識も遠い……。




――二人は、クラーケンから距離を取っていた――。


払い飛ばされた俺を一瞬振り返るが、駆け寄ってくることもなく、すぐにクラーケンに向き直る。


さすがミオとベル、いい判断だ。


それでいい。




――――――空気が変わるのを感じた――――――。




今日は暑いくらいだったはずなのだが、急激に冷たい風が吹き込んでくるような、そんな感覚だ――。


うしろ側からだったせいで顔は見えないが、二人はクラーケンに対し、強い殺気を放っている。


後方からでも、その背中を見ればよく分かる。


「――――許しません……!!」


ベルがいい放つ。


「――ベルさん!!」


その言葉に呼応するよう、ミオが叫ぶ。


二人だけが分かる合図をしたかのようでもある。


「――はい!!」


ベルは全てを悟ったかのように返事をする。




一瞬、時が止まったような空白を感じる――――。




ベルが、強く、深く集中していたせいだろう――――――。




――そして、数秒――――。




「―――サイクロン!!!」


ベルは叫ぶ。


凄まじい威力で回転する冷風が、クラーケンに向かって放たれた。


「―――アクアスプレッド!!」


それに合わせるよう、ミオも呪文を叫ぶ。


水の粒が、濁流の(ごと)く放たれた。


ほぼ同時に放たれたその二つが……合わさる――。


――――超回転している冷風に、水の粒が巻き上げられる――。


冷えた空気の回転に取り込まれ、クラーケンの動きが……鈍くなっていく――。


――いや、凍り付いている――。


ミオの放った水は、冷えて固まり氷となっていた。


ベルの放った風により、ミオの放った水が凍り付いているのだ。


氷の粒が凄まじい勢いで回転する風に乗り、凶器となり、クラーケンの身体に次々と穴を空けて砕いていく。


二人の複合魔法とでもいったところだろうか――――。




「「―――――アイストルネード―――――!!!」」




二人は、声を合わせて叫ぶ。




気が付けば、クラーケンの身体は寄生虫もろとも跡形(あとかた)もなく消え去っていた――――。




二人は、いつの間にこんなに仲良く、強くなっていたのだろう……。


嬉しい反面、少し寂しくなる……。


「―――アイラさん!」


クラーケンを倒した二人は、すぐに駆け寄ってくる。


ミオとベルの心配そうな呼び掛けに、遠退(とおの)いていた俺の意識は呼び戻される。


ミオは両膝を付き、俺の頭を抱き上げるように優しく手を回してくる。


――素敵なおっぱいです。


ありがとうございます――!


ベルは俺の腹に顔を(うず)めて抱き着いてくる。


――温かい……が、怪我をしている人間をそんな風に扱うと、大変なことになるぞ?


いや、幸いにも、骨も折れておらず一時的に呼吸ができなくなったことと、背中の痛みにより意識が遠退(とおの)いていただけであったため、むしろ気道が確保され、結果的には意識が覚醒していく。


「――ぐす、ううぅぅぅ……。」


ミオとベルは泣いている。


「――だ、大丈夫だって……だから、泣くな……。」


泣いている二人に自分は無事だと伝えるため、声を絞り出す。


俺を心配して泣いてくれているのが嬉しい反面、いつまでも泣いていて欲しくはなかった――。


二人とも一頻(ひとしき)り泣き、ようやく落ち着きを取り戻していく。


「…………じゃあ、帰るか……。」


戦闘によりくたくたになった身体で、二人に告げる。




「――いえ、帰しませんよ?」


どこからか、女の声が聞こえた。


「――っなんだ!?」


息を呑み、声を上げて驚く。


柔らかくなっていた空気が、一気に張り詰める。


「――こっちですよ?このまま帰すわけにはいきません。せっかく私の前にきてくれたのですから、もっと遊んで行って下さいな。」


声の聞こえた方を見ると、クラーケンを探している時にすれ違った、大胆な格好のお姉さんが立っていた。


――うむ、それにしてもセクシーだ……。


俺はこれから、一体なにをされてしまうのだろう?


