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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第五章 契約花嫁は、幸せをつかみ取る!

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契約花嫁は、勇ましく戦う

 装二郎は新たな香を取り出し、マッチ箱の側薬がわぐすり頭薬とうやくを擦り付けて火を熾した。

 円錐形の香の先端に火を付け、ふっと息を吹きかける。

 煙が漂う中で、呪文を唱えた。


「香の術――煙火はなび


 尾のほうへ向かった煙が、発火した。

 先ほどとは異なり、百足は苦しむような動きを見せる。


 まりあは清白に呪符を銜えさせ、コハルの背中に乗って百足の尾に貼り付けるよう命じた。


 清白は百足の放つ液体をするする避け、呪符を貼り付けてくれる。


 清白とコハルが撤退したのを確認したあと、まりあは叫ぶ。


「爆ぜろ――熾火!」


 呪符が火に包まれ、弾ける。

 百足は8を描くようにウゴウゴと動き回った。攻撃が効いているのだろう。

 しかしながら、せっかく負った傷を、羊膜が覆う。

 すると、傷が治ってしまった。


「げ、もしかして、自己再生能力!?」

「なんてことを!」


 火に弱くとも、すぐに回復してしまう。

 ゆゆしき問題である。


 落ち着け、冷静になれ。まりあは必死に言い聞かせる。

 もう一度、装二郎は香の術を試す。苦しむ様子は見せているものの、すぐに再生してしまうようだ。


「よし、まりあ、わかった!」

「な、何がわかりましたの?」


 装二郎は九十九尾の黒狐の姿になると、目にも止まらぬ速さで接近する。


『まりあ、僕に乗って!』

「え、ええ!?」

『今から、爆煙をまりあの剣に纏わせる。その状態で百足に接近するから、まりあは僕の背中から斬りつけるんだ』

「ああ、なるほど。そういうわけですね」


 夫婦初めての、共同作業というわけである。

 異国の結婚式では新郎新婦が一緒に包丁を握り、婚礼菓子に刃を入れるという。

 それと、似たようなものなのか。


 まりあは装二郎に跨がる。

 ふわふわとした背中は、乗り心地がいい。

 なんて、気にしている場合ではなかった。


 まりあが刃を構えると、装二郎が呪文を唱える。


『香の術――煙火』


 刃が煙をまとい、発火する。

 ごうごうと、燃えていた。


『まりあ、行くよ!』

「はい!」


 片手で装二郎の毛を握り、片手に柄を握る。

 燃える刃で、百足の尾を斬りつけた。


「地獄に、墜ちてくださいませ!!」


 火をまとう刃が、百足の尾を両断する。

 切り口から、呪符のような紙切れが見えた。それすらも、燃やして炭と化す。


 百足の体はボロボロと崩れていき、欠片さえも残らなかった。


『や、やった?』

「え、ええ」


 装二郎の首を、まりあはぎゅっと抱きしめた。

 ふわふわで、いつものいい匂いがする。

 と、勝利に酔いしれている場合ではない。


 まりあは装二郎の背中から下り、その辺に落ちていた縄を拾い上げる。


『あ、待って、僕がする』


 人の姿に戻った装二郎が、縄を受け取って帖尾の手足を縛る。


「あ、こいつ、体が柔らかいな」


 体を折り曲げ、手足を一カ所に集めて縄で縛った。


「その体勢、大丈夫ですの?」

「大丈夫、大丈夫」


 続けて、雄一も縛った。

 ふうと息をついたところに、バタバタと足音が聞こえた。


「帝国警察だ! 全員、大人しくしろ!」


 何もかも、終わったあとで帝国警察が突入してくる。

 おそらく、装一郎が通報したのだろうと装二郎は呟いた。


 それから、まりあと装二郎は帝国警察の警官に同行し、事情聴取を受けることとなった。

 街中で元婚約者である雄一を発見し、普通ではない様子だったのであとを付けた。なんて事情を話したら、早々に解放される。


 あとは、帝国警察に任せていれば安心だろう。


 ◇◇◇


 千年もの戦いは、終結したのか。

 まだ、わからない。

 帖尾が諸悪の根源であるかどうかは、これから調査されるだろう。


 そんな状況の中で、まりあと装二郎は山上家の本家に呼び出された。

 前回同様、広い畳の部屋に呼び出され、夫婦並んで正座する。


 装一郎は今日も、偉そうな様子でやってきた。

 ただ、次の瞬間には、思いがけない行動に出る。

 座布団の上に正座して、深々と頭を下げたのだ。


「装二郎、まりあ嬢、ふたりの奔走と活躍に、深く、感謝申し上げる」


 装一郎に続き、親族も頭を下げた。


「えー、何これ、なんかいい景色」

「装二郎様、こういうときは、とんでもない、頭を上げてくださいと言うものでは?」

「昔から、礼儀知らずなんだよなあ、僕」


 本当に、いい性格をしている。

 常識に囚われない装二郎だからこそ、まりあは強く惹かれたのだろう。


 顔を上げた装一郎は、淡々と決定事項を口にする。


「今後、山上家の予備と、花嫁についての慣習は全撤廃する」


 それを聞いた瞬間、装二郎とまりあは双方見つめ合う。

 手を取り、喜びを露わにした。


 装二郎が懐から、古めかしい紙を取り出した。

 それは、予備の死を以て、九十九尾の黒狐を輪廻転生させるのろいだという。

 それを皆の前で破り、蝋燭の火で燃やした。


「あ――!」


 装二郎の体から、九十九尾の黒狐が出てくる。


『ふん、愚かな一族よ』


 それだけ呟き、姿を消した。

 装二郎は予備の呪いから、解放されたようだ。


「ということは、装二郎様は黒狐の姿になれなくなった、ということですの」

「そうなのかな?」


 装二郎は変化の術を試す。

 すると、黒狐の姿へと転じた。


『え、これは、どういうこと?』

「九十九尾の黒狐が、お前に力を残していったのかもしれない」

『そ、そっかー』


 そんなわけで、山上家の長年の遺恨どころか、装二郎を取り巻く問題も解決した。

 まりあと装二郎は、手と手を取り合い、あやかし達の待つ家に帰る。


 玄関を潜ると、狐や狸、化け猫や川獺のウメコがこぞって出迎えた。


『おかえりなさい、装二郎様、まりあ様!』


 その言葉に、夫婦ふたりは笑みを浮かべ、「ただいま」と返したのだった。

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