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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第五章 契約花嫁は、幸せをつかみ取る!

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契約花嫁は、実家で餅つきを行う

 珍しく、実家の母親から手紙が届く。

 なんでも餅つきをするので、こないかという招待であった。

 都合が合えば、装二郎も一緒にと書かれている。

 誘いにいったところ、「喜んで」という返事があった。


 結婚してから、初めて両親と会う。

 嫁いだ娘が実家に用事もなく戻るのはよくないと言われているため、会いにいけなかったのだ。

 これまで、実家で餅つきなどしていなかった。

 なんでも職場で、うすきねを譲り受けたらしい。せっかくなので、餅でもつこうか、という話になったようだ。


「まりあのご実家に行く前に、街で何かお土産でも買おうか」

「あの、母は、土産は必要ないと、手紙に書いてありまして」

「そうなんだ。でも、それはお決まりの言葉でしょう?」

「いえ、本心からの言葉かと。母は異国人です。回りくどい物言いは、しないので」

「そうなんだ」


 まりあに迷惑をかけないよう、土産は受け取らない。その姿勢でいるらしい。


「まりあの元気な姿が、何よりのお土産になるのかな?」

「そうだと思います」

「そっか、わかった」


 そんなわけで、まりあの実家への訪問が決まった。


 ◇◇◇


 年末の二十八日――この日が、餅つきをするのにもっとも適した日だと言われている。

 八の字が末広がりで、大変縁起がいいらしい。


 なんとなく、緊張しているのか早起きしてしまう。太陽はまだ昇っていないものの、外は微かに明るい。

 まりあは寝間着から着替え、羽織を纏って庭を散歩する。

 途中、鎌鼬が水仙の花を刈っている場を目撃した。なんでも、家に飾るものらしい。

 刈るのを手伝ったら、水仙を分けてくれた。

 母親が好きな花である。持っていってあげたら、喜ぶだろう。

 購入した土産ではないので、受け取ってくれるはずだ。


 着ていく着物は、まりあが選んだ。白い椿が描かれた一着である。

 餅と聞いたら、椿を思い出してしまったのだ。

 というのも、和菓子に椿餅というものがあり、そこから連想したのだろう。

 椿餅は数百年もの歴史を持つ。桜餅のように椿の葉で包んだ菓子なのだ。


 椿の着物をまとい、緑色の羽織を合わせる。

 まるで、和菓子の椿餅のような組み合わせとなった。


 髪はウメコに結い上げてもらい、菊を模したつまみ細工の髪飾りを刺す。

 装二郎は紺色の袷に袴、羽織を合わせた姿で現れた。

 少々ぼんやりしているものの、昨晩も仕事だったので仕方がない。

 まりあも同行したが、何もかも終わったあとすぐに眠れたので、睡眠時間は十分だった。

 一方で、装二郎は寝付きが悪く、明け方まで眠れない日もあるらしい。

 今日もきっと、あまり睡眠時間が摂れていないのだろう。

 眠そうな装二郎は、両親も見慣れている。問題はない。


「まりあ、行こうか」

「ええ」


 当然のように差し出された手に、まりあは指先を重ねる。

 触れた手は、温かい。

 そんな些細なことが、今のまりあには嬉しかった。

 