期待してしまうではないか――。


――少しずつ、近付いてくる……。


それに合わせるように、甘い香りが頭をくらくらとさせる――。


よくよく見ると、水着だと思っていたものは身体の一部だったようで、上半身の大事な部分を覆っていた葉や草はなくなり、綺麗な色の身体が見えている……。


セクシーな半裸の女性――。


――ではなく、アルラウネと呼ばれるモンスターだ。


砂浜を挟んだ海の反対側は森に通じているため、植物系のモンスターがいてもおかしくはない……。


人語を話している辺り、そこそこ高位のモンスターなのだろう。


アルラウネが近付くのに比例するように、甘い香りが強くなり、意識がふわふわとしていく。


遠目では気付かなかったが、アルラウネの花のような形をした下半身から粉のようなものが舞っている。


花粉かなにかなのだろうか……?


おそらくその粉が、意識が遠退いていく原因になっているのだろう。


視界がぼやけ、身体が浮かんでいくような心地のいい気持ちになっていく……。


アルラウネに対し、すぐに危機を察知して駆け寄っていったミオとベルの二人も、フラフラとし、へたり込んでしまった――。




――――身体が……心地いい……意識が……(とろ)ける…………。


――いや、しっかりしなければ!


アルラウネは……どこだ……!?


―――あれ?相野……さん……?


アルラウネのいた辺りに、相野さんがいる。


―――――なぜだろう?なんでこっちの世界に……?


いや、それよりも……相野さんは……服を着ていない……。


小さな疑問など、もはやどうでもいい――――。


その相野さんが、俺の方を……(うる)んだ瞳で見つめている――。


微笑み、両手を広げ、まるで俺のことを待ってくれているようだ……。


――――――おかしい……おかしいはず……なのに…………。


あの相野さんの胸に飛び込こんで抱き締めることができたなら……きっと、幸せだろう――。


俺は立ち上がり、フラフラとしながら相野さんへと歩み、近付く……。


途中、ミオとベルが倒れて寝そべっている……。


ちらりと横目に見えるが、そんな二人の間を抜けて、歩いて行く……。


二人は顔を赤らめ、はぁはぁと息を切らせながら足を、太ももを擦り合わせ、その太ももの間に自分の手を挟み、もぞもぞと身悶(みもだ)えている。


だが、そんな二人には目もくれなかった――――。


両手を広げ、微笑み、俺を待ってくれている裸の相野さんへと……一歩一歩……歩みを、進める――。


―――――――なんで……こんなに……フラフラするんだ……。


早く、相野さんの胸に飛び込みたいのに……。


嬉しさともどかしさで、涙が出てくる……。


あっちの世界でいわれたことがかなりショックだったからだ。


だからこそ、今俺を受け入れようとしてくれている相野さんには、嬉しさでいっぱいだった。


……ん?あっちの……世界……?いや、そんなことはどうでもいい――――。


――――今は………………。


あと少し……あと、少し……。




あと数歩の距離――。


あと……。


三歩……。


二歩……。


――ふと、俺の横を黒い影が(かす)めた――。


――途端。


――――ガシャン!


音がする。


それと同時。


「――――――い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ――――っ!!」


あと二歩の距離……目の前にいた相野さん…………。


――いや、アルラウネだ!


アルラウネが、炎に包まれ、絶叫……いや、断末魔を上げながら苦しんでいる!


