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人生ゲーム終了の件 一話①

主人公タカガミの登場となります。

性格はすこしクセが強めかも?

宜しくお願いいたします。


 ステップ① ニューゲームをはじめよう(回想)



      ????(Lv1)


   吾輩は霊長類ヒト科ホモサピエンスである

   名前はまだニャイ



 はじまりの記憶は―――こちらの手を引く幼い少女。

 つないだ手のぬくもりは、

 掌におさまるほどにいとけない。


 闇に灯る、淡いブルートパーズの瞳。

 まるで猫みたいだ。

 その、あどけない横顔かんばせには、

 見目か弱さとは裏腹の、

 気丈な眼差しがやどっている…………。


「がんばって」

 と、蛍火の瞳の少女にみちびかれ、懸命に《俺》はふるえる脚をうごかす。

 まわりは無明の闇につつまれ、

 まるで墨に塗り潰されたよう。

 それでも、導く足どりに迷いはない。ここは彼女にとっての庭先であり、闇を見透す瞳力がある。


(なのに、《俺》は…………)


 すぐに膝が崩れて、うずくまった。

「あ……、うぅ」

 イヤイヤと首をふる《俺》……。

 からだは泥にまみれ、

 怯えて涙をながし、

 震えて涎をたらす。

 さながら墓土から這い出た、幽鬼のような、

 ケツ丸出しの全裸の男…………。


(それが《俺》だった。うん。回想するたび、かるく死ねる醜態である)


《info》衰弱状態です。回復>>睡眠。

 …………あ?

 視界に文字が浮かぶ………。


(最初はとまどったもんだ)


「……ああ、う?」(困惑)

「どうしたの?」

 おもわず文字列メッセージを手で払おうとすると、少女が怪訝そうに振り返った。

 ホント面倒見のいい娘だと思う。

「……? もう動けない?」

「ああっ、うう」(ジタバタ)

「しかたない」

 懐からとりだした宝石(晶貨。いざという時の命綱兼へそくりだったのだろう)を使ってくれた。

 けして実入りが良いといえない彼女にとって身を切るような出費にちがいないのに…………。


《info》衰弱が回復しました。意識レベル上昇。

「どう? 話はわかる?」

「あ……ああ」

「私はチカ。とりあえず、あなたの味方。じゃあ、誰かに気づかれるまえに移動する」

「……わかった」

「辛いだろうけど急いで。ギルドに見つかったら捕まる」

 ん? 捕まる?

 え? なんで?

《info》猥褻ブツチン列罪です。

 好きで陳列してねぇよ。


 ―――そう、《俺》は逃亡者だったのだ。


    ……………………………。

    ………………。

  ▽ 森からの脱出に成功しました。

    獲得Exp:8



 チカの棲家はかなり年季のはいった小屋(女の子が住むようなオシャレなログハウスではなく、猟師小屋。かなりボロい)だった。

 いろいろ限界の《俺》は、なかに転がりこむや板敷きに直寝でも、落ちるまで一瞬だった。 


 ………………で。明くる朝。

 チカに追いだされ、水浴びのため(いまだ泥まみれの全裸なので)裏手の川原で硬直した。

 ありえないスケールの巨木(樹というより、もはや山)が……あった。

 え? なにアレ?

《info》神木【天御柱】[名詞]です。

 そ………そうデスカ。

 アホ面をさらしたまま、チカに叱られるまで固まっていたよ………。


 ちなみにフリチンに関しては、年頃の娘さん(チカの印象はランドセルを卒業したぐらい?)は眉一つ動かさなかった。むしろ「早く出てくれないと部屋が片づかない」といわんばかりのオカン的塩対応だった。

 結論:チカはオカンと親和性が高め。


 あと、《俺》はどうやら記憶を失ってるようだ。

 名前すら出てこない。

 今ひとつ深刻になりきれないのは……いろいろ衝撃がありすぎて頭がマヒしてたからだろう。たぶん。



 【NAME】????

 【スキル】???

 ▷獲得Exp:28 (Lv1 →Lv1)

  収支:なし

  状態:名無しの新米プレイヤー(※フリチン)



⚠【晶貨】[名詞]/レンズ形のエネルギー結晶体。一部スキルの媒体や、各種インフラの動力。街では貨幣としても扱われる。一円玉(最小)サイズの晶貨で1リットルの水を沸騰させる力をもつ。

 価値によって硝貨(小)<水晶貨(中)<金剛貨(大)<宝玉貨(特大)とも呼ばれる。

(※作中でチカのつかったのはB級の金剛貨)




   【ステップ①終了 →ステップ②へ】




 ステップ② ステータスを確認しよう(続・回想編)



      ????(Lv1)


   ただの布きれを装備(腰)した!

