日常の始まり
見つけていただいた方、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければと思います。
―――――さん……。
…………ラさん……。
「――アイラさん!」
「―――はっ!」
瞼を開く……。
「――おはようございます!朝ですよ……?」
「――あ……見慣れた天井だ……。」
そんな下らないことを呟いて目を覚ます。
「……え?なんて……?」
目を開けるなり、よく分からないことを呟くそんな俺を起こしてくれた少女は、首を傾げキョトンとしている。
「……いや、なんでもない。おはよう。」
目を覚まして一番初めに目に入った少女に、寝起きでまだぼうっとした頭のままで微笑み掛ける。
こっちの世界の人間である彼女に説明したところで、この冗談の意味は伝わらないだろう。
「――今日は一緒に頑張るって約束したじゃないですか!」
俺が目を覚ましたのを確認した少女は、やる気満々といった様子でそう訴え掛けてくる。
「……えっと、今日の予定か…………んー……なんだっけ……?」
まだ完全に目が覚め切っていない俺は聞く。
ぼやけた頭と視界のまま、下らない冗談はいえる癖に、彼女のいう予定に関してはなかなか回路が繋がらない。
そのため、どんな予定だったか聞いてみた。
「……もう。しっかりして下さい!」
少し拗ねた様子で小さく頬を膨らませて怒られる。
「まったく……朝ご飯もうできてますよ?冷める前に食べに行かないと、またミオさんに怒られちゃいますよ?」
おっと、それはまずい。
今目の前にいるこの少女を怒らせることよりも、朝食を作って待ってくれている彼女を怒らせることの方がずっと恐い。
「分かった、すぐ行く。」
「はい、お待ちしてますね?」
返答し、少女は部屋を出ていく。
……俺は当然、二度寝する……。
わけにもいかず、すぐに着替えをし、支度を済ませ、食事の席に向かう。
「――おはようございます。」
朝食を取るために部屋に入ると、食事を調理し準備してくれていた彼女がすぐに挨拶をしてくれる。
俺のことを起こしてくれた少女も、彼女の手伝いをしながら俺を待ってくれていた。
まったく、二人とも今日も可愛い……。
この家には、俺を含め三人が住んでいる。
まずはこの俺『アイラ』見た目は特にイケメンでもなく、もの凄く優れた能力もない。
勉強もできる方ではないが、周りの平均的な人間と比較すると、少しだけ頭の回転は速いかもしれない。
ただ、そんなものは他の人間と比べることなんてできるものでもないので、いい代えるなら……少しばかり考えるのが好きな人間とでもいったところだろう。
まぁ、そんな些細な違いはあるかもしれないが、要するに、どこにでもいる普通の人間だ。
特別イケメンでもなければ髪型も極端に短かったり長かったりもせず、また長身なわけでもない。
ちなみに、よく女性に好かれるといわれる高収入や高学歴などでもない……と、思う。
どちらにしても、この点に関してはこっちでの生活においてはなんの関係もない話なわけだし……。
まぁ、そんなどこにでもいる普通な俺と、そんな俺を慕ってくれているあとの二人の住人は、俺とは性別の違う二人だ。
一人は、平均的な女性の身長か、もしかするとやや高めの身長かもしれない。
太ってもいない。
むしろ、スタイルはいい方だろう。
彼女は『ミオ』紫っぽい色の綺麗な髪の女の子。
きっと、漢字で書くなら……夜の月明かりに照らされた桜のような、そんな紫がかった艶やかなセミロングの髪からも、美桜とでも表記するのが適切だろう。
性格は礼儀正しく、その見た目通り大人しく奥ゆかしい女の子といえる。
そして、一緒に暮らしている俺だからこそ分かるが、彼女は少しだけ闇を抱えていることも俺は知っている。
まぁ、それはゆくゆく見え隠れすることもあるだろう……。
このミオが、朝食を作って待ってくれていた女の子だ。
そして、もう一人の住人は、身長は平均的な女性よりも少し……いや、かなり小さめだろう。
あっちで公共交通機関を利用するようなことがあれば、おそらく半額で乗ることも不可能ではない。
左右で二つ結びにした腰ぐらいまである長く青い髪が、彼女が動くたびに揺れる。
この少女は『ベル』ミオと同じで性格は大人しい方だ。
ただ、ミオに比べるとベルの方が見た目通り少し幼い印象で、ミオよりも無邪気さが目立つ。
その反面、見た目ほど騒がしいこともなく、時々大人っぽい表情もするのだ。
だがベルは、そんな幼い見た目を気にしてもいる。
とにかく小さいのだ。
色々と……小さい。
男であるなら誰しもが必ず目が向いてしまうであろう胸も……。
そう、小さいのだ。
俺が見る限りでは、特別小さいというよりは見た目相応で、発展途上ともいえる。
しかし彼女自身は自分の胸のそれが小さいことをとても気にしている。
それがまた可愛くもあるのだが……。
彼女が気にする理由としては、ミオのそれが大きいこともまた相まっているのだろう。
――そう!ミオのは大きいのだ!
