契約花嫁は、年始の準備を行う
帰宅と同時に、鎌鼬達は作ってくれた注連縄を玄関に飾る。
「これは、年神様を迎えるに相応しい、清められた場所だという印なんだ。大掃除が終わった家は、注連縄を飾るんだよ」
また、今年の災いを外に追い出し、新しい年に災いが家に侵入しないようにするものでもある。
年末年始は飾りや行動のひとつひとつに意味があるようだ。
どれも大事で、手を抜いてはいけない。
玄関を潜ると、あやかし達が迎えてくれた。
心がホッと癒やされる。
持ち帰った大、小の餅は、鏡餅と呼ばれる物を作るらしい。
なんでも、鏡餅も年始には欠かせないものなのだとか。
「鏡餅は、家にお迎えした年神様の依り代になるものなんだ。だから、とっても大事な物なんだよ」
鏡餅の丸い形は、人の魂を模したものらしい。それが、神事に使う鏡に似ていたことから、鏡餅と呼ばれるようになった。諸説はあるようだが、山上家ではそのように伝わっているという。
神様の依り代なので、もちろん、三方と呼ばれるひのきの白木で作った台座に乗せるのだ。
三方の上に、厚紙の端を赤く塗った四手と呼ばれる紙を重ねる。
これは、四方に繁栄するように、という願いが込められているのだ。
その上に、裏白と呼ばれる、名前の通り裏が白くなっている葉と、ゆずり葉を置くのだ。
裏白は生命力の象徴。ゆずり葉は、世代がゆずられ、永久に子孫が生まれますようにという願いが込められている。
それらの葉の上に、餅を重ねていくのだ。このふたつを重ねることも、福が重なるという意味がある。
餅の頂点には、紅白の御幣と橙を置く。
橙は、代々家が栄えますように、という願いが込められているのだ。
「と、こんな感じで完成」
まりあは思わず拍手をしてしまった。
「大変でしょう?」
「ええ。年始の準備は、ひとつの大がかりな呪いなのですね」
「そうそう。山上家は、一族の存続を神頼みで乗り切ろう、みたいに考えているところがあって、毎年本気を出して準備しているんだよね。そのとどめが御節供なんだけれど」
「おせちく、ですか?」
「そう。年始に食べる、特別な料理なんだ」
年神様をもてなす、縁起物の料理らしい。慶事が重なるように重箱に詰め、数日かけて食べるという。
「たぶん、明日辺りから、ウメコが作り始めると思うよ」
「そうなのですね」
明日から正月明けまで、仕事には行かないという。
毎年、この時期になると化け物は不思議と出なくなるらしい。
「帝都に神様がたくさん招かれるからね。悪事はしないようにしているんだと思うよ」
「そうなのですね。ちなみに、装二郎様は年末年始をどう過ごされるのですか?」
「今日の午後辺りから山上家の本家に行って、日付が変わるまで餅つき、かな」
「まあ、そうでしたの!?」
「毎年、腕が上がらなくなるまで、餅を搗くんだよねえ」
餅つきをするのは、山上家の若者の仕事らしい。その中でも、予備である装二郎は積極的にしなければならないようだ。
「明日、明後日辺りは掃除のお手伝いかな。泊まり込みでするんだ」
行きたくないし、したくもない。装二郎は珍しくぼやく。
「年始は、まりあも本家に行かなければならないんだけれど……。まりあにおじさん達のお酌をさせたくないな」
「わたくしは、別に構わないのですが」
「いや、構うよ。酔っ払ったおじさん達、ふざけてお尻触ってくるし」
魔の手は女性陣だけでなく、装二郎にも向けられる無差別的なものなのだとか。
装二郎は頭を抱え込み、最悪だと叫ぶ。
「別に、行かなくてもいいのでは?」
「え!?」
「装二郎様は、このお屋敷の年末年始の準備をしましたし、本家は本家の方々ですると思います。ご挨拶も、バタバタと忙しい年始にする必要はないでしょう」
「それは、そうだけれども……」
「装二郎様の家はここです。準備が終わったのならば、ゆっくり過ごしてもいいと思います」
「そ、そっか。言われてみれば、そうかも」
装二郎はスッと立ち上がり、まりあに宣言する。
「今から、本家の行事には参加しません、年末年始は、屋敷で過ごしますって手紙を書くよ。それで明日は、一緒に御節供を作ろう。それを、まりあの実家に持っていって、お義父さんとお義母さんとのんびり過ごすのは、どうかな?」
「とってもすてきだと思います!」
「決まりだね!」
思いがけず、楽しそうな年の始まりを過ごせそうだ。
まりあも、両親に手紙を書く。
年が明けたら、装二郎と一緒に挨拶に行く、と。