砂浜で見た美しい顔とは天と地ほどの差だ。


恐ろしい顔でこちらを睨みながら、燃え、消えていく……。


影が掠め飛んできた方向を振り向くと、ミオが苦しそうにしながらもなにかを投げた格好でぐったりとしている。


近くにはクラーケン退治のためにと備えた道具の入ったカバンが転がっていた。


――火炎瓶だ。


ミオは、アルラウネの幻惑に惑わされながらも、火炎瓶を投げたのだ。


植物であるアルラウネに対し、炎は絶大な効果を発揮したというわけだろう。


状況を理解する。


俺は落胆と安心、ミオに対する想い――そのあらゆる感情から冷静になり切れず、なにを喋っていいか分からなくなる…………。


「―――あ、え……と…………。」


「――アイラ……さん……だいじょう……ぶ……ですか……?」


俺の状態を察してか、ミオは顔を紅潮させてはぁはぁと苦しそうに息を切らせたまま、俺のことを気遣ってくれる。


ミオに駆け寄り、抱き起す。


なにをいっていいかは分からず、声も出なかったが……そのまま、ミオを抱き締めた――――。




少しして、俺は落ち着きを取り戻す。


まだ力無いミオにありがとうの感謝の言葉を伝え、同じく力無く倒れているベルにも大丈夫かと声を掛けた。


二人は意識を失っているわけではなかったが、起き上がってすぐに歩くのは不可能な様子だ。


……少し強引な方法にはなるが、俺は転送魔法を使って帰ることを決める――。


本来は町や宿屋など、外敵がおらずそれなりに落ち着ける安全な場所から転送魔法を使うのだが、今はこんな状況だ。


海の近くであるため、野宿をするわけにもいかない。


さらにいうなら、三人とも体力の限界をとっくに超えている。


なんとしてでも帰る必要があるというわけだ――。




――俺は、飛行の魔法は使えない。


飛ぶための器官も存在しない状態で、空を飛ぶというイメージがどうしてもできないからだ。


風の魔法で似たようなこともできなくはないが、自由自在に飛び回ったりはできない。


いくらこの世界が自由といっても、不可能と思っていることはできないというわけだ。


つまり人によっては、翼になるようなものを背中に着けるだけですんなりと飛行できる人間もいる……らしい。


想像力が豊かなのだろう。


本来であれば、飛ぶ方法や飛ぶ過程、その身体の動かし方、飛んでいる自分の姿やその結果などをイメージする必要があるのだが……そんなものをすっ飛ばして考えることができるということだ。


まぁ、そういう特技を持ってるやつはその反面、物理的な攻撃には全く頼れなかったりするという欠点もあったりするのだが……それはまた別の話だ。


少し脱線したが、今回はその思い込みでどうにかできる部分をうまく利用するつもりだ。


本来なら、外敵のいない安全な町などから転送魔法を使って帰宅する。


だが今回は、家の倉庫にある転送魔法用の魔法陣を使って家の倉庫に帰ってしまおうと考えているというわけだ。


下手をすれば、その倉庫にある大事な装備品などがどうなるかわからないが、今は緊急事態、やむを得まい。


俺は、ミオとベル、持ってきた道具などを可能な限り自分の手の届くところに置き、目を閉じる。


――意識を……集中する――――。


家の倉庫に描いた魔法陣をイメージする。


今回は、自分の身体は剣だとでもイメージしよう。


自分は……装備品の一つだ……。


装備保管用の倉庫に転送されてもなんらおかしいことはない――。


ミオとベルの手を握る俺の手に、力が入る――――。


ついでに、大事な道具や衣類の入ったカバンにも……。


――――さらに集中し……イメージする――――――!!





――――ガラガラ……!ガラン!ガシャーン――――――!!


――なにかに突っ込んだ――。


周りでは、物と物のぶつかり合うような(すさ)まじい音が聞こえる。


俺の身体はなにかの上に寝そべっている……。


ミオとベルの手の温かさは確かに感じる――。


――目を、開く……。


――成功だ――!!


――帰ってきた!!


