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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第三章 契約花嫁は、自らの能力(ちから)に気づく
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契約花嫁は、化け物を退治する

 姿を隠す呪術が込められた香入を、まりあの袴の前紐にくくりつけた。

 装二郎自身は、服をポンポンと叩く。

 身にまとう、煙霧を払ったのだろう。


「じゃあ、まりあ、よろしくね」

「ええ」


 その言葉を最後に、装二郎は屋根から飛び降りた。

 同時に、狼煙を発動させて、陰陽師に飛びかかるよう命じる。


 香の煙から生まれた狼は、闇夜を踊るように跳ねていた。


「うわ! な、なんですか、こいつは!?」

「それは術式だ! そこにいるのは、山上ではないか?」

「あ、矢野さんじゃないか! 久しぶり」


 どうやら坊主の陰陽師と顔見知りだったらしい。あんなに目立って大丈夫なのか、心配になる。

 蛇の化け物は、前に躍り出た装二郎に標的を変えたようだ。

 一刻も早く、呪符を剥いだほうがいいのだろう。


「って、ここからどうやって下りますの!?」

『まりあ様、お任せください!』


 コハルはそう叫び、額に葉っぱを乗せて一回転する。

 小さな子狐の姿から、馬くらいの狐の姿へと転じた。


『どうぞ、背中に跨がってください』

「え、ええ。ありがとう」


 鞍のない背中は、非常に不安定である。けれど、装二郎のように屋根から飛び降りるのは難しいだろう。


『では、下りますね』

「お願いします」


 コハルは一度身をぐっとかがめ、屋根から地上へ大きく跳躍した。


「――ッ!!」


 奥歯を噛みしめ、悲鳴を上げないようにする。

 コハルは見事、地上に着地した。

 全身の毛穴という毛穴が、開いているのではないかという恐怖を味わった。

 だが、怖がっている場合ではない。


「おい、山上、そいつは凶暴だ! 保護するだなんて、言うなよ」

「触れあってみないと、わからないでしょう?」

「せ、先輩! この人、馬鹿なんですか!?」

「間違いなく、馬鹿だ」


 装二郎の香のおかげで、陰陽師だけでなく、蛇の化け物もまりあとコハルの存在には気づいていない。

 今のうちに、接近しなければ。


「コハル、蛇の化け物の傍まで行って、大きく飛んでいただける?」

『そのあと、どうなさるのですか?』

「飛びかかって、首筋の呪符を剥がしますわ」

『そ、そんな! 危険です! 飛びかかるのは、自分がします』

「コハル、あなた、どこに呪符が貼ってあるか、わからないでしょう?」


 先ほど、まりあが呪符を発見したさいに、コハルは『どこに?』と小さく呟いたのだ。

 前回は、コハルにも見えていた。しかしながら、今回は見えていないようだった。


 前回、まりあが呪符を見抜いた。

 それに気づき、対策に打って出たのかもしれない。 


「行きますわよ、コハル」

『は、はい』


 装二郎はいくつも狼を作りだし、蛇の化け物と陰陽師を攪乱していた。

 正直、恐ろしい。けれど、やるしかない。

 目の前の化け物は意に反し、操られているのだから。

 陰陽師に攻撃される前に、救わなければ。


 コハルが大きく跳躍したので、まりあは蛇の化け物へと飛びかかる。

 目を閉じたくなるほど、恐ろしかった。

 まりあは腹を括り、歯を食いしばる。

 手を伸ばし、呪符を剥ぎ取った。


 蛇の化け物の変化は解け――まりあはそのまま真っ逆さまに落ちていく。


「まりあ!!」


 受け身を、と思っていたが、装二郎が駆け寄って抱き止めてくれた。続けて、小さくなったコハルがまりあにひしっと抱きついてきた。

 煙霧が、装二郎とまりあの姿を隠す。


「おい、山上、どこに行った!?」

「突然、化け物と一緒に消えてしまいました!」


 よくよく確認すると、装二郎の腕に何か巻きついている。

 蛇だ。

 悲鳴をあげそうになったが、白蛇のあやかしだったようだ。

 よくよく見たら、目がくりくりしていて可愛い。

 きちんと保護していたので、ホッと胸をなで下ろした。


「まりあ、大丈夫?」

「ええ」


 ただ、手に握っていた呪符は、消えてなくなっていた。

 犯人に繋がる証拠は、得られなかったわけである。


「よし、任務完了。帰ろう」

「ええ」


 そそくさと、その場を去る。

 行き同様に、地下通路を通って家路に就いた。


 白蛇はそこまで重傷ではなかったようで、すぐに元気になるようだ。

 まりあはホッと胸をなで下ろす。


「それにしても、本当に驚いた。君の能力は、とてつもなく素晴らしい」


 まりあの千里眼は、本物だったようだ。

 装二郎はまりあの手を握り、すごい、すごいと絶賛する。


「まりあの力があれば、山上家を陥れようとする存在を、突き止められるかもしれない」

「ええ」


 はしゃぎ倒した装二郎は、最終的にまりあを抱きしめる。

 突然の行動に驚いたが、まりあは受け入れた。

 装二郎の背中に腕を回し、子どもをあやすようにそっと撫でる。


「うわっ!!」


 叫び声をあげ、装二郎はまりあから離れた。


「なんですの?」

「いや、こういうことをしたら、だめなんだ。僕は、予備だから」

「装二郎様、まだ、そんなことをおっしゃっていますの?」

「君は、装一郎のために選んだ花嫁だし」

「あなたは、わたくしを妻に迎えたくないと?」

「いや……それは、なんと返していいものか」


 優柔不断な装二郎の物言いに、まりあはムッとする。

 伸ばした手で装二郎の頬を撫でて、そのまま引っ張った。「痛い!」と、抗議の声があがる。


「前にも宣言しましたが、わたくし、装二郎様以外の男性と結婚するつもりはありませんので。無理にでもくっつけようとするのならば、わたくしはあやかしの保護に協力しません」

ひょそんなひょんな!」


 一筆、装一郎に手紙を書こう。

 あなたとは結婚できないと、改めて表明するのだ。


「わたくしの千里眼は、装二郎様、あなたのためだけに使います。そう言えば、向こうも認めるでしょう」

「まりあ……」


 今度はまりあのほうから、装二郎を抱きしめる。

 身を固くするのが、わかった。まだ、まりあを受け入れるつもりはないのだろう。


「わたくし、装二郎様を甘やかして、甘やかして、甘やかしまくって、わたくしなしでは生きていけないように、してさしあげます」

「うっ、どうしてそうなるの?」

「あなたが、わたくしを妻だと認めようとしないので」


 だんだんと装二郎の体の強ばりが、解けてきたように思える。

 突然、強く抱き返してきたので、今度はまりあが驚く番だった。


「じゃあ僕は、まりあが逃げ出しそうになるくらい、甘やかそうかな」

「甘やかしの勝負ですの?」

「だね」

「では、受けて立ちますわ!」


 こうして、契約夫婦は新たな一歩を踏み出す。

 彼らの運命がどうなるかは、神のみぞ知る、というわけだった。

今回のお話で3章は完結となります。続く4章も、よろしくお願いします!


お願いがございまして

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よろしくお願いします!

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