契約花嫁は、契約を続行する
帝国警察の局長だった花乃香の父は、今回の事件を受けて辞任の意思を示す。
しかしながら、周囲が猛烈に引き留めたため、継続して続けるようだ。
帖尾は終身刑となった。
殺された者達や親族は、絶対に彼を許さないだろう。
人生をかけて、罪を償うこととなるのだ。
帖尾に協力した雄一は、禁固十年の刑が処される。
個人の罪だということで、実家の爵位が奪われるということはなかった。
陥れられた久我家の名誉も、回復する。
取り上げられた爵位に財産、屋敷は、すべて返還された。
まりあの両親は、下町のあばら屋から住み慣れた洋館に戻ってきたというわけだ。
何もかも、元通り。
まりあはホッと胸をなで下ろす。
◇◇◇
桃の花が満開となる季節。
珍しく、装二郎が大声を張り上げる。
「え、何それ、聞いてないんだけれど!?」
問いかける相手は、山上家からやってきた親族のひとりだった。
結婚のための書類を、持ってきてもらう予定だった。
装二郎とまりあは晴れて夫婦となる予定だったが、想定外の障害が言い渡される。
「華族は、長男の結婚から順に認められます。そのため、装二郎様とまりあ様が正式な夫婦となるのは、装一郎様の結婚後なのです」
「装一郎め! もう、藤と結婚しちゃえばいいじゃん!」
装一郎に恋する少女藤は十四歳。女性は十六歳にならないと結婚できないので、無理な話である。
装二郎に睨まれた親族の男は、気の毒なことに額に汗を浮かべていた。
当主である装一郎ほどではないが、装二郎も相手を萎縮させるような空気を放っているときがあるのだ。
「えー、そのため、まりあ様には、もうしばらく、契約花嫁で居続けて、いただきたいな、と」
「わたくし、結婚適齢期を過ぎてしまうのですが」
帝国華族に生まれた女性の結婚適齢期は、十八歳まで。通常、学校の卒業と同時に結婚するのだ。
まりあは春に、十九歳となる。
装一郎の結婚相手は、候補ですらひとりもいないらしい。
まりあと装二郎の結婚までの道のりは、遠いように思えた。
親族の男が帰ると、装二郎は素早くまりあの手を握って頭を下げた。
「まりあ、ごめん! もう少しだけ、待ってくれる?」
「どうしましょう」
「え!?」
「何か、わたくしに見返りがあればいいのですが……」
「じゃあ、黒狐の姿のとき、尻尾を自由に触ってもいいから!」
「うーん」
「え、ダメ? ちょ、ちょっと待って。他、他に――ないか。僕が、まりあに与えられるものなんて」
「ありますわよ」
「何?」
まりあは装二郎の手を包み込むように握り返し、願いを口にした。
「装二郎様の、愛をくださいませ」
「そんなので、いいの?」
「はい」
「まりあ、ありがとう」
装二郎はまりあの体を、そっと抱きしめる。
幸せな気持ちが、じわじわと全身に広がっていった。
一度離れ、見つめ合う。
まりあが瞼を閉じると、二人の影が重なる。
そっと唇が落とされた。
想いは、ひとつとなったのだ。
これからも、まりあの契約花嫁生活は続く。
本当の花嫁になれるのはいつなのか、わからない。
それでも、幸せであることに変わりはない。
何があっても、装二郎と共に手を取り合えば、解決できないものはないだろう。
そう、確信していた。
◇帝都あやかし屋敷の契約花嫁 完◇
ひとまず完結です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
あと一話、番外編を更新します。短いですが、お楽しみいただけたら幸いです。
また、何か思いつきましたら、お話を更新するかもしれません。
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