契約花嫁は、年末を迎える
ふと、まりあは疑問に思う。
化け物に襲われる被害者に、何か法則があるのではないのかと。
まりあは化け物に襲われる被害者の情報を、帝国警察局長の娘花乃香の力を借りて集めてみた。
年若い娘が多いものの、男性も年齢に関係なく襲われている。
特に、狙って襲っているようには思えなかった。
一応、装二郎にも見てもらった。
まりあは被害者の名前を見て、特に何も感じなかった。
しかしながら、装二郎はハッとなる。
「どうかなさいました?」
「いや、癒城家の家臣団だった一族の名前が、いくつもあるものだから」
家臣団というのは、武家に仕える家臣のこと。
近しい親族は連枝衆と呼ばれ、重用されていたという。
他、大きな軍事力を持つ部将、大将の護衛などを務める旗本、政務を担当する吏僚など、一言に家臣といっても、さまざまな役割があったらしい。
それらをまとめて、家臣団と呼んでいた。
陰陽師芦名によって癒城家が凋落すると、家臣団も解散となったらしい。
当時、国内で五本指に入るほどの武家であった癒城家には、大勢の家臣団がいたようだ。
一族の数だけでも、千以上存在していたらしい。
「癒城家について書かれた書物を、何冊か読んでいたんだ。その中に、重臣の名が書かれていて、それを記憶していたんだよね」
ここ最近の被害者、五十名のうち、半数ほどが癒城家の元家臣だという。
もしかしたら、被害者は癒城家に関係した者ばかりなのかもしれない。
詳しく調べるには、本家の蔵に保存されている家臣団の名簿を調べなければならないようだ。
「まりあ、ありがとう。これまで、誰も気づかなかったことだ」
「お役に立てたのであれば、何よりです」
また一歩、事件の解明に近づいたのかもしれない。
どうか、装二郎の人生に安寧が訪れますように。
そう願ってならない。
◇◇◇
あっという間に、年末を迎えようとしていた。
装二郎と出会ったのは、秋の始まり頃。冬のはじまりに、契約花嫁となった。
それからあっという間に時は流れ――年末である。
あやかし屋敷では、大掃除が始まっていた。
山上家では、住人すべて参加するという決まりがあるらしい。
装二郎どころか、装一郎も本家屋敷の大掃除をしているようだ。
大掃除には、意味がある。
新しい神様を受け入れるための、儀式だという。
普段、療養しているあやかし達も、煤払いに参加している。
久我家の年末年始は、ただごちそうを食べるだけの日だった。
葡萄酒に鵞鳥の肝臓、生牡蠣、鮭の燻製を使った料理が定番である。
母親の母国の慣習を、優先しておこなっていたらしい。
そのため、まりあは帝国に古くから伝わる過ごし方が新鮮であった。
装二郎は、畳職人を招き、畳の張り替えを行っているようだった。
まりあは箒を握り、すべての部屋の煤を掃いていく。
コハルは尻尾を箒に見立て、畳をさっさと払っていた。悶絶するような可愛さである。
他の狸や狐も、同じように尻尾を使って掃除しているという。あとで、見回りに行かなければと思うまりあであった。
清白は布巾を銜え、窓拭きをしていた。しかしながら、太陽の光でポカポカになったからか、窓に張り付いたまま眠っている。
まりあは優しく、清白を起こした。
化け猫は、縁側で大の字になって眠っていた。
「もう! 今日は猫の手も借りたい日なのですよ!」
まりあは化け猫の腹をわしわしと撫で、働けと叫んだ。
『な、何をするんだー!』
「働かざるもの、もふもふ、わしわしの刑ですわ!」
『お、恐ろしい奴め!』
化け猫は涙目で叫び、どこかへ走って逃げてしまった。
庭を見ると、鎌鼬達が竹を切っていた。ふわふわの白い毛並みを持ち、手先は鎌となっている。小柄で、可愛らしいあやかしだ。
正月飾り――門松を作ってくれるらしい。
手が空いたので、まりあも手伝うことにした。
庭の開けた場所に、材料が集められる。
赤松と黒松、竹に梅、注連飾りに南天、葉牡丹、杉の葉に袴。
使う物には、ひとつひとつ意味があるようだ。
まりあの傍にいた、鎌鼬が説明してくれた。
『松は生命力、不老長寿に一族の繁栄、竹は成長、子孫繁栄、梅は純潔と気高さ、南天は、難を天高く吹き飛ばし、葉牡丹は吉事をどんどん引き寄せる』
「この門松は、幸福の象徴、というわけですのね」
『ああ、そうなんだ。まあ、その前に、新年に年神様が降りてくる場所の目印として、作るんだがな』
「なるほど」
鎌鼬達は、器用に材料を組み立てていく。
完成した門松は、屋敷の門の前に設置された。
『右側に黒松、左側に赤松の門松を飾るのが、決まりなんだよ』
松は神様を奉る木――そんなわけで、門松に使う木として選ばれたのかもしれない。
『ただの駄洒落だと思うがな』
「だとしたら、面白い言葉遊びですわ」
一仕事終えたら、装二郎がやってくる。完成した門松を見に来たらしい。
「いやはや、立派な門松だ」
『今年は、まりあ様も手伝ってくれたんだよ』
「そうなんだ。まりあ、ありがとう」
微笑みながらまりあのほうを見る装二郎の頬には、黒い煤が付いていた。これまで、掃除を頑張っていたのだろう。
まりあは着物の袖で、煤を拭ってあげた。
「ん、何?」
「頬が、汚れていたので」
「そうだったんだ。恥ずかしいな」
頬を染める装二郎をまりあは微笑ましい気分で、心ゆくまで眺めていた。