   ヒトの尊厳をとりもどした!



 チカ先生のチュートリアル講座がはじまるよっ♪

《info》スキップしますか?(Y/N)

(※スキップしても本編をお楽しみいただけます)


Q.ズバリここは異世界ですか?

A.地球でない、日本でない場所という意味ではそう。


Q.異世界人はいますか?

A.いない。少なくとも街には日本人しかいない。


Q.元の世界に戻ることはできますか?

A.いままでに戻れたという事例は聴いてない。


Q.ギルドについて教えてください。

A.いけ好かないヤツら。ぜったい陰謀とか企んでるに違いない。親切そうな顔で近づいてきても気を許しちゃだめ。


Q.ちょっと(?)自分の記憶が曖昧なのですが。

A.記憶の欠落なんて珍しくない。フツーに掃いて捨てるほどいる。


 ―――以上、質問者《俺》、回答者チカ先生によるQ&A方式で簡潔にまとめてみた。

 なぜかといえば……。

「……ああ」

 とか、

「わかった」

 とか、《俺》……会話で相槌しか打ってネェ。

《info》とんだコミュ障ですね。

 黙れ、天の声。


 で。《俺》の初期状態がこれ。

①記憶ナシ。→情報弱者。

②所持品ナシ。→つまり一文無し。

③行く宛ナシ。→お先真っ暗。

 こんなとき、まず街を目指すのがセオリーなんだろうけどさ……ギルドのお膝元じゃん。捕まるよ?

 あれ。これ詰んでね?

 難易度高くね?

 どんな縛りプレイだよ!

《info》諦めたらそこでゲーム終了です。まだチュートリアルなのに。

 たすけてチカ先生〜〜っ。



「まずは飯。腹ごしらえ」

 板張り六畳のチカハウスにある、小さな囲炉裏。ぐつぐつ煮えた鍋の中には味噌ラーメン。

 なぜ……異世界でラーメン?

 しかも即席っぽい。椀にとりわけてくれた麺(縮れフライ麺)をすすり、残ったスープで雑炊(ツナマヨおにぎりを投入)まで。もちろん美味しくいただきました。

「じゃあ、このあと登録エントリーにいく」

 チカ先生によると、


 登録 → 武器調達 → 迷宮へ


 という流れらしい。

「登録すれば技能スキルが手にはいる。重要」

 おおっ、スキルか!

 ザ・異世界のお約束。強力なチートさえ引けば、一発逆転。人生バラ色。イージーモード決定である。

「プレイヤーは、おおまかに分けて二つ。戦闘と生産」

「チカは戦闘系?」

「ん。『偵察』の技能がある」

 光る目のカラクリはそれか……。

 どっちつかずの中途半端より、割りきったスタイルのほうが楽だとチカに勧められた。


 ―――結局、火力不足に悩むわけだが。


 やはり狙い目は魔法スキルか。回復、強化スキルも捨てがたいな。そんな期待を胸に、チカに連れられ森を進む。しかし森って、こんなに静かなものだろうか? 夜も静寂そのもの。虫の音ひとつ聞こえやしない。

 たどり着いたのは森にひらけた空地。奥のあばら家からは、こちらを窺う人の気配がある。

「クヌギ和尚、いらっしゃいますか?」

「ツナマヨのお嬢さんかい」

 出てきたのは髭のおっちゃん。

「そっちの兄さんは、初めましてだな。ずいぶん寒そうな格好だが、大丈夫かね?」

「……ええ、まあ」

 心は寒いよ? 腰布一枚だもの。

「見てのとおりワケありを拾いまして……」

「もしや鎮樹さまに御用かな?」

「はい。名前を頂戴にきました」

 さっきからチカがしおらしい。チンジュ?

《info》プレイヤー登録に必要な情報ターミナルになります。

 そこで登録?

《info》はい。

 おっちゃんは管理人?

《info》いいえ。かれらは当地を不法占拠しているようです。

 え………どゆこと?

「よし、案内は拙僧がしよう。そのかわり、お嬢さんは皆に料理をふるまってはくれんかね。レパートリーが少なくて、毎日メニューが代わり映えしないと言われてな」

「よろこんで。私も久しぶりにカナエさんの唐揚げが食べたいですし」

「さ、お前さんはこっちだ」

 チカと別れ、おっちゃんの後を追う。

 唐揚げ……《俺》も食べたかった。

「君はこちら側に来たばかりかな?」

「はい。まだ二日目で」

「そうか……じつは拙僧たちは落伍者でね。街にも居場所を失い、ここで身を寄せあって暮らしている」

 いきなりヘビーな独白きたな。

「迷宮に気をつけなさい」

「……? はあ」

「ここでの死傷者は、大半が迷宮がらみだ。偉そうに言える立場じゃあないが油断はせんことだ」

「死ぬとやっぱり死ぬんですか?」

「とつぜん何の妄言だ?」

 いや。ゲームっぽい世界だし。

 蘇生システムとか。

 ありそうじゃね?