「――よし、やった!!」


倉庫にあった装備品はそこら中にバラバラに散乱してしまっていたが、壊れている物もなさそうだ。


身体を傷付けるような武器がミオやベルに倒れ掛かっている様子もない。


よかった……。


床を見るとなかなかに悲惨な状態にも見えるが……これは、大成功といって差し支えないだろう。


帰るべきものが帰るべき場所に帰ってくることができたのだから――。


嬉しさから、急に笑えてくる――。


安心したのだ――。


……一頻(ひとしき)り笑い、くたくたになった身体を起こす。


「――よし。」


と、もう一仕事(ひとしごと)あることへ気合を入れる。


ぐったりとしたミオとベルの二人を、安心して眠れる場所に連れていくのだ。


それを終えて、初めて今日のやるべきことをやり終えたといえるだろう。




くたくたになった身体で、まずはミオを安心して眠れる寝床へと連れていく。


顔はまだ赤らんでいて、息苦しそうだ。


簡単な薄布一枚で包まれていたミオの身体に、代わりのふかふかな布団を掛ける。


ミオの表情がわずかに緩む。


安心して眠ってほしい。


「……アイラ……さん…………ん……。」


小声で名前を呼ばれた気がした――。


――ベルも同様に、寝床へと連れて行く。


ミオには申し訳ないが、小さくて身体の軽いベルの方が簡単に寝床へ運んで行くことができた。


別にミオが重いというわけではない……。


――断じてない。


ベルが軽いというだけだ。




そのあと、ギルドに報告をしに行く。


かなりの額の報酬をもらった気がするが、疲れていて具体的には確認しなかった……。


俺はもうくたくただったが、二人がお腹を空かせて起きてきた時のためにと、保存してあったパンと簡単に卵を焼いていつでも食べられるように準備した。


そのあとはとりあえず風呂に入り、簡単に身体を洗い、自分の寝床へ向かった――――。




「――もう、限界だ…………。」


倒れこみ、布団を被る……。


ここまで疲れているのだ。


きっとすぐに眠れる……。


――はずだったのだが……相野さんのことがどうしても頭から離れない……。


こんなに疲れているにも関わらず、頭の中はそればかりで、脳みそだけは覚醒しきっているような感じだ。


アルラウネめ……とんでもないことをしてくれたな……。


まぁ美人だったし、セクシーではあったけれども……。


それを思い出し、裸の相野さんの姿も思い出してしまう。


興奮で、さらに目が冴える――。


――おかしい!こんなに疲れているのに――!!


疲れすぎて眠れないということだろうか?


これ、本当に眠れるのか……?


――相野さんは、なんであんなことをいったのか……。


いや、思い当たることはあるが……だとすれば、俺のことは信じられなかったということだろうか……?


二人で行った映画は楽しかったな……。


いろいろなことを思い出してしまい、全く眠れない――。




――気付けば、かなり時間が経っていた――。


部屋の外で音がする……。


ミオかベルが風呂にでも入っていたのかもしれない。


作っておいた食事は食べてくれただろうか……?


今日は本当に大変だった……。


ゆっくり眠って欲しい。


そんなことを考える……。


ようやく、眠気に襲われる。


これなら、ゆっくり眠れそうだ……。


――ギィ……ギ、ギ、ギ……。


ゆっくりと……扉が開く。


かなり遅い時間だったのだと思う。


とても静かだったために気が付いた。


昼間であれば気付けなかっただろう。


それほどまでにゆっくりと扉が開いたのだ――。


「……アイラ……さん……?」


――ミオだ。


静かに名前を呼ばれる。


弱々しい声だった。


「――あの……わたし……がまん……できなくて…………。」


――ん?今なんて?……我慢?なにをだ……?


ミオが近付いてくる……。


近くまできて初めて分かったが、はぁはぁと熱を帯びた息を切らせている。


きっと明かりが点いていれば、顔が赤らんでいることも分かっただろう。


――ファサ……。


布の落ちる音がする……。


ミオは、俺の被っている布団の中へ(もぐ)りこんでくる――。


――な……しまった――。


俺は今――全裸だ。


疲れ過ぎていたため、風呂を出るなりそのまま倒れるように布団を被ったのだ。


――焦る。


「――――私も……いいですか?」


すると、もう一つの声が聞こえる。


――ベルの声だ。


どうやら、ミオだけではなく、二人で俺の所にきたようだ。


ベルはいうや否やすぐに布団の中へ(もぐ)り込んでくる。


ベルもはぁはぁと息を切らせている。


一体、どうしたんだ……。


――いや、アルラウネだ。


昼間のことを思い出す。


アルラウネの身体から出ていた粉には、催淫の効果でもあったのだろう。


俺はてっきり幻惑、幻覚だと思っていたが、催淫の効果もあったということだ。


それ故に、素っ裸の相野さんの幻覚を見ることになったということだろう。


なにも守る術のない俺の身体に、二人の温かい体温が直に伝わってくる。


……ん?直に……?


