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職場の異変

―――ジリリリリリリr………。


「ああ……朝か……。さて、仕事に行く時間だな……。」


まだ頭はぼんやりとしているが、出勤の支度をする。


ゆっくり朝食を取りながら、昨日の相野さんとのことを思い出してにやけてしまう。


食事を終え、いつもと違って少しだけウキウキしながら職場に向かう。




「おはようございまーす。」


ああ、今日もかったるい……。


あ、でも、今日は相野さんもいたはず……。


職場に着き、準備を済ませるなり相野さんを探してしまう。


相野さんは少し早く出勤してきたのか、他の店員と話をしていた。


……なにか深刻な話だろうか……?相野さんの表情が暗い気がする……。


その話し相手の表情はニヤニヤとしているのだが……なんだか違和感があるな……。


――もしかして……イジメか……?


それなら、なんとかしないと――。


俺が近付くのに合わせるように、会話が終わる。


まぁ、終わったならそれはそれでいいだろう。


「――おはよう!」


俺は残された相野さんに挨拶をする。


昨日のことを思い出し、思わずいつもよりも笑顔でいつもよりも元気に挨拶をしてしまう。


「……………。」


……あれ?返事が返ってこない……それどころか、少し(にら)まれているような……。


俺の挨拶がキモかったからだろうか?


これは失態……。


「――お、オハヨー……。」


あるいは聞こえていなかったのかもしれないと思い、少し落ち着いてからもう一度挨拶をしてみる。


相野さんは俺を一瞥(いちべつ)し、そっぽを向いて離れて行ってしまう。


――俺、泣くよ?


出勤早々、泣きたくなった――――。




午前中の仕事も上の空で、ずっと相野さんのことを考えていた……。


――だというのに、目の前の客は――。


「――ちょっと、聞いてるの!?ホント!この商品の色が気に入らないのよ!あんた、ちょっとホント塗り替えなさいよ!」


よく分からんクレームをいってきている……。


「――他の店ではやってくれたんだけど?ホント不親切ね。お客様のことを馬鹿にしてるのかしら?ふざけないでもらえる?ホント店長呼びなさいよ!店長!!てんちょー!!」


「――も、申し訳ございませんが、もともと置いてある商品に関しましては、塗り替えなどの対応はこちらで行っておらず……大変申し訳ございませんが、お客様ご自身で行っていただくしかなく……。」


理不尽なクレームなのは間違いがなかったため、俺はあしらうことにする。


「――いいじゃない!やってよ!どうせ暇なんでしょ!?あっちの店ではやってくれたわよ!ホントそんなこともできないの!?だからこんな店で働いてんのよね!ホント。あーあ……もうホント使えない――――!!」


さすがに俺もかなりイラっとしたが……ここは断る以外の選択肢はないだろう……。


はっきりというしかない――。


「――大変申し訳ございませんが、一切対応できません!申し訳ございません!」


少し強めにいってしまったかもしれない。


まぁ、仕方ないだろう。


「――あっそ!!じゃあ、もうホントいいわよ!!あーあ!あーあー!こんな店、ホントもう二度とこないわ!!」


是非ともそうしていただきたい。


――いただきたい!!


そんな理不尽なことを大声で叫びながら、その厄介な人間は店を出ていく。


とりあえず、一段落だろうか……。


「――瀬濃くん。」


うしろから店長の声が聞こえ、振り返る。


いたなら助けに入って欲しかったが……まぁいいだろう……。


今きたのかもしれない……。


「――瀬濃くん……今の対応はちょっとないんじゃないかな……?うちはお客様第一だからね。少しぐらい無理な要求にも答えてあげないと……どうしても無理で断るにしても、もう少し低姿勢でだね……。」


なにをいってるんだこいつは……。


かなりイラついたが……仕方ない。


「すみませんでした。」


少し愛想のないいい方にはなっただろう。


「――見てる人は見てるからね!もっとちゃんとしなさいね。」


そんなことをいい捨てて、店長は離れていく……。


なんでこう、嫌なことってのは続くんだ――――。


そんなこんなで休憩に入り、午前から午後に切り替わる。


気分はずっと沈んだままだ……。


午前中も何度か相野さんと目が合ったり話し掛けたりもしたが、ずっと無視をされているようだった……。


つらい――。




――休憩を挟み、少しだけ持ち直した気持ちで午後の仕事を始めた。


だが、状況は変わらなかった……。


しんどい――。


――ほぼ茫然自失(ぼうぜんじしつ)の状態で仕事をしていると……気付けばもう少しで帰れる時間だ。


なにもないにも関わらず、時間がやたらと長く感じた……。


さっさと帰りたい……。


そんなことを思っていると……。


「あの……。」


――相野さんだ。


ずっと無視をされていたはずなのに、急に声を掛けてきた。


「――お、おう!ど、どうした?」


俺は驚きながらも返事をする。


相野さんの目つきは、怒っているようにも見える。


「――瀬濃さん!酷いです!私が陰でみんなの悪口をいってるって……瀬濃さんがみんなにいいふらしてるって!朝、そう聞きました!もう瀬濃さんなんて、大っ嫌いです!!」


うん、なるほど。


全く身に覚えがない……。


それよりも……泣きそうだ……。


「――そ、そんなこというわけないだろ!なんで俺がそんなこといわなきゃいけないんだ!」


言葉の内容に怒りを感じたこともあり、少しきつめにいってしまう。


つらいのと、泣きそうなのと、相野さんに嫌われているショックと……とにかくよく分からなくなった。


あるいは、午前中の事件もまだ完全に払拭できていなかったのかもしれない。


「――そうですか!じゃあ、もういいです!!」


相野さんはいい放つ。


いい捨てて、早足で去って行ってしまう。


「――あ……いや……。」


背を向けて去っていく相野さんに、言葉が出なかった――。




ようやく退勤の時間になり、重い気持ちのまま泥のように帰宅する。


帰ってからは、とりあえず先に風呂に入った。


食事は腹に入りさえすればなんでもよかったため、適当に済ませた。


泣きそうな気持ちのまま布団を被り、すぐに眠りに就く。


枕が……少し湿っていたような気がした――――。

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