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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第四章 契約花嫁は、真実に触れる

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契約花嫁は、夫を甘やかす

 共に見回りをするようになってからというもの、まりあも装二郎同様に昼夜逆転の生活を送るようになる。

 それによって、新しい気づきがあった。それは、あやかし達は昼間より夜のほうが活き活きしているということ。

 通常、あやかしは夜を生きる。

 月の光を浴びて力を得るからだという。逆に、太陽の光はあやかしを弱体化させるものらしい。

 山上家の屋敷が暗く、窓がない部屋がある理由は、あやかし達が過ごしやすい家を設計したからなのだろう。


 まだまだ、知らないことがあるのかもしれない。

 少しずつ、理解していきたいなと思うまりあであった。


 先日保護した白蛇は、のんびりとした性格で、言葉数も少なく、廊下に伸びていることも多い。

 死んでいるのかと驚くこと数回。風呂場に迷い込み、震えているのも発見した。

 まりあはとうとう、装二郎の許可を得たのちに契約を持ちかける。

 白蛇は『契約、する』と返した。

 名付けを持って、契約は完了する。

 まりあは白蛇に、清白すずしろと名付ける。

 あっさりと、受け入れた。

 以後、清白はまりあの腕に絡みついているか、まりあが用意した籠の中で丸まっている。

 たまに、先輩であるコハルが銜えて歩いているときもある。

 廊下で力尽きているところを発見し、まりあのところまで運んでくれるのだ。

 たいてい、気持ちよさそうに眠っているので、その姿を見るとまりあはほっこりしてしまう。


 そんな話を、装二郎に聞かせた。


「っていうか、まりあ、蛇平気なんだ」

「白い蛇は神様のお遣いだと、両親から教わったもので」

「そっか。女性って、蛇が苦手だと思っていたよ」

「わたくしは、苦手だと感じた覚えは一度もありません。蛇って、目がくりくりしていてとても可愛く、狸や狐とは違う魅力があります」


 首に巻きついた清白を、可愛いだろうと言って装二郎に見せる。


「いや、可愛くはないなあ」


 装二郎に可愛くないと言われても、清白はまったく気にしていなかった。温かいまりあの肌に触れながら、微睡まどんでいる。


「この前、化け猫が清白に突然、〝新入り、勘違いするんじゃない!〟なんて言葉を投げかけていたよ」

「そうでしたのね。困った子ですわ」

「きっと、新入りがまりあと契約したから、嫉妬しているんだと思う」

「まあ! でしたら、素直に契約してくださいって、言ってくださればいいのに」

「気持ちはわからなくもないけれど」

「どういうことですの?」

「この世は、放っておけない人が得する世界だってこと、かな」

「よくわかりませんわ」

「まりあも、放っておけない側の人間だからじゃない?」

「その言い方だと、ぼんやりしているだけなのに、棚からぼた餅みたいな人生を歩んでいるように聞こえるのですが」

「いや、そういう人、いるんだよ」


 よくよく考えてみれば、間違っていないのかもしれない。

 まりあは最後だと思って参加した夜会で、装二郎と出会った。偶然にも見初められ、今は不自由のない暮らしをしている。


「たしかに、言われてみれば、わたくしの人生、棚からぼた餅なのかもしれません」

「君はそれでいいんだ。一生苦労せずに、愛される中で暮らしてほしいよ」


 装二郎はまりあとは真逆で、努力していても幸運は訪れなかったのだろう。

 だったら、まりあが彼にとってぼた餅みたいな存在になればいいのだ。

 まりあは首に巻きついていた清白を机に置いて、装二郎のもとへと回り込む。


「まりあ、何?」


 警戒する装二郎を、横からぎゅっと抱きしめた。


「本日の甘やかし、ですわ」

「突然、びっくりするから」


 装二郎は耳まで赤くしていた。

 普段は飄々としているが、案外初心である。

 これは装二郎をからかっているのではなく、一日一回の甘やかし。

 それは、まりあと装二郎の勝負である。

 まりあは装二郎を甘やかし、妻なしの暮らしができないようにするのが目的である。

 一方で、装二郎はまりあも逃げ出すほど甘やかして、観念させるのが目的であった。


 初日に甘やかしは一日一回と決め、今日に至る。


 一日目、装二郎は大量の菓子を買ってまりあに与えた。

 これが彼にとっての甘やかしなのだと、微笑ましい気持ちになってしまう。


 対するまりあは、彼が買ってきた菓子を手ずから食べさせてあげた。

 当然、装二郎はたじろぐ。

 だが、すぐに開き直ってあれを食べたい、これを食べたいと注文するようになった。

 彼にとって、甘やかしは物を買い与える行為である。

 まりあにとってはそうではない。甘やかしとは、我が儘を許すことである。

 さんざん、両親がしてくれた甘やかしを、まりあは装二郎へそのままするだけだった。

 勝負は見えているような気がしたが、装二郎が「参りました」と言うまで続けるつもりであった。


 ◇◇◇


 まりあのもとに、一通の手紙が届いた。

 それは、元婚約者雄一の母、絹子からの手紙である。

 この前、会って話ができて楽しかった。また、一緒にお茶できないか、というものである。

 まりあは自然と眉間に皺が寄っているのに気づいて、指先でぐいぐいと解した。

 絹子とは、最後だと思って話した。それなのに、また誘われるなんて。


 もう会わないほうがいい。そう思いつつも、断る理由がなかった。

 こういうとき、嘘をつけない性分である己を憎んだ。


 家に招待するわけにはいかない。

 狐や狸、猫に蛇、川獺のあやかしを見た途端、失神するだろう。

 喫茶店ならば、問題ない。

 まりあは中心街にある喫茶店ならば会えると、返事を書いて送った。


 三日後に会うこととなる。

 装二郎にはただ一言、出かけてくると伝えておく。

 行き先は喫茶店だと言うと、それ以上追及しなかった。

 襟巻きとしてコハルを首に巻き、鞄の中には清白を忍ばせているので、安心しているのかもしれない。

 帝都で、二体のあやかしと契約している華族女性はまりあの他にいないだろう。


 馬車は喫茶店の傍で停車し、まりあは御者の手を借りて下りる。

 帰りは歩いて帰ってくる。そう伝え、馬車を返した。

 窓際に、絹子が座って待っているのを発見した。

 はっきりと、もう会わないほうがいいと言わなければならないだろう。

 元婚約者の母親と会っていただなんて、変な勘ぐりをされても困るから。


 大きく息を吸い込んで、吐く。

 まりあは戦いに挑むつもりで、喫茶店への一歩を踏み出した。

 

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