《info》ありません。バカですか?

「馬鹿モン、誰しも死んだらそれっきりだ」

 Wバカ認定ですか。そうですか。

 それじゃムチャできないな。

 作戦:いのちだいじに、だ。


「あれが鎮樹さまだ」

 おっちゃんが指さしたのは、注連縄の巻かれた古木……?

 ……折れてるんですけど。

 ……朽ちて幹は空洞、まわりは苔びっしり。あきらかに枯れてるはず………なのだが。

 ふしぎな存在感があった。

「鎮樹さまは神木の子株といわれている。くれぐれも失礼のないように」

 氏神様みたいなものだろうか?

 とりあえずニ拍ニ礼。

 ん? 誰か先客がいるな。

「ヒサシ!」

 おっちゃんが慌てて駆けよった。うつむいたまま座りこんでるが、具合でも悪いのか……。

《info》自閉状態のようです。

 うつろな目の少年だった。おっちゃんに立たされ、ふらふらと歩く姿は、夢遊病者を思わせる。呼びかけにも反応せず、じっと手のひらを見つめてるんですよ。握っているのは…………黒い石ころ?

「わるいが拙僧はいちど家に戻る。登録の手順はわかるね?」

 頷く。どうにかなるだろ。

 おっちゃんは少年と来た道を戻っていった。



 さて………いざ、登録スキルガチャである。

 結論から言おう。


 ―――やっちまった、と。


 ガチャの作法として、まず祈る《俺》。

 ……われにチートを与え給え。

 ……われにチートを授け給え。

 ……ガチャの神よ。

 ……なにとぞ〈SSR〉を吐きだし給え。

 かかる後、

「いぇすいぇすれあぁぁぁああっ!!!」

 喉も涸れよと絶叫。

「いぇす! いぇす! れあっ!!

 いぇす! いぇす! れあっ!!

 フオオォォォーーゥゥッ!!!」

 ……………。

 …………………。

 うん、なんだろう。

 この羞恥プレイ。

《info》厨ニプレイの間違いでは?


  ▽ 登録に失敗しました。

    獲得Exp:21


 え? 失敗なんてありえるんスカ?

《info》システムエラーです。このスカ。

 えー?

 だってさーガチャだよ? 千載一遇チャンスだよ? 誰でもやるよね?

《info》このバカスカカス。

 …………ふ。(自嘲)

 チカは言った。

「登録の場では、ちゃんと真面目に。お巫山戯は厳禁。

 心静かに祈り……リラックスして、

 ゆっくり意識をしずめていけば、

 鎮樹を介して神木システムツリーに同調できる」


 ―――まだだ。まだ終わらんよ。

 

 真摯な願い(煩悩)をすくいあげ、

 祈りの涙滴(血涙)に融かしこみ、

 確たる意志(執念)で練りあげる。

 鎮樹よ……聴け。

 たましいの聲を。

「きいぃぃたれぇぇええぇぇすぅぅぇえぇぇすぅぅぇれれぇぇぁぁあああ☆○△□っ!!!!」


 システムのはてに手を伸ばし、


  ▽ 登録に成功し○ま□☆し△□☆○

    獲得Exp:0


 掴みとった《俺》の名は………………。



 【NAME】タカガミ

 【スキル】魔石結合Ⅰ 投擲Ⅰ

 ▷獲得Exp:83 (Lv1 →Lv1)

    収支:なし

  状態:バグスキルLv1プレイヤー



⚠【鎮樹】[名詞]/神木の張り巡らせる根とつながる(有線)ターミナルユニット。

 プレイヤー登録、変更、検索ができるほか、ギルドの会報を閲覧できる。また、生産素材(葉や樹皮、樹液など)も採取できる。

(※損傷がはげしい個体は利用が限られる。クヌギの守る樹は、登録と変更のみ可)

☞登録(名前)の変更をしたプレイヤーは、所持スキルがリセットされる。また、以前に抹消された名前を誰かがつけた場合、同じスキルを得られるとはかぎらない。変更には金剛貨一枚が必要となる。




    【ステップ②終了 →ステップ③へ】






お付き合い頂きありがとうございました。

次回、いよいよ初戦闘となります。


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