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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第五章 契約花嫁は、幸せをつかみ取る!

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契約花嫁は、夫と夜を過ごす

 まりあの両親は、夫婦揃っての訪問を大変喜んでくれた。

 先日来たばかりなのにお邪魔してしまい……という装二郎に対し、父や母はいつでも大歓迎だと言ってくれる。


 装二郎と共に作った御節供も、家族みんなでおいしく食べた。

 会話も、盛り上がる。

 まりあの幼少時の話をするのは、勘弁してほしい。そう思ったが、装二郎が喜んでいたのでよしとした。


 酒が入ったので、一晩泊まるようにと勧められた。

 装二郎は遠慮していたようだが、押し切られてしまう。


 途中、まりあは母と共に、近所の銭湯へと出かけた。

 戻ってきたあとは、書き初めで盛り上がる。

 すっかり夜となり、休むこととなった。

 久しぶりにまりあの私室に戻ると、驚きの光景を目にする。


 それは、アンナが用意した、まりあと装二郎が眠る二組の布団だった。

 思わず、呆然とする。


 夫婦なのだから、寝室は一緒で布団も隣り合わせなのも当たり前。

 ただまりあと装二郎は、いまだ清い仲だ。

 初夜の晩であれば腹を括っていたものの、突然だとさすがのまりあもうろたえてしまう。


 布団の上に正座していたら、装二郎がやってくる。

 まりあを見るなり、間違ったと言って襖を閉めた。


「装二郎様、間違ってはおりません」


 指摘すると、そっと襖が広げられた。

 装二郎はまりあの父親の浴衣を借りたのだろう。身長差があるので、すねが少しだけ見えている。

 なんとも新鮮な姿であった。


「いや、まさかこんなことになるとは……」

「ええ、本当に」


 アンナは、契約結婚について知らない。だから、当然とばかりに装二郎とまりあを一緒の部屋にしたのだろう。


「お義父さんと一緒に寝ようかな」

「父の寝室は、母と一緒です。山上家のお屋敷のように、広い家ではないのですよ。それに――」

「それに?」

「この家は今の季節、大変寒いようです。眠るときの暖房器具も、ございません」

「そうだね」

「寄り添って眠らなければ、凍える夜を過ごすことになるでしょう」

「それは嫌だな……」


 先ほど、母が話していたのだ。

 まりあがこの家で過ごしたのは、春から秋にかけて。

 そこまで寒さを感じていなかったが、真冬となれば別だろう。

 互いに温め合わないと、寒くて眠れない。


「でも僕、お風呂に入っていない上に、お酒臭いんだけれど」

「かまいませんわ」


 夜になり、気温もぐっと下がる。すっかり体が冷えてしまった。

 まりあが先に、布団に潜り込む。


「あ、そうだ。狐の姿だったら、問題ないかも?」

「どんな姿をしていても、装二郎様は装二郎様ですわ。つべこべ言っていないで、布団に入ってくださいませ」

「は、はい」


 行灯の火を消すと、部屋は真っ暗になる。


「はあ、緊張する」

「装二郎様、そういうのは、心の中で考えるものです」

「口に出さないと、感情が爆発してしまいそうで」


 布団に入ったものの、なかなか温まらない。

 やはり、装二郎とくっつく必要があるのだろう。

 コハルは屋敷に置いてきた。呼べばやってくるだろうが、夜分遅くなってしまったので悪いような気がする。

 勇気を振り絞って、まりあは物申した。


「装二郎様、起きていますか?」

「うん」

「そちらの布団へ、行っても?」

「なんだってえ?」

「寒いので、装二郎様のお布団に、潜り込みたいなと思っているのですが」

「あの、まりあさん?」

「なんですの?」

「僕のこと、男として見ていないでしょう?」

「見ておりますが?」

「見てない。男の布団の中に潜り込んで、求められるのは暖だけではないって、わかっているの?」

「ええ」

「ええ?」


 言いたいことはわかる。

 夜の作法は、きちんと習っているから。


「別に、装二郎様相手ならば、求められるのもやぶさかではありません」

「そ、そうなの!? どうして!?」

「あなたを、夫だと思っているからです」

「そっか。そうだったんだ」


 まりあの決意を聞いて、装二郎は安心したらしい。布団を広げて、「だったらおいで」と誘ってくれる。

 まりあは起き上がり、装二郎の布団の中に横たわった。


「装二郎様の、匂いがします」

「え、何それ?」


 白檀と、装二郎自身の匂いが混ざったものである。

 傍にいてドキドキしていたが、嫌なドキドキではない。


「わたくし、ここで眠れるのでしょうか?」

「自分から潜り込みたいって主張したのに、そんなこと言う?」


 そう言いつつも、装二郎はまりあの背中をポンポンと叩き、寝かしつけにかかった。


「あの、装二郎様」

「何?」

「わたくしを、お求めにならないのですか?」

「そんな、自分を商品みたいに言って……」


 装二郎はまりあの身を抱きしめ、耳元で囁く。


「僕を取り巻く問題が、すべて解決したら、まりあを求めたい」


 いつになく熱い声色に、まりあは盛大に照れる。

 きっと、頬どころか顔全体が赤くなっているだろう。

 装二郎の言葉に、まりあはこくりと頷いた。


 夜は過ぎていく。

 酷く冷え込む夜だったが、寄り添って眠る夫婦は暖かかった。


 ◇◇◇


 新しい年が始まる二日目――お祝い気分を満喫している場合ではなかった。

 正体不明の敵について調査していた装一郎が、ある情報を得たという。


 化け物に襲われた被害者のうち、半数は陰陽師や山上家の者達に助けられている。

 怪我を負った者は病院に運び込まれているのだが、帝国病院ではなく、別の診療所へと運ばれていることが明らかになったようだ。


 そこは、あやかしに襲われた怪我を専門的に治療する病院らしい。

 診療時間も、夜間に限定している。

 場所は下町。酒場だった建物を改装し、開かれたという。

 近所の住人は、人が出入りしているところを一度も見ていないという。

 怪しさしかなかった。


「まりあ、この診療所に、調査に行こうと思っている」


 化け物が現れない年始の今が、絶好の機会なのかもしれない。

 

「わたくしも、ご一緒します」


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