そこに布の柔らかさはなかった。


あるのは肌の柔らかさと、その体温だけだ。


――これは……二人も裸じゃないか――!!


前にもこんなことがあったような気がして、一瞬デジャブかとも思ったが……確かにあった……。


ただ、前と違うのは、前よりも二人が積極的で、さらには二人の息も合っている。


背中側にミオ、腹側にベルがいる。


背中側のミオはその豊満な身体を限界まで俺に押し付けてくる。


腹側のベルは俺に抱かれるような形で丸まり、自分の敏感な部分を触って快感を得ていた。


「――んっ……んっ……あっ……んんっ……ああん!…………はぁ……はぁ……気持ちいい……んんっ――――!!」


ベルの可愛らしくも淫らな声が聞こえる。


はぁはぁと息を切らせるベルの体温が熱くなっていくのが感じられる。


「――アイラさん……。」


背中側からミオの声が聞こえる。


それと同時に、俺の腹側にミオの手が回される。


――なん……だと……?


こともあろうに、ミオの温かくて柔らかい手は、俺の敏感な部分に添えられていた。


ミオの手が、動き出す――。


そして、俺の快感を絞り上げるようにと、触り、擦り始める。


「――あ、ちょ、やめ、まっ!ん!んん――!」


俺のそんな声もお構いなしに、ミオの手は止まらない。


俺がその状況に混乱していると、前側にいた上目遣いのベルと目が合う。


にこりと笑う。


不吉な予感がした。


いや、不吉な予感しかしない。


一体、なにをするつもりなのだろう……。


途端、自分の敏感な部分を(いじ)っていたベルの手の片方が、俺の身体に触れ、俺の身体を撫で始める。


これは……まずい!ダメだ!耐えられるわけがない――――!!


俺は、発情した二人に襲われる形となってしまった……。


「――――あ……!あ……!ちょ!そこは!あ、あ、あああーーーー……!!!」


俺は、ぐったりとする……。


ただでさえ疲れているというのに、この仕打ちとは……。


酷い……しんどい……気持ちいい……嬉しい……。


だが、二人がこれで満足するはずがない。


いや、そもそも発情しているのは二人なのだ。


満足などできるわけもないだろう。


「――よし。」


俺は身体を起こし、寝ている二人を見下ろすような姿勢になる。


二人は俺を追うように身体の向きを変え、必然的に俺の両脇に仰向けになったミオとベルが並ぶ。


「――仕返しだ。」


小声でそう呟く。


俺は二人の敏感な部分をそれぞれ、指で激しく(いじく)り回す。


「――――あっ!あっ!んっ!いあっ!んんんっ――――――!!」


こうなっては、俺ももう引くわけにはいかない。


途中で止めるわけにもいかない。


二人が満足するまで、ひたすら(イジ)め続けるしかない!


「――いあっ!んんっ!あああっ――――!!」


二人は(なま)めかしい声を出す。


俺は、二人の敏感な、尖った部分を弄ったり、擦ったりする。


「――はん……ん、んん……。」


二人は声が出ないように我慢しようとしているが、そんなことはお構いなしだ。


分からせ、思い知らせるためにも、とことん責め抜いてやろうではないか――!!


――途端、二人の全身に、力が入る――。


「「――――――いっううううううっっっ!!!!!」」


(こら)えていたものを全て噴き出すように声を上げ――――脱力する……。


二人ははぁはぁと息を切らせていたが、その息遣いはいつしか寝息へと変わる――。


――俺も……もう…………。


「――――限界だ……!!」


尻を突き出すように前のめりに倒れ、そのまま深い深い眠りに落ちた――――。

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