――ミオのおっぱいは大きい!!
大事なことだからもう一度いおう!
――ミオのおっぱいは大きい!!
とはいっても、大き過ぎるわけでもない。
サイズの表記をするならDかEとでもいったところだろうか。
俺も男だ。
当然気になる。
きっと直接聞けばミオは恥ずかしがりながらも答えてくれるだろう。
だが、聞いたことはない。
おっぱいへの憧れがあるのは男の性ではあるが、きっと彼女は「太っていると思われたのでは?」などと気にしてしまうタイプだからだ。
少し前に誉め言葉のつもりで「ミオは着やせするタイプなんだな。」などといった時なんかは、卒倒せんばかりのリアクションだった。
これは、直接聞くわけにはいかない。
まぁ個人的には、小さいおっぱいも大きいおっぱいも好きな相手のおっぱいならどちらも好きなわけだが……。
そしてもちろん、彼女たちの外見の魅力はおっぱいだけではなく、下半身に位置する柔らかでぷりぷりな果実も魅力的なのだが……いや、むしろ尻の方が魅力的なのでは?などとも思うが、とりあえず今はこれくらいにしておこう。
彼女たちに見惚れていると、せっかく俺が起きてくるのに合わせて朝食を用意してくれたのに冷めてしまう。
ミオに怒られてしまう。
そんなわけで、いろいろありながらもこの家で三人、日々楽しくわいわいと日常を過ごしている。
「――ごちそうさま。」
「――おそまつさまです。」
朝食のメインはシチューとパンだった。
今日は三人で出掛ける約束もあったからか、ミオは栄養価のこともよく考えた口当たりのいい食事にしてくれた。
朝から手間を掛けたものを作るのはきっと大変だっただろう。
食事を終え、外出をするために三人とも朝の支度を済ませる。
向かうのは集会所。
ゲームなんかでいうセンターやクエストカウンターなんかにも該当するだろう。
他にも理解可能な呼び方があれば好きに呼んでもらって構わない。
人によって表現方法が違ってもいいというわけだ。
こっちの住人は、それぞれ好きな呼び方で呼んでいる。
要は、意味さえ分かればいいのだ。
他に同じような役割を担っている場所も存在しないため、ギルドや集会所などといえばみんながここを思い浮かべることができる。
ギルドに着き、さっそく三人で掲示板の前に立つ。
「……これなんかはどうだ?」
一緒にきた二人に問う。
今日の目的は、日々暮らしていくのに困らない程度に適度に稼げればいい。
そんな目的のつもりでギルドにきた。
「……どれですか……?」
「――ゴブリン退治。」
ベルに聞かれたため、俺は答える。
「いいと思います。」
ミオも確認する。
内容としては、ここから少し離れた町外れの森に、ゴブリンが生息しているので倒してきて欲しいというものだ。
ゴブリンといえば、下品で汚いイメージだ。
場合によっては、人間を苗床として繁殖するような魔物でもあるため、大抵の女性は嫌がる。
だが、今回は必要最低限倒してくれば十分なことと、ミオもベルも決して弱くはない。
また、俺のことを信じてくれてもいる。
そんなわけで、受ける依頼はあっさりと決まり、さっそく森へと向かう。
この依頼という表現に関しても、人によってはクエストやミッションなどと好きな呼び方で呼んでいる。
こっちのこの世界はいい意味で割と自由なのだ。
この世界に関していうなら……この世界は、アースガルドと呼ばれている。
地球に比較すると約七倍程度の大きさがあるらしい。
それにも関わらず、あっちに比べて重力などの身体に掛かる負荷が少し弱い。
つまり、疲れづらく素早く動くことができ、少しだけ高く跳躍することも可能だ。
