ウメコの夫婦観察日記帳
〇月×日
ついに、装二郎様が花嫁様を決めたようです。
それはそれは、お綺麗な御方なのだとか。
ただ、お役目を果たした装二郎様は、元気がありません。それも無理はないのでしょう。
花嫁様を娶るのは、双子の兄である装一郎様ですから。
なんとお声をかけていいものか、わかりません。
歴代の予備様同様、ウメコは見守ることしかできないのです。
〇月△日
花嫁様がやってまいりました。
なんとまあ、今回の花嫁様は金色の髪に、青い瞳をお持ちです。母君が異国出身なのだとか。
強い瞳が印象的で、堂々となさっています。
過去の予備様より花嫁の選定に時間がかかった装二郎様でしたが、すばらしい花嫁様を選んだようです。
お名前はまりあ様。
あまりの美しさに、このウメコ、目が眩んでしまいそうです。
あやかし達を前にしても、毅然とされておりました。
山上家の花嫁としての素質は、十分備わっていらっしゃる模様。
当主である装一郎様の隣に立つのに、相応しい女性のようです。
装二郎様は昨晩から朝方にかけて、緊張で眠れなかったご様子。
まりあ様とお茶の一杯も飲まずに、寝室へと引きこもってしまいました。
せめてご夕食を一緒にされては、と進言したものの、「ひとりで食べる」とふてくされたようにおっしゃいました。
まりあ様に逃げられてしまいますよ、と言ったら、うわごとのようにお言葉を返されました。「これ以上一緒にいたら、好きになっちゃう」と。
もう、かなりお好きなのでは?
そんな言葉は、口から出る寸前で呑み込みました。
私、かなり気遣いのできるカワウソですので。
まあ、嘘ですけれど!
□月▽日
まりあ様はこれまでの花嫁様と異なり、あやかしをまったく恐れません。
それどころか、可愛がってくださるようです。
人間に害され、傷ついているあやかし達の心を、まりあ様は癒やしてくれます。
もうひとり、癒やしていただきたい人がいるのですが……。
装二郎様です。
相変わらず、まりあ様とは距離を置いている模様。
昼あんどんだと思われていても、気にしていないご様子。
素直になったらよろしいのに。
ただ、まりあ様は数ヶ月後には装一郎様の花嫁になる。
心を許したら、辛い現実が待っていることをわかっているのかもしれません。
けれども、ひとときでもいい。
装二郎様には幸せになっていただきたいと、思っているのです。
限られた命だからこそ、余計に。
このウメコ自身も、予備様に感情移入しないように努めてまいりましたのに。
装二郎様は放っておけない、不思議な御方なのです。
□月〇日
まりあ様の人・あやかし誑しが、ついに装二郎様のもとまで届く!
なんと、山上家の本家で、装一郎様と結婚する気はない、自分は装二郎様の花嫁だと啖呵を切ったらしいのです。
さすがまりあ様!
かっこいい!
しびれる!
まりあ様は、山上家を、装二郎様の運命を変えてくださると信じておりました。
今日はお祝いです。
牛一頭、丸焼きにします。
まあ、嘘ですけれど。
△月〇日
装二郎様は日に日に、まりあ様と過ごす時間を増やしていっているようです。
表情が明るくなり、まとう空気も優しくなったような気がします。
さすがまりあ様。
装二郎様を癒やすのも、お手の物なのでしょう。
ふたりが寄り添い、手と手を取り合う未来が、ウメコには見えます。
ああ、なんて満たされた毎日なのか。
ウメコは幸せです。
あ、これは嘘ではなく、本当ですよ!
△月×日
まりあ様が家出をなさいました。なんでも、山上家のよくない噂を耳にした模様。
真実を調べるまで、家には帰らないというお手紙が届きました。
屋敷の中は静まりかえり、まるでお通夜のよう。
まりあ様がいないだけで、ここまで暗く落ち込むのか。
装二郎様は顔面蒼白となり、寝込んでしまいます。
途中、ふらりとでかけ、涙目で帰ってまいりました。目が真っ赤です。
なんて可哀想な御方なのでしょうか。
まりあ様、早く帰ってきてくださいませ。
あやかし一同、祈る他ありません。
△月▽日
装二郎様が上機嫌で帰ってきたようです。なんでも、まりあ様が明日にもお帰りになると。
狐の姿で、ぽんぽんと軽やかに跳びはねながら歩いております。
昨日との落差が、あまりにも激しすぎる。
しかしまあ、まりあ様が戻ってくるというので、ひと安心です。
二晩連続のお通夜は、辛すぎますので。
ホッと胸をなで下ろしたのでした。
◇月◇日
まりあ様が戻ってまいりました。
まるで、長い冬があけ、暖かな春を迎えたようです。
暗いお屋敷に、華やかな桜の花が満開になったようです。
やはり、お屋敷にはまりあ様がいなくては。
装二郎様は、珍しく微笑んでいらっしゃいました。
その笑顔を、ウメコはずっと見たいと思っていたのです。
ああ、まりあ様、装二郎様の花嫁になってくださり、本当にありがとうございました。
ウメコはもう、思い残すことはありません。今、この瞬間に命が尽きても惜しくありません。
嘘です。
ウメコはこれからも、装二郎様とまりあ様が幸せそうに暮らす日々を、見守りとうございます。
これは本当です。
どうか末永く、幸せに暮らしてくださいね。




