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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第三章 契約花嫁は、自らの能力(ちから)に気づく

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契約花嫁は、真実を知る

 山上家の当主は、千年前より命を狙われていた。

 一家断絶の危機に陥ったときに、ある大がかりなまじないを血に刻み込む。

 それは、生まれる子どもは必ず男の双子だというもの。


「長男は継承者、次男は予備――消費するのは、予備でいい。山上家では、長きにわたり、表舞台に出る当主は予備たる次男が務めていた」


 当然、命を狙われるのも、予備の務めである。

 そうでもしないと、山上家の者達の命は続かなかったのだ。


「花嫁の選定も、予備の大事な務めだ」


 一年間、花嫁が山上家に相応しい者かどうか、調べる。

 そのために、契約を結ぶのだと装一郎は説明した。


「では、わたくしと結婚するのは、装二郎様ではなく――」

「私だ」


 本来ならば、装二郎は夜会で装一郎と名乗らなければいけないうえに、装一郎を装わなければならなかった。


「契約期間は、必要以上の接触を禁じている。でないと、花嫁は入れ替わりに気づいてしまうから」

「まさか、双子であることを黙って、結婚するつもりでしたの?」

「そういうことになる」


 装一郎と装二郎は双子で、顔も声もそっくりだ。接する機会が少なければ、気づかないのだろう。


 予備は継承者のふりをしなければならなかったようだ。双子といえど、性格はそれぞれ違うから。

 装二郎は緩く、のんびりしている。

 一方で装一郎は、どこか冷めていて、思わず萎縮してしまうような威厳を漂わせていた。


「契約期間の途中で、ここにやってきた花嫁候補は、まりあ嬢、君が初めてだ」


 詳しい話は、座って話そう。装一郎はそう言って、まりあに座るように命じた。


 まりあは装一郎の斜め前に座らず、くるりと踵を返す。

 スタスタと親戚達の間を通り、装二郎の隣に腰を下ろした。


「え、まりあ! 君の座る場所はそこじゃないよ」

「いいえ、ここで構いません。わたくしは、装二郎様の花嫁候補ですから」


 周囲がざわめく。

 信じがたいという視線が、これでもかと突き刺さった。


 山上家の真なるしきたりなんて、結婚前に聞いていない。

 まりあは装二郎と結婚するつもりで、やってきたのだ。

 それを、今更ねじ曲げるつもりは毛頭なかった。


「装一郎様の命令に従わないなんて、生意気な女!」


 立ち上がり、まりあを責める者に見覚えがあった。

 夜会で、装二郎の頬を叩いた少女である。

 どうやら、山上家の親族だったようだ。


ふじ、大人しくしろ」


 装一郎の一言で、藤と呼ばれた少女は大人しくなった。頬を染め、静かに腰を下ろす。


「本来ならば、装二郎が私を完璧に演じなければならなかった。それなのに、うっかり本名を名乗った挙げ句、素の状態で花嫁候補として選んだ。その辺の不手際は、詫びよう。すまなかった」


 装一郎は膝をつき、深々と頭を下げる。

 まりあはどう反応していいのかわからず、装一郎のつむじをジッと見つめていた。

 視線が、再びまりあの元へと集まる。

 装一郎を許せと、言葉もなく訴えているようだった。


「山上家の、花嫁の選定については、把握しました。どうか、頭をお上げくださいませ」

「感謝する」


 ただ、理解し、受け入れたわけではない。まりあはそう視線で訴える。


「花嫁の選定についてはひとまず置いておくとして、まずは、我が家の家業について説明する」


 山上家の家業――それは、化け物となったあやかしを助け、匿うこと。


「化け物への変化は、致命傷を負えば解ける。化け物退治をする陰陽師を攪乱かくらんし、あやかしを保護するのが仕事だ」


 陰陽師が発見する前に、襲われることもある。その際は、香を使って弱体化させたのちに、変化を解くのだという。


「あやかしは、なるべく傷つけたくない。それゆえに、戦わないようにしている。ただ、万が一のときには、弱体化させるために戦闘を行う場合がある」


 その活動は、夜間に行われる。

 太陽が沈むと山上家の者達は外に出て、帝都を見回っているのだという。


「装二郎様が昼間に眠そうにしていたのは、見回りをされていたからなんですね」

「そうだ」


 昼行灯だと思っていたまりあは、心の中で謝罪した。


「これまで、化け物となったあやかしの術を解くには、致命傷を与えるしかなかった。しかしながら、まりあ嬢、君はあやかしを操る呪符が見えると聞いた」

「まだ、一度しか見ていないので、絶対に、という話ではないのですが」

「それでも、我々山上家にとっては、大きな一歩である」


 ここで、装一郎はある提案をした。


「装二郎と共に、夜の見回りをしてあやかしの保護に務めてくれないだろうか? まりあ嬢の力が、必要だ」


 山上家の者達の千年にも及ぶ無念は、安易に想像できる。

 あやかしを利用し、悪事を働く者に対しても、怒りを覚えていた。

 ただ、ひとつだけ。

 まりあには従えないものがある。


「わたくしは、真なるご当主様、あなたと結婚するつもりは毛頭ありません」

「ほう?」


 まりあは装二郎と結婚するつもりで、山上家へとやってきた。

 もしも、できないのであれば、結婚話はなかったことにしてほしい。そんな条件を出す。


「まりあ嬢、あれは予備だ。長生きはしない」

「どうして、そう言いきれますの?」

「長い長い歴史の中で、長生きした予備はいないからだ」


 花嫁の選定を終え、子どもが生まれたあとの予備は、三年以内に儚くなる。

 新しい予備と入れ替わるように、命を散らしてしまうのだ。

 それは、まじないの中に含まれる、のろいなのかもしれない。


「化け物による襲撃、犯人不明の暗殺、病死、事故死……死因はさまざまだが、予備の命は若くして散る定めなのだ」

「そんな――!」


 のらり、くらりと生きているように見える装二郎が、そのような運命を背負っていたなんて。まりあは信じがたい気持ちになる。 


「予備に肩入れするだけ、無駄。いずれ、なくなる命なのだ」

「でしたら、わたくしが守りますわ」


 そのための千里眼なのかもしれない。

 もしも本物ならば、予備の運命をねじ曲げ、未来を見通せるだろう。


「あやかしの命も、装二郎様の命も、わたくしが守ります!」


 もう、話すことはないだろう。

 そう判断し、まりあは装二郎の腕を引いて立ち上がらせる。

 ぐいぐいと襖のほうまで引きずって歩き、最後に振り返って言った。


「それでは、ごきげんよう」


 開けた襖を、ぴしゃりと閉める。

 ずんずんと廊下を歩いていたら、装二郎が咎めるように叫んだ。


「ちょっ、まりあ! まりあ、止まって!」

「わたくし、猪年なので、止まりません」

「そ、そうなんだ」


 それで納得してくれたのか、装二郎は大人しくついてくる。

 ただ、霧の庭は、ひとりでは攻略できない。

 まりあは装二郎を振り返る。


「門まで、誘導していただけるかしら?」

「まりあ、今なら、まだ間に合う」

「何が、ですの?」

「君が選ぶのは、僕じゃない。装一郎なんだ」


 装一郎と結婚させるために、装二郎はまりあを選んだ。

 本人の口から聞かされると、まりあも衝撃を受ける。

 けれども、意志を曲げるつもりはなかった。


「わたくし、あなたと結婚するつもりでまいりましたの。今更、違うと言われても、納得できませんわ」

「強情だな」


 その言葉に、頷く他なかった。 

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