そんなにでかい世界だと、環境とか物理法則とか滅茶苦茶じゃね?などと理化学的な視点から突っ込む人間がいるかもしれないが、それも含めて自由というわけだ。
そもそもの世界の作りが違う。
そうなのだから仕方がない。
少なくとも、今俺がいるここは確かに存在するし、自然環境の影響で酷い目に遭ったりもしていない。
まさにご都合主義。
世界の存在すらも自由とは素晴らしいな。
そして、生きて行く以上は必ず必要なもの、金に関して……通貨の単位は、ガルド。
アースガルドに引っ掛けてそうなったのか、偶然そうなったのか、実は通貨の呼び名が先だったのか、その辺の細かいことは俺には分からん。
さらについでなので、魔物に関してもいうなら、魔物も人によって表現方法が違うことがある。
魔物、モンスター、エネミー、化物、怪物……少数派だが、イマジンなんて表現するやつもいるとかなんとか……。
まぁ、それだけ色々な魔物がいるということでもある。
食用としても扱われるモンスターやゴブリンのような魔物、雪を被った大男のような怪物、ゾンビのような化物、幽霊なんかの半分幻覚のようなやつもいる。
そりゃ確かに、食料として扱うことを考えると化物とか怪物なんて表現をするのは少々憚られるだろう。
そんなわけで、魔物の呼び方すらも自由というわけだ。
要は、意味さえ分かればいい。
さらに付け加えると、こっちの世界の魔物は……生殖本能が旺盛だ。
どういう意味かというと……まず、産まれる数が段違いだ。
ピーグルと呼ばれるあっちでいうところの豚のような魔物がいるのだが……豚は通常、半年の間に十匹程度子供を産むといわれている。
だが、このピーグルという魔物は、一ヶ月に十匹程度の子供を産むことが可能で、その上成長も早い。
それにも関わらず、気性は穏やかで、見た目も可愛いピンク色だ。
その可愛さから食べることを躊躇う人間もいるが……。
生きるためだ。
仕方がない。
そして何より……美味いのだ。
とても美味い。
こいつさえいれば他に食べ物なんかいらないんじゃないかってくらい肉が美味い。
実際、家畜としても飼われている。
主食になるような米や麦なんかの農業を合わせてしているようなやつなんかは、ほぼ完全に自給自足すら可能だろう。
実は、今朝ミオの作ってくれたシチューにもこいつの肉は入っていた。
ミオの料理技術もあってとても美味かった。
いただきますとごちそうさまは忘れない。
ただ、この魔物の生殖本能旺盛という話は、ピーグルに限っただけのものではない。
そう、当然ゴブリンもだ。
それ故に定期的に討伐の依頼が出されるし、尽きることもない。
実際、苗床として捕らえられ、酷い目にあっている女性もいる。
だが、そこはご都合主義のこっちの世界。
どうやら、それも痛みや苦痛だけではなく、大きな快感も得られるとの噂も聞いたことがある。
なんであれこの世界の魔物は、一部に限った話ではなく生殖本能が旺盛というわけだ。
そして食料の面からいっても、特別な贅沢さえしなければ困ることはないため、人間同士に限っていえば、こっちの世界は平和な世界だ。
また、その平和な理由はもう一つある。
人間同士が搾取し合ったりする必要がないことはいうまでもなく、ましてや人間同士で殺し合いをしたりすることもそうはない。
ゲームなんかでのいい方にするなら、PVPなどがまずあり得ないわけだ。
その理由としては、人間同士で殺し合いをした場合は殺害した側に大きなデメリットがあるからだ。
これもゲームなんかでいうところの、他者に対しての自身へのデスペナルティー……。
いや、そんなに甘いものではない――――。




