人生ゲーム終了の件 一話/序
初投稿です。拙い作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。
それと、一話/序には、主人公であるタカガミがまだ出てきませんのでご注意ください。
一話 巨大樹の街
序/あるギルド幹部(Lv89)の事情
「スゲー! デケー! マジ半端ネェ‼」
「……やっぱり世界樹はあったんだ」
「ほんと一目で神の存在が納得できちゃう迫力よねぇ」
ハァ……騒がしいのう。
こんどの新入りは三人とも活きがいい。ワシがこっち側に来たばかりの頃は、もちっと萎れてた気がするが……まァ、元気ならええ、よっぽど上等じゃ。
身の丈を超える鐵槍を担いだまま、一息いれるかとワシは手頃な縁石に腰をおろした。連中がはしゃいでいるのは、はじめての外出で浮かれとるのもあるだろう。今日は訓練とは名ばかりの「散歩」みたいなもんじゃし、大目にみるか、と、あごをさすってソレを見上げる。
ご神木【天御柱】―――。
一番街を麓まで降りることで、ようやく全体像が見えてくる、まさに天地を貫く柱のごとき圧倒的な威容。根はとぐろを巻く八岐大蛇となって裾野を抱きこみ、梢は高く、雲の彼方にかすんでおる。
はじめて目にしたときはワシも開いた口がふさがらなんだ。毎度新人どもが騒ぐ気持ちはようわかる。
「マジ異世界かよ。ヤベ〜わコレ」
「……私はまんざらでもない」
「アンタたち暢気ねぇ。アタシなんて残してきたお店が心配で気が気じゃないってのに」
「……ここは魔法とかスキルとか素敵ワードが満載」
「お店のローンだってあったのよぅ」
「ンなことよりさぁ〜」
…………ん?
「ほんとにあんなガキが幹部なのかよ」
「ちょっと止めなさいよ」
「……子供相手に大人気ない」
「うるせぇな、ガキにナメられるとか我慢できねーんだよ。俺は」
《新人① 金髪ピアス・男》
「おい、イスルギだったか。テメー、幹部とかフカシだったらタダじゃすまねーぞ」
「“さん”を付けんか、このド新人が」
「…………ッ!?」
わずかに漏れ出たワシの殺気に、金髪ピアスが鼻白む。
凄みを効かせたつもりらしいが(ワシからすれば、この程度の威嚇はそよ風みたいなもんじゃ)迷宮で生死を賭ける『ぷれいやぁ』の相手になるはずもない。まぁ、その負けん気のつよさは戦闘向きかの。
ただ躾は必要じゃな。見ろ、新人ッ子ちゃんが突然のイキリに目を丸くして固まってろうが。
「たしかにナリはコマいが、正真正銘、ワシはギルド最古参の一人じゃ。ちなみに明治生まれよ」
「…………マジかよ」
「……年をとらないのでしょうか?」
「意外にお爺ちゃんだったのねぇ」
「ナメられるんが嫌なら強くなれ。迷宮に挑むなら、強くなけりゃ無様に骸をさらす他ねぇんじゃけえの」
《新人② 茶髪そばかす・女》
「……あの、質問いいですかね」
「かまわんで?」
「……ギルドで噂になってたミナリって何ですか? たぶん、本部にいるエリート君のことだと思うんですけど」
「ああ、『実成り』な」
ワシは浮かしかけた腰を降ろし(しゃあない、もちっと休憩にするかの)講釈を垂れることにする。
「基本的に『ぷれいやぁ』は神木のウロから現れる。―――ただ、稀に神木の実から特別な御子が齎されることがある。まあ、めったにあることじゃねぇし、ワシも見たのはこれで二人目じゃがの。強力な恩恵をその身に宿した、さしずめ英雄の卵じゃな」
「……まるで桃太郎ですね」
なかなか的確な喩えじゃな。
先達の『実成り』は恩恵と人望でもって皆を束ねてギルドを立ちあげ、いまもなお指導者として君臨しとる。
とはいえ彼女の指針は穏健的で、支配者というより母親(肝っ玉のすわったおふくろ)として街の連中に慕われとるのは愛嬌か。ギルドの急進派(いわゆるヤンチャ坊主ども)が新たな『実成り』を取り込み、次期リーダーに推したてようと動いとるらしいが…………。
「チッ、あのスカシヤローか。俺たちよりぺーぺーのくせしてVIP扱いとかマジありえねーわ」
