表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第五章 契約花嫁は、幸せをつかみ取る!
35/43

契約花嫁は、絶句する

 どうやって地下部屋を探すのか。

 尋ねると、装二郎は先端に水晶が結ばれた振り子を取り出した。


「これは化け物を探すための道具だけれど、ここでも反応するはず」


 振り子を垂らし、部屋のひとつひとつを確認していった。

 どの部屋も、埃と血の臭いが混じっているような、悪臭漂う部屋だった。

 その中で、真新しい白衣がかけられた部屋を発見する。そこで、振り子がくるくると回った。


「この部屋に、何かあるみたい」

『寝台の……下』

「え?」


 巾着の中にいたはずの清白が顔を出し、ポツリと呟く。

 這い出てきて、まりあの腕に絡まった。


「清白、寝台の下に、何かありますの?」

『血の臭いが、濃い……。それから、下から、ぞくぞくする、気配がある』

「間違いない。地下部屋があるんだ。調べてみよう」

『このコハルめに、お任せください!』


 コハルが変化を解いて、寝台の下を覗き込む。

 爪先で軽くトントンと叩きながら歩いていたら、一カ所だけ音が異なる場所があるという。

 寝台を移動させると、床の色が明らかに違う部分があった。そこを調べると、地下に繋がる扉となっていた。

 扉の向こう側にははしごがぶら下がっており、その向こうは通路があるようだ。


 装二郎は千代紙を取り出し、そこに練り墨を使って名前を書く。

 すると、屋敷にいる狐が飛び出してきた。


「ちょっとここで見張りをしていてくれる?」

『了解です』


 地下部屋へ繋がる出入り口の番を狐に任せ、装二郎とまりあは地下へ繋がるはしごを使って下っていく。


 下りた途端に、銀の鈴が音を鳴らす。

 地下は真っ暗で、何も見えない。


「まりあ、用心して!」

「はい」


 何かが、くる。

 ぶわりと、悪臭が混じった風圧を感じた。 


「うっ!!」


 衝撃に備えて奥歯を食いしばったが、衝撃はなかった。

 代わりに、化け物の咆哮ほうこうが聞こえる。


『ギュルルルルッ!!』


 鳴き声が聞こえたのと同時に、灯りが灯る。

 それは、毛並みを発光させたコハルであった。


 同時に、状況も明らかとなる。

 大きな虎のような化け物に、九十九尾の妖狐となった装二郎がのしかかっていたようだ。


 まりあは目を凝らす。

 よくよく見たら、額に呪符が貼り付けてあった。


「装二郎様、額に、呪符が貼ってあります!」


 まりあが叫ぶと、装二郎は前脚で化け物の額を叩いた。

 すると、呪符がはらりと落ちていく。

 どうやら、まりあでなくても、呪符を剥がすことは可能らしい。


 虎の化け物から、化け狸の姿へと戻る。怪我はないようだが、衰弱しているように見えた。


「屋敷で、保護をしないと」

『もう一匹、狐を呼ぶ』


 装二郎はどこからともなく千代紙を出し、爪先で文字を書く。

 息を吹きかけると、狐の姿になった。

 屋敷へ連れて行くように命じると、背中に乗せて運んでいく。


「まりあ、先を急ごう」

「え、ええ」


 発光するコハルが先導する。

 なんでも、日なたぼっこを毎日していたら、あのように光る能力を得たらしい。

 あやかしの七不思議である。


 そのあとも、化け物に襲われた。

 すべて、装二郎が体を押さえ、まりあが呪符のありかを探るという戦法で切り抜ける。


 ようやく、扉の前までたどり着いた。


 りぃん、りぃん、りぃん、りぃん……!


 銀の鈴が、音をかき鳴らす。


『ここに親玉がいるとみて、間違いないようだ』

「ええ」


 鋳鉄製の赤く錆びた扉は、まがまがしさしか感じない。

 この先に、いったい何があるというのか。


 観音開きの扉には、鍵が掛かっているようだった。


『僕に任せて』


 針金を差し込んで、解錠でもするのか。そう思っていたが、装二郎は姿勢を低くして、そのまま弾丸のように飛び出す。

 勢いよく体を、扉に向かってぶつけていた。


 一撃で、扉が開く。

 扉の向こうには、二名の男性の姿があった。

 それよりも、大きな水槽の中身に絶句する。


 赤い水の中に、人の手足や胴、頭を縫い付けて作った固まりがぷかぷかと浮いていたのだ。


「こ、これは――」

「鬼と呼ばれるものを、作っているのだよ」


 五十前後の男が、言葉を返す。

 まりあや装二郎の登場に、まったく動じていなかった。


『あの男は、帖尾じょうお家の!』


 帖尾家。それはもともと武士だった家系で、帝国になる前の最後の将軍に仕えていた家だとまりあは記憶していた。

 現在は士族の位を賜り、御上に仕えているはずだが――。


 もうひとりは、雄一である。

 いったいここで何をしているのか。

 咎めるように見たら、雄一はサッと視線を逸らす。


『君達、ここで、何をしているんだ? 化け物に襲われた被害者達は、いったいどこにいる!?』

「どこって、背後の水槽以外にいると思っているのか?」


 装二郎は耳と尻尾をピンと立て、グルグルと低く唸る。戦闘態勢だ。

 まりあも、仕込み刃を引き抜いて構える。


「ずっと、貴殿らを待っていたんだよ」

『僕と、まりあを?』

「そうだ! 我が、帖尾家は、千年も昔から、鬼を作るために奔走していた。一度、成功しそうだったのに、邪魔する者が現れた」


 それが、癒城家の当主だったという。


「鬼は、国家を守る最強の守護神となる。それなのに、あの男がしゃしゃり出てきたんだ!」


 表だって断罪したかったが、鬼が何を使って作られているか、御上に知られたら逆に帖尾家が処罰される。


 口封じもしないといけない。

 帖尾家は術式で作った天才陰陽師、芦名を利用することにした。

 諜報活動をさせるために、陰陽寮に潜入させていたのだ。

 化け物退治で活躍したように見せかけていた芦名の言葉を、皆信じた。

 癒城家の者達を追い詰め、一家凋落に追い込むことに成功したのだ。


「それでも、我らが先祖は納得しなかったらしい」


 再び鬼を造る計画を練ったさいに挙がったのは、癒城家の家臣団を使うということ。

 癒城家に近しい親族の処刑はできたものの、何千といる家臣団までは殺せなかったのだ。


「それから、鬼を造ろうと奮闘していたが、以前の鬼より出来のよいものはできなかった――」


 そうこうしているうちに、素材入手の失敗が続く。

 邪魔する勢力が現れたのだ。


「それが、お前達山上家だった」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