表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたが見た世界の端っこを、掴んで。  作者: 葉方萌生
第1幕 第1章 答えは誰の中にある?
2/59

1-1

「秋葉さん」


教室で、あたしを呼ぶ声。

答案用紙を持った数学の横川(よこかわ)先生が、死刑判決を下す裁判官のように見えた。

分かってる。

分かってるんだって。

その紙に、ろくな数字、書かれてないんでしょ。

全力で、逃げ出したかった。

先週受けた2学期の中間考査の結果。もう返ってくるなんてひどい。もうちょっと浸らせてくれ。「テスト終わったー!」って、開放感ってもんがあるでしょ。それが、悪い点数だったら、開放感薄れるじゃん。悪い点数って分かってるから、なおさら。

「はい」

先生は何も言わずにあたしに答案用紙を渡した。いやいや、何か言ってよ。あるでしょ、「次は頑張れ」とか「よくやった」とか。後者ではないことぐらい知ってるけれど。

くうぅぅっ。

歯を食いしばりながら席で答案用紙にでかでかと書かれた点数を見た。

「はあああああ!?」

って、危ない。

思わず叫んじゃうとこだったわ。

「秋葉、大丈夫か?」

隣の席の種田一樹(たねたかずき)が一人動揺するあたしを見て訊いてきた。ぱっと見心配しているようにも聞こえるが、完全にからかわれている。顔がにやけてんのよ、あんた。

「お願いだから聞かないで」

「あー、悪かったんだな」

てか、絶対楽しんでるよね? 

あたしの反応を娯楽にすんじゃない!

種田の言葉はムカつくけど、それもこれも自分の頭が悪いことが原因だって知ってる。1学期もダメだった。クラスの順位は40人中33番。学年順位だって、300人のうち下から数えた方が随分と早い。

中学の頃は、こんなんじゃなかったのになあ……。

クラスで上から5番以内には入っていた。テストの点数が悪い子がいたら、それこそ何でそんなに悪いのか、聞きたいくらいだと思っていた。正直見下していたところはある。

でも、高校に入ってからはあたしが見下される側になった。まあ、種田みたいにせいぜいからかってくるぐらいだけれど。


あたしが通うここ、県立朋藤高校は言わずと知れた進学校だ。

あたしの住んでる学区の子で、そこそこ勉強ができる子たちが皆憧れる学校。

あたしも例に漏れず、「頑張ったら入れるかも」という淡い期待のもと、朋藤高校を受験した。あたしと同じように、中学のクラスメイト数人が朋藤高校を受験していた。

そしてあたしは幸運にも朋藤高校に合格し、憧れの高校で華の女子高生になったのだ。

なったんだけど。

「う〜ほんと無理っ。高校の勉強分かんなすぎ!」

お手上げだった。

最初につまずいたのは、1年生の1学期。ほんと、相当序盤だった。

まあまだ、1年生1学期の中間テストまでは良かった。

それまでは中学校の復習みたいなところも多く、有り合わせの知識だけでも、なんとかテストに太刀打ちできたからだ。


なのに。

1学期の期末テストで撃沈。

国語、75点。

数学、55点。

英語、65点。

そんなに悪くないじゃんって思う人もいれば、「やばくね?」って侮蔑してくる人もいるだろうが、後者が正しい。

だって朋藤(ほうとう)高校の皆、とても賢い人ばかりなんだもん。

皆頭良くて、点数は平均して80点以上の人が多い。

しかもまだ1年生の1学期だからね。

これからどんどん難しくなるわけで、つまりこのままじゃ成績下がる一方じゃん。

……って、気づいてはいた。

気づいてたのに、修正できなかったのは、あたしが本当にバカだからだ。

ちょっと気を抜いていただけ。

「初めてのテスト疲れたっ!」って、大きく伸びをして、伸びをしすぎて、気合を入れ直すタイミングを失ってしまったわけ。

「はあーっ」

本当にもう、全部自分が悪い。

そう思うからこそ止まらないため息に、再び隣の席の種田がクククっと面白がって笑う。

いい加減、笑うなっ!



今日1日、ほとんどテストが返されるだけで授業が終わった。普通に授業されるよりも楽チンなはずなのに、なぜだかいつもの3倍は疲れている。

精神の打撃がすさまじい1日だった。

1年生1 学期の期末テストがマシに見えるほど、全ての教科で点数が低すぎた。

中には赤点のものもある。

まずい。

このままじゃ本当に。

冗談では済ませられないレベルに達している。

「じゃじゃーん!」って、おちゃらけて親に見せられるもんじゃない……。

「勉強……するか」

普通、最初に思いつくべき解決策なんだけど、窮地に追い込まれるまで壁を伝って這い上がろうと思えないタチのあたしには、一大決心だった。


さて。

勉強。

これまで何度も義務感に駆られて部屋の本立てに鎮座している参考書を開いたことがあるけれど、さっぱり頭に入ってこない。

どれも途中で諦めてしまう始末だ。

そうだ、あれは参考書が悪いのでは? だって、白黒の文字でひたすら難しい解説ばかりしてくる参考書なんて、誰も読めないよ。

と、自分の理解力のなさを一般論と化し、だったら自分で分かりやすい参考書を買いに行こうと、下校途中にある小さな本屋に向かったのだ。


それが、全ての始まりだった。

あのおかしな体験に、出逢ってしまったのは。


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