 馬車で向かい、途中から徒歩でまりあの実家を目指す。


「あれ、まりあ、その水仙、どうしたの?」

「鎌鼬のお仕事を手伝ったら、持っていっていいと、分けてくれたんです」

「そうだったんだ」

「母が、水仙が好きだったものですから」

「喜んでくれるといいねえ」

「はい」


 そんな話をしているうちに、久我家の前にたどり着いた。

 もくもくと、湯気が上がっている。庭を覗き込むと、まりあの母と通いの使用人であるアンナが、餅米を炊いているようだった。


「お母様、アンナ!」

「ああ、まりあ!」

「まりあ様!」


 まりあは我慢しきれず、ふたりのもとへと駆け寄った。


「お母様もアンナも、元気そうで」

「ええ」

「この通りです」


 母に抱きつこうとしたが、手にしていた水仙を思い出す。そのまま、差し出した。


「お母様、こちらは、わたくしが朝に庭で摘んだ水仙です」

「まあ、きれい。アンナ、部屋に活けておいてくれる?」

「はい、かしこまりました」


 両手が自由になったあと、母と抱擁し合った。

 結婚してから半年も経っていないのに、母の温もりと匂いを酷く懐かしく感じてしまった。


 アンナと入れ替わるように、まりあの父がひょっこり顔を覗かせる。


「賑やかな声が聞こえると思ったら、まりあか」

「お父様、お久しぶりです」

「ああ、本当に。なんだか、もう何年も会っていなかったようだよ」

「わたくしも、そのように思っていました」

「装二郎君も、よく来てくれた」

「お邪魔しています」


 アンナが温かい紅茶を淹れてくれた。久しぶりの紅茶を味わいつつ、餅米が炊けるのを待つ。


「装二郎君は、餅つきの経験は?」

「本家で毎年しています」

「だったら安心だ。実を言えば、ここにいる者は全員、餅つき未経験でね」


 餅つきはいてねるの繰り返しだというが、言葉で言うより簡単なものではないだろう。


「旦那様、奥様、餅米が炊けましたわ」

「よし、やろうか」

「ええ」


 なんとなく、両親の餅つきに不安を覚えたまりあは、装二郎と共にやるのでと名乗り出た。


「いや、そんな難しい工程ではないですけれどね」


 そう言いつつ、装二郎は羽織を脱いで、袖が邪魔にならないようにたすきを結ぶ。初めてみる装二郎の腕は、思っていた以上に太くてがっしりしていた。

 勝手に、もやしっ子だと思っていたのだ。心の中で謝罪する。


「ああ、わたくしも、襷を結びませんと」


 没落前は結べなかった襷も、今はお手の物である。


「臼と杵、きちんと水に浸けておいたんですね」

「ああ。そういうふうに使うものだと、持ち主から習ったんだ」


 水に浸けておくと、餅米がくっつかなくなるらしい。それに加えて、臼の破損も防ぐ。乾燥させた状態で衝撃を加えると、ヒビが入ってしまうようだ。


 炊き上がった餅米を、臼に入れる。

 杵を持ち上げた装二郎が、慣れた手つきでこね回した。


「よし、こんなもんかな。まりあ、始めるよ」

「いつでもどうぞ」


 まりあは指先をしっかり濡らして備えた。


 餅米を搗いて、外から集めるようにまとめ、搗いて、まとめを繰り返す。

 思っていた以上に、餅米は熱かった。

 まりあは持ち前の負けず嫌いと、我慢強さで合いの手を務める。


「まりあ、餅米、かなり熱いでしょう?」

「あ、熱くなんてありません!」

「またまた~」


 装二郎には、バレバレだった。途中で、父と役目を交代する。

 男性陣が餅を搗く様子を、縁側に座って眺める。


「お父様、もっと早く返さないと、餅が固くなってしまいますわよ」

「まりあ! これでも頑張っているんだよ」


 ヘロヘロな父の様子に、思わず笑ってしまう。


 搗き手である装二郎は、力強いさまを見せていた。

 いつもと違う姿に、まりあは内心ドキドキしてしまう。


 初めての餅つきだったが、経験者である装二郎がいたのがよかったのだろう。

 大成功だった。

 できあがったばかりの餅は、きなこやあんこ、擂ったゴマなどにつけて食べる。


「んんっ!?」


 餅は信じられないくらいやわらかく、おいしかった。

 家族揃ってワイワイ楽しく作ったのも、餅のおいしさに含まれているのかもしれない。

 装二郎も、笑顔を見せていた。


「まりあ、こんな楽しい餅つき、初めてだよ」

「よかったです」


 実家で過ごす時間は、あっという間に過ぎていった。

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