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帝都あやかし屋敷の契約花嫁  作者: 江本マシメサ
第三章 契約花嫁は、自らの能力(ちから)に気づく
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契約花嫁は、驚きの人物と出会う

「あの、わたくしの勘違いである可能性もあります」

「でも、呪符が見えたんでしょう? それを剥いだら、化けが解けた。だったら、間違いないよ」

「コハルも、見えていたようでしたが?」

「コハル?」

「わたくしと契約を結んだ、子狐ですわ」

「まさか、名付けをしたの?」

「ええ」


 名付けについては、ウメコが報告していたはずだ。その点を指摘すると、ここ数日、多忙で事件前のまりあに関する報告書に目を通していなかったという。


「なんてことを――いや、ここ千年、あやかしに友好的な花嫁は、まりあが初めてだったんだ。注意しようがない」


 何やら早口で、ぶつぶつと捲し立てるように呟いている。

 どうやら、名付けは気軽にしてよいものではなかったらしい。


「名付けは、大変危険な呪術なんだ。もしも格上相手ならば、命を奪われている可能性がある」

「ええ、その辺の話は、ウメコから聞きましたが……その、ごめんなさい。以後は、気を付けます」

「うん。こちらのほうこそ、説明していなくて悪かったよ」


 話を、千里眼について戻す。


「コハルは、君と契約しているから、呪符が見えたのだろう」

「そう、でしたのね」

「契約しているあやかしは、主人の能力を少しだけ使えるんだ」

「なるほど」


 コハルに呪符を持たせていたら呪術の発動が単独でできる、というわけである。


「ただ、強制的な使役状態であれば、ただ理性もなく、暴れ回ることしかできない」


 帝都で暴れている化け物のほとんどは、強制的に使役されたあやかし。ただただ、無差別に人を襲い、殺戮さつりくを行うばかりだという。


 九尾の黒狐は理性的に見えた。

 残念ながら、話をしようとしても口から出てこないのだが。


 千年前、初代山上家の当主を助けたあやかしがいたという。同じように、まりあのことも助けてくれたのかもしれない。


「一度、まりあを本家に連れて行こうと思う」

「本家? ここが本家ではありませんの?」

「建前上は本家だよ。けれど、本当の本家は別にある」


 それには、理由があるらしい。

 千年前より、あやかしを匿う山上家をよく思わない者達がいたようだ。時に、命が狙われることがあった。


「癒城家の二の舞にならないように、山上家の者達は極力姿を隠しているんだ」

「そう、でしたのね」

「ちょっと普通とは違うから、いろいろ驚くかもしれないけれど」


 家業については、本家で話すという。

 まりあは従う他なかった。


 ◇◇◇


 三日後――まりあは山上家の本家へと招かれる。

 帝都を出て、鬱蒼とした道を進み、霧深い道を駆け抜けた先にあった。 


「ここが、山上家の本家……」


 帝都にある屋敷も立派だったが、郊外にある本家はさらに大きい。

 周辺は霧がかっており、視界は悪い。見えている部分だけでも、圧倒されるような屋敷である。

 門をくぐると、どこからか白檀の香りが漂う。


「この香りは――」

「邪祓いの香だよ」


 化け物は白檀の香りを嫌う。そのため、本家に接近しないよう、さまざまな場所で焚かれているらしい。


 初めて出会った時、装二郎からも白檀の香りを感じた。

 邪祓いの香りを、あえて纏っていたのだろう。

 たった今感じた匂いは、装二郎が纏う白檀でも異なるように思える。産地によって、匂いが違うように感じるのかもしれない。


 歩いているうちに、霧が濃くなる。まるで、異世界に迷い込んだようだった。

 前を歩く装二郎の姿さえ、かすむくらいである。

 はぐれたら、二度と会えないのではないか。そう思うほどであった。

 そんな中、装二郎は振り返って言った。


「まりあ、手を」

「え、ええ」


 装二郎はまりあの手を引き、玄関まで歩く。

 彼の手は温かく、不安だったまりあの緊張を解してくれるようだった。


 やっとのことで、屋敷の玄関にたどり着いた。

 薄暗い帝都の屋敷とは異なり、本家は白を基調とした明るい内装である。

 装二郎とまりあを迎えたのも、あやかしではなく、四十代くらいの男性だ。


 装二郎はまりあから手を離し、先を歩く。

 途端に、不安に襲われた。

 大丈夫、別に、取って食われるわけではない。

 装二郎の言葉を思い出しつつ、まりあは長い廊下を歩いて行く。


 通された部屋には、二十名ほどの男女の姿があった。左右ずらりと並び、正座している。

 皆、やってきたまりあを、驚きの表情で見つめていた。千里眼の話を聞いているのだろう。

 居心地の悪さを感じたが、我慢するほかない。


 部屋の上座に、座布団が置かれていた。

 まりあは最も末席に座るのだろう。

 当主である装二郎は、当然上座だ。上座の斜め前も開いているが、あそこは親族の誰かだろう。ここでしばしお別れである。

 そう思っていたのに、装二郎は末席に腰を下ろした。


「装二郎様!?」

「まりあは、あそこだよ」


 装二郎が指差したのは、上座の斜め前。

 いったいどういうことなのか。装二郎をジッと見つめる。

 まりあが戸惑っているうちに、誰かがやってきた。

 年若い男性である。まりあは男の顔を見て、悲鳴をあげそうになった。

 長着に袴姿の男は、装二郎とまったく同じ顔だったから。

 振り返っても、装二郎は末席に座っている。

 まりあのほうは、見ていない。ぼんやりと、宙を眺めていた。


「君が、花嫁候補のまりあ嬢だね?」

「え、ええ、そうですが、あなたは?」

「私は、山上装一郎。山上家の、真なる当主だ」


 当主は装二郎である。

 いったいどういう意味なのか。

 まりあは胸を押さえ、装一郎と名乗った男性を睨むように見た。

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