「あら、ハンサムじゃない。私好みよ」
「……男の嫉妬は見苦しい」
「ンだとコラ、シメられてーか?」
「……面白い。うけてたつ」
「ほらほら、ケンカしないの。二人とも」
じゃれ合う新人どもに気が抜けた。……まるで子守りじゃの。
《新人③ くねくねしとる・男》
「イスルギちゃん、幹部なのにアタシたちの引率しててよかったの。忙しいんじゃないかしら?」
「……ちゃん付けはヤメぇ、沽券に関わる」
「あらごめんなさい、つい、お店のクセがでちゃったわ〜」
「ワシは頭のほうはからきしじゃからのう。身体を動かすほうがええ」
「ならいいけど。無理しちゃダメよ?」
こやつの恩恵は『話術』だったか。ガタイがいいのに非戦闘系の恩恵とはもったいないのう。
「ところでアタシも相談いいかしら?」
「ん? ……おお」
「アタシってお通じが良いほうなのに、こっちに来てから出すもの出してないのよね。かれこれ一週間になるじゃない? こんなこと初めてで……イヤだわ〜、お肌が荒れちゃう」
いきなりシモの話かい。
「ねぇ、アンタたちはどう?」
「……女の子はそもそもトイレ行かないので」
「なんだ、便秘か?」
「……デリカシーがなってないです!」
なんだ……まだ聞かされておらなんだか。
「そいつぁ『ぷれいやぁ』の仕様というか……呪いじゃな。いちど迷宮の下層に潜れば、ワシらは不眠不休で駆けずり回ることになる。呑気に糞なぞ垂れとるヒマはねぇからのう。疲れず、眠らず、老いることもない便利な肉体というわけじゃな」
「……つまり改造手術済み?」
「これって俺らブラック企業につかまったようなもんじゃねーか?」
「なんだかゾッとしない話ね〜」
「……でも、生理現象に悩まされなくていいのは朗報」
「地下迷宮か……カネの匂いがするぜ」
「……リアルダンジョンは私が制する」
「アタシは汗くさくて痛いのはチョットねぇ、やっぱりギルドの受付嬢がいいかしら〜」
誰が『嬢』じゃ、オッサン。
――――休憩終了。
パトロールがてら麓の街道を進むと、【不如帰の橋】を越えたあたりで人だかりに出くわした。
森の奥から何かが通った跡があるらしい。
「……イノシシですかね?」
「いや、ここに獣の類はおらん。確かめるぞ」
「メンドくせー。俺パスで」
「アタシも虫とかだめなのよ〜」
「ぐだぐだ言わんで付いてこい。全員な」
こいつら文句を言わんと動けんのか。あとでシゴキ決定じゃな。が、いまは確認が先じゃ。ここらの森は常に霧がたちこめ視界が利かん。日の暮れるまでに済ませにゃならん。
まあ、ワシのもつ『重戦士Ⅴ』の恩恵は、鐵槍の重みや、森の悪路なんぞものともせんがな。
「いやだ〜、ちょっと、まってちょうだ〜い」
「やってらんねぇ……アイツ速すぎだろ」
「……高レベルプレイヤーは伊達じゃない?」
暗い森にわけいり、跡をたどる。と、しばらくしてデカイ樹の根元に大きな穴があった。
―――ちょうど人ひとりが納まるほどの、縦穴。
何者かが這い出たような跡。
「やはり『根返し』じゃな」
「……ネガエシですか?」(←息切れしつつ)
「悪いが、今日はここで解散じゃ。ワシは周辺を探索せにゃあならんからのう」
「おい、そのネガエシってのは何だよ?」(←髪ボサボサ)
「一言でいうなら密入国者かの」
「ここから誰かが出てきたってことかしら〜?」(←くねくね)
「ああ、厄介なヤツらがな」
ワシらのようなウロから現われる一般『ぷれいやぁ』は、例外なくギルドの管理下にある。
なにしろウロのある一番街は、ギルドが統括しとるからの。
だが、少数ながら『根返し』どもは、こうして目の届かぬところで増えつづけておる。そして、時にギルドの法をも揺るがすのだ。最近、出現が頻発しているとの報告もある。
なにかの前触れか?
ただの思い過ごしならいいのだがのう…………。
お読みいただき有難うございました。
一話①より、タカガミの一人称となります。イスルギと新人3名は、しばらくお休みとなります。