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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第三章 契約花嫁は、自らの能力(ちから)に気づく

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契約花嫁は、夫の能力について話を聞く

 帝都の屋敷に帰ると、狐や狸達がわらわらと集まって出迎えてくれた。 

 遅れて、ウメコもやってくる。


『まりあ様、おかえりなさいませ』

『おかえりなさいませ!』

『お待ちしておりました!』


 狐の中に、コハルを発見して抱き上げた。

 コハルだけずるい。自分とも契約してくれと声が上がる。


「こらこら、まりあはすべてのあやかしと契約を結べるわけではないんだよ」


 装二郎がおっとりと、諭すように言った。すると、大人しく従う。

 ふと、視線を感じた。

 目を向けると、先日保護した猫がまりあを見つめていたようだ。

 視線が交わると、サッと姿を消す。


「あの子は、素直じゃないみたいだねえ」

「まあ、それぞれなのでしょう」


 ふと、まりあは不思議な気持ちに気づく。

 結婚して、一か月とほんの少ししか経っていない。それなのに、心がホッと落ち着いている。まりあにとって帰るべき家はここなのだろう。

 決して、帝都の郊外にある霧の屋敷ではない。

 今、はっきりと気づいた。


「装二郎様、今宵から、お仕事に同行したいのですが」

「うーん、そっか。わかった。だったら、まりあの使う呪符や武器を持って、部屋に来てくれる? あ、少し休んでからでもいいけれど」

「いいえ、すぐに用意して参ります」


 コハルを抱き上げたまま部屋に戻り、書き貯めていた呪符を取り出して風呂敷に包む。

 仕込み刃入りの傘は、ウメコに持ってくるよう命じた。


 装二郎の部屋に行くと、文卓が横に避けられ、畳を剥がした状態になっていた。

 畳の下には、隠し扉がある。


「話は、地下部屋でしよう」


 ウメコは出入り口で待っているらしい。傘を受け取り、隠し扉をくぐった。

 階段を下りていった先には、茶室のような小さな出入り口があった。

 体をにじって、中へと入る。


 部屋は畳六枚分。思っていた以上に広い。

 独特な匂いが、鼻先をかすめる。

 壁一面、小さな抽斗ひきだしがあった。何かの作業をするような場所なのだろう。


「ここは調合室だよ」

「何を調合しますの?」

「香りだよ」


 装二郎は抽斗のひとつを開け、木の枝をまりあに差し出した。


「香りを吸ってごらん」

「これは、白檀?」

「そう」


 この部屋では、あやかしの保護に使う香を作っているのだという。


「白檀はさっきも話した通り、邪祓いと鎮静効果が期待できる」


 乳鉢ですった白檀に精油、精製水などを練って完成させるようだ。

 香と一言でいっても、さまざまな種類があるらしい。

 さまざまな道具も、見せてくれた。

 香を置く香炉こうろ、香に使う香炉灰、香用の香灰、香灰を摘まむ火箸、香を持ち歩くための香入などなど。


「まず、もっとも目にする機会が多いのが、線香」


 細長い棒状で、先端に火を点して香りを焚く。

 まりあも仏壇の前で、毎日のように焚いていた。


「続いて、練香ねりこう


 薬のように丸められた香である。


「これは、空薫そらだきといって、熱した灰の上に置いて、香りを焚きつけるものなんだよ」

 

 他に、熾した灰の上に置いて焚く焼香しょうこう、粉末にした抹香まっこう、粉末にした香を型に入れて押し固めた印香いんこうと、種類は多岐にわたる。


「術式によって、使う香を変えていくんだ。たとえば、これ」


 手に取ったのは、灰色の抹香。マッチで点けた火を落とすと、じんわりと煙が立ち上る。

 いくつかの香料が使用された香のようだ。

 沈香じんこう乳香にゅうかと、あとはなんなのか。やわらかで、品ある香りが部屋に満たされる。

 装二郎は煙の中に人差し指をくぐらせ、くるくると回した。


「香の術――狼煙のろし」 


 呪文が紡がれると、煙が大きくなり、狼の形となった。

 まるで生きているかのように、『ぐるるるる』とうなり声を上げている。

 装二郎がふうと息を吹きかけると、狼の姿は消えてなくなった。


「と、こんな感じで、香りを使っていろんな術式を展開させるんだ」

「すごい、お力ですのね」

「そう? ありがとう」


 装二郎は毎日ここにやってきて、香を調合しているらしい。


「これが、僕の能力。まりあのも、聞いてもいい?」

「ええ」


 まずは、首に巻いていたコハルを装二郎の前に置く。


「わたくしの、相棒ですわ」

『あ、相棒だなんて』


 コハルは恥ずかしそうに、身を縮ませている。耳はぺたんと伏せられ、大きな尻尾は萎縮するように体に巻き付けていた。


「コハル、君も、化け物の体に貼り付けられた呪符を、見たんだね?」

『は、はい。たしかに、見ました』

「そうか」


 これまで、あやかし転ずる化け物が人を襲う理由は謎とされていた。

 けれども、呪符を使って人が操っているとしたら、とてつもない大問題である。


『自分達もきっと、あの呪符で操られていたんだと思います。その辺の記憶は、残念ながらありませんが』

「そうだね。それを、みんなで確認しよう」


 装二郎はコハルの頭を優しく撫でる。

 不安げだった耳や尻尾が、ピンと立った。


「まりあ、その傘は?」

「仕込み刃入りの傘ですわ」


 引いてみせると、装二郎は「立派な剣だねえ」と感心したように呟く。


「思っていた以上に本格的な剣だけれど、まりあはこれを使って戦うの?」

「ええ。一応、剣道を嗜んでおりますので」

「そうなんだ」

「それから、こちらも」


 四大属性の術式が込められた呪符を、装二郎に見せた。


「これ、君が使う呪符?」

「ええ」

「よっつも、属性を扱えるの?」

「はい」


 装二郎は目を丸くし、まりあを見つめていた。


「どうかなさいましたの?」

「いや、僕ってば、最高の妻を発見したものだと思って」

「買い被りすぎですわ」


 そう返したものの、褒められて悪い気はしない。

 ただ、一応釘を刺しておく。


「言っておきますが、わたくし、実戦の経験はほぼ皆無ですわ。化け物を前にして、装二郎様が思う通りの動きができる自信はありませんの」

「大丈夫。前回の報告書を読む限り、山上家の中でも上位の戦闘能力があるとみていたから」

「そうでしたか」


 ひとまず、今夜から装二郎と共に帝都の見回りを行う。

 足手まといにならないようにしなくてはと、決意を固めるまりあであった